追放系お嬢様   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第22話 絶望ですわ

魔剣の捜索を続けながらも、学園の授業は真面目に受けてテストでは優秀な成績を収めますわ。まあ一般教養は前世知識で問題ないですし、魔法の座学でも優秀なお嬢様ですからね私。この世界の魔法は魔法陣を介して発動しますが、その構築は個人によって最適解が違うので理論的には非常に難しいものになっていますわ。

 

プログラミングに近い感じもしますわね。魔力で魔法陣を描いて、その中の記号を組み合わせて魔法を使いますわ。簡単に例を出すと『「自分」「の」「魔力」「を」「火」「に」「変換」「して」「あの」「方向」「に」「射出」「する」』みたいな感じでどういう事象を起こすのか決めて魔法を行使するので面倒ですわ。

 

あと魔力の変換に関しては、本人の魔力の質によって得手不得手もあるのでどうしようもないところも多いですわ。私は火と風の変換率が高いですが、別に水も変換可能ですわね。

 

どうやら魔力を構成する魔素を生み出す臓器が人間の体内にあるようなので、それを使って魔法陣を作るのですが、別に変換する魔力は体外にある魔力でも可能なので魔力量が皆無なエイブラハムも極めれば火や水を自由自在に出せる人間になりますわ。極めれば、ですけど。

 

……自分の体内にある魔力はどの位置にあって、どの程度の出力で出すのかを自分で調整出来ますけど、体外だとそうはいきませんからね。体外にある魔力を指定する際の工程が多すぎて実戦レベルでは使えないですわ。なんかエイブラハムの右手の魔剣は体外の魔力を吸っているような気がしますが、そうなると魔法を使ってないのが不思議ですわね。

 

結局前期は出席日数の不足もあり首席とはなりませんでしたが、2位でしたわ。代わりにずっと学園でマリアの動向を監視していたマキナが首席ですわね。マキア?狙ったようにど真ん中平均点しか取ってないので当然順位もど真ん中ですわ。

 

あとメイは魔法関連の成績がそんなに良くないですが、ギリギリ一桁順位ですわね。446人もいる新入生の中で一桁なら相当優秀な範囲には入りますわ。……入学時には460人いたので、僅か半年で14人も辞めていますが、これが普通のようなので私が追放しなくても学園が勝手に追放したり学生側が勝手に退学していますわ。許せませんわ。

 

「で、これが魔剣ですの?」

「はい。この魔剣は柄を握るとどうしようもなく自死したくなるようで、3人の犯罪奴隷で試したところ、2人は止める間もなく剣を腹部に突き刺し死亡。1人は止めましたが、その際に剣を奪った騎士団員がその犯罪奴隷を突き刺した後、自死しました」

 

前期と後期の間に一月の長期休暇があるので、一度領内に戻ってクレシアが確保したという魔剣を布越しに持ちますわ。どうやら魔剣の性質として、直接触らないとデメリットは出ないようですわね。

 

お値段1000万クレジットとのことで、魔剣の中ではかなり安いですわね。まあ今までの持ち主が全員自死したり廃人になっているなら納得の金額ですが。魔剣にも種類が沢山あるようなので、この魔剣は中でも特別安い理由がある魔剣、というわけですわね。

 

さっそくクレシアの制止を振り切り魔剣の柄を握ると、唐突に世界が灰色に染まりましたわ。というか灰色の雨が降ってますわ。あはは、急に生きる気力がなくなるのは面白いですわね。生きる希望がなくなって、絶望感だけが心を満たしていきますわ。この世界で、生きていく価値なんて私にはありませんわ。私が今後この世界を生きて、何を為しえるというのですか。暴君となり、民に反逆を起こされ、混乱の最中に忠臣の凶刃で死ぬ。そんな幻想まで見せられましたが、それは最高ですわね?

 

剣を握ってふらついた私は、唐突なご褒美にグッと心を保ちますわ。そして鞘から魔剣を抜き、私の胸を突き刺そうとする右腕を制し、何とか地面に叩きつけますが、その地面が豆腐のように斬れるのヤバすぎますわ。これ鞘も大事ですわね。

 

グッと力を込めて何とか魔剣を鞘に戻して放り投げると、世界は色を取り戻し、鉛のように重かった身体が嘘みたいに軽くなりますわ。

 

「……この魔剣、ヤバすぎますわ。製作者は何を思ってこの魔剣を作りましたの……?」

「魔剣の名前は『デプハスション』です。製作者は魔剣のブラックスミス、ガルロンです」

「そういえば、エイブラハムも腕を魔剣に変形する時は剣の名前を呼んでましたわね。元々剣に、名前があるのですか」

 

試しにメイにも握らせてみようかとも思いましたが、それで自死されると今まで育てた甲斐がないので回避しますわ。まあ間違いなくメイの施設にあったやつとは別物でしょうし、魔剣を作れる鍛冶師がいるということは、魔剣が大量に世に出回っている可能性もあるということに他なりませんわ。

 

……流石に1日1本のペースで出来るというわけではないと思いますけど、この類の魔剣を量産されて国内で流通すると混乱も起きますわね。とりあえずこの魔剣は慣れたら使えそうですし、休暇中は毎日プチ絶望を味わいますわ。簡単に絶望感に浸れて後遺症もないとか、私にとっては合法ドラッグみたいなものですわよ。


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