魔剣が光り始め、魔剣の言う通り光が指し示す場所にリディアが向かうと、そこは魔剣の作り手であるガルロンの屋敷であった。魔剣を持つ者はリディアを除き5人おり、その中にはエイブラハムの姿もある。
この集まりはリディアが解析した通り、3年前にも行われており、過去の集まりにも参加していた人物は魔剣が光っている期間、ガルロンの屋敷に滞在していた。ほぼ全員が冒険者であり、自由な時間が多い人間だ。
そしてリディアは、ガルロンからある話を聞く。それはこの世界の、根幹に纏わる話だった。
「この世界には転生者が多い、と君は感じたことがないか」
「知りませんわ。SAN値が減りそうな話は勘弁して欲しいですわ」
「君も隠すつもりはないようだな。
……この場にいる者は、全員が転生者だ。しかも全員が何かしらの方法で魔剣を手に入れることが出来た、恵まれた転生者だ」
「……まあお金が無ければ買えませんし、この年まで平穏無事に生活出来ていること自体、恵まれているといえますわね。あとメイは転生者ではありませんわ」
「何!?そういうことはもっと早くに言え。ちょっと別室の方へ移動して貰う」
ガルロンはメイが転生者ではないことを把握すると、すぐに別の部屋に移動させる。改めてガルロンはごほんと咳を鳴らすが、既に威厳は若干減っていた。
「既に君自身が調べていて把握しているかもしれないが、まあ年長者として話させてもらおう。この世界は………………」
ガルロンは1時間ほど、リディアに面と向かって語り続けた。この世界には女神がいること。その女神がこの世界を壊すために、または自身のストレス解消のために、何人もの日本人転生者をこの世界に送り込んでいたこと。
「……何故そこまで知っているのかしら?」
「情報の出所は言わないでおく。ただの与太話として聞き流してくれても良いな」
女神はやがてこの世界にとっての悪神となり、過去にダンジョンの奥深くで召喚され、そこで封印されたこと。しかし殺すまでには至らず、その地で人類を滅ぼすための魔物を大量に産み続けていること。
また女神は封印されながらも力を蓄えており、いずれ復活しようとしていることまで聞かされた、あまりにも現実離れした話だが、リディアはすんなりと納得させられてしまいそうになり、ガルロンの話術を内心で褒める。前世では詐欺師でもやっていたのではないかとリディアは思った。
情報の出所自体を疑ったリディアは直接ガルロンにそのことを聞くが、ガルロンは話を信じられなくて協力しないならそれでも良いと告げた。
「女神は封印されたが、残念なことに転生者を生み出す機構は止まらないようでな……。悪魔憑きの子供の話はよく聞くだろう?」
「夜泣きをしない、我儘を言わない、聞き分けの良い子供は魔族の生まれ変わりで悪魔憑きだから殺せというやつですわね。まあ私は5歳の頃に意識を取り戻した感じですが」
「俺は親に捨てられた。まあ殺されなかっただけマシだったな」
そして話は、悪魔憑きの子供の話に移る。ロウレット帝国やアーセルス王国の田舎の村々では、日々転生した者が未来に希望を持って生まれ、数日で殺される。このようなことが往々にして起こっていることを、リディアも把握していた。
もちろん、その悪魔憑きの子供の正体が転生者だということも。
「それらの被害を食い止めるために、術者である女神を完全に殺す計画を立てているわけだ」
「女神を殺し切ったとして、世界が崩壊するとかそういうことはありませんの?」
「……そこは俺も不安なんだが、情報の出所によると世界を作る神と管理している神は別物らしい。だから問題ないとのことだ」
やがてガルロンは、計画に参加するか否かの是非をリディアに問う。リディアは少し考えた後、参加する代わりにリディア側の幾つかの質問に答えるよう要求した。
「答えられる範囲内なら答えるが、何に対する質問だ?」
「ではまずこの魔剣について。意思を持って喋る理由を教えてくださいまし。
あなたが元々AIの研究者とかだとしても、ここまで自立しているのは違和感しかありませんわ」
「ある程度は、答えを予測しているよな?
……元人間だからだ。一から人格を作るなど、ただの鍛冶屋に出来るわけがないだろう」
リディアからの幾つかの質問には、魔剣に関わるものもあった。魔剣が人格を持ち、喋っている現象について、リディアは幾つかの想定をしていた。元人間という説はその中の1つにあったが、それでもリディアはガルロンが冒涜的な行為をしていたことに少しばかり驚く。
使い物にならなくなり売られた元悪魔憑きの子供の魂を核として魔剣が作られていることを聞かされたリディアは、ガルロンがそこらの創作もののマッドサイエンティスト達よりヤバイと認識した。
少しリディアは考え込んだ後、ガルロンの手を取り、女神殺害計画に加担する意思表明をする。この僅かな時間で、リディアはある考えに至ったからだ。