「ーーーー。ーーーーーーぅん」
寒い。冷たい冷気が肌を撫でる感覚。寝る前に布団は被っていたのに気づけばベットの片隅に落ちていた。余程、俺の寝相が悪かったのだろう。
「ーーふぁぁ」
いつもの朝。季節は冬でそのせいで外はまだ暗く、黒で覆われている街並みを窓から眺めて、スっと深呼吸をする。体のスイッチを押すように自分の心を落ち着かせ、気持ちを切り替える。
目を閉じる。
一つ数え
二つ数え
三つ数える
コレでもう切り替わった。寝ぼけていた頭は冴え渡り、体の隅々まで覚醒する。
「さて、行きますか」
立てかけてある木刀を手に取り、日課のランニングをするために俺は冬木の街に飛び出した。
「ーーはぁ。ーーはぁ」
木刀の入った刀袋を肩にかけてただ走る。いつも五キロ程を同じルートで走っているが今日は何となく柳洞寺の方向に走る。理由などない。ただ、何かの気まぐれかそうしようと思ってしまったから。
「ーーーーふぅ」
十分程走っただろうか。目の前には柳洞寺へと繋がる長い階段。この階段、体力作りのトレーニングに使えそうだ。
俺は階段を駆け足で登り始めた。
「ーーはぁ。はぁ。思ったよりもきつい!」
足が重くなり体は熱く、息は既に上がっている。それでも登りきった自分を褒めたい。何度挫けそうになった事か。でも、いいトレーニングになった。明日からも続けよう。
「おや。こんな早朝から客人とは。珍しいこともあるものだな」
声がした。山門の上から、こちらを見下ろす影。侍が着るような和服に背には長い刀。青みがかった長髪を後ろで束ねた男性がいた。
人目見ただけで直感が警告音を鳴らす。こいつに関わっては行けないと。温まったいた体温は一瞬で冷め、冷や汗が止まらない。
「なに、そう怯えることは無い。ただこんな早朝にここに来たお主に興味が湧いき話しかけただけのことよ」
スタッと山門から飛び降り、俺の前までやってくる。敵意は感じない。ただ、そこに存在するだけだ。それなのにこの緊迫した空気、気配、身のこなしまでがその男を人じゃないと教えてくる。
昔から剣術を習っていた俺は、今わ亡き親達にから戦いというものを教わったことがあり、そういったものには少なからず反応できる。だから理解できた。この男は別格の強さを持っていると。
「それでお主。ここには何の用で参った?」
「ーーただ、ここの階段がトレーニングに使えると思って登っただけだ」
「ほぉ、トレーニングとな。もしや剣を振るうためにか?」
「半分はそうです」
「なるほど。どれ、一つ手合わせと行こう。私も剣を扱う身。同じ剣士に合えば立ち合うてみたくなるのだ」
「ーーえ?」
「何をほうけている。ほれ構えぬか。弱くても胸を借りるつもりでかかってくるといい」
「え、えっと。よろしくお願いします」
木刀を構え、前を向く。正面には構えはなく鞘にいれたままの刀を持った。一瞬の隙も見当たらない。
「佐々木小次郎」
「ーー?」
「私の真名だ」
「お、俺は沖田颯太です」
「沖田颯太か。さぁ、来るといい」
「は、はい!」
踏み込みからの一気に加速。下段から上段への斬りあげ。結構いい技が決まったと思った。しかし佐々木小次郎は簡単にそれを避けて見せる。そもそも刀すら使っていない。使う必要が無いほど弱くおもわれているのか。
「いい技だ」
「ありがとう、ございます!」
立て続けに二撃め、三撃めと攻撃を重ねていくが全く当たらない。
「筋は悪くない。才能もある。ここまで身につけるのに相当な年月を重ねたのであろうな」
「はぁ、はぁ。ーーーーーーーーすぅっ」
このままだとずっとあたらない。なら、あれをやろう。まだ完成には程遠い。両親から引き継いだあの必勝の剣技。沖田家に古くから伝わるあの技を。
「“無明三段突き”!」
一突き。それは頭を狙い。
二突き。それは喉を狙い。
三突き。それは心臓を狙う。
両親達のようには早くは突けないけど、段々と形になってきたこの技で決める。
「むっ。ーーなかなかいい技だ」
しかし、それは全て無駄になってしまった。しかし、初めて佐々木小次郎に刀で防がせたのだ。少しの達成感が胸を満たした。
「はぁ、はぁ。全く、あたら、ない」
「お主の剣が届かぬのは道理よ。人の身では到底辿り着けまい」
「人の身?」
「気にするな。独り言だ。しかし、先程の剣技はなかなかであった。まだ未完であったが、剣に身を捧げればいずれは完成するであろう」
満足そうに頷き、表情は晴れ晴れとしている。
さて、なかなかに楽しいひと時であった。礼といってはだが、私の剣を見せよう」
佐々木小次郎はそう言って脇に生えてある一本の木の前に立つと刀を構えた。初めて見るその刀身は登って来た日に照らされ神秘的で美しかった。
「この刀は“物干し竿”と言ってな。我が師の置き土産なのだ。業物であろう?」
「はい、惚れ惚れするほど美しいです」
「ははは!そうかそうか!では、見せるとしよう。我が剣を!」
“秘剣 燕返し”
一瞬、いや、刹那だった。目に捉えきれない速さで刀を振るったと思えば木が四つに別れていた。何が起こったのかは見えなかったが、やったであろう事は理解出来た。
「あの一振の間に三撃もの斬撃をうみだしたってこと、なのか?」
「ほう、分かるか。颯太よ」
「あの木をみて、何となく」
「なぁに、そんな大した芸ではない。 偶さか燕を斬ろうと思いつき、身に着いただけの事だ。閃に過ぎず我が太刀では空を飛ぶ燕には捉えられぬ。 だが、その閃も二本三本なら話は違う。しかし、連中は素早くてな…事を成したければ一呼吸の内に重ねなければならなかった。その様なマネは人の技ではない。だが生憎と他にやる事がなかったのでな…一念鬼神に通じると言う奴だ。気が付けばこのとおりよ 」
「いやそれ、絶対に燕じゃないでしょ!妖怪か何かだよ!」
「ははは!まぁそう叫ぶな。ほれ、もう帰ることだ。女狐に見つかってしまうやも知れぬ」
「誰に見つかってしまうって?」
どっと押し寄せてくるプレッシャー。新たに現れる人物は空に浮かんでいた。
「貴方には門番を任せていたはずよ。アサシン」
「随分と暇だったものでね。ついつい遊んでしまっただけよ。なにこの子はすぐに帰すところ。引いてはくれぬか?キャスターよ」
「目撃者をみすみす逃がすほど私は甘くわないのよ。それにその子、中々の魔力を持っているじゃない。消すついでに魔力を貰うとしましょう」
魔力だと?何を言っているのかがさっぱりだ。消すと言っているが、多分それは俺を殺すこと。でもなぜ?もしかするとこの人らを見てしまったからなのか?目撃者といっていたし、なにかあるかもしれない。それよりも死にたくなんてない。
「キャスター。なら、この子はわたし始末しておく。だから引け」
「騙されないわよ。私が消すわ」
「ならば私を倒すことだな」
「何言っているのかしら?貴方は私が召喚したサーヴァント。令呪で逆らえなくすることも出来るのよ?」
「ならばそうすればよかろう。私は令呪でも使わぬ限りここを引かぬぞ」
「そう、ならここで死になさい。別に門番は絶対に必要という訳では無いもの。令呪を持って命ずる。アサシンよ自害しなさい」
女がそう言った途端だった。佐々木小次郎が刀で自分の首を斬った。、
「ーーーーぇ」
首から長髪が吹き出し、俺の顔にかかる。ドロっとしたそれは俺の視界を赤く染め、思考を停止させる。
「さて、次は貴方よ」
「ぁーー。あぁーー。あぁぁぁぁ!!」
怖い。死んだ。人が死んだ。死にたくない。逃げなきゃ死ぬ。
逃げようと思うも、体がうごなかい。
「逃げようとは思わない事ね。と言っても動けないでしょうけど。それじゃあ、いただきます」
体から何かが抜けていく。それは目には見えないもので俺の命の源だろうか。ぐんぐんと無くなっていき、やがて俺の意識は途切れた。
「起きろ、颯太よ」
声がした。優しく起こす声。ついさっきまで聞き覚えのある声で俺は目を覚ました。そこは真っ白な空間で俺ともう一人、佐々木さん以外は誰もいない。
「起きたか。さて、颯太よ。一つ提案があるのだが乗らないか?」
どうする?
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提案に乗る
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提案を断る