追放系お嬢様   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第36話 外交ですわ

ロウレット帝国で第一皇女が皇帝、第一皇子、第二皇子の揃う場で行った凶行は後に「黒いナイフの事件」と呼ばれるようになり、ロウレット帝国の終焉が始まった。その時にアーセルス王国の王都にいたリディアは、ついでとばかりにアーセルス王国の王城へと侵入する。

 

そしてアーセルス王国の王の寝室にまで忍び込み、明日の昼にお話しましょうという内容のメモ用紙をアーセルス王の顔の上に置いてリディアは立ち去る。普通は外交官を通じて相手国の外交官等に書簡を渡すものだが、それでは王の手元にまで届くのは時間がかかる。だから時短のためにと直接メモ用紙を渡したが、当然こんなことをすれば王城は大パニックである。

 

何せ、リディアが暗殺者であればアーセルス王の命はなかったのだ。そもそも懸賞金すら懸けていた隣国の王。それが直接自身の寝室内に現れたなど、アーセルス王からしてみれば恐怖で叫びたくなるような出来事だ。というか実際に恐怖で叫んだ。

 

しかも王の寝室付近の護衛や見張りは全員が昏睡させられており、アーセルス王は心底肝を冷やす。侵入時、障害になりそうな人は全てメイが睡眠薬と物理で眠らせており、王城内は死屍累累の有り様であった。その上、メモ用紙が本当なら昼には隣国ナロローザ王国の王であるリディアが来る。

 

案の定、今日のアーセルス王の予定は全てキャンセルされ、王城内は来客のために慌ただしく動くこととなる。そのような迷惑をかけているとは思ってもいないリディアは、アーセルス王国の王都を探索するため街中を彷徨っていた。

 

「……武器屋や防具屋の質があり得ないぐらいに良いですわね。価格崩壊は起こってませんが、かなり安いですわよ」

「名有りの魔剣でなくとも、切れ味や耐久性は抜群に良さそうですし、異能のある剣が異様に多いです」

 

メイと武器屋を訪れた時には置いてある剣の質に驚き、リディアはこの武器屋に置いてある剣を全てまとめ買いしようとしたが、持ち帰る手間を考えて自重をする。昼食はしっかりと露店で割高の焼きそばを買い、マヨネーズをかけて食べた。この時点で、アーセルス王が用意した豪華な昼食は無駄になった。

 

「これ、ここで食糧を買ってヘルソン王国で売っても大儲け出来そうですわね」

「……リディア様がナロローザ王国からの食糧の持ち出しを禁じているので、ヘルソン王国へ届けるなら相当な遠回りが必要になりますが……」

「あっ」

 

アーセルス王国はナロローザ王国と接しており、ナロローザ王国はヘルソン王国と国境を接している。横一列に並んでいるこの3国でナロローザ王国では飢饉が発生しておらず、アーセルス王国でもその日に食べる物すら困るという深刻な事態にはなっていないが、ヘルソン王国は極めて深刻な食糧難の最中だ。

 

しかしリディアがナロローザ王国からの食糧の持ち出しを禁止したため、ヘルソン王国はアーセルス王国方面からの食糧調達が難しい。

 

「さて、そろそろ王城へ行きますわよ」

「あの……正面から入って大丈夫でしょうか……?」

「いざとなったら魔剣で飛んで逃げますわよ」

『2人分持ち上げるの結構大変なんだけど!?』

 

今日の日付の昼とリディアはメモ用紙に書いたが、正確な時間までは書いていない。そのためアーセルス王国の重鎮達は結構な時間、リディアが来ないことによる待ち惚けを食らったが、リディアが城に到着したという知らせを聞いて一気に緊張が走る。

 

渦中のリディアは、門番の兵士4人に四方を固められた状態で謁見の間に誘導された。他国の王がこの謁見の間に訪れること自体は珍しいことではないが、今回はアーセルス王国側の人が特別多く、通路の両脇にアーセルス王国の重鎮達とその護衛、Sランク冒険者や軍の手練れが複数名おり、中にはリディアと一騎討ちをしたユルゲンの姿もあった。

 

リディアとメイはアーセルス王の前まで連れて行かれ、メイはその場で片膝を立てて頭を低くするが、リディアはその場で堂々と立ったまま、頭を上げている。

 

「……何用で来た?」

 

アーセルス王は威厳を保つため手短に、しかし震えを隠すように声を絞り出した。下手にリディアの機嫌を損ねれば、ここにいる全員が殺されるかもしれない。手練れはある程度この場にいるが、リディアの腰には剣先が光り続けている魔剣がある。それだけで、この場にいる大半はリディアが精神的におかしい人間だと把握している。

 

「宣戦布告に来ましたわ」

 

リディアは喧嘩を売り、領土に攻め込まれることが目的だったため、宣戦布告を行うと宣言し、早目に降伏するよう促した。その言葉を聞いたアーセルス王は内心非常に怯えていたが、どちらにせよナロローザ王国と全面戦争になるぐらいならとリディアへの捕縛命令を周囲の人間に出す。

 

「ではこの場は一旦立ち去りますわ。

皆様ご機嫌よう」

 

そのアーセルス王の言葉を確認したリディアは、メイを抱えて魔剣を掲げる。直後、リディアは飛び上がり王城の天井を突き破ってアーセルス王国の王都を脱出した。リディアを捕らえようと接近していた一部の冒険者達は、照明や屋根の一部分が落下し下敷きとなり、大怪我をする者も居た。その光景を見て、アーセルス王国の重鎮達は頭を抱えた。


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