コトダマ一覧
【モノクマファイル⑤)
被害者:湖藤厘
死因:緩やかな中毒死
死体発見場所:湖藤厘の個室
死亡推定時刻:午前2時10分頃
その他:背中の広い範囲にアザがある。争った形跡はなし。
【連続襲撃事件)
王村、宿楽、甲斐が被害に遭った犯人不明の連続襲撃事件。
全員が何者かによって突然気絶(宿楽は軽度の眩暈)させられるも、負傷者は出なかった。
使用されたのはおそらくクロロホルムで、薬品庫のクロロホルム瓶に使用した痕跡があったのを庵野が発見した。
【モノトキシン2053)
生存投票で最下位となった益玉にペナルティとして打たれたモノクマオリジナルブレンドの猛毒。
激しい痛みと出血によって三日三晩苦しんだ末に死亡するほか、死体には特徴的なアザが残る。
解毒する方法はモノクマのみが知っている。
【モノクマの証言)
湖藤の身体のアザは、モノトキシン2100という2053の改良版のもの。
2053の欠点(時間がかかることと死体が汚いこと)を解消するためモノクマが新たに開発した。
一晩で死亡する代わりに苦痛が少なく緩やかな死になってしまった。
【怪しげなラベル)
湖藤の部屋のゴミ箱に入っていた、ドクロマークが書かれたラベル。
何に貼り付けてあったのか、貼り付けてあったものがどこに行ったのかは分からない。
【ボイスメッセージ)
湖藤のモノカラーに収められていたメッセージを、宿楽のモノカラーで再度録音したもの。
死の直前に録音された、湖藤の肉声が遺されている。
【メモリースティック)
高性能な小型情報媒体。
何かが記録されており、映像資料室のパソコンに接続することで視聴できるようだ。
映像資料室に落ちていたのを尾田が発見した。
【果樹園の隠し部屋)
果樹園にあるリンゴの樹の裏から入れるようになっていた隠し部屋。
中にはリターナブル瓶専用の自動販売機、校則一覧の貼り紙のほか、文章が残されていた。
「命果てようとも知恵を求める者よ。その証をここに示せ」
自動販売機は何の反応もない。
「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう。学級裁判の結果は、オマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できればクロだけがおしおきされます。もし間違った人物をクロとしてしまった場合は、クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となります!」
「……」
「ひとり、それどころじゃないやつがいるネ!おーい
「…………」
「甲斐さん?その……湖藤君が亡くなってショックを受ける気持ちは分かります。ですが、理不尽に奪われる命をこれ以上増やしてしまうことは避けなければなりません。なんとかお気を確かに」
「………………」
「ダメだこりゃ。打っても叩いても響かねェ」
みんなの視線は、前回の裁判から増えた芭串さんと湖藤さんの遺影じゃなくて、今にも死にそうなくらい真っ青な顔をした奉ちゃんに向けられていた。そりゃそうだ。こんな状態の人をさておいて話なんかできない。
「いい加減にしてください。甲斐さんも、その他の方々も。遊びじゃないんですよ」
どうしたらいいか分からないで戸惑っている私たちに、尾田さんの冷たい言葉がピシャリと響く。いい加減にって、なんで尾田さんは怒ってるんだろ。遊びじゃないことなんて過剰なくらい分かってる。分からされてる。
「この空間にいる以上、誰が死のうとそれは想定内のことです。いつかこうなることは分かっていたはず……少なくとも覚悟はしていたはずです。今さらになって湖藤クンが死んだから悲しくて話せないなんて言わせません」
「それはそうかも知れないが、覚悟をしていたからといって易々と受け入れられるわけがないだろう。甲斐にとってはあまりに突然すぎる」
「だから、そういう言い訳が許されない状況だと言っているんです。ここにいる人数を数えてください。湖藤君を殺害したクロが1人と、内通者が別に存在するとして、シロ側の頭数はたったの5人です。場合にもよりますが、その中で戦力になる人間がどれだけいますか」
「やろ〜、露骨にこっち見やがって」
私も裁判場を見回した。今この場に立ってるのは全部で7人。この中にクロと内通者がいるから、信じられるのはたった5人。手掛かりも少なくて、学級裁判では大きな力になっていた湖藤さんがいなくなってしまった。状況はめちゃくちゃ悪い。クロに有利で、シロに不利だ。だからこそモノクマは植物園の隠し部屋をヒントとして教えたんだろう。さすがにあれを知らずに事件の真相を突き止めることはできないと思ったんだろう。
「甘えたことを言ってる場合じゃないんです。本当に死にますよ?」
「……」
最後の一言は、明らかに奉ちゃんに向けて言っていた。それが奉ちゃんに聞こえていたのか、心に届いたのかは分からない。ただ、奉ちゃんは微動だにせず空中の一点を見つめ続けていた。青い顔はそのままで、ときどき湖藤さんの証言台の方を見ては何かをつぶやいてる。
「まーまー、ぶっ壊れちゃった人のことをあれこれ言ってても解決しないアル。ワタシたちの中に医者はいないヨ。だったら、やるべきは議論することじゃないカ?」
「なぜ僕に言うんですか。僕はずっとそう言ってます」
「湖藤君や甲斐さんにばかり頼っていられませんからね。手前どもも精一杯のことをしましょう」
こういうときに長島さんのサバサバした考え方は、ある種の助け舟になってくれる。つい引っ張られて落ち込んじゃう私たちを、尾田さんよりも柔らかく現実に引き戻してくれる。投票してごめんなさい。
「ではまず、モノクマファイルを確認しよう。全員現場は見たと思うが、同じ認識を持ってもらうためには必要だ」
私たちはモノカラーでモノクマファイルを映し出させた。写真の上でも湖藤さんの死体はとてもきれいで、言われなければ死んでいるとは思えないほどだった。まるで眠っているだけのように、ベッドの上にきれいに寝そべっていた。
「被害者は湖藤厘。自室のベッドに寝た状態で死んでいたのを発見された。死因は毒死。体のどこにも怪我や注射痕のようなものはなかった。また、発見時の湖藤の部屋は内側から鍵がかけられていた」
「岩鈴さんの部屋から工具を持ってきて、なんとかドアノブを壊して鍵を開けたんだよね」
「分かったぜ!つまり、こいつァ密室殺人ってこったな!」
王村さんが揚々とそれっぽいことを言う。確かに湖藤さんの部屋は鍵がかかってたから密室って言えるかも知れないけど、そこまで大したことでもないと思う。
「密室といえば密室だけど、個室ってオートロックだよね?いつどうやって湖藤さんを殺害したとしても、最終的に犯人は部屋の中に入ったはずだよ。普通に部屋を出ていくだけで密室にはなるんだから、そこはそんなに突き詰めてもしょうがないと思う」
「
「まともなこと言ったのにアホ呼ばわり!?」
「誰がアホだテメェ尾田この野郎!」
「密室であったこと以外に現場に不審な点はありませんでした。となると、あの状況そのものに手掛かりはないと考えるべきですね」
「それなら、湖藤の死因について考えるのはどうだ」
やっぱりというかなんというか、今まで湖藤さんがいたおかげで裁判場はなんとなくバランスが取れてたんだなあ、なんて思う。私たちじゃ尾田さんの頭脳に勝てないし、なんだかんだ怖いから、湖藤さんみたいに牽制したり、奉ちゃんみたいにたしなめたりできない。私たちは尾田さんに罵られるまま、気持ちが落ち込んだまま議論を進めるしかない。ブラックだよ……。
「モノクマファイルには、湖藤君の死因は毒物を服用したこととありますね。薬品庫に行けば毒物はいくらでも手に入りますが……犯人はそこから毒を調達したのでしょうか」
「使われたのは、部屋のゴミ箱に捨てられてたビンの毒だろうなァ」
「ワタシと
「じゃああの毒はどっから出てきたんだ?」
「毒と言えば、益玉さんも毒で苦しんでたけど……モノトキシンだっけ?あれが使われたんじゃないかな」
「それは違うぞ」
静かに、訂正するように毛利さんが言った。私、また何か言っちゃいました?
「私の記憶によれば、益玉に打ち込まれた毒は非常に強力で悪意に満ちた毒だ。体に入った瞬間から激しい痛みと苦しみに苛まれ、三日三晩苦しみ続けて血を撒き散らしながら死亡する……そういう代物だったはずだ」
「おおう……た、確かに言われりゃそうだったかも知れねェけど、よくそんなこと言えんなおめェ」
「ナイス記憶力ヨ、
「みんなもっと奉ちゃんに配慮とかしてよ!?」
「ともかく、今回の湖藤の死体は、寝ているようにきれいなものだった。それに、前日も前々日も湖藤の様子におかしなところはなかった。益玉と同じ毒が使われたとは言えないはずだ」
「めちゃくちゃ我慢してたとか?」
「本気で言ってるのか、王村」
「いちおう言ってみただけでェ。最初の裁判んときに隠し事してえらい目に遭ったの思い出したからな」
「みなさん、色々と思うところがあるものですね」
「しみじみ言ってる場合じゃないと思うけど……」
あんまり覚えてないけど、益玉さんの死体と湖藤さんの死体を頭の中で比べてみる。うん、確かに、益玉さんは本当に死んでる!って感じだったけど、湖藤さんはそうじゃなかった。同じ毒が凶器っていうのはちょっと無理があった。つくづく私ってこういうところに気付けないんだなあ、て落ち込む。
「となると、湖藤君の体のアザは一体なぜ……?争った形跡もないようですし」
「それについては、検分をしていたときにモノクマから聞いた。あのアザは、モノクマが開発した別の毒の特徴だそうだ」
「何個も開発するんじゃねェよ!毒をよ!」
「それでしばらく見かけなかったのネ」
「ふっふーん、ボクはスーパークマちゃんなので、毒の開発くらいお手のものなのだ!」
「で、その毒ってどんなのヨ」
毛利さんが、モノカラーで記録したメモを読み上げる。なんかみんな使いこなしてきてるな。
「モノクマによれば、益玉に打ち込んだ毒がモノトキシン2053で、今回使用されたのはモノトキシン2100というそうだ。これは、2053にあった死亡まで三日かかる点や被害者が血を噴き出すという欠点を改良し、摂取から一晩で死に至らしめる強力な毒性を持つ一方、その進行は緩やかだそうだ。そして、死体には特徴的な死斑ができる」
「シハン?」
「死体にできるアザのようなものだ。内出血の類だと思えばいい」
「聞けば聞くほど、今回の事件とリンクするね……」
「リンクどころか、まさにその通りです。湖藤君に使われたのはこの毒で間違いないようですね」
「ちょっと待つヨ!確かに
「どこって……?」
「毒が欲しいと思ったらみんな薬品庫に行くはずヨ!でもワタシと
「……どうなんですか、モノクマ」
私たちの議論を冷めた目で見ていた尾田さんが、モノクマに意見を求めた。私には、その一言にひどい違和感を覚えた。尾田さんは些細なことから本当にたくさんのことを見抜いてしまう。だからあの毒がどこから出てきたかの答えも持ってると思ってた。そうでなくても、まだ十分に議論を尽くしてないのにモノクマに助けを求めるような質問だ。そんなの、尾田さんらしくないと思った。なんだか……すごく不気味に感じた。
「あなたが、僕たちには入手できない場所に保管されていたあの毒を持ち出したんじゃないんですか」
「うっぷっぷ♪なあに尾田クン?もういない誰かに触発されてボクと駆け引きでもするつもり?変わったねえ」
「ボクはイエローカードを持ち合わせていないので」
「だっひゃひゃ!いいでしょう!その心意気は買ってあげるよ!ブラックカードは使えるかしら」
「買ったんならさっさと答えてください」
「冗談の通じないやつ。ボクを疑うのはお門違いってもんだよ!あの毒はちゃんとオマエラの誰でも手に入れられる場所にあったよ!ついでに教えちゃうけど、薬品庫じゃないからね!」
「……まあ、いいです」
モノクマはいい加減なことを言うけど、嘘は吐かない。そんな風に言ってたのは湖藤さんだったかな。っていうことは今のは取り敢えず信じていいってことだ。尾田さんがなんでモノクマのことを疑ってたのかも、理由を聞いてなんとなく理解した。この前の事件から、尾田さんも、湖藤さんも、モノクマが事件に介入してるんじゃないかって疑ってた。それを確かめようとしたってわけだ。
「どこから毒を入手したかも問題ですが、犯人は確実に湖藤クンの部屋に入っています。ゴミ箱に落ちていた茶褐色の瓶が毒の入っていた瓶と考えていいでしょう」
「やっぱり敢えてあれを残した理由が分からないネ。毒を使ったことがミスリードじゃないなら、なんでわざわざそれを教えるようなことするカ?」
「……ひとつ、考えられるのは」
私は、ずっと頭の中にあったことを口にすることにした。言うならここだと思った。奉ちゃんの前でこんなこと言うのは忍びないというか……怒らせちゃうかも知れないから言いたくなかった。んだけど……しょうがないよね。王村さんじゃないけど、思ってて言わないせいで後で大変なことになったら嫌だし。
「ゴミ箱に捨てる以外に処分方法がなかった……とか」
「どういうことですか?ゴミ箱に捨てるにしても、なにも確実に見つかる湖藤君の部屋のゴミ箱にすることはないでしょうに」
「だから、時間がなかった……とか、捨てに行けなかったとかじゃないの。
「そ、それは……宿楽。つまり……?」
「……湖藤さんは、自殺したんじゃないかなって。ちょっと、思ったりしたんだよね」
きっと尾田さんはとっくに考えてる可能性なんだろう。そう思って顔色をうかがってみたら、ちょっとだけ目を丸くしていた。それが驚きの表情なのか、それ以外の感情なのか、私には判別できなかった。分かるのは、私の話に興味を持ってるってことだ。ものすごい意外だった。尾田さんが、私なんかの話をまともに聞いてくれるなんて。
「鍵がかかってたのも、毒の瓶が雑に処分されてたことも、湖藤さんが自殺したって考えたらそんなに不思議なことじゃないし……あっ、で、でも湖藤さんが自殺するなんてあり得ないよね!ま、また私、わけわかんないこと言っちゃって……アホが口きいてすんませんっした!」
「鋭い推理してソッコー否定すんじゃねェよ!感情がおっつかねェだろ!」
「ええ。確かに、その可能性はすっかり抜け落ちていました。湖藤君に限って、自殺などするはずがないと……思い込んでいました」
「え〜?ワタシはあんまり思わないヨ。
「いえ……先入観は危険です。遠回りであろうが寄り道であろうが、あらゆる可能性を考えるべきです」
「ほぶっ」
意外に意外が重なった。私の思いつきを、みんな割とまともに受け止めてくれた。そんなわけないだろ!ってフルボッコにされる未来しか見えてなかったのに。まあ湖藤さんに限って自殺なんてするわけないよね、と思うけど、なんか周りに流されてあり得そうな気になってくる。
「仮に彼が自殺したとなれば……問題になるのは、彼がいつ毒を入手したか、です。そうなると……まあいずれはこうなると思いましたが、話を聞かなければならない人物がいます」
そう言って、尾田さんは視線だけを投げかけた。いまだ青い顔で小さく震えながら、ぶつぶつと何かをつぶやいてる奉ちゃんに。そうだ、湖藤さんが自殺したにせよ、そうでないにせよ、事件が起きる直前まで一緒にいたのは奉ちゃんだ。本当は私と一緒に気を失ってたから、本当の事件直前には立ち会えてないってことになってるんだけど、少なくとも一番同じ時間を過ごしてきた人ではある。事件直前の不審な様子とか、あとは毒を手に入れたタイミングとか、奉ちゃんの証言で分かることがあるかも知れない。
「で、ボクらはいつまで待たなくちゃいけないんですか。そうやってればみんなが心配してくれると思ってます?正直、迷惑なんですよね。あなたがクロならいいんですが、そうでないなら生きようとしてるボクたちの足を引っ張らないでくれません?」
「容赦ねェなおめェ!いま甲斐はすげェことになってんだぞ!?」
「知りません。こちらは命懸けなんです。はっきり言って、甘ったれに付き合ってる余裕はないんです」
「尾田!言い方を考えろ!確かに甲斐が回復しないことには議論が進まないのはそうだが、だからと言ってそんな言い方で回復すると思っているのか!」
「優しく言って回復するならそうしますよ。ですが彼女はそれ以前の問題です。なんの覚悟もせずに今まで過ごしていたんです。周りでもう12人も顔見知りが死んでるのにですよ?それなのに、今さらひとりが死んだところでこうなってしまうなんて、あり得ないと言うほかありません」
「正論で人は救えません。人を救うのはいつでも愛です。あなたには愛がない」
「お生憎ですが、ボクにだって愛情を振りまく相手を選ぶ権利くらいあります」
「
「オマエラなんの話してんの?ふざけてる場合じゃないよね?もっとがんばれよ!フレーフレー!」
尾田さんは怒ってるんだ。湖藤さんが殺されたことに対してでもなく、モノクマに対してでもなく、湖藤さんが殺されたことにひどくショックを受けている奉ちゃんに対してだ。正直、私たちだって奉ちゃんにはやきもきしてる。湖藤さんがいなくなって辛い気持ちはもちろんある。だけど、裁判で喋れなくなっちゃうほどじゃない。気を失うほどじゃない。奉ちゃんは限界なんだ。人一倍落ち込みやすくて、誰よりも周りの人のことを思いやれる奉ちゃんだからこそ、その心を支えていた湖藤さんを喪ったショックが大きいんだ。
でも、ここで黙ってても状況はよくならない。私は奉ちゃんに寄り添って、背中をさすりながら声をかけた。これで少しはよくなればいいけど。
「奉ちゃん?どう?少しは落ち着いた?」
「落ち着くなんて、そんなの……おかしいよ。もう、私にできることなんて……何もないよ……」
「何もする必要なんてないよ。今は、ただ知ってることを話してくれればいいの」
「知らない……なんにも知らない……!もうやだよ……おしまいなんだよ……!いまさら私に何ができるっていうの?」
「なんだってできるよ!ここで諦めちゃったら、湖藤さんの気持ちはどうなるの?湖藤さんは、奉ちゃんに生き延びて欲しいはずだよ!その気持ちを無駄にしちゃダメだよ!」
「だけど!湖藤君はもういないんだよ!いなくなった人が何考えてたかなんて分かるわけない!いい加減なこと言わないで!もう何をしたって意味なんかないんだよ!」
「そんなことないよ!いなくなった人のためにだってできることはある!それに、今の私たちには奉ちゃんが必要なんだよ!奉ちゃんの言葉が必要なの!奉ちゃんの記憶が必要なの!知ってることを教えて!」
「……私が、必要?」
ひく、と奉ちゃんの反応が変わった。私たちが奉ちゃんの証言を必要としてる、そこに引っかかったみたいだ。誰かが奉ちゃんを必要としてること——それが奉ちゃんの強いモチベーションになるみたいだ。
そう言えば、前にも奉ちゃんはそんなことを言ってたような気がする。介護のボランティアをしてるのも、みんなが自分を必要としてくれたからだって。希望ヶ峰学園に来たのも、学園が自分を必要としてくれたからだって。誰かに必要とされるっていうのは、奉ちゃんにとって何よりも嬉しいことみたいだ。
「そうだよ。この事件の真相を突き止めるため……湖藤さんのカタキをとるためには、奉ちゃんの知ってることを教えてほしいの。大丈夫、奉ちゃんひとりに背負わせたりしない。私たちみんなで、この事件の真相を突き止めるんだ。奉ちゃんは、みんなを真相に導いてくれればいいの」
「……わ、私が……湖藤君……!私が、目を、離したから……!」
そっと抱きしめると、奉ちゃんは小さく震えていた。それでも、さっきまでより話してくれる気にはなったみたいだ。ゆっくり、少しずつだけど、うわ言とは違う何かをつぶやき始めた。
「私が、死なせたようなものだよ……!ずっと、そばに、近くにいて……目を離しちゃ、いけなかったのに……!」
「主観は要りません。事実だけを述べてください」
「少し黙れ、尾田」
また横槍を入れてきた尾田さんに、毛利さんの横槍返しが刺さった。尾田さんは不満げな顔をしていたけど、いまの奉ちゃんを急かしても仕方ないと分かったのか、それ以上は何も言わなかった。
「こ、湖藤君を……部屋に戻す、ときに……聞いたの。悲鳴を。たぶん……奉ちゃんの……」
「それはどこでですか?」
「寄宿舎に戻る途中……それで、私はそれが気になって……でも、湖藤君を部屋に、送らなくちゃいけなくて……。だ、だけど……湖藤君をそこにおいてって……」
「なんで部屋まで送らなかったカ?」
「こっ……うぅっ……!こ、湖藤、君が……言ったから……!行ってあげてって……!大丈夫だからって……!それで、だから……」
「ふむ。宿楽さんの身を案じ、それが気掛かりな甲斐さんを慮って、湖藤君はそう言ったのですね。なんと愛の深い方でしょう。ただごとではないことが起きていることは明白だというのに」
「それで自分が殺されてちゃ世話ねェけどな」
「……そうなると、連続襲撃事件と湖藤の殺害は、無関係に起きたわけではなさそうだな」
「え?なんで?」
奉ちゃん、湖藤さんと一緒にいたのに私のことを心配して来てくれたんだ……!結果的にそれが湖藤さんを喪うことになってしまったとしても、奉ちゃんが私を優先してくれたっていうだけで私にはすごく嬉しかった。湖藤さんがそうするように言ったっていうのもあるけど。本当に、湖藤さんらしい。
頑張って思い出しながら話してくれた奉ちゃんが一息つくと、毛利さんがあごをさすりながら言った。どこからそんな結論になるのか、私には皆目見当もつかなかった。みんな勘良すぎない?
「王村も宿楽も甲斐も、気絶させられていたのに怪我の一つも負っていないのは、単純に殺人を企てていたのなら不自然だ」
「おいらァ倒れたときに頭ぶつけてコブができたぜ」
「おそらくわざと騒ぎを起こすことで全員の注目を王村や宿楽の方に向けさせ、その裏で行動することを考えていたのだろう」
「そもそも3人も気絶させてしまったら、クロ候補が狭まってしまいます。その点でも、今回の事件は湖藤クン個人を狙って起きたものだと言えるでしょう」
「湖藤君を……狙った……?どうして……!どうして湖藤君が誰かに命を狙われなくちゃいけないの!」
「ここはそれを議論する場です。建設的な話ができないなら黙っててください」
「喋れって言ったり黙れって言ったり忙しいやつアル。やれやれヨ」
つまり、連続襲撃事件はただの陽動で、本命は湖藤さんの殺害だったと。そりゃ気絶させるのと殺人だったら殺人の方がメインの事件だろう。うん、確かに、普通に考えてそうだ。二つの事件が別々に起きたっていうのも、あまりにできすぎた話だし。
「ということは……事件の真相を明らかにするためには、例の連続襲撃事件についても考える必要がありそうですね」
「やっぱりカ。って言ってもワタシたちは
「一度、全員の認識をそろえておいた方がよさそうだな」
テキパキとみんなが裁判を進めていく。尾田さんが口を挟まなくても、湖藤さんの手助けがなくなっても、奉ちゃんの提案がなくても、みんなが真相に向けて一歩一歩進んでいってる。私はそれを横で見ていることしかできない。話の内容についていくことはできる。なんて言えばいいか分からないんだ。
みんな、今までこんな気分だったんだ。
「連続襲撃事件とは、湖藤が殺害されたことが発覚する直前に起きた事件だ。ランドリーで王村が、1階廊下で宿楽が、その宿楽を空き教室に運んだ直後に甲斐が教室前で、何者かに襲われて眠らされた。体のどこにも怪我はなく、なくなったものもない。ただ眠らされただけだ」
「眠らされてただけって……本当にそれだけカ?寝てる人にできる悪さは怪我や盗みだけじゃないヨ!もしかしたら気付かないうちにあんなことやこんなこと……!」
「事件が起きてから私たちが発見するまでそう時間はなかった。暴行や窃盗以外にできることがあるとは思えない。今のところ目立った異常はないし、一旦そういうことでいいだろう」
「3人も襲われてて、ひとりくらい犯人の姿を見てないカ?
「わ、私は……なにも……」
「うぅん、私も全然。なんか、記憶が曖昧っていうか、くらくらしてて何がなんだか分からなくなっちゃって……」
「そう言えば、みなさん怪我がないということは、どうやって眠らされたのでしょう?」
どうやってって……どうやってなんだろう?確かに、人を気絶させる方法って言ったら頭をゴッちんするか……それ以外だったら。
「薬で眠らせた、とか?」
「外傷がないのならそうでしょう。一瞬で眠るとなるとかなり強力ですから、なにか後遺症が残っていれば同定ができるかも知れません。何かありませんか」
「これといって特に」
「実に使えない被害者です」
「そんな言い方あんまりだ!!あァァァんまりだァァアァ!!!」
「HEEEEYYYY!!!」
「急にうるせっ」
なんで私のボケにモノクマが全力で乗っかってくるんだ。ともかく、薬が使われたのは確かだ。殴ったなら殴った跡が、スタンガンなんかを使ったならそれなりの跡が、何かしら残ってるはずだ。奇跡的に王村さんも奉ちゃんも後遺症らしいものはないみたいだから、なんの薬を使ったのかまでは分からないままだけど。
「ああ、でもなんか息苦しかった感覚は覚えてんなァ。鼻と口をガバッと布切れで覆われたような」
「ハンカチか何かに薬品を染み込ませて嗅がせたのだろう。ドラマなんかでよくある手法だ」
「被害者に共通点などないのでしょうか」
「
「……まあ、構わないが」
「となると、犯人が湖藤を狙ったってのもまァ分からんでもねェな。おいら含めて襲われた3人の次に狙いやすいのは、抵抗されにくい湖藤だァな」
「抵抗はされにくいですが、車椅子生活に慣れている彼なら逃げることも可能でしょう。特に異常事態が起きていることは宿楽サンの悲鳴で感じ取っていたはずです。そんな状態の彼の不意を突くのは容易ではありません。ただでさえ警戒心が強い人です」
「隙をつくのに慣れている手練と言えば……」
「こっち見んなヨ」
犯人が狙った人をさらっていけば、どうして湖藤さんが襲われたのか、どうして私たちが眠らされたのかがこんなにもはっきり分かる。単純に狙いやすい人を狙ったんだ。単純で、シンプルで、分かりやすい。その人に対するクソデカ感情とか、秘密の会話とか、その人が知り得た秘密とか、個人的な正義感とか、そんなんじゃない。かと言って偶然でもない。どこまでも合理的で冷酷な理由だ。
「いえ、別に手練である必要はありません。要は、湖藤クンの隙をつければいいんです。むしろ強行突破するよりも搦手を使った方が彼は攻略しやすいかも知れません」
「からめて?なにそれ?」
「信頼を利用するんですよ。彼が向けていた個人的な感情を」
「……つまりそれって」
奉ちゃんが、湖藤さんの信頼に付け込んだってことだよね。そんなことは、口にすることすら嫌で、私は、なんというか、すっかり気持ちが冷めてしまった。ああ、なんだ、この人もその程度なんだ。もしかしたら奉ちゃんの一番の理解者になってくれる人だったかも知れないのに……奉ちゃんがそんなことで人を裏切るかも知れないなんて、思ってるんだ。そう思うと、いくら尾田さんでも、なんだかすごくしょうもない人間に見えてしまって……何も分かってないじゃんって思ってしまって……。
言うなれば、これは失望だ。
「貴様というやつは……!この状態の甲斐を前にしてよくそんなことを言えたな!お前には人の心というものがないのか!」
「ありますよ。あるからこそ、信頼という感情の性質を理解しているんです。その危うさも」
「がっかりだよ、尾田さん。奉ちゃんがそんなことするわけないのに」
「わけないってのは言い過ぎじゃねェか?いや、おいらだって甲斐に限ってそんな悪どいするなんて思えねェけどよ……でも、やっぱ可能性が0じゃねェってのもそうだし……」
「他の全員が犯人でない確証があるのなら考えるべきかも知れませんが……甲斐さんは連続襲撃事件の被害者でもあります。気絶も間違いなくしていました。そこからは裁判場まで常に誰かと一緒にいたはずです。彼女に殺人は不可能かと」
「
「あの、僕はただ一つの可能性を挙げたにすぎません。甲斐サンを糾弾するわけではなく、彼女なら湖藤クンの不意をつけただろうと言ったまでです。なんでいつの間にか彼女が犯人っていう前提に立ってるんですか?」
「ほぼ言ってたようなもんでしょ!」
あくまで尾田さんは冷静だ。先入観では話さない。それどころか、自分自身にすら常に疑いの目を向けている。だから追及されてものらりくらりとかわせてしまって、新しい事実が出てもすぐに対応できて、それでいて何を考えているか私たちに掴ませない。厄介だ。とても厄介だ。
「僕が責められているからというわけではありませんが、庵野クンが言ったように甲斐サン犯人説につながる案は、今は俎上に出す段階にないようです。一旦、撤回しましょう」
「素直じゃないネ!思ったより反論されてビビったって言ったら許してやるヨ!」
「失礼ながら、長島さんが甲斐さんに感情移入しているとは思えないのですが」
「そりゃそうアル!便乗してやいやい言いたいだけヨ!」
「あの人の方がよっぽどタチ悪いですよ」
撤回したとは言うけれど、一度は考えたんだから同じことだ。尾田さんはもう頼りにならない。真相にはたどり着けるかも知れないけど、奉ちゃんを支える柱にはなり得ない。だとしたら他の候補は……湖藤さんがいない今、奉ちゃんを助けられる人はいるのか。全っ然思いつかない。やばい。
「ともかく、分かっていないことを地道に考えていくしかありませんね。ええっと……毒の出処でどうです。忘れていましたが、そもそも甲斐サンにしゃべらせたのはそれを知るためでした」
「忘れていましたね。当の甲斐さんは……これ以上のお話ができる状態ではありませんね。手前どもだけで話を進めるしかないようです」
奉ちゃんの顔はまだ青い。苦しそうに口から空気が漏れている。汗が滲んだ額に髪がはりついている。いつも議論を引っ張ってきた奉ちゃんはもうこんなに消耗している。期待はずれの尾田さんはなんだかやりにくそうで、いつもと様子が違う。鋭い指摘をしてくれていた湖藤さんはもういない。頼れる人は、誰もいない。
裁判場にのし掛かる重たい沈黙は、今までのどの裁判とも違う。親を見失った子供みたいな、先の見えない閉塞感と漠然とした不安感に包まれている。もしかしたら、と考えると背中を汗が伝う。このままじゃ、真相に辿り着けないかも知れない。
私が湖藤さんを殺したという真相に。
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