ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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(非)日常編3

 『

   T    |    |    |    |

   そとねしのざむんのさるじなれはつかたこが

   |   |    |    |    ↓

                             』

 


 

『答えを求める者よ。手を伸ばせ。答えは高きところにある。

  真実を求める者よ。顔を上げよ。真実は最も高きところに。』

 

 

 


 

『木と竹でおおわれた目をひらきなさい。それがあなたに与えられるもの

  一つくらい辛いことがあっても貝のように丸くなってたえていよう。それがあなたに必要なもの』

 


 

 だからなんだって感じ。

 

 「全然分からん」

 「意味なんてないんじゃない?モノクマにからかわれてるんだよ」

 「からかうためだけにこんな手の込んだことしないよ……と思いたいけど、モノクマならやりかねないなあ。最近は呼んでも出てこないし、何やってるんだか」

 

 自分で言って気付いたけど、そう言えばモノクマを最後に見たのって、空中庭園を案内されたとき以来かも知れない。モノクマだけじゃなくてダメクマも見ない。いつもは呼んでもないのに出て来て私たちに嫌がらせをしてくるのに、それがなくなっただけでこの学園がなんだか広く感じるから不思議だ。

 そんな風に雑念にとらわれてるから、目の前の謎に手も足も出ないんだ。分館で芭串さんからもらったメモ書き、分館の図書室で奉ちゃんと湖藤さんに助けてもらって見つけた謎、本館の図書室のパソコンに入ってた謎。これに3階の劇場にあった果物と矢印と数字のメモを合わせて、これで謎は4つだ。ひとつひとつの謎もさることながら、それらが何を意味してるのか、そこにも何か大事な意味がありそうな気がしてならない。

 

 「解いてもいいことないと思うけどなあ」

 「すべての謎は解かれるためにあるんだよ!この謎はもう私の手のひらの上だ!」

 「手のひらにいるのは宿楽さんの方じゃない?全然解けてないみたいだけど」

 「あーもううるさいな!解けてる人はこれから解く人の楽しみを奪わないようにするの!それがマナーなの!」

 「いいけど……」

 「私はもう諦めちゃった。風海ちゃんは諦めなくてえらいね」

 「唯一私にできることさえあきらめちゃったら、私がみんなのためにできることなんて何もなくなっちゃうじゃない」

 

 またそういうこと言う、と奉ちゃんは言ってくれるけど、これは私の本心だ。私はみんなみたいに立派な“才能”なんて持ってない。昔、希望ヶ峰学園は毎年抽選で普通の高校生から1人、“超高校級の幸運”として入学させてたって話を聞いたことがある。だけど色々なことがあってもう止めちゃったんだっけ。歴史の授業とか眠たくて全然覚えてないや。とにかく、そうやってひとつ余った枠にたまたま私みたいなのが滑り込めただけなんだ。そう思ってる。

 だいたい“脱出者”って言えばなんかすごそうだけど、要するに脱出ゲームが好きなどこにでもいる普通のJKってだけなんだから。奉ちゃんみたいに滅私奉公ができてスキルもあるわけでもなし、湖藤さんみたいに頭が良くて才能を十分に活かせる家に生まれたわけでもない。むしろ私はゲームに参加するための飛行機代だってバカにならないくらいの僻地に生まれてしまった。それでも好きになっちゃった、それだけのことを“才能”だと言ってもらえた。ある意味、幸運だ。

 

 「何かができてる人ほど、自分は何もできてないって思うものだよ。きみが誰にでもできると思ってることは、他の誰かにとってはやろうと思ってもできないことだったりするのさ」

 「う〜ん、さすが湖藤さんの言葉には含蓄があるなあ。ちょっとジジくさいけど」

 「宿楽さんはなんでもストレートに言ってくれるから含みも何もないね」

 

 あはは、と私と湖藤さんで笑う。奉ちゃんはそんな私たちを微笑ましく見守ってるだけだ。奉ちゃんって私と湖藤くんより一個下のはずだよね?なんだか年下に見られてるような気がしてならない。

 

 「私にとっては、二人がこうして生きていてくれるだけで何より救われるよ。こんな、いつ誰がいなくなってもおかしくない空間じゃ、気を許せる人がいるってだけで嬉しいよ」

 「甲斐さんはみんなを団結させたいんでしょ?他の人には心を開いてないの?」

 「心を開くってことと協力するっていうのは別のことでしょ。普通にみんな友達だよ」

 「尾田さんは?」

 「……なんでそこで尾田君の名前が出てくるの」

 「そりゃあいつかは協力しないといけないんだからさ。無視し続けることはできないでしょ」

 

 尾田さんの名前が出た瞬間、奉ちゃんは明確に表情が曇った。ふむふむ、とっさの反応はこんな感じか。まだ自分の気持ちに気付いてないって感じ(だと私が嬉しい)なのかな?

 私の趣味はさておき、生き残ってる私たちを二つに分けるとしたら、奉ちゃんを中心としてみんなで協力してモノクマに立ち向かおうとしてるのが光グループ、尾田さんや長島さん、王村さんみたいに何を考えてるか分からない人や人と協力する気がない人たちが闇グループって感じだ。もちろん私と湖藤さんは奉ちゃんと一緒に脱出を目指す光グループね。

 なんてグループ分けでなんとなく今の状況を捉えてるけど、本当にモノクマに立ち向かおうと思ったら、光と闇の結託が必要になる。漫画のアツい展開みたいな言い方になるけど、要は奉ちゃんと尾田さんが仲直りするってことだ。

 

 「内通者のことだって尾田君がわざわざ言ったりしなければ今頃は……」

 「まだ言ってる。それは尾田さんなりの論理があったって湖藤さんが説明してくれたでしょ」

 「ううん、でも、だって……」

 「まあでもこれに関しては尾田さんも悪いよ。内通者のことは分かるとしても普段から口悪いし。私はともかく、奉ちゃんや湖藤さんにもでしょ。それに狭山さんの件もあるしさ……」

 「ああ。よく覚えてたね、宿楽さん」

 「そりゃあね。あんなことしたら忘れられないよ」

 

 ただ口が悪いだけなら、好きな子についいじわるしちゃう男子の習性だと思ってニヤニヤもできる。内通者のことだって私にはよく分からなかったけど、湖藤さんがちゃんと説明できるってことはいちおう筋の通った理屈があるってことだ。だけど狭山さんの死体を溶かしちゃったのは、モノクマのルールの穴を突けるかも知れないと思ったとしてもちょっとね……。さすがに引いたよね。

 

 「なんで尾田さんはあんなに人を寄せ付けようとしないんだろう」

 「性格が悪いからだよ。尾田君が人を寄せ付けないんじゃなくて、あんな性格だから人が寄り付かないだけだよ」

 「それはそうかも知れないね。でも、その性格の悪ささえ彼なりの戦略だったとしたら?」

 「戦略?」

 「コロシアイの中で人を信じることはリスクだからね。誰も信じず、常にひとりでいればリスクを最低限に抑えることができる。生存ー戦略ー!みたいな?」

 「なんで叫んだの」

 「どうして湖藤君は尾田君の肩を持つの?誰のことも信じないで一人でいたって……そりゃ、尾田君は頭が良いから一人でも色んなことができると思うけど、でも……それじゃ誰も味方してくれないよ」

 「うん、甲斐さんの心配のとおりだよ」

 「心配なんかしてないよ!」

 「だってさ。宿楽さんはどう思う?」

 「こりゃ心配してますねえ。生暖かい目で見てあげましょう」

 

 私と湖藤さんがからかうと、奉ちゃんは顔を真っ赤にして怒った。またいつもみたいに自分ひとりで暗い方に落ち込んでいってると思ってたけど、なんか吹っ切れてからは感情を分かりやすく表に出すようになった。良い変化だと思う。心の中に色々溜め込んでたって辛いだけだからね。

 

 「尾田くんはひとりで色んなことができる。一方のぼくたち普通の“超高校級”たちは、3人寄り集まって文殊の知恵を出そうと頑張るのでしたってね」

 「湖藤さんだって負けないくらい賢いのに。っていうか、この謎は私しか考えてないでしょ。湖藤さんはとっくに解いてるし、奉ちゃんはもう諦めてるし」

 「なんか前提知識とか要るんじゃない?」

 「要らないわけじゃないけど、そんなに難しいことじゃないからなあ。なんならヒントをあげようか?」

 「ぐう〜〜〜!謎解きプレイヤーとしてのプライドが〜〜〜!喉まで出かかった言葉を胃袋に引きずり戻していく〜〜〜!」

 「プライドって胃袋にいるの?」

 

 自分よりプレイヤーとして優秀な人ならともかく、湖藤さんにヒントを聞くのは負けた気分になっちゃう。湖藤さんはすごい人だけど、謎解きプレイヤーとしてすごいんじゃないから。

 

 「まあ、焦らずゆっくり解けばいいよ」

 「悔しぃ〜〜〜!!」

 


 

 食堂も、中央ホールも、スポッツァ……はもともとあんま行ったことなかったな。図書室も美術室もシアターも……どこもかしこも人影がねェ。そりゃそうか。人間はどんどん減ってくのに、場所は広くなる一方だ。こうして酒を飲みながらふらふら散歩してると、ふと廊下の曲がり角や入ったことのねェドアが気になったりする。考えてみりゃ、こんだけ広いとまだおいらの知らねェ場所がたくさんあるのも当然か。

 モノクマの野郎はここが希望ヶ峰学園だってんだから驚きだ。おいらたちゃ確かに希望ヶ峰学園に来た覚えはあるが、ここにいた教師や他の生徒はみんなどこに行っちまったんだ?なんでおいらたちだけ分館に集められたんだ?それに、ここが学校だってんなら、教室はどこにあるんだ?まるで希望ヶ峰学園から学校の機能を丸ごとなくしちまったみてェだ。なんだってそんなデタラメなことを。

 

 「ん〜〜〜?」

 

 そういや、この頃はモノクマの姿を見ねェな。空中庭園を案内しやがったとき以来、あいつの声も姿もずいぶんとご無沙汰だ。だいたいおいらがひとりで晩酌とかしてたらちょっかいかけに来やがるんだがな。あとあの、ダメクマとかいうやつも酒飲むのを邪魔しにきやがる。今はそのどっちも来ねェ。どういうことだ。ついにあいつらにすら愛想尽かされちまったか?

 

 「おっ」

 

 また見つけた。まだ入ったことのない扉だ。地上階はどいつもこいつもあちこち調べ尽くしちまったけど、地下になるとそうでもねェ。ここは月浦が水浸しにしやがったところで、でっけェパイプも一応塞いであるって程度だ。そのせいであんまり人が来ねェから、こっそり酒を飲むにはちょうどいい場所だ。だからときどき来てんだけど……こんなところに扉なんかあったか?

 その辺のどこにでもありそうな引き戸だ。軽く取っ手に指をかけて引いてみると、するっと動いた。動くってこたァ入られても問題ねェってこったな。とはいえ、暗い地下の知らねェ部屋は不気味だ。ぐいっと酒を煽って自分の気持ちを昂らせてなんとか入れる。

 

 「ほうほう」

 

 なるほど。なんも見えねェ。それに少し酒を飲み過ぎちまったようだ。なんかふわふわして足の置き場が定まらねェっつうか、床を踏んでる感覚じゃねェっつうか、体がぐるぐる回るような感じだ。

 真っ暗な空間でそんなことになってると、まず自分の立ち方が正しいのか不安になってくる。いま自分はちゃんと床に立ってんのか?体は真っ直ぐか?いや、酔っ払ってっから真っ直ぐなわけねェんだけど……とにかく、ひとりで立ててるか?目を開けてるのか閉じてるのかも分からん。そうなると、今度は自分と周りの空間の境界が曖昧になってくる。空気に触れてるところから体が溶け出していくような、無限の空間に自分が薄まっていくような……なんだかうすら怖ェけど、どこか気持ちよさもあって……。

 

 「んにゃァ……」

 

 いくら酒に酔ったからって、地下室の床でふやふやの夢をみて寝てるなんてのは情けなさすぎる。夢だかなんだか知らんが、とにかくしっかり自分ってもんを持たねえと。くっと腹に力を込めて、手に持った酒をまた煽る。こんな状況でも自分が酒を持ってるってことだけははっきりと理解してんだから、人間ってのァ不思議だねェ。

 酒が喉を通ってアルコールが鼻から抜ける感覚がすると、脳がしゃきっとして目が開く。ただ暗いだけなら目が慣れりゃァ見えようもあるだろうが、今はそうじゃねェようだ。ますますおかしな空間だ。だが、その暗闇の向こう……奥に……。

 

 「あ?……あっ!?」

 

 暗闇の向こう、やけにそこだけはっきりと目が見える。まるでそこだけ映画のスクリーンみてェに、暗い中に切り取られた空間が広がっていた。おいらは……そこに……いや、そこから……()()()()()()

 数えきれねェほどの目。人間の目が浮いてたわけじゃァねェ。ただ、()()()()()()()()()()()だけがそこにあったような……なんだかよく分からねェけど、とにかくとんでもなく不気味な感じだ。たまらずおいらは叫んだ。

 

 「ぎゃあああああああああっ!!?」

 

 必死に走った。走ったっつうか、とにかく手足をバタつかせてただけだ。足が地面に付いてねェから蹴って前に進むこともできねェし、そもそも真っ暗で上と下も分からねェくらいだからどこに逃げればいいかも分からねェ。それでも手に持った酒は絶対に離さねえこの右手が馬鹿馬鹿しくもなる。

 どれくらいそうやって叫んで走ってたんだか。気がついたときにゃァ、おいらは床の上で仰向けに寝転がってた。やっぱり右手の酒は大事そうに持ったまま、空中に手足を投げ出して背中で床を磨いていた。

 

 「………………へァ?」

 

 なんだ、さっきまで、いやなんなら今でもおいらはあの真っ暗な空間の不気味な景色を覚えてる。いつの間においらは夢を見て、その夢からすっぱり戻ってきてんだ?寝てたって実感もねェ。それに、こんなにはっきりと覚えてるもんが夢なわけがねェ。一体何がどうなってんだ。おいらは一体どうしちまったんだ?

 

 「酒の飲み過ぎ……なのかなァ」

 

 ここに来てから酒の量が増えた。コロシアイのストレスってのもあるだろうが、何よりここはとにかく暇なんだ。おいらみてェなおっさんじゃァ今時の高校生と話が合うわけもねェし、かと言って一丁前に大人ぶった話ができるわけでもねェ。酒を飲むくらいしか時間の潰し方をしらねェんだ。

 そういや、この頃は人数が減ったせいもあって、全然他の奴らの姿を見かけねェ。たまに見てもすぐに他の奴と話してどっかに行っちまう。なんだっておいらはこんなところにいるんだって気にもなってくる。そうなると余計に酒が増える。そうでもしねェとやってられねェからな。

 

 「うぅん……」

 

 それはともかく、さっき見たことはやっぱり夢だとは思えねェ。忘れちまわねェうちに誰かに話しとくべきか。でも誰に?おいらの話を真面目に聞いてくれる奴なんかいんのか?自分で言うのもなんだが、おいらはこんな感じだから、酒に酔って変な夢でも見たんだろうとか、何かを見間違えたんだろうとか、そういう感じであしらわれるのが関の山だ。でも、だからっつって黙っとくだけってのも気持ち悪ィ。誰かに話しちまえばすっきりして、おいらだけでも忘れられるかも知れねェしな。話を聞いてくれそうな宛っつったら、甲斐か庵野か、湖藤くらいか?甲斐と湖藤はいつも一緒にいるから、そいつらを一丁探してみっか。

 

 「うっぷ」

 

 急に立ち上がったせいで気持ち悪くなっちまった。ゆっくり行こう。

 


 

 「どんな具合だ?」

 

 静かな部屋の中で、壮年の男性が尋ねる。

 

 「かなり突破されていますが、核心部までは触れられていません。ただ、イレギュラーがひとつ」

 「イレギュラー?どんな?」

 「大したことはありません。何の権限も付与されていませんし、せいぜいがノイズになる程度です」

 「削除できないのか」

 「試していますが、それが難しく……。特別な効果を持つわけではないんですが、()()()()()()()()()ことに関してはかなりのプロテクトがかけられています」

 「不気味だな。意図が分からない」

 

 丁寧に磨いた画面には、文字と数式と図がいくつも表示されていた。キーボードを打って入力した操作に従い、画面は次から次へと開いたり閉じたり、移動したり拡大したり、そして何らかのパッチを起動させる。

 

 「修復までは少し時間がかかります。ですが、最終的には全て元通りになるでしょう」

 「まあ、こういうことにイレギュラーは付き物だ。それに、今さら計画を止めることはできん。後のことは最後までやってしまってから考えれば良いのだ」

 

 壮年の男性は、部屋に出入りするスタッフたちに目をやりながら、投げやりな態度を隠さずに言った。もうどうにでもなれ、と言いたげだ。スタッフたちが床に散らばった血を掃除し、山のように積み上がった死体を運び出し、むせかえるような血生臭さを消そうと四苦八苦している。大袈裟なマスクを付けた壮年の男性は、部屋の中で一番上等な椅子に深々と腰掛け、復旧しつつある室内を眺めた。

 

 「邪魔はさせんぞMHA……絶望に立ち向かう気概もない腰抜け共め。すべては世界の希望のため……!」

 


 

 モノクマは動かない。何をしているんだ?なぜ姿を見せない。何度も呼びかけているのに。次はどうしたらいい?何をすればいい?下手に動けば正体に勘付かれる。ここにはまだ、油断ならない奴らがいる。

 

 「……」

 

 返答がないのはモノクマだけではない。ダメクマもだ。一体アレはなんなんだ?なぜモノクマと同じ姿をしている。なぜモノクマから独立して動ける。それなのに、コロシアイを止めようとしている。あいつは()()()()なのか?それとも……。モノクマから排除命令がなければ、下手なことはできない。敢えてモノクマが見逃しているならそれでいいのか……やはりモノクマの考えは分からない。

 

 「このままでいいのか……?」

 

 得体の知れないイレギュラーが放置されている。頼るべきモノクマは謎の沈黙を続けている。内通者の存在は全員に明らかになり、指の動き一本さえ油断ならない緊張の日々が続いている。いつボロを出してしまわないかと気が気でない。なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないんだ。なぜ自分は内通者などしているのか……いけない。こんなことを考えては。

 自分は自分に課せられた役割を果たすだけだ。そこに自分の考えなどは不要。自分はただ……絶望の下僕であればいい。それこそが自分の生まれてきた意味なのだ。

 


 

 「信じてくれよ!本当なんだって!」

 「本当だって言われても証拠も何もないんだよね?それじゃあなあ……」

 「そらそうだけど……あれは夢なんかじゃねェって絶対!おいらァ酒酔って潰れて寝るってのァ日常茶飯事だけど、そういうときの感覚じゃなかったんだって!」

 「それは知らないよ……」

 

 慌てた様子で王村さんが食堂に飛び込んできたからどうしたのかと思ったら、なんだか要領を得ない夢みたいな話をされた。学園の中に真っ暗な感覚のない場所に放り出されて、謎の人影に覗き込まれてたって。そして気が付いたらお酒を抱えたまま学園の床で寝てたって。寝てたんならそれは夢じゃないのって思うけど、王村さんは夢なんかじゃないって言う。そりゃ見た本人は夢じゃないって思うかも知れないけど……。

 

 「王村さんが迷い込んだっていうその空間への扉はどこにあるの?」

 「そ、それは……同じ場所を見に行ったんだけど、あったはずの扉がもうなくなっててよ……」

 「そんなあったりなかったりする扉なんてないでしょ。やっぱり夢だったんじゃないの」

 「うぅん……そんなわけねェと思うんだけどなァ……」

 

 どうしても王村さんは納得いかなさそうだ。もしこれを訴えるのが毛利さんや庵野君だったら、少しは信じる気になったかも知れない。王村さんが特別信用ならないっていうわけじゃないけど、いつもお酒飲んでるからなあ。こういうときに信用なくて困るくらいなら、普段からお酒を持ち歩くのをやめればいいのに。お酒ってそんなに美味しいものなのかな。

 

 「夢だとしても、その夢にも何か意味があるはずだよ。それに王村さんの言うことをある程度信じるなら、夢を見る直前にいた場所と夢から覚めたときにいた場所が違うのは興味深いところだ。勘違いでないのなら、誰かが王村さんをそこまで移動させたってことになる」

 「おお!信じてくれんのか湖藤!」

 「面白そうなところを取捨選択したらそうなるってだけだよ。信じてるのとは違うかな」

 「へう」

 

 私が王村さんを冷たい目で見る一方、湖藤君はそれなりに王村さんの言うことを汲んで、面白そうなところを自分で見つける。簡単に信じないところはしっかりしてるけど、少なからず歩み寄ってはいる。仮に王村さんの夢以外の部分を信用するとしても、わざわざ酔っ払って寝てる王村さんを移動させることになんの意味があるのか。いくら王村さんの体が小さいからって、人一人(とビンのお酒一本)を移動させるのは骨が折れる。

 

 「王村さんの夢も気になるけれど、考えるならもっと喫緊の話の方がいいと思うよ」

 「キッキン?」

 「モノクマが何を考えているか。ぼくたちの中に潜む内通者は誰なのか。そして、どうやって尾田君の本音を引き出すか」

 「んん?モノクマの考えてることと内通者ってのァ分かるけど、それと同じくらい尾田のことが大事なのか?」

 「もちろん。彼がぼくたちに協力してくれるかどうかで、モノクマとの戦いの局面は大きく変わる」

 「なんだか、尾田君がモノクマの内通者じゃないって決まってるみたいな言い方だけど」

 「100%って言えることはないけど、十中八九そうだと思うよ。でなきゃ、自分から内通者の話を持ち出したりしないよ」

 「自分から言って、じゃあ尾田は内通者じゃねェなって思わせる作戦だったりしねェか!?へへっ!今日はやけに冴えてるぜ!」

 「う〜ん、なくはないと思うけど、そういうのはもっと駆け引きが必要な相手に対してすることだからなあ。彼にしてみれば、ぼくたちなんて駆け引きの相手にもならないと思うよ」

 

 シンプルに辛辣だった。それを私とかが言うならまだしも、尾田君が明らかに警戒してる湖藤君が言うんだから、それは謙遜でも卑屈でもなくて、ただの嫌味にしか聞こえない。きっと分かってて言ってるんだろうけど。なんだか、尾田君の人避けオーラに当てられて、湖藤君の性格もだんだん歪んできてるような気がする。

 っていうか、また尾田君の話してる。なんだかみんな、この前の尾田君の内通者発言からずっと、尾田君が頭の片隅にあるような気がする。常にどこか彼のことを警戒して、それでいて仲間に引き入れようとしてて、だけど本音が見えない彼がなんとも言えず不気味で。みんなが尾田君のことを話してると、なんだか気分が悪い……胸の奥がモヤモヤする。

 

 「尾田君の本音って、何か心当たりがあるの?」

 「そうだなあ。うん、そろそろいいかな」

 「いいって何が?」

 「彼が隠してることはたくさんあるだろうけど、もし一緒にモノクマと戦うんなら、せめてこれだけは教えてほしいっていうことがある」

 「もったいつけねェでさっさと言えよ」

 「ぼくがこの話したっていうのは内緒にしてね。ぼくが気になってるのは……彼の本当の“才能”だよ」

 

 “才能”……本当の“才能”。湖藤君ははっきりそう言った。“才能”っていうのは、私たちが希望ヶ峰学園に入学するきっかけになった、“超高校級の才能”のことだ。私なら介護士、湖藤君なら古物商、王村さんなら蔵人だ。尾田君は確か、はじめの自己紹介のときにしか聞かなかったけど、密偵だった気がする。密偵っていうものがなんなのか私にはほとんど知識がないけれど、ざっくりとスパイみたいなものだって説明されたような。

 

 「あ、あいつ!嘘の“才能”言ってやがったってのか!くっそ〜!最初からおいらたちのこと騙してやがったんだな!なにがミッテーだ!ニックネームみてェな“才能”名乗りやがって!」

 「王村さんがものすごく危ういっていうのはよく分かったよ」

 「湖藤君、なんで尾田君が嘘の“才能”を言ってるって分かったの?」

 「……まあ、色んなことからさ。自己紹介のときから違和感はあった。確信したのは初めの事件が起きた後だったかな」

 「そんな前から!?な、なんで教えてくれなかったの!?」

 

 湖藤君が観察力や人の嘘を見破る力に卓越してることは知ってたけど、尾田君が嘘の“才能”を言ってることをそんな前から見抜いてたなんて知らなかった。湖藤君は自分が見抜いたことを隠す力も優れているらしい。

 

 「人が隠してることを敢えて言いふらしたっていいことはないよ。どうせ掴んだ秘密なら効果的に使わないと。たとえば、彼はどうして“才能”を隠しているのか。本当の“才能”はなんなのか。ぼく以外にそのことに気付いてる人はいるのか。こうしたことも考えて、いつ武器として使うかを考えないと」

 「そっか……じゃあ私たちも、尾田君には気付かれないようにするね」

 「ああ、でも彼はぼくがこのことに気付いてることを知ってるよ。ぼくが直接言ったからね」

 「どないやねん!!」

 

 ものすごい手のひら返しの風圧で王村さんが後頭部を床にぶつけた。そこまでじゃないけど、私も思わずひっくり返りそうになった。なんで私たちには内緒にしといて、尾田君本人には言っちゃうの。

 

 「おめェ言ってること無茶苦茶じゃねェかよ!なんで尾田にバラしてやがんでェ!!」

 「彼は彼で目敏いから、下手な隠し事は逆効果だと思ったんだ。それにぼくの立場を明確にしておいた方が牽制にもなるしね」

 「湖藤君の立場って?私たちと一緒に脱出を目指すっていうことじゃないの?」

 「尾田君にとっての立場だよ。つまり、敵じゃないけど敵に回すと面倒臭いやつ、ってこと。正直、彼がその気になればぼくなんてイチコロだろうけど、一矢報いる程度の武器は持ってるってことを知っておいてもらった方がいいかなって」

 「ははあ。だからおいらたちが同じことをしようとしても無駄ってわけか。おいらが尾田に、お前の秘密知ってんぞ、なんて言った日にゃァ速攻でお陀仏だ。一矢どころか最後っ屁の隙もねェや」

 

 なるほど、見抜いた弱みも使いようってことだ。湖藤君はしきりに、自分はいざ標的にされたら簡単に殺されてしまうってことを口にしてる。滅多なこと言わないでほしいけど、下半身が不自由な彼は逃げることも抵抗することもままならないのは事実だ。だからこそ彼は、危険な相手には情報で牽制する必要がある。報復を与えるだけの頭脳が彼にはある。

 だったら私たちは、そんな彼をサポートするために歩き回らないと。尾田君の秘密を知ったからといって、私や王村さんにできることは限られてる。駆け引きは湖藤君に任せておけばいい。

 

 「とはいえ、彼だって秘密を知った人を片っ端から殺して回るようなことはしないよ。こんな閉鎖空間じゃあ、連続殺人はリスクでしかないからね」

 「湖藤君はどこまで考えて行動してるの?いまこうして私たちに尾田君の隠し事を明かすことに、どんな意味があると思ってるの?」

 「……その答えは、まだ言わないでおくよ」

 「なんでェ、やけに勿体ぶるなァ」

 「答えを言える来たらもちろん言うさ。それまではお預け。宿題かな」

 

 そんな風に湖藤君はおどけて言うけれど、私にはその言葉がひどく不穏に聞こえた。その答えを聞ける日は、果たしてこれからの未来にあるのだろうか。そんな不安を感じてしまう。やっぱり私は根が暗いみたいだ。油断するとすぐネガティブなことを考えてしまう。少しは王村さんみたいにお気楽あんぽんたんな考え方ができたらいいと思うんだけど。

 

 「おい甲斐。おめェ年上に向かってなんだその言種は」

 「え、声に出てた?」

 「出てるわ!誰があんぽんたんだこの野郎!」

 「やだお酒臭い!近寄んないで!」

 「くさっ……!?」

 「クリティカルダメージ入ったねいまの」

 


 

 「んん〜〜〜……」

 「どう?どうどうどう?どんな感じ?」

 「んん〜〜〜……ダ〜〜〜メ!な〜〜〜んも見えないヨ!」

 

 目がカッサカサになるヨ!風風(フェンフェン)は無茶させすぎアル!

 

 「こんなおもちゃじゃ穴が開くほど覗いたって見えないものは見えないヨ!ちゃんとしたスコープ持ってくるヨロシ!」

 「え〜!?長島さんが目の良さなら誰にも負けないって言ったんじゃん!せっかく空中庭園まで来たんだからもっと頑張ってよ!」

 「ワタシはアフリカの部族じゃねーアル!スナイパーヨ!スナイパーの目の良さってのは遠くのものが見えるとかだけじゃないアル!一点を集中しつつ広い視野を持つとか、高速で動くものを追跡する動体視力とか、そういう色んなものをまとめて目が良い悪いって話をしてるんであって……!」

 「海外キャラなのに流暢に喋りすぎだよ長島さん!ブレるからよしな?」

 「ブレるんならよすアル」

 「うわあ!急によすな!」

 

 よせって言ったりよすなって言ったり、風風(フェンフェン)は一秒前の記憶もないカ?ワタシだって好きじゃないアル。宣宣(シェンシェン)がちゃんとワタシの言いつけを守ってるか見張ってやらないといけないヨ。サボらずキビキビ働くヨロシ。もう1日だって無駄にしてられる状況じゃないヨ。こうしてる今も、モノクマが何を考えてるか分からないネ。

 

 「どうせ何が見えたってここから脱出するなんて不可能アル。窓は開かないし、開いたとしてもここは希望ヶ峰学園の4階ヨ?飛び降りるには高すぎアル」

 「グライダーでも作って飛んで逃げたらいいじゃん!窓だってほら、割っちゃえばいいんだよ!」

 「分館の食堂にあった窓、何やっても割れなかったの忘れたカ?ここだって同じヨ。飛んで逃げることくらいモノクマがうっかり見逃すと思うカ?地対空ミサイルくらい用意してたって不思議ないネ。あとグライダーは広い場所がないと着地できなくて色んなところが粉々なるネ」

 「経験と知識に裏打ちされた一分の隙もない反論〜〜〜!!やめて長島さん!その術は私に効く!」

 

 考えが浅いアル。敵は希望ヶ峰学園を丸ごと乗っ取って、ワタシたち20人を誘拐してしまえるくらいのとんでもない巨悪アル。そんな奴に、風風(フェンフェン)みたいな普通の女子高生がパッと思いつくようなことなんて通用するワケがないネ。モノクマの力があれば、ワタシが言ったような雑な対策だって簡単に実現してしまえるはずヨ。そういうデタラメを敵にしてるんアル。

 

 「ああ、そっか。風風(フェンフェン)は普通の女子高生だったアル」

 「何をいまさら。長島さんだってそうでしょ。普通かって言ったら“超高校級の才能”があるから違うかも知れないけど」

 

 ワタシが言いたいのはそういうことじゃないアル。けど敢えて風風(フェンフェン)に言うことはしないアル。別に隠す必要はないけど、言う必要もないことは言わないでおくに限るアル。

 風風(フェンフェン)は……というか、ここにいるほとんどのみんなは、日本で産まれ育ったはずヨ。日本は国内で戦争はもうすっかりしてないから、きっとみんなもワタシみたいな経験はしてないはずアル。だから、人が人を殺したり、殺されたり、敵を前にしたときの立ち回りとか、そういうことができなくても当たり前だったヨ。もうずいぶん人数も減ったから、今生き残ってる人たちはみんなそれくらいのことはできるものだとばかり思ってたアル。劉劉(リュウリュウ)とかがおかしいだけネ。

 

 「……」

 

 だったらますます馴れ合いは危険アル。これからきっとモノクマと戦うことになるとき、ワタシたち全員が無事に生きて帰れるなんて考えちゃだめヨ。自分が生き残るためには、誰かを犠牲にしなくちゃいけないはずアル。だって、これまでだってそうだったネ。ワタシたちが生き残るためには、何かのために命を懸けた誰かを売らなきゃいけなかったヨ。

 だからワタシが生き残るためには、そのときに必要なだけ切り捨てられる味方が必要アル。ワタシたちは仲間じゃないアル。()()()()()()()ヨ。それが分かってる人はここぞというところで誰かを犠牲にして、分かってない人は誰かに犠牲にされるアル。ワタシは、犠牲にする側アル。

 

 「ほんと、モノクマって隙がないよね。しばらく見かけないけど、それでも私たちに好き勝手させてないもん」

 「風風(フェンフェン)みたいなのは御しやすそうネ。こういうときでもできることはあるネ」

 「できること?」

 「いつかのときの備えること、アル」

 

 自分がその()()になってないといいネ。風風(フェンフェン)




この頃はアマプラでアニメを観漁っています。すぐ影響されるんだよなあ。

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