追放系お嬢様   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第12話 帝都混乱ですわ

帝都魔法学園の結界制御装置周辺では、勇者とその仲間達が魔族の侵入を防いでいた。数はそこまで多くない上に、学園の教師陣も強いため、まずエルシーのところまで辿り着ける悪魔が少ない。

 

「……さっきの頭のおかしいお嬢様は居ないみたいだな」

「っ、入学式の時の悪魔!」

 

しかし強い悪魔は学園の教師陣側が戦闘を避けるため、ほぼ確実にエルシーの出番となる。そして入学式の時に襲撃を行った悪魔と、エルシーが対峙する。悪魔は一気に上空へ上がり、高速で火の球を連続して撃ち出すが、勇者には当たらない。

 

一方でエルシーの攻撃も、上空にいる悪魔には攻撃が届かなかったり当たらなかったりと一進一退の状態になるが、今回はエルシー側に頼もしい仲間がいる。上空を飛んでいた悪魔は唐突に吹いた強風によって地面に叩きつけられ、直後に地面から生えた蔦で拘束される。

 

その上から、飛び上がったエルシーが全力で剣を振り下ろした結果が、リディア達の経験した地震だ。高位の悪魔すら、一撃で塵すら残らず粉砕する攻撃は、寸前で悪魔の転移が間に合い空振りに終わる。

 

「また逃げた……洗脳に転移に、重力操作もあるって固有魔法を何個使えるの……?」

「これまでの悪魔とはかなり違いましたね。

……襲撃はこれで最後でしょうか?」

「索敵範囲に悪魔はいないから、今ので最後だと思います」

 

勇者の傍らにいるのは、風属性魔法使いと植物魔法使いの2人。この世界の魔法は基本的に火属性、水属性、風属性、地属性、光属性、闇属性、無属性の7属性に分かれるが、固有魔法という例外が存在し、洗脳魔法や植物魔法、転移魔法はいずれも固有魔法で使い手が少ない。

 

魔法学園を首席で卒業した風属性魔法使いが索敵魔法を使用し、学園内に悪魔が残っていないことを確かめる。学園への襲撃が一旦途切れたところで、学園の教師陣や帝国軍が被害の確認を急ぎ、結界の修復を再開した。

 

結界の修復に時間がかかるのは動力源となる宝玉のサイズや魔力の質がバラバラであるため、再起動には装置の修正が必要になるためだ。

 

具体的に説明すると、現状は機械がそのまま残っているが電池は抜き取られており、今ある電池の種類が違うためすぐには動かない、という状態だ。単四電池で動いていたものを単三電池でも動くようにする修正が必要となり、その期間が3日である。

 

そもそも同じ宝玉というものが滅多にないため、宝玉で動く装置は基本宝玉を抜かれると簡単には再起動しない。特定の魔力を生み出し続ける宝玉は大きければ1個でも凄まじい値が付く代物であり、中型サイズの宝玉が埋め込まれたリディアの杖でも、宝玉だけで十数億クレジットの価値がある。

 

エルシー達は、新たに運び込まれた宝玉と、それを装置に組み込む職員達の姿を眺めながら警戒を続けるが、にわかに学園外が騒がしくなる。火災が発生したからだ。それは学園内からでも立ち上る煙が見えるほどであり、エルシーは駆けだそうとして、しかし宝玉の護衛のためにその場へ留まる。

 

この火災はもちろん、放火されて発生したものであり、比較的広い範囲に燃え広がったのを見て今回の襲撃の主犯格である高位の悪魔はほくそ笑む。そしてこの悪魔にとって幸運なことに、放火した範囲の中にリディアの邸宅は含まれていなかった。

 

魔法学園への襲撃と、謎の地鳴り、帝都での大規模火災。現場は混乱を始め、食堂内は騒然となる。

 

「帝都にいる悪魔達の気配はほぼ全て消えましたわ。一部皇城にまで入り込んでいましたので、皇帝の命が目的だったかもしれませんわ」

「……リディア様、家の方は無事でしょうか?」

「火の手は家まで迫ってないので大丈夫ですわね。そろそろ落ち着いたみたいですし、今日はこの辺にして帰りますわよ」

 

唯一冷静だったのは、帝都中の気配を常に探っていたリディアだけだった。紅茶を飲み干したリディアは、悪魔の大半が去ったことを確認し、傍にいるメイ達を連れて帰路に就くが、道中でメイ達を先に帰らせて火の海の方へ歩み出す。

 

轟々と家々が燃える中、「息苦しくてあっついですわね」と言いながら歩き回るリディアは傍から見ればただの化け物だった。服を魔法で作った水で濡らしながら歩み続けるリディアは、やがて目的のある場所に辿り着く。

 

「げっ」

「さっきぶりですわね。……その服は何で燃えてませんの?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる。

……何の用だ?」

 

その場には放火を行った悪魔が、傷を癒している最中だった。勇者からの攻撃前にギリギリで時空の歪みを完成させ、避難した悪魔だったが、勇者の攻撃の余波でボロボロになっており、傷だらけの状態だった。

 

そんな状態でリディアに遭遇した悪魔は、即座に全てを諦めて用を聞く。そんな悪魔を見て、色々と聞けそうだと思ったリディアはニコリと笑顔になった。


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