ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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おしおき編?

 

 これから鳴り響くファンファーレ。これから吹き荒れる紙吹雪。これから感じる興奮と嫌悪感。五度も繰り返してきたせいで、目を閉じればその光景が浮かび上がってくるようになってしまった。もうすぐモノクマがニヤニヤ笑いとともに裁判の終わりを告げ、無慈悲な投票タイムが始まる。必死に潔白を主張して足掻く人、跪いて許しを乞う人、自分の罪を後悔して頭を抱える人、心が壊れないように感情を殺す人……。色々な人がいる。色々な人がいた。私たちはそれを前にして、ただモノクマに言われるがまま、投票ボタンを押すことしかしなかった。

 だから、そんな究極的に絶望的な状況の中にあって、堂々と証言台に屹立している彼の表情が、いつもとちっとも変わってないことに気付くまでしばらくかかった。そして気付いたとき、背筋に冷たい針金を通されたような感覚がした。

 

 「……庵野、君?」

 「はい。なんでしょう」

 「あ、あの……状況、分かってるの?」

 「ええ、もちろんです。これ以上の議論は必要ありません。結論が出たのですから」

 「そうじゃなくて、あ、あなたはモノクマの内通者で……尾田君を殺した犯人で……」

 「この学級裁判で、あなた方が指摘すべきクロ。その通りです。見事に正解なさいましたね。手前は信じておりました」

 「信じてた……だと?どういうつもりだ?」

 

 開き直っている、とは違う。真実を懺悔している、それとも違う。まるで私たちを祝福するような、この結末を心から望んでいたような、そんな感じだ。こんなパターンは初めてだ。庵野君は、これから自分の身に何が起きるか理解していないのだろうか。そんなはずはない。今まで何回も見てきたし、モノクマの内通者なら私たちよりずっと身に染みて知っているはずだ。それなのに……この落ち着き方は、まるで自分が処刑されるなんて欠片も考えてないみたいだ。

 

 「はい!それでは結論が出たようですね!それではオマエラ!お手元のスイッチで、クロと疑わしい人物に投票してください!投票の結果、クロとなるのは——」

 「破ァッ!!」

 「えっ!?オアーーーーッ!?」

 「んなあああああっ!!?モノクマの玉座を掌底で破壊しゃあがったァ!!?」

 「何してるカ宣宣(シェンシェン)!?っていうかあれ木製だったカ……」

 

 目の前で巻き起こっていることが信じられない。いきなり庵野君が証言台を飛び出して大声を出したかと思うと、凄まじい衝撃音とともにモノクマが吹っ飛んだ。粉々に砕け散った玉座の破片がカラカラと床に散らばって、転がったモノクマのおしりに刺さっていた。なにか、庵野君の手の平から闘気のようなものが見える気がする。

 

 「な、なんだこの野郎!ボクはモノクマだぞう!オマエの雇い主だぞう!とっても偉いんだぞう!」

 「手前が必要としているのは雇い主ではありません。手前は聖職者。信奉する神にのみ従う求道者であるからして、金や契約に縛られるようなものではありません」

 「な、何言ってんだァ?」

 「モノクマ、これまで手前はあなたの言いなりになって、内通者としての使命を果たしてきました。しかし……もうこれ以上、あなたに従う意味はありません」

 「な、何を言って……オマエは“超高校級の絶望”だろ!それだったら、その権化とも言えるボクに従うのは当たり前のことじゃないか!鳥が空を飛んで魚が水に潜るくらい当たり前のことだよ!」

 「従いません。なぜならあなたは……絶望ではない」

 「へう」

 「???」

 

 何がなんだか分からない。床に転がったモノクマを見下ろして、庵野君は冷たく言い放った。“超高校級の絶望”?さっき庵野君がそう名乗っていた。モノクマは、“超高校級の絶望”の権化なの?そういえば、前回の裁判の後、みんなでビデオを観ていたとき、尾田君がそんな話をしていたような気がする。かつて世界を一度終わらせたテロ組織……江ノ島盾子が率いた”超高校級の絶望”。つまり庵野君は、そのメンバー、テロリストだったってこと?

 私たちの中にいた内通者は、私たちが想像していたような生優しいものじゃなかった。世界レベルのテロ組織の一員だなんて。そして、モノクマはその組織の象徴だと言う。じゃあ、なんで庵野君はそのモノクマを攻撃してるんだろう。

 

 「以前から少し……違和感はありました。ただ、手前が今ここでこうしている奇怪な状況、何らかの組織が関わっていることは間違いない。それが希望か絶望か判断しかねていたため、ひとまずはあなたの言葉を信じていました。ただ、理刈さんの件といい今回の件といい、はっきりしました」

 「な、何を言って……」

 「あなたは“超高校級の絶望”の精神を理解していない。あなたが“超高校級の絶望”であるはずがない。あなたは、手前の信じる『愛』ある神ではない。協力はこれまでです」

 「そ、そんな自分勝手ことがあるか!そもそもオマエは尾田君を殺した犯人じゃないか!この学級裁判で裁かれるべき大罪人だ!うぷぷぷぷ!そんな態度とったっておしおきはやるんだからね!」

 「いいえ。彼を殺害したのはあなたです。嘘の協力者にその嘘を吐いても意味などありませんよ」

 「う、うそ?ど、どういうことだ?尾田を殺したのは庵野じゃないのか!?」

 

 ずっと放ったらかしにされている私たちは、庵野君とモノクマが何の話をしているのかさっぱり分からない。だけど、どう考えても聞き逃せない言葉が聞こえてきた。尾田君を殺した犯人はモノクマで、庵野君じゃない?となると、今までの裁判はどうなるの?尾田君を殺したのは内通者で、内通者の正体は庵野君だっていう結論になった。自然と、庵野君が殺人者(クロ)っていうことになると思うんだけど。

 

 「それはモノクマが用意した偽のシナリオです。ですが、おおよその部分はみなさんの推理通りです。モノクマにとって排除しなければならない存在だった尾田君を、ルールを超えて殺害した罪を手前に背負わせる。それがモノクマの策略です。尾田君の手からモノカラーを奪取するのも、モノクマの槍の痕跡を消すために異なる刺し傷を負わせるのも、すべてモノクマの指示です。手前は、それを実行し、偽りの殺人者として処刑されることを命じられていました」

 「それじゃあ、スケープゴートにされるってことカ?なんでもアリ過ぎアル!やいモノクマ!どういうことカ!」

 「ど、どういうことってその……モニョモニョ」

 

 どんどん暴露されていくモノクマの暴挙。今までだってモノクマの傍若無人ぶりには散々苦しめられてきた。だけど、これはいくらなんでも横暴すぎる。自分で決めたルールを無視して尾田君を殺した挙句、それを庵野君に押し付けるなんて……、しかもその事件の学級裁判をずっと傍観してた。こんなことを許してたら、いきなりモノクマに殺されたって文句が言えないことになってしまう。

 

 「モノクマは校則違反を犯した生徒を処刑する以外で危害を加えない。生徒を殺した人は命懸けの学級裁判で処刑されるリスクを負う。これはモノクマが決めたことで、今までずっと私たちに強いてきたことだ。それなのに、いざ自分が尾田君を殺したら他人に罪を擦りつけるなんて……しかも尾田君は直接校則違反を犯したわけじゃない。ルール上はだけど」

 「ぐぬぬ……」

 「尾田君がどこまで考えていたのかは分かりません。こうして手前がモノクマを裏切ることまで織り込み済みでこんな遠回りなことをしたのでしょうか……。ただ、彼のおかげで目が覚めました。手前が仕えるべきはモノクマではありません。手前は……信じるものを誤っていました」

 「全っ然状況が分からねェんだけど……。え?結局、おいらたちゃどうすりゃいいんだ?庵野……はでも、尾田を殺したわけじゃねェんだよな?だったら、モノクマに投票すりゃいいのか?」

 「わざわざ身代わりを立てておいて自分に投票できるようにする馬鹿正直モノだったら、はじめからこんなことしないアル。こんなの投票なんかできるわけないネ!宣宣(シェンシェン)に投票したら間違いだって言われかねないし、投票しなくたって処刑されるアル!」

 「な、なにをう!オマエラそんなこと言ってボクを陥れる気か!そんなこと許さないぞ!」

 「そもそもお前がルール違反を犯したことが原因だろう。いい加減に気付け。お前は尾田に嵌められたんだ。尾田が真夜中の校則違反を繰り返し始めた時点で、いずれお前がこうなる結末は決定していた。唯一、私たちが事件の真相を突き止められないことだけがモノクマが罪を追及されない道だったが……それもなくなってしまったな」

 「やいやいやい!どうしてくれるんだ!どうすんだこの状況!」

 「うぅ……」

 

 もはや学級裁判は、最後の結論を待つ必要をなくしていた。庵野君の突然の暴露によってモノクマのしたことが明らかになり、私たちは裁判のルールの中で正しい結論を出すことができなくなってしまった。その原因は、ゲームマスターであるはずのモノクマによるルール違反だ。このままじゃ私たちは前に進むことも後ろに戻ることもできない。こんな学級裁判は——!

 

 「無効です」

 「む、無効ォ!?」

 「こんな学級裁判は成立していません。モノクマによる殺人など、手前どもが本来立証できるものではない。モノクマが本気でルールを無視し始めれば、手前どもは成す術なく蹂躙されるばかりです。そんなことを、あなたは許していいんですか?それがあなたの望んだコロシアイの形なのですか?」

 「ぐ、ぐぐっ……ぐぅ……!」

 「あなたに残された道は二つです。こんな不誠実な学級裁判で自ら手駒を切り捨てて勝った気になって悦に入るか、今回の事件の罪を認めて最後の学級裁判に臨むか。決めなさい!今!ここで!」

 「オオッ……こ、このォ……!このハゲぇ……!!」

 

 なんだか妙な事になってきた。モノクマの不正を誰よりも責めているのは、そのモノクマの内通者として暗躍していたはずの庵野君だ。私たちだってモノクマには色々言いたいことがあるのに、庵野君がどんどん進行していくせいで何も言わなくてもモノクマは追い詰められていく。いったい私たちはこの状況をどう受け止めればいいんだろう。今の庵野君は、私たちのなんなんだろう。

 

 「う、うぷ……うっぷぷ……」

 「?」

 「庵野君、それで生きながらえたつもり?確かに尾田クンの命を奪ったのはボクだよ。狭山サンのモノカラーで好き勝手されて目障りだったからね。そしてこうなることもあいつの思う壺かも知れない。だけどここから先はどうかな?」

 「……」

 「そもそもなんで尾田クンは真正面からボクにぶつからずにこんな遠回しな方法を使ったんだと思う?あのまま学級裁判をしていてもオマエラに勝ち目がないと思ったからなんじゃない!?うっぷっぷっぷ!今のオマエラと何が違うのさ!勝ち目のない学級裁判を改めてやったところで、オマエの運命は変わらないんだよ庵野クン!絶望は絶望らしく、絶望の中で絶望的に死ね!!」

 「ここに絶望は手前だけです」

 「!」

 

 急に笑い出したと思ったら、モノクマは開き直って尾田君の殺害を認めた。そして散々暴言を吐いた後、庵野君の一言でむぐりと黙ってしまった。絶望は庵野君だけ……それって、“超高校級の絶望”のことだよね?その言葉は……信じてもいいのかな。

 

 「元より手前が皆さんと共に生きることはありません。ご存知のように、手前は全て覚えています」

 「覚えている?なんだ、なんのことだ庵野」

 「……ここに来る前の皆さんのことです」

 「えっ!?」

 「マ、マジか!?」

 「あなたにとって大切なのは手前ごときの生死ではないでしょう。ただ、他の皆さんは違う。あなたは無理をしてまで皆さんを殺すわけにはいかない。そもそも——」

 「ええいうるさいうるさいうるさーーーい!!なんだオマエは!!急にボクを裏切ったかと思ったらここで全部終わらせるつもりか!?喋りすぎなんだよ!!オマエの言うとおり今回の件は水に流してやるって言ってんだろ!!改めて最後の学級裁判を開いてやるって言ってんだろ!!これ以上文句あるかコノヤロー!!」

 「無茶苦茶アル。水に流すって、悪いのはモノクマヨ」

 「うっせえわ!!うっせえうっせえうっせえわーーーい!!もう知らん!!最後の学級裁判の前に最後の捜査時間を用意してやるからさっさと行けよ!!ボクにだって準備ってもんがあるんだよ!バーカ!!」

 「あっ」

 

 散々なことを喚き散らして、モノクマは逃げるように姿を消した。裁判は結論を待たずして幕を閉じ、地上へ戻るエレベーターの電気がバチっと点いた。何もかもに嫌気が差したモノクマが一気に決めたことに、そして庵野君が内通者だという事実にさえ、私たちはまだ戸惑うばかりだった。

 最初に口を開いたのは、もちろん庵野君だ。私たちの間には、彼の言葉を待つという共通認識がいつの間にか植え付けられていた。

 

 「ひとまず、地上に戻りましょうか」

 

 反対意見はなかった。ここで呆然としている場合ではないことは、私たちも分かっていた。庵野君も、今はもう落ち着いていて、何かやらかしそうな気配はない。

 


 

 地上に戻るエレベーターに恐る恐る乗り込んで、それが動き出して裁判場の光が遠く離れたころ、庵野君は真っ黒な壁を見つめたまま口を開いた。

 

 「皆さん。申し訳ありませんでした」

 「……何が?」

 「何がと言われてしまえば、謝るべきことは無数にあるのですが……まずは、皆さんの信頼を裏切ってしまったことに対して、謝罪いたします」

 

 庵野君は私たちに向かい合い、帽子を脱いで深々と頭を下げた。あまりに悠然とした、覚悟の決まった所作に、私たちは何も言えなかった。謝ってほしいことはそれだけじゃないし、一言の謝罪で済むほど庵野君の裏切りは軽くない。それでも、この謝罪で私たちは、庵野君がまだ冷静でいること、私たちと決別する意思はないことを理解した。

 

 「皆さんが暴いたとおり、手前はモノクマの手先として、このコロシアイ生活を陰ながら支えていました。甲斐さんが推理されたようにモノクマの手を離れたところを補い、理刈さんの自殺現場を荒らし、モノクマによる尾田君殺害の罪を背負おうとしていました」

 「でも、それを急にやめたネ。命が惜しくなったカ?」

 「そうではありません。命が惜しければ手前は……いやそんなことより、未熟者の手前とて、命を捧げる相手くらいは自分の意思で選ぶべきと考えたまでです」

 「お前にとってモノクマは命を懸けるべき相手ではないということか。なら、それは誰だ?」

 「この身もこの心もこの命も、すべては手前に愛を注ぎたもう神のもの——すなわち、江ノ島盾子様のものです」

 「江ノ島盾子……」

 

 それは、その名前は、そんな風に口にすべきじゃない。世界を滅ぼしたテロ組織、“超高校級の絶望”のリーダーだ。教科書に載るくらい昔の人物とはいえ、未だにその影響は世界の各所に残っている。私だって詳しいわけじゃないけど、そんな人をつかまえて愛とか神とか……全然理解できない。

 

 「分かります。皆さんには受け入れ難いことだと思います。手前どもの生きた時代においても、江ノ島盾子はまさに史上最悪のテロリスト——人類が怖れ、超克すべき“絶望”そのものです。しかしそれ故に、あるいはその根源には、未来永劫にわたる人類への愛があるのです」

 「だんだん気持ち悪くなってきたネ。そんなのはどうでもいいヨ。宣宣(シェンシェン)にとってはその江ノ島盾子が神様みたいなものってことアル。なら、なんでモノクマの内通者なんかしてたカ」

 「モノクマとは、江ノ島盾子が絶望の象徴として生み出した偶像(アイコン)です。“超高校級の絶望”はみなそのマスクを被って絶望的行為を行い、その姿を信奉して狂気し、絶望に染まらない人類はその声に骨の髄から震え上がったと聞きます。したがって、手前の従っていたモノクマもまた“絶望”に通じる存在と考えました。しかし……どうやら見誤っていたようです」

 

 私は、かつてモノクマから動機として配布された、それぞれが外の世界に残してきた大切な人たちの動画を思い出した。あの動画には確かに、モノクママスクを被った異様な人々が映っていた。あれは……あれこそが“超高校級の絶望”?だったら、私の家族はみんな……みんな、どうなってしまったんだろう……。

 今更になって、あの動画の本当の意味が分かったような気がした。強い衝撃で体が痺れたような感覚がして、思わず膝からその場に崩れ落ちた。

 

 「甲斐……!しっかりしろ」

 「ごめん……でも、大丈夫。続けて」

 「あまり無理をされない方が……」

 「時間がない。モノクマと決着をつける裁判がすぐそこまで迫ってきてるのに、倒れてなんかいられないよ」

 「……では、お話します。と言っても、手前から話せることはそれほど多くありません。モノクマについて手前が知っていることは、皆さんとそう変わりません。この世界の真相についても、同様です」

 「世界の真相?なんでェ大仰な言い方しゃァがって。確かに、希望ヶ峰学園がこんなことになっちまった理由は分からねェがよ」

 「そうですね……曖昧なことを話すわけにはいきません。まずは、皆さん」

 

 庵野君が言葉を区切ったところで、エレベーターは地上に着いた。無骨な箱は大きく揺れて動きを止め、耳をつんざくような金属音を響かせて私たちを解放した。

 

 「とにかく今は手分けして手掛かりを集めるべきです。モノクマが最後の裁判に向けて学園中に散りばめた封筒はまだ残っています。少なくともそれらがなければ、モノクマが求める真実にたどり着くことはできません」

 「ちょ、ちょっと待てよオイ!おいらたちゃァまだオメェを信じていいのかすら分からねェんだぞ?オメェは内通者で、“超高校級の絶望”なんだろ?なんだってそんなやつを手放しに信用できんだよ!」

 「……もちろん、そう思われるのが当然です。手前も後悔しています。いくら言葉を並べたところで皆さんを裏切った事実は消せません。手前の言葉に力はありません。言葉に力がなければ、体を動かすのみです。それから、王村さん、こちらを」

 「んァ?」

 

 どんどん進行していく庵野君は、懐から何かを取り出したかと思うと、王村さんの手を取ってそれをしっかりと握らせた。王村さんは怯えたような表情をしていたけど、それ以上に手の中にあるそれを見つめて、困惑していた。いったい何を渡されたんだろう。

 

 「王村さん。あなたはきっとご自分で気付いておられない力を持っておられる。それは最後の学級裁判における切り札になるはずです。長島さん。あなたの鋭い勘は学級裁判を突き動かす原動力になるはずです。毛利さん。あなたの冷静な思考力は必ずやモノクマを追い詰める武器になるはずです。そして甲斐さん……誰よりも手前を信じてくれていたあなたにこれ以上の心労をかけるのは心苦しいばかりです。ですが、何度でも立ち上がりその度に強くなるあなたは、最後にモノクマを超えていく人だと、手前は信じています。皆さん、勝手なことばかりで申し訳ありません。手前は……どうせ本懐を遂げた後の命です、次の命は皆さんのために燃やし尽くそうと思います」

 「な、何をするつもりだ庵野……?死ぬ気か!?」

 「いやいややめるアル!このタイミングでまた誰かに死なれたらもう訳わからん過ぎネ!死ぬならワタシに関係ないところで死ぬヨロシ!」

 「最低か!!」

 「ご安心を。最後の学級裁判にはもちろん同席させていただきます。ただ、少しばかりの無茶はしようかと。その分だけ皆さんを助けるとお約束します。信じてお待ちください、とは言えませんが、勝つための勘定に加えていただければ何よりです」

 

 そんなセリフを吐いて、庵野君はあの走りにくそうな格好で風のように去っていった。あんなに素早く動く庵野君は初めて見た。無茶って、何をする気なんだろう。それに、裁判の後から急に態度が変わった理由も、私たちにはよく分からない。分からないことだらけだ。

 

 「王村。お前、何を受け取った?」

 「おいらにだって、わ、分かんねェよ……なんだよこりゃァ」

 

 王村さんが手を広げると、短いケーブルのようなものがそこにあった。ただのケーブルというわけじゃなさそうなことが、その表面に施された複雑な模様から見て取れる。いったいこれはなんだろう。

 

 「どうすんだ?庵野の言うことは訳分かんねェけど、信用すんのか?」

 「少なくとも宣宣(シェンシェン)以外に内通者はいないみたいだから、取りあえずここの4人は敵じゃないと思ってよさそうアル。それだけでも宣宣(シェンシェン)がいる意味は大きいネ」

 「私は……庵野君のことは、信用してもいいと思う。まだ話してくれてないことはたくさんあると思うけど、それでも、私たちと同じ方向を向いているってことは間違いないと思うから」

 「でもよォ……」

 「確定していることは、この最後の捜査時間が終わった後、私たちはモノクマとの最終裁判に望まなければいけないということだ。それだけは庵野と関係なく決定している。そのための捜査は行われなければならない」

 「こ、心の準備が……」

 「そんなのいつまで待ってもできるわけないネ!最後に物を言うのは思い切りの良さアル!キビキビ捜査するヨロシ!」

 

 そう、毛利さんの言うとおりだ。そもそも今日、尾田君が殺されていなければ私たちはモノクマと最後の裁判をしていたはずだ。イレギュラーで先延ばしになってしまっていたけれど、そのときがやってきたってことだ。尾田君がいなくなったのは正直痛い。でも、尾田君のことだから、きっと自分が殺されたことで学級裁判が起きて、そこでモノクマが諦めるなんて生易しいシナリオは描いていないはずだ。まだ私たちには勝機がある。だからこそ尾田君は、そのための足がかりを作ってくれたんじゃないか。そう考えるのは彼のことを買い被りすぎだろうか。

 

 「庵野は言っていた。まだ私たちが見つけられていないモノクマの封筒があると。今、各自が持っている封筒を共有する時間はない。とにかくかき集めるんだ」

 「全部で何個あるかも分からねェんだろ?果てしねェな」

 「文句言っても封筒はやってこないアル!それはそうと、劉劉(リュウリュウ)が見つけて隠したままの封筒はどうなるカ?」

 「奴の部屋では見つからなかったのか?」

 「きっとどこかに隠してあったんだと思う。もしかしたら、裁判の前にモノクマや内通者に回収されるのを警戒してたのかも」

 「ならもう一度調べる必要があるな……甲斐、頼めるか」

 「わ、私?」

 「甲斐は尾田の部屋を一度調べているし、私たちの中で一番尾田のことを分かっているだろう。何か仕掛けがあっても、甲斐ならなんとかできる、はずだ」

 「大事なところ全部丸投げしてるよ!」

 

 一番尾田君のことを理解しているっていうのはなんだか納得しがたいけど、確かに私はあの部屋に一回入ってるし、長島さんはああいう狭いところの探し物は苦手そうだ。私と一緒に見つけた封筒もまだ隠してるし、あんまり任せるのは不安かも。

 

 「分かった。でも、見つけられなかったらその時はごめんね」

 「そういうときは仕方ない。私たちも甲斐をカバーするつもりで探すんだ」

 「奉奉(フェンフェン)!任せたアル!マックス期待して待ってるからそのつもりで頼むヨ!」

 「おめェだけが頼りだ!手ぶらでなんて戻ってくんなよ頼んだぜ!」

 「全然仕方ないって思ってくれなさそう」

 

 流れるように責任重大なミッションを任せられてしまった。やるだけやるけど……本当に大丈夫なのかな。最後まで晴れることのないだろう不安を胸に、私たちはやるしかないんだ。

 モノクマとの最後の裁判のために……この学園の真相をすべて暴き出すために。




ここから先はどうなるか誰も分からない。
なぜならちゃんとプロットを練ってないからだ。

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