やっほーオマエラ!お待ちかねのモノクマ振り返り劇場のはじまりはじまりだよ!え?いいからさっさと本編に移れって?そんなにせかせかしてどうしたのよいったい。タイパの重要性が叫ばれる今の時代、たまにはゆっくり時間をかけてみるのもいいんじゃないかな。そういうのが大人の余裕ってやつだよ。映画やアニメを倍速で見たところで内容なんか理解できるわけないんだからさ。あったりまえだろ!?もともとの速さで観ることを想定してるものを2倍も3倍も速回しして楽しめる脳みそ持ってンのか!?小説だったら斜め読みしてるようなもんだぞ!?それで読んだって言えんのか!?なぁ!!ウィキペディア読んで知った気になってるやつと大差ないんだぞ!!
ごほん、ちょっと興奮しちゃったね。ごめんね。ま、この文章を読んでるオマエラはそんなバカなことはしてないお利口さんだと思ってるよ。うん?そんなに悪様に罵って大丈夫かって?大丈夫大丈夫。そういう奴らはこんなところ読み飛ばしてるだろうからさ。自分がバカにされてることにすら気付けない幸せなやつらなんだよ。うっらやっましーぃ!!
さ!それでは裁判の内容のおさらいに行ってみましょう!
今回の被害者は“超高校級の密偵?”の尾田劉平クン!そう言えばこいつは“才能”を偽ってるとかなんとかって話があったよね!うん、実はそうなんだ。密偵っていうのは本当の“才能”を隠すためのブラフ!尾田クンの本当の“才能”は……って勿体ぶってみたけど、別にここで明かしてもいいんだよ。本編で明らかにするつもりなんかこれっぽっちもないからね。そんなタイミングないからさ。本人も死んじゃったし。
さてさて、ボクとの最終決戦を間近に控え、緊張感がマックスに高まっていたコロシアイ生活、そんな中でまさかまさかのコロシアイ発生!さすがのボクも焦ったよ!?なんでこんなときにコロシアイなんかしてんの!?最終決戦だっつってんだろ!勝手にエクストラステージ増やしてんじゃないよ全く!でもルールはルール。死体が発見されたなら学級裁判をしなきゃいけない。ボクもみんなも困惑する中、捜査が始まるのでした。こんなにオロオロしたのは初めてだよ、もう。
裁判を牽引してきた湖藤クンに引き続き尾田クンまでいなくなって両翼をもがれたみんな、それでもなんとか前に進もうと、いつもの流れを踏まえて少しずつ議論を広げていく!意外と尾田クンがいなくてもみんな頑張っちゃって、この調子なら景気良くババーンと真相にたどり着けるんじゃないかな、なんて思ったら大間違い!というか予想通りというか……。何が難しいって、尾田クンの死に様に謎が多すぎる!なんで殺された方が謎をたくさん残してんの!?バカなの死ぬの!?死んでたわ。
謎そのいちー!死んでた場所がなーんもないとこ!真夜中にそんなとこで何してんのよ!?
謎そのにー!手首に謎の切り傷と擦り傷!傷だらけ過ぎる!傷の種類がいくつかあるのも変!へーん!
謎そのさーん!真夜中に校則違反しまくりー!なんでわざわざ校則違反すんの!?しかもなんでそれで処刑されないの!?
そんなめたくそな謎を順番に解き明かしていった一同は、とうとう今回の事件の犯人が、ボクがあいつらの中に潜り込ませた内通者であるということを突き止めたのです!コロシアイ生活における切り札とも言える内通者にコロシアイをさせるなんて、モノクマはいったいどれだけ追い込まれていたんだ……とか好き勝手なことばっか言いやがって!追い詰められてなんかいねーやい!内通者を腐らせとくのが勿体無いから使えるもんを使っただけだもんね!
しかしその内通者というのは、これまで尾田クンしかその存在に言及した人がいない、人狼やらせたらめちゃ強な人材だったのです!果たしてこの土壇場で、みんなは内通者を突き止めてくれるのでしょうか!?もし突き止めてくれなかったらボク困っちゃう!せっかくのボクとの最終決戦がボクの切り札のせいでおじゃんになるなんて、そんなのってないよォーーー!!
もしそうなったら……ボク、なにするか分かんないカモ。
疑いの視線が交錯する。誰かに疑われた人が、また別の誰かを疑う。かち合った視線はすぐにお互いの顔を弾いて明後日の方を向かせる。みんながみんなを見ていることを自覚しているのに、それを悟られないように振る舞う。なんて不気味で、無意味で、不思議な空間なんだろう。
学級裁判では議論を止めることが何よりも危険だ。時間だけが消費されていって、気まぐれなモノクマを飽きさせて、結論も出ないまま裁判を強制終了させてしまいかねない。だから私はとにかく議論を始めるため口を開いた。どうなるかなんて知ったことか。
「内通者はこの中にいる……だけど、誰彼構わず疑ってばっかりじゃ、暴けるものも暴けないよ」
「だったらどうするカ?この人数なら虱潰しに疑ってったってそう時間はかからないアル。
「思いっきり疑ってんじゃねェか!そういう長島こそ、いつもそうやって議論を引っ掻き回してんだろ!だいたいおめェ、ムーブが怪しすぎんだよ!おめェこそ内通者じゃねェのか!?」
「へへーん、なんの役にも立ってない
「んだとこのやらァ!!」
「おやめなさい。そうやって疑心暗鬼になって関係性を悪化させることこそ、モノクマが内通者を潜り込ませ、なおかつその存在を否定しない理由だと分からないのですか」
「分かった上で、疑うことは辞められないんだ。ただでさえこんな状況なんだ。もしここに親兄弟がいたとしても、心の底から信じるのは難しいだろう。人間の心なんて、そう強くはできていないんだ」
いけない、みんなの性格が最悪に噛み合ってより疑心暗鬼が強まっている。長島さんの俯瞰的で慎重な性格も、王村さんの明け透けでざっくばらんな性格も、庵野君の冷静で優しい性格も、毛利さんの周りに流されやすい達観した性格も、全部がマイナスに働いてる。まともに議論ができるような状態じゃない。
「やたらめったら疑ったって、内通者が有利になるだけだよ。やるなら冷静に、正確に、お互いに歩み寄って、だよ」
「疑いながら歩み寄るのですか?矛盾しているような気がしますが」
「ううん、大事なことだよ」
だって、内通者は初めから私たちの中にいたんだから。あの体育館に20人もの人が集まったときから、内通者は私たちとは違うところから、このコロシアイ生活を俯瞰していた。それなら、必ずどこかでボロを出しているはずだ。何日も完璧に嘘を吐き続けられる人なんていない。尾田君だってミスをした。湖藤君だってできないことはあった。内通者に限ってそれがないなんて、そっちの方があり得ない。
だから歩み寄らなくちゃいけないんだ。相手にボロを出させるために、今まで出したボロを蒸し返すために、お互いが持たない記憶を補完し合って、内通者の行動を一から十までつまびらかにするために。
「甲斐が言うなら、私は賛成だ。できるできないの話でもないしな」
「ふーん、やるだけやるなら付き合うアル」
「分かってくれて助かるよ」
「んで、どうやって内通者を探すんだ?まともな手掛かりもねェんだろ?」
「そんなことないよ。尾田君は内通者の正体に目星をつけてたし、私たちが気付いてないときから危険視してた。必ずどこかでそれに気付いた瞬間があるはずだよ」
「……あるとしたら、あのときか」
黒幕の内通者がいるなら、モノクマは今まで何度も手札としてそれを使っていたはずだ。あのときの私たちは気付かなかったけど、今なら分かる。あの事件の不自然な点は、モノクマが内通者を使って介入したから出来上がったんだ。
「第四の事件、理刈の死体の腹に槍が刺さっていた。あの学級裁判のときは、あまりに事件が複雑で考える余裕がなかったが……理刈はあの部屋で自殺を図ったことで校則に触れ、モノクマに処刑されたと言っていた。だとして、なぜ床に仰向けになった状態だったのかが説明されていなかった」
「なんかおかしいか?あの槍がどうやってブッ刺さったか分かんねェけど、カルロスの野郎がモノクマに脅されたときのあれは相当な勢いだったぜ?目で追えねェくらいだ。理刈の軽い体なんか吹っ飛んじまうんじゃねェか?」
「理刈さんが寝てた床には、槍の跡が付いてたんだ。それに血飛沫も床を中心に散らばっていた。これは、理刈さんが寝転がっているところに槍が刺さったっていう動かぬ証拠だよ」
「おかしいか?理刈は服薬自殺しようとしたんだよな?だったら
「あの部屋の椅子は、机に収まっていた。しかも理刈からは離れた場所だ。初めから床に寝て服毒でもしないとあんな状況にはならない。自殺する人間がそうしないというわけではないが、理刈は拇印まで捺した遺書を準備していた。そんな人間が、床に寝そべって服薬自殺するだろうか?」
少し前の記憶だけど、まだ私の目にはあのときの情景がはっきり焼き付いている。今更だけど……もうあの現場はきれいに掃除されてしまっているけれど、どうして私たちはあのとき、あの部屋の異常さにもっと気を付けられなかったんだろう。そうしたら、もっと早く内通者の存在にも気付いて……何かが変わっていたかも知れないのに。
「つまり……どういうことだ?結局理刈は自殺したんか?してねェのか?」
「我々の推理、そしてモノクマの説明では、理刈は陽面を殺害した後、服薬自殺を図った。しかしそれは校則に違反するため、理刈さんの死が確定した——つまり手遅れになった瞬間、校則違反者として処刑した。そういうことです」
「だけどそれだと、
「だとすると、モノクマは理刈の死の状況について隠蔽工作を図ったということになる。なぜモノクマがそんなことをしたのか。それは、内通者を介してモノクマが理刈の死に介入したからだ。先ほどの、理刈の自殺が確定した段階で処刑するなど、いくらモノクマでも困難だ。だからモノクマは理刈の自殺を見過ごすしかなかった。それでも自分の支配の説得力を失わないためには、リスクを負ってでも理刈を処刑したという事実を作り上げなくてはならなかった」
「ま、待て待てまてーーー!!あんまり裁判に首突っ込んじゃいけないって思って静観してたけど、オ、オマエラなに言ってんだよ!ボクが!?理刈サンの事件を偽装工作した!?そんなわけないじゃん!そんな証拠ないじゃん!おまえらが穿った見方するからそんな感じに見えるだけで、あんなの何の変哲もない自殺現場だって!」
「自殺は変哲だろ!!いま真面目な話してんだからだァってォ!!」
「ひええっ、王村クンの怒声怖い……」
「尾田の校則違反を止めるために内通者を使って殺させたのなら、理刈の自殺現場を荒らすこともさせられただろう。それに、今回の事件と動機も共通する。一貫性があるからこそ現実味があるな」
「尾田君もきっと、あの時点で内通者の存在に気付いた……いや、たぶんもっと前から存在には気付いてた。あの時点で確信したんだ。だからすぐに私たちにそれを教えてくれた。モノクマも内通者も、きっとかなり焦っただろうね。まさか自分たちのしたことがあっさり見抜かれて、しかも私たちにバラされちゃったら」
議論が進んでいくごとにみんなの顔色が少しずつ変わっていく。内通者の正体に近付いていく感覚に高揚しているのか、自分が追い詰められている焦りを必死に抑え込んでいるのか、加速していく議論についていけず困惑しているのか、お腹の中で何を考えているかは分からない。あからさまに議論を歪めようとしている人も、今は見つからない。
「しかしそれだけで内通者の正体に迫ることなどできるのですか?あのとき、確かに尾田君は内通者の存在を確信したのかも知れませんが、かといって直接内通者につながる証拠があったわけではないでしょう」
「確かに……そうだけど……」
「っていうか、もしそんなのがあったとしてももうろくに覚えてないものじゃ大した根拠にならないアル。せいぜい内通者が確かにいることの証明にしかならないヨ」
「だったら他の証拠を探すしかないよ。モノクマだって、いきなり内通者に偽装工作なんてさせないと思うんだ。もっと前から、いろんなことを少しずつさせてたはず。だからこそそんな大それたことをさせたんだ」
「内通者にさせるようなことってなんだ?だいたいのことはモノクマができンだろ。なんかあったらおいらたちのモノカラーも操作できんだしよ」
「それでも、尾田が回収した狭山のモノカラーを回収することは終ぞできなかった。この学園の建物やモノカラーを介したことはモノクマにも可能だが、物理的に直接介入することはできない。だからこそ、初めから内通者を必要としていたんだろう」
「モノクマにできないことをするための、内通者……」
毛利さんの言葉が、私の中で引っかかる。モノクマはこの学園を支配している存在だ。できないことなんてないように思う。でも尾田君みたいに、ルールの穴を突いてモノクマが手を出せないようなイレギュラーを起こしたとき、その対処は内通者がしなければいけない。
理刈さんの自殺現場を荒らしたのだってそうだ。モノクマ自身が出ていくよりも、内通者にやらせた方がよっぽどリスクが低い。私たちは今さら気付いたけど、あまりに不自然な状況だったから、よっぽどモノクマはあの現場の偽装工作をしたかったんだろう。
つまり内通者は、モノクマが自分から動けない場合、それか自分が動くにはリスクが高すぎる場合に、内通者を使ってきたっていうことだ。それならつまり……これまでもそういう状況があったときは、内通者を使っていた可能性が高い。もしかしたらそのときに、内通者は何か手掛かりを残しているかも知れない……。必死に過去の出来事を思い出す。この学園に連れて来られてから、今日まで。何か、そんなタイミングはなかったか。モノクマが動けなくなっていた状況は……!
「…………あっ」
「……?」
あった……かも、知れない。たった一度だけ、モノクマが動けなくなった……モノクマの私たちに対する支配が弱まった瞬間が。あのとき、モノクマは何もできなかったはずだ。だから、だから……!
モノクマはあんな“ミス”をした。
「どうしたカ、
「ちょっと待って!!思い出してるから!!」
「めちゃくちゃ怒られたアル……えんえん……」
「やる気のない泣き真似はやめろ」
「甲斐さん?いったい何を思い出そうとしているのですか?おひとりで考えるより、みんなで考えた方がいいのでは」
もう何も耳に入らない。耳に入れない。頭も閉じる。ただひたすら、過去にあったことを思い出すことだけに集中する。あのとき、あの場所では何があった?何が起きて、誰が何を言った?あの裏ではどんな意図が働いていた?その中でモノクマはミスをした。その理由は?どうしてモノクマはあんなミスをした?それは、きっと……内通者がミスをしたからだ。ということは……!
「じゃあ……もしかして……」
「なにか、分かったんだな?甲斐」
「……」
自信があるかと聞かれれば、ないとしか答えられない。だって、この推理の根拠は私の記憶だ。これから口にした内容のどれかが、みんなの記憶と違っていたら、たちまちこれは意味がなくなってしまう。そんなリスクを恐れていては何も進まないことは分かってるけど、もしそれがきっかけで議論が変な方向に進んでしまったら……決定的な結論を前にして、今さら私はそれに怯えてしまっていた。
「大丈夫ですよ。どんなにトンチンカンな推理でも、手前どもは真剣に考えます。何か思い出したことがあるなら遠慮なさらずに」
「そうだぜ甲斐!どうせこのままじゃなんも分からねェんだからよ!」
「ワタシが不利にならないことならなんでも来いアル!」
「明け透けに言い過ぎだ」
みんなが私に期待してる。それは同時に重圧でもある。もしこれで……みんなの命を無駄にしてしまうことになったら——なっても、恨まないでよね。
「じゃあ言うよ。内通者が……分かったかも知れない」
「っ!?」
「ま、
「……聞かせてもらいましょう」
庵野君と毛利さんは覚悟を決めたような顔で私のことを真っ直ぐ見ていた。びっくりした顔をしてるのは、長島さんと王村さんの二人だけだ。王村さんは驚きすぎて声も出ないらしい。さっきなんでも来いって言ってなかったっけ?
ともかく、このリアクションの差は、本当に私の推理が正しいことを証明しているのか。それとも……。
「思い出したよ。あのとき、内通者は……モノクマはあるミスをした」
「あのとき、とは?いつのことだ?」
「……月浦君が地下の水道管を爆破して、学園中を停電させたときだよ」
「停電?そんな昔のこともう覚えてねェよ……あったけど」
「あのときのことを順番に思い出していけば、きっと記憶違いをすることはないよ。この中の毛利さん以外の人たちは、あの場所に集まってたんだ」
「そう、でしたね」
「ワタシは覚えてるアル!本当にびっくりしたヨ!
「私は女だが」
「おめェが肝座りすぎなんじゃねェのか?」
「順番に、あのときのことを振り返っていこう」
何日も前で、確かあのときは朝ご飯に来ていなかった菊島君を探しにみんなでバラバラに学園中を探してたはずだ。しかも停電中のことだ。同じ場所にいた人たち同士でも、何が起きてたか分からない人もいるだろう。いてもらわないと困る。
「あの日、私たちは菊島君と王村さんを探しに、3〜4人のグループに別れて学園の中を探してた。私は風海ちゃん、湖藤君、カルロス君と一緒だった」
「おいらは庵野と同じグループだったぜ。あのときは理刈も一緒にいたなァ」
「ワタシは
「それから、谷倉さんと月浦君と陽面さんがグループになって、地下に行きました」
「……それも全部、月浦君の目論見通りだなんて気付かずにね」
「甲斐、その事件はもう解決している。悔いても仕方ないことを悔いるな」
「う、うん……ごめん。えっと、だから……そのあと、起きたんだよね。停電が」
月浦君の目的は、菊島君を探して私たちの目を分散させ、本当の狙いだった谷倉さんを水没する地下に誘導することだった。それに加え、停電に対処するため私たちが発電機を回すことを見越して、水に浸かった菊島君と谷倉さんを間接的に殺害することだった。自分はクロにならず狙った人を殺害する、緻密で残忍な計画……。私たちは、まんまとその通りに動いてしまった。
「停電が起きたとき、私たちはすぐさま非常用具庫に向かって、カルロス君が発電機を回した。そのときにみんなが集まってきたんだ」
「みんな、あそこに発電機があることを思い出したんだな」
「そしてカルロス君のおかげで電気が復旧した……そのすぐ後、モノクマが現れたんだ」
「そりゃあボクだってオマエラが心配だからね!停電だって、コロシアイの一部だとしてもイレギュラーなことなんだから、すぐ状況把握に努めるのは保護責任者の義務だよ!」
「コロシアイさせといてどこが保護だよ!」
「……!」
いきなりモノクマが口を挟んできた。茶々を入れて議論を混乱させる気か。だけど、その茶々すらも、今の私にとってはモノクマ自身が墓穴を掘ったようにしか聞こえない。だって、ただ状況把握をするだけなら、わざわざ私たちの前に姿を現す必要なんてない。
「モノクマ!」
「はにゃ?」
「……いきなりでびっくりしたけど、今の発言、撤回なんかさせないからね!」
「え?え?な、なになに?ボク、またなんか言っちゃいました?」
「ど、どうしたんでェ甲斐?急にモノクマに突っかかって……今度はどうした?」
「モノクマは今言ったよね。状況把握のために私たちの前に現れたって」
「それはそうでしょう。暗闇に紛れて何があるか分からないのでは、モノクマとしてもルールを正しく適用できないですから」
「ただ状況把握をするのに、モノクマが出てくる必要なんてないよ。今までだってモノクマは、コロシアイのときに何が起きたかをカメラ越しに把握してたんだよ?誰がいつ、どうやって、誰を殺したかを。それなのに、誰がどこに集まってるかを把握するためだけに出てくる必要なんてないはずじゃない?」
「確かにそうだな。立ち入り禁止区域に立ち入った人物を検知するのにモノカラーの反応を使っていたのだから、明かりがあるかないかは関係ないだろう」
「となると……モノクマはなんでわざわざ現場まで出てきたカ?」
モノクマは必要以上に私たちに干渉してくることはない。嫌がらせやダル絡みに見えることでも、それはモノクマなりに意味があることだ。だからあのとき、私たちの前に現れたのも、きっとモノクマにとって意味があることだったんだ。それは私たちのことが心配だったわけでも、ただ単にそういう気分だったわけでもない。
モノクマは、あのときあの場所に出てくる必要があったんだ。
「停電……」
「え?」
「あのとき、学園は停電していた」
「そりゃ分かってんだよ。さっきも聞いたぜ」
「ううん、違う。停電していたんだ。この学園の全てが……その影響はモノクマだって受けた」
「それはもちろん……」
「だとしたら、あの停電の間、モノクマはいつも通り私たちを監視することができなくなっていたはずだ。だって、普段は監視カメラとモノカラーの反応を頼りに私たちを見張ってたんだ。あの停電のせいで、そのどちらも使えなくなってしまった」
「ほ、本当アル!確かにそうアル!」
「つまり……停電から復旧するまで、モノクマはずっと手前たちがどこで何をしているか分かっていなかったと?」
「そう。それにカルロス君が非常用電源で一時的に復旧させたとしても、すぐに監視カメラ系統が使えるようになるわけじゃない。完全に元通りになるまでそれなりに時間がかかったはずだ。モノクマはもちろん月浦君の計画を知っていたわけだけど……もしその間に、別の誰かが殺人を企てていたら?」
「そうか……確かに、その可能性も考えるべきだな。特にモノクマの立場なら、見逃しは致命的だ」
「最初の裁判で、モノクマは二つの殺人が起きたときは先に起きた方を優先するって言ってた。月浦君の犯行計画は、誰かが停電を復旧させたときに初めて成立する。だから停電中に殺人が起きてしまっていたら、モノクマはそっちを優先させなくちゃいけない。それもモノクマにとっては不都合だ。だからモノクマは、停電中には誰も殺されなかったっていうことをいち早く確認したかったんだ」
「な、なるほどな……」
自分でも驚くくらい口が回る。緊張しているせいか、それとも興奮しているのか。顎が疲れてきた。でも、モノクマがあの場に出てきた理由はみんなに納得してもらえた。そこまで分かってもらえれば、あともう一歩だ。
「そういうわけでモノクマは私たちの前に現れた。そして、そのときに何を言ったか覚えてる?」
「なんて言ったか?そんなのまで覚えてるやつなんていねェだろ……」
「ワタシ覚えてるアル!11人いるって言ってたヨ!」
——
「んじゃかばーーーん!モノクマ登場だよ!!」
「きゃあっ!?」
「な、なんだ!?」
「いやいやまったくびっくりしたよね。まさか停電しちゃうなんてさ。でもよかったよ。ここにいる11人は無事みたいでさ」
「11人?8人しかいねェじゃねェか」
「え……あ、あれ?ホントだ。ボクってばうっかり!勘違いしちゃった!」
——
「よく覚えてんなァ」
「人のアラを探すのはワタシのライフワークだからネ」
「そんなライフワークは今すぐやめてしまえ」
「でも、今はおかげで助かったよ。そのモノクマの言い間違いこそ、内通者の正体につながる重要な手掛かりだ」
「な、なに?そうなのか?」
もう一度、頭の中で考える。私の考えてる理屈で、本当にあの人を内通者だと言えるのか。矛盾はないか。勘違いはないか。記憶違いや、無理はないか。いや、無理くらいは通さないとダメだ。あの人が内通者でないと、モノクマはそんなことを言うわけがない。
「あのとき、あの場所に集まってたのは、私のグループ、私と湖藤君と風海ちゃんとカルロス君」
「それから、手前と王村さんと理刈さん……それに長島さんですね」
「全部で8人だな。しかし、モノクマは11人だと言ったんだな?」
「間違いないアル!でも、それがなんで内通者を突き止める手掛かりになるカ?ちいとも分からんヨ」
「うん。あの停電の最中、モノクマはきっと、すぐに内通者に連絡を取ったはずだよ。監視カメラもモノカラーも作動しなくなっちゃったあの状況は、まさに“モノクマが動けない状況”そのものだ。だから内通者を頼るしかなかった」
「ふむふむ」
「事前に月浦君の計画を知っていたモノクマは、地下室に4人いることは分かっていた。だから、あのとき他の11人がどこにいるかを把握するため、内通者がどこにいて、近くに何人いるかを報告させたんだと思う。そうすれば、その場にいない人をすぐに探しに行けるからね」
「そ、そうなのか?もうおいらはついていけなくなってきたぞ……」
「そしてモノクマは、内通者から報告された。その人の近くには11人いるって」
「ははあ。だから出てきていきなり、11人いるって言ったカ。本当は自分で確認してないのに、内通者の存在を隠すために余裕ぶってネ」
そう。あのときのモノクマの勘違いは、内通者の勘違いだ。内通者は周りの人の姿が見えないあの場所で、私たちの声を頼りに人数を数えたはずだ。だから内通者は、あのときあの場所に集まった人数を11人いると思い込んだ。
「だから、あのとき集まっていた人数を11人なんて勘違いできるのは……ここにいる中では、たった一人しかいないんだよ!」
「な、なんだとォ!?どういうことだ!?」
「あの日、食堂からみんなが出て行った順番を思い出してみて」
「思い出すことが多いなァ。っつうか思い出すもなにも、おいらは遅刻したから順番なんか知らねェよ」
「そう。そうなんだよ王村さん」
「へェ?」
まさに、私が言いたいことのひとつを王村さんが言ってくれた。みんなも、少しずつ私が何を言いたいか分かってきたみたいだ。必死にあの日のことを思い出そうとして頑張っている。
「さっき長島さんが言ってくれたように、菊島君と王村さんが朝ご飯の場に来ないことを心配した私たちは、それぞれ班になって探しに行くことにしたんだ。まずひとりで食堂出て行った尾田君を追いかけて、長島さんと毛利さんと芭串君が食堂を出た」
「そうだな」
「その後、私と風海ちゃんと湖藤君とカルロス君が班になって出て行った。そして食堂を出たところで、二日酔いで遅刻してきた王村さんと入れ違ったんだ」
「ああ、そうだったそうだった。んで、おいらが食堂入ったらいきなり理刈に叱られてよォ……ったく、朝っぱらからうるせェのなんの。んで、しばらく説教されてから訳もわからねェうちに庵野も連れて食堂出て……」
「残った3人が出て行ったんですね」
うん、やっぱり間違いない。振り返ってよかった。私の記憶は間違ってなかった。それなら、私の考えが正しければ、内通者はもう明らかだ。
「それで、いったい何を持って内通者が明らかになるというのですか?」
「……非常用具庫に私たちが集まったとき、内通者はどうやって私たちの人数を数えたか。それは2つある。ひとつは声だ」
「まあ、なにも見えなかったからな。私と尾田と芭串も声を頼りに離れないようにしていた」
「そしてもう一つ……朝のグループ分けだ。誰と誰が一緒か、までは覚えてなくても、それぞれ何人組で行動しているかくらいは覚えてたはずだよ。この2つを組み合わせれば、暗闇の中でも近くにいる人数が分かるはずだ」
「……ッ!!」
そろそろ内通者も気付いたかな。自分が犯した致命的なミスに、あるいは私がそれを使って追い詰めていることに。
「内通者はあの場にいた人数を11人だと思い込んだ。これは、地下に向かった人たちを除いた全員の人数だ。でも実際はずれがあった。なぜか?それは、内通者が想定してない動きをした人がいたからだ」
「内通者が想定してない動き?そ、そんなトンチキなことするのはどこのどいつカ!?」
「それは……」
・停電の最中、内通者が想定しない動きをした人物は?
湖藤厘
宿楽風海
甲斐奉
谷倉美加登
菊島太石
毛利万梨香
芭串ロイ
庵野宣道
カルロス・マルティン・フェルナンド
長島萌
月浦ちぐ
陽面はぐ
理刈法子
王村伊蔵
尾田劉平
「長島さん、あなただよ」
「へ……どへええっ!!?ワ、ワタシ!!?」
「な、なんだとォ!?テメェ内通者だったのか長島ァ!!」
「ち、違うヨ!!ワタシ内通者なんかじゃないアル!おのれ
「そっちこそ違うよ!長島さんが内通者なんじゃなくて、長島さんが内通者の想定しない動きをした人だって言ったの!」
「話を聞いてないのかお前たち」
「びっくりしたあ……心臓に悪いから変な指摘しないでほしいアル」
「ご、ごめん」
そんなに突然でもなかったと思うけど……私が悪いのかな?
「ともかく、あのとき長島さんがしたことは、モノクマにとっても内通者にとっても信じ難いことだったんだよ」
「なにをしたんですか長島さん……?」
「ちょっと!!変なことしたみたいに言ってるけど別になんもしてないアル!!ただ、非常用電源を使うために他の3人を置いてけぼりにしただけヨ!!」
「変なことだろう……!私たちがどれだけ戸惑ったと思っているんだ」
そりゃいきなり真っ暗になった上にひとりいなくなったら戸惑う。まあ、長島さんならそういうことをしてもおかしくないとは思うけど……でもだからこそ、モノクマや内通者にとってその行動は予測不能だったからこそ、それがいま、私たちを助けてくれるんだ。
「内通者はあの場に、2つのグループが居合わせていることを知った。そしてそこに、長島さんがやってきた。その声を聞いて、内通者はきっと、長島さんのグループ全員がその場に集まったんだと勘違いしたんだ。まさか真っ暗な中、グループを離れて一人でやってくる人がいるなんて思わなかった。だから、内通者はそこに11人いると勘違いしたんだ」
「なるほど……しかし、それで何が分かるのですか?地下に向かった人たち以外の全員があの場に集まったと考えれば、11人という数は自然と出てくると思いますが」
「ううん。そうじゃないんだ。だって、私たちはバラバラに食堂を出たんだから」
「……どういうことだ?」
「まず、尾田君と彼を追いかけた4人グループができた。これはそのとき食堂にいた全員が知ってることだ。次に、私が4人グループになって出て、王村さんと入れ違った。そしてその後に、理刈さんと王村さんと庵野君がグループになって食堂を出て、残った谷倉さんと月浦君と陽面さんが最後に食堂を出た」
「そう何回も確認しなくたって分かったアル。で、それがなにカ?」
「その前提で、あの場で人数を把握できた人を考えるんだよ」
この場にいる人数は、私を含めてたった5人。ひとりひとりの場合について考えれば、もう内通者は逃げられない。さあ、勝負だ。
「まず、毛利さんはそもそもあの現場にはいなかった」
「長島に置いてけぼりにされたからな」
「だからもし毛利さんが内通者だったとしても、非常用具庫に集まった人数をモノクマに報告できなかったはずだ」
「……そっか。少なくとも長島は向かってっけど、他のやつらがどうしてるかなんか知りようがねェもんな」
「その長島さんも、人数を勘違いすることはない。自分が3人を置いてけぼりにしたことを分かってるんだから、勘違いするとしても11人とは言わないはずだ」
「そうアルそうアル!ワタシは内通者じゃないヨ!」
「じゃ、じゃあ甲斐か庵野のどっちかかよ……!?」
「そういう王村さんはどうなのですか」
「王村さんは自分のグループと私たちのグループの人数を知っていたけど、長島さんが誰と一緒に行ったかは分からないはずだよ。だって王村さんは、その4人が食堂を出て、私たちが出発する頃に遅刻してきたんだ。だから長島さんの声を聞いただけじゃ、11人いるとまでは判断できないよ」
「……!!」
「そうか……!となると、甲斐もそういう理屈か?甲斐が出発した後、食堂に残った6人がどういう班分けになったかを甲斐は知らない。2−4で別れた可能性も、3−3で別れた可能性もあるはずだ」
「うん……。だから、あのときあの場にいたのが11人だと
視線が集まる。鋭く、強く、その頑健な体を貫くように。視線の先では、相変わらずの落ち着いた顔のままで、ただ議論の行末を見守っている彼の姿がある。ただそこに立っているだけなのに、まとうオーラの力強さに気圧されそうになる。それでも、もうこの状況で言い逃れなんかさせない。あれはモノクマとあなたのミスなんだ。
「今ここには、あなたしかいないんだよ。庵野君」
「……」
確かめるように、私はその名前をつぶやく。これで間違いないはずだ。私を含めた他の可能性を先に潰しておくこと。言い逃れのできない状況にしてからはっきりと名前を口に出すこと。もうこの裁判の流れを、庵野君ひとりで覆すことはできない。たとえ、この答えが間違いであったとしても。
「なるほど。確かにあのとき、この中でモノクマと同じ勘違いをできる人は、手前しかいなかったようです」
「ん?ちょっと待て、甲斐。そうなると、理刈の自殺現場の問題はどうなる?」
先にこの結論に異を唱えてきたのは、追及されている庵野君ではなく毛利さんだった。
「ホールの控室で理刈の死体を発見したのは芭串と庵野と宿楽だ。その手前にある陽面と月浦の死体の発見アナウンスが流れたタイミングの誤差で、芭串が月浦を殺したのだと突き止めることができたが……もし庵野が先に理刈の自殺現場に手を加えていたら、あの推理の前提が成り立たないのではないか?」
「
「それだと、手を加える前の現場を芭串に発見されていることになる。それに月浦の死体発見アナウンスは、庵野が発見したことで放送されたはずだ」
「もちろん、庵野君は芭串君より先に現場に入っていたはずだ。その時点で発見者にカウントされるべきだけど、そうすると内通者が現場に工作をしたことが誰にも明らかになってしまう。だからモノクマは、意図的に庵野君を発見者のカウントから外した。内通者として行動している間、庵野君は私たちとは違う扱いになっていたんだ」
「なんだそりゃ!ルール違反にルール違反重ねてやりたい放題じゃねェかよ!おいモノクマ!横暴が過ぎんぞテメェ!」
「人を拉致監禁している時点で横暴もへったくれもないアル」
「どう?庵野君。私の意見はもう変わらない。私が話したことは全部、言い逃れのしようのない事実だから。それでも……何か反論とかあるなら——」
「いえ、結構」
私の言葉を、あくまで丁寧に、遠慮するように遮って、庵野君は徐に天を仰いだ。地下深くに潜った裁判場では、上を見ても狭く窮屈な天井しか目に入らない。彼の薄く閉じた目には、何が映っているのだろう。
「なんと言うのでしょうね。そう、これは……感慨深い、という気持ちでしょうか」
「?」
「みなさんがこうして、立派に学級裁判を乗り越え、モノクマとの直接対決を前にし、イレギュラーな事態にも対処したこの姿……この光景を見ていると手前は、実に勝手ながら、とても温かい気持ちになるのです」
「は、はあ?おい、どうした庵野?いつにもましてキモいぞ」
「王村君は手前をそんな風に思っていたのですね。まあいいでしょう」
絶対いまの王村さんの発言は余計だったよね。こんな状況でもいつもの調子を崩さない王村さんに、一周回って感心にも似た呆れを向けて、私はいまいちど庵野君に向き合った。男子の中でも体が大きくて、服越しに分かるくらい鍛えられた肉体。学級裁判の場でなければ、敵意を持って向かい合うことなんてできなかったと思う。
「甲斐さん、ご明察です。大変遅ればせながら、改めて手前の自己紹介をさせていただきます」
恭しく礼をしながら、庵野君は名乗った。いつも浮かべている優しげな微笑みが、今は怪しく映る。
「手前、庵野宣道と申します。『愛』に仕える“超高校級の宣教師”、そして——“超高校級の絶望”でございます」
長期連載漫画やなんかで、数年越しの伏線回収に舌を巻く評がよくありますね。
伏線というものは張るところと回収するところを決めておいて、それさえ忘れなければ、案外気にし続ける必要もなくて、なおかつニヤニヤワクワクできるとてもコスパの良いテクだと感じました。
もしかしたらこの中にも何か仕込まれているかもしれないですね。
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