狂華・黒百合狂い 作:nagai
ひよりは日本文学好きなのかよくわかりません。本作では、有名どころは抑えているけれどそこまで興味ない解釈です。
念のための警告として、本作に犯罪を助長させる意図はありません。
椎名ひよりにとってクラスメイトの化野リリィは大切な友人である。今のところひよりにとって唯一の友人だが、けれども一番の友人と言った方が適している気がした。
残念ながら読書の好みは合わなかった。ひよりが海外ミステリを愛好するのに対して、リリィは海外作家の作品をむしろ嫌っていて、日本文学以外の物を読もうとしな人だったから。それ故に読書という共通の趣味を持っていながらも、趣味について語り合うことが余りできずに歯痒い思いを感じていた。
それでもひよりにとってリリィは高校で最初にできた大切な友人で、リリィから好意を向けられていることに、安心感を伴った喜びがある。
その好意がひよりの抱いているものとは質の違うものだと気が付いていたが、拒絶するほどの事ではなかったし、友人としていられなくなることの方が嫌で気が付かない振りをしていた。
「どうしたのひよりちゃん? 何か考え事?」
「いえ。何でもありません」
目の前で茶をたてていた手を止めて尋ねてきたリリィに、ひよりは微笑みを浮かべて答えた。リリィの頬が赤く染まり、慌てて視線をそらしたのを、やはりひよりは気づかないふりをする。
暫くして茶が出た。作法に則って味わって、感嘆の息を漏らす。正式な部員でないはずのリリィの方が、ひよりよりも余程うまく茶を入れることに、嫉妬よりも純粋な尊敬を感じた。それ故にひよりは、
「化野さんは茶道部に入らないんですか?」
と、内心気になっていた質問をする。
ひよりはリリィに愛情をこそ向けていないが、強い友情を感じている。一緒にいられる時間が増えることは喜ばしい事だ。リリィが茶道部にやってきて、お茶をたてて雑談するというのも珍しい事ではないのだから、正式に入部してくれてもいいのに。
「え? 考えてはいるけれど、部活動ってやったことないから続けられるか不安なのよね」
リリィはその長い黒髪を手で弄びながら、片目を瞑って困った表情を浮かべる。それが彼女の深く考える時の癖だと知っていたので、ひよりはしばらく無言で待った。
「うん。やっぱりもうちょっと学校生活に慣れてから入部しようかしら。先輩方がいつでも歓迎って言ってたし、社交辞令じゃないのならば来年になっても良いでしょう」
「そう仰ってた泉先輩は三年生ですが」
「あはぁ、そうだったかしら。それにしても、あの先輩のお名前すごく好きなのよ。泉京香先輩。ご両親が好きなのかしらね」
にんまりとした笑いを浮かべるリリィは、面白いものを見つけた子供のようだった。
海外ミステリを好むとはいえ、ひよりもリリィの言うことの意味を理解して、つられてリリィと似たような笑みを浮かべる。
「化野さんは鏡花が一番好きなんでしたよね」
「そうなのよ。だから先輩の名前聞いた時に思わず抱き着いちゃった。今思えば失礼だったわね、初対面なのに。でも、おっぱい大きくていい先輩だったわ……じゃなくて、後輩としてもう一回くらいどうにか甘えられないかしら……でもなくて、あの先輩のいらっしゃる間にまた茶道部について質問しに来るかな」
「きっと優しく迎え入れてくれますよ。私も歓迎しますし」
そのまま雑談は続き、成績の事からちょっとした雑学についての話題となり、次第にクラスの事について二人は話した。この学校においてのクラスの話題は、どうしてもSシステムに絡んだ、戦略的な話になりがちだ。それはこの二人も例外ではなく。
「何と言うか普通の学校だったら欠席者とか多そうなのに、流石にこの学校だとほとんどいないわよね。欠席がどれほど査定に影響するかはわからないけれど」
「そういえば、今日一人お休みの方がいたような?」
「ああ、真鍋ね。あいつは今日体調不良で休んでたから」
普段女子生徒の話をするときは、嬉々として語るリリィが苦々しい顔をしたのが気になって、どうかしたのかと尋ねるひよりに、
「私は真鍋嫌いだから」
と容赦のない言いざま。
「何かあったのですか?」
「あ、いや。えっと、ちょっと嫌なこと言われて」
手で顔を触れながら言うリリィ。それが嘘を吐く人間の動作であると、海外ミステリに親しんでいるひよりはすぐに分かった。
リリィは他人に何か言われても気にしない人だ。そして、ひよりは自身が真鍋によく思われていないことを知っていた。何となくリリィがどうして真鍋を苦手に思っているのか察して、灯のような僅かな熱がひよりの胸中に生じる。
それはあっという間に揺らいで見えなくなり、今はただ、下手な嘘を吐く親友に対する愛おしさが一杯になった。
「でも、確かにちょっと悪いいい方したわよね。真鍋……さんも、明日にはお腹の調子よくなって学校に来られるといいね」
そうにこやかに言うリリィに、ひよりが違和感を感じることはついぞなかった。
☆
ベッドから降りると、転がっていたビール缶を踏みつぶしてしまった。二日酔いで石のように重く感じられる頭を振って、リリィは水を飲む。念のために缶は冷蔵庫の奥に隠す。帰ってきたら表面をやすりで削るのを忘れないように、玄関に紙やすりを置く。
ついでに、使ったひまし油の余りの処分もしなければ。大した仕事ではないが、学校から帰って色々とやらなければならないというのは、ただでさえ憂鬱な朝だというのに、一層嫌な気になった。
寝間着を脱ぎ捨て一糸まとわぬ姿になると、リリィは鏡の前に立ち、自らの身体をじっくりと眺めた。
闇夜の如き黒髪と、暗い深海の底のように深い青の瞳。長く細い脚とはっきりと見えるくびれ、彫りの深い顔立ち。一瞥しただけでは日本人には見えないが、これでもクオーター。
こうして毎朝鏡の前に裸体を晒し、自らの身体を観察する習慣はもう五年ほど続いている。
本来の目的は、周りの人間と比べて特別な存在なのだと認識するためだった。容姿は誰よりも優れている。大人びた顔立ちと誰よりも女性らしい身体つきから、色濃く出た仏蘭西人の血が、周りの童顔な東洋人とは違うのだとリリィを満足させていた。
事実として、リリィは世界中を探したところで簡単には見つからないほど美しい少女だ。
同性からも羨まれる瑞々しく雪のように白い肌。浮かび上がる静脈でさえ不思議な官能美が感じられる。美貌において誰にも劣らないその事実は、幼き頃からリリィに並々ならぬ肯定感を与えてくれた。
それが試練となって襲い掛かってきたのは、リリィが自らの美しさを鏡で確認する習慣が出来てすぐの事だった。
第二次成長期を迎えたリリィは、誰よりも早く顕著にその肉体に変化が訪れていた。男が嫌いであったリリィだが、向けられる視線自体にはあまり悪い気がしなかった。体育の授業中、リリィに欲に満ちた視線を送り、淫猥な話題で騒ぐ男子生徒を周りの女子生徒は注意をして、励ましてくれて、それがリリィに心地の良い思いをさせてくれたからだ。もっと私を見てくれとさえ思った。そうすればリリィは周りから特別扱いをされるのだから。
事故に見せかけて胸をまさぐられたときに、リリィは人生で初めてショックで泣いた。嫌悪感と恐怖で感情が爆発した。男子生徒を突き飛ばして、動揺して回らない頭で思いつく限りの言葉を使い面罵する。
駆けつけてきた先生に男子生徒は怒られていたが、その男子生徒もリリィに負けないほどの猛烈な勢いで泣いて、
「事故であってワザとじゃない。俺の所為じゃない」
と説明し、結局これからは気を付けるようにと言われただけで済んだ。
けれど、教師が去ったときに見せたその男子生徒の表情がリリィに真実を語って見せたのだ。ショックも恐怖もかき消えて、嫌悪感と憎悪だけが残る。
その日男子生徒は家に帰らなかった為に、連絡網を通じて学校から行き先を知らないか尋ねられた。
心配だねと言う母にリリィは、その日あった出来事を話して「一生帰ってこなければいい」と泣きながら言う。それが自然だと思ったから。本心ではなかった。そのうち川の下流で引き揚げられるだろうことを知っていたから。昨日が大雨で、増水していて、本当に都合がよかった。
遺体が上がった時、まずリリィは自分が酷いことを言ったからこうなってしまったと激しく錯乱して見せた。リリィの母親はもちろん、遺体で見つかった男子生徒の両親までもがリリィの事を優しく励まして、親身になって同情してくれる。
「事故なんだから、あなたの所為じゃないの。気にしなくていいのよ」と。
高校生になったリリィが鏡で自らの身体を確認するのは、今でも自らの美しさに陶酔できるからだが、それに少しだけ別の理由も加わった。自分の敵となった愚かな人間の、その末期を思い返し、勝利の余韻に味わうのだ。
昔書いてた物を発掘した奴です。
これが『ようこそひより至上主義』のプロトタイプとかいう事実。
相違点としては、この作品が続いた場合ハーレム展開になります。
続きを書く可能性は低いですが。
良い子はひまし油盛ったらだめですよ。
万が一続いたら原作キャラ死亡とかいうよう実でほぼあり得ない狂気展開があるので、評価がよくてもたぶん続きません