狂華・黒百合狂い   作:nagai

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 続いてしまわれた。


二話:誘蛾遊友

 寮で生活し始めてから一月以上経つにもかかわらず、起きた時は施設にいるような錯覚を起こす。施設ではなるべくおとなしくしていた分、ちょっと溜まってしまっていたが、真鍋を痛めつけた事で少しだけ発散された。それでもまだ足りない。祖父母を刺して父の頭骨を陥没させ、その全てが母の責任になるようにありとあらゆる策謀を張り巡らせたあの時の高揚感を得るには、また同じことをするほかにない。

 

 いつものように鏡の前に立ち、今日は身体を撫でまわす。朝からあの瞬間のことを思い出してしまって、どうしようもなく高ぶってしまっている。胸に手が這えばその刺激と共に、ヒトの喉に刃物を突き刺した時の感触が蘇る。さらに刺激を求めて身体に触れ、今度は頭蓋骨が砕ける瞬間の、あの、他に例えようのない、腕を通り抜けて脳にまで衝撃と共に走った快感が、肉体の快感に混ざる。事故に見せかけるために少し背中を押した時と、精神的に追い込んで自死を選ばせた時とは、全く違うあの至福。直接手を下す瞬間の、あの全能感。何度絶頂に達しようともあの瞬間は、もう一度同じことをするのでなくては、ありえない。

 

 この高校で同じことをするのは簡単なことではない。退学に追い込むこと自体はそれほど難しいとは思えないし、とりあえず真鍋を次の試験で退学させるつもりである。誰かを退学させること自体は簡単だけれど、人間を殺すとなれば簡単にはいかないだろう。監視カメラが大量にこちらを睨むこの環境は、リリィにとってはあまり心地の良い場所とは言えない。

 

 

 

 今日は日曜日で学校は休みだが、別のクラスの女子生徒と遊びの約束が入っていた。Bクラスの一之瀬帆波と、Dクラスの櫛田桔梗。どちらもリリィの好みの娘で、それぞれ質の異なった友人関係を築けている。

 シャワーを浴び、準備を整えて家を出る。当然学校に行くのではないから私服を着る。リリィは流行の服を着ることを好む。周りの人間と違うことを望むリリィとしては意外なことのようだが、周りと同じ格好をしているだけに、リリィの素材の良さに誰も勝てず、却って周りとは違うことを見せつけることが出来る。

 

 

 

 

 

 集合時間よりも随分と早くついてしまったが、すでにDクラスの桔梗はそこで待っていた。端末を見ることもなくニコニコとした表情で待っている桔梗は、いかにもこれから友達と遊ぶのが楽しみで仕方がないように見える。桔梗は近づいてくるリリィに気が付くと、その表情を維持したまま、普段は絶対に人に聞かせない素の声を出した。

 

「何点?」

「七十五点。赤点ギリギリね。けれど初めて会った時の気持ちの悪い顔に比べたら幾分か可愛くなったわ」

「……」

 

 リリィの言葉を素直に受けて、桔梗は手鏡で自らの顔を確認している。

 

「やっぱりわかんないや」

「それでも分かる人はいるのだし、気を付けるに越したことは無いわ」

 

 言いながらリリィは桔梗の顔に手を這わせて、唇を指で優しく撫でた。薄くしか化粧をしていない桔梗の唇は、それでも瑞々しい紅色をしていて、どうにか永久に保存しておきたいと思うほどだ。

 

「……私にその気はないんだけど」

「あら? 私だってこう見えて一途だから、あなたと特別な関係になろうなんて発想はないわよ。まあ、たった今言ったばかりだけれど、会ったばかりの頃に比べて本当に可愛くなったから、ついね」

「……そんなに最初の私おかしかったの?」

 

 桔梗の声色には少しだけ怒りが混じっていたが、それは不安をかき消すためのものであると、リリィには手に取るように分かった。けれど、それはリリィだから分かった事である。

 桔梗の笑顔が不自然だと気づけたのも、それがリリィだったからだ。

 

「本心の表情は左右対称になるのよ。注意深い人間なら気づくかもしれないわ」

「だから演じるときは本心から、だったよね」

 

 いつの間にやら、普段他人に対して見せる笑顔を浮かべて、リリィと会話を続ける桔梗。内心で八十五点と採点してから。

 

「そう。嘘を吐くにはまずは味方からという言葉があるでしょう? あれと同じ。自分も味方でしょう? 自分自身すら騙せない嘘は、他人をだませないのよ。悲しい演技をするときは、本気で悲しむ。喜ぶ演技をするときは、心の底から喜ぶ」

「うん。慣れたらすぐにできるようになりそう。ああ、そうだ。リリィさんなら何かいい方法知らない?」

 

 リリィの言葉を聞きながら、百面相して見せる桔梗の表情は、殆どリリィからしても演技かどうかわからないほどの精度を誇っていた。それをまた普段通りの笑みに戻すなり、桔梗はリリィに突然そんなことを聞いてくる。

 

「いい方法? 何のかしら?」

「簡単にクラスメイトを退学させる方法」

「あらあら。物騒ね」

「本性知られちゃって。困っちゃってたんだけど、リリィさんなら何かいい方法知っているかもって思ったんだ。一応口封じはしたつもりだけど、もし退学させることが出来たら安心なんだよね」

 

 可愛らしい微笑みで、恐ろしいことを言う桔梗に、リリィは身体が火照るのを抑えられない。これまでにこれほど苛烈な少女に出会ったことがない。惜しむらくは、常識的な考えが捨てられていないところだろうか。

 そこまで本性を知られたくないのならば、退学させたときに暴露されたのならばどうするつもりなのだろうか。確かに普段の桔梗しか知らない人は信じないだろうが、それでも汚点が出来ることに変わりはないのだ。そんなことは許されることではないだろうに。

 

「そうね」

 

 リリィは考えるふりをしながら時計を確認した。まだ待ち合わせの時間まで三十分以上もある。けれど帆波も時間よりは早く来るだろうから、時間があるとは言い難い。

 うまく桔梗を追い込んでやれば、その本性を知ったクラスメイトというのを殺させることも可能だろうか。不可能ではないだろうが、誰か知りも知らない人を消しても面白くないし、そもそもその本性を知った相手というのが実在するかもわからない。情報を集める必要がある。計算を進めるにはまだ何も数字が見えていない。この場で即座にリリィが言えることは無難な事しかなかった。

 

「なるべくその相手の情報を集める事ね。それが分からないことにはどうしようもないわ。それこそ、成績が悪いのならば無理に動かなくて勝手に消えていってくれるかもしれないでしょう?」

「成績は……ごく普通だったかな。地味な感じの人で、特に目立ったところもないね」

「それはつまり、何も知らないってことでしょ? 探りを入れたらどうかしら? さっき口封じを済ませているって言ってたから、多少相手から不審がられても問題ないのではないかしら? ちなみにどうやって口封じをしたの?」

「え? あ、えっと。それは、胸を触らせて指紋を」

「……吐きそう。それで口封じになるってことは、相手は男でしょう? 想像しただけで嫌な気分になるわ」

 

 しかし、性被害を受けたと主張したいのならば、その相談はなるべく早くしなければ信憑性が損なわれる。布製品に付けられた指紋の検出も確実とは言い難いし、日がたつごとに証拠が消えていく。つまり桔梗の話が本当だとして、まったく口封じになっていない。胸の揉まれ損と言ったところか。

 

「あの、何してんの」

 

 低い声で桔梗が言うので、何事かとリリィは小首をかしげるが、その理由にはすぐに気が付いた。無意識のうちに手が桔梗の胸に伸びて、その柔らかさを勝手に楽しんでいた。

 

「……こんな風に揉ませたとして。布から指紋は取れるけれど、紙に付着した指紋とかと違って長持ちしないわ。それに、仮に今から半年後にあなたの秘密が暴露されそうになった時に、教員にあなたが性被害に遭ったと訴えかけても、どうしてすぐに言わなかったんだと指摘を喰らうわ。あなたの秘密を知っていることと合わせて、付き合っていたのに振られてしまったあなたが腹いせをしていると捉えられるかも」

「あの、揉みながら言うのやめてくれる?」

 

 

 

 言いながらリリィは方針を一つ決める。桔梗には甘いところがいっぱいあるが、精神的に追い込まれた人間の行動は常軌を逸する。人一人くらいは消し去って見せるかもしれない。それに乗ずれば、一人か二人くらい、桔梗の犯行に見せかけられるかもしれない。

 まだできるかどうかも分からないところだが、桔梗に人を殺させることが出来たのならば、リリィの今後の遊びの幅が広がりを見せるはずだ。

 桔梗には協力してもらおう。こちらが表情や立ち回りについてアドバイスをあげているだけ、代価は支払ってもらわねばならないのだから。




 アニメが始まったら更新しにくいので、今のうちに。
 ハーレムと原作キャラ死亡はその時が近くなればタグに入れておきます。ストーカーさんを原作キャラと呼んでいいのか悩ましい(予告)。

 次回は、七瀬翼の小説を書くので、それを書き終えてから書きます。今年中に一話くらいは更新します。
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