シン達はありとあらゆる実験を施され、地獄のような拘束が終了したのは夜を迎えた頃であった。
あちこちに注射器や実験器具が散乱し、流石のヴェノムも沈黙してしまった。
永琳はカルテを見ながらニコニコホクホクしており、充分実験し尽くし、自身の知識欲を存分に満たせたのだろうと感じさせる。
対照的にシン達は生気がなくなってしまい、椅子に背をもたれながら、暫くそこで精神を休ませていた。
やがて立ち上がり、出口を向かう。
「…これで貸し借り無しだ、じゃあな」
「…」
「また来てね〜♪」
「二度と来るか」
ヴェノムは日が斜陽に移ろうというところでうんともすんとも言わなくなり、別れのときでも沈黙を貫いていた、哀れなり。
シンはシンで永琳の返事に悪態を吐き、殺風景な廊下を抜けて、外へ出た。
地上は月光とネオンに照らされ、何故だか満点の星空が夜空を彩っていた。
恐らく科学の力だろうか、ネオン輝く都市には星空は現れない筈だが…そう考えたが、夜風が頬を撫でたため、思考が霧散する。
シンは深いことは考えず、ビルの間に佇む星空を眺めながら、ゆっくりと道場へ戻るーーー筈だった。
元気を取り戻したヴェノムが驚きの提案をした。
< 折角だ、ビルの上を行こうぜ >
「…いいぜ、ストレス発散といこうか」
体をビルのほうに向き、ヴェノムを纏う。
漆黒が体を侵食し、マスクのように顔が飲み込まれ、体はマッシブになる。
体が歓喜するように震え、夜に向かって咆哮した。
「オ"オ"ォ"ォォ"ォオ"オ"オ!!!!」
即座にコンクリートにヒビを入れるほど地面を踏み抜き、大砲のように数十メートル飛ぶ。
地に落下しようというところでビルの壁に爪を立て、バキバキと音を立てながら登る。
ビルに鋭利な爪ののような跡が残るが知ったこっちゃない。
屋上に手が届き、勢い良く天に飛び出した。
空に鎮座する月をバックに悪魔があまねくネオンが包む街を睥睨する。
見つけた、帰るべき道場だ。
ビルの屋上に着地し、駆け出した。
ビルとビルを縫うように飛び走り、肩で風を切る。
久々にヴェノムに纏ったからか、気分が良い。
恐るべきスピードで移動し、次のビルへ飛び移るーーーところであるミスを犯した。
死角となっていた足元の配管につまづいてしまったのだ。
あっ、と思った次の瞬間には天地が逆転していた。
つまり、頭から落下したのである。
普段なら避けれた脅威だったが、気分が高揚したからか、注意散漫になっていたようだ。
何とか空中で体勢を立て直し、決して小さくない衝撃音と共に路地裏に着地した、地面に蜘蛛の巣状に亀裂が入ったが。
路地裏だったためか、大勢の人には見られなかったようだ。
しかし運悪く、空色の髪をしたウサギ少女ー路地裏を近道として利用したのだろうーが、突然空から現れたシン達を目撃したようで、驚きでへにゃりと座り込んだ。
「おっと、だいじょ…」
「ぴぎゃああぁぁぁああああ!?!?!?」
倒れ込んだウサギ少女にシン達は手を差し伸べたが、ウサギ少女は泣き出し、奇声…いや悲鳴を上げながら脱兎の如く逃げ出してしまった。
当たり前だ、空から化け物が現れ、その化け物があたかも自分を喰らおうと手を差し伸べたのだから。
シン達は悲鳴を聞いた通り掛かりの人々が現場に集まるのを察して、壁を伝って屋上に逃げ出した。
人が集まりだし、蜘蛛の巣状にヒビ割れた地面を見て焦り、青褪めている。
(危なかった、あのままあそこにいたら化け物認定されるところだった)
<元はと言えばお前が足を引っ掛けたのが原因だろう?>
(うっせぇ)
慌てる人々を背にシン達は去って行った。
数分後、シン達は道場に到着し、例の薬ー仮に同化薬と呼ぶーを保管し、何事を無かったようにベットに沈んだのだった。
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朝、シン達は柔らかな日差しを感じて起床した。
寝ぼけ眼を擦りながら同化薬を手に取り、ラベルに書かれた効果を確認する。
細胞同士の融和による人外化、それにあたって不老化、身体の流動化と固形化が自由自在に。
注意書には熱、音波耐性は付かないのであしからず、と記載されている。
文字通り人を止める覚悟が必要になるが、まだ決断の時ではない。
時刻は七時五十分、同火薬を机を上に置き、軽い準備をした後に道場へ向かった。
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いつも通り外周を走り終わり、いざ剣術訓練をするところが、玄楽がメルヘンチックなことを言い出した。
「よし、全員三周したな!道場に行った後は
浮立つ門下生達、まるでこのために修行を行ったと言わんばかりの騒ぎようだった。
反対にシン達は頭の中がハテナマークで埋め尽くされていた。
霊力とは何だ?
字面からして何かしらのパワーだろうか、そう思案していたら、玄楽が指を鳴らしてシン達を道場へ瞬間移動させた。
この力も霊力なのだろうか、また思考に耽っていると、玄楽が口を開いた。
「知らない奴のために一応説明するが、霊力とは人間が内に持っている力だ!妖怪なら妖力や魔力、神様なら神力と言ったように名称が分けられている!しかし、その力の本質はあまり変わらない!普通に暮らしていらばほぼ実感が湧かないが…」
玄楽が霊力について説明し、最後に人差し指を立て、その先に光の球を出現させた。
「訓練すれば、こんなことも出来る」
光球を玄楽の頭の上で回転させ、パッ、と消した。
そのデモンストレーションのような解説を前に門下生が目を煌めかせる。
無論、シンもその中の一人であり、戦術の幅を広げられることに歓喜した。
しかし、肝心の霊力の操り方が分からない。
それを聞こうとする前に、玄楽が言った。
「霊力を操る、又は発現する方法…それはただひたすらにイメージトレーニングを続けることだ!詳しく言うと己の心の中の霊力を知覚し、それを外に出す…これが出来るまで瞑想してろ!」
ぶっきらぼうに玄楽は言い放ち、その言葉を聞いた門下生は一人、また一人と霊力を感じるため、意識を深くへ落としていった。
依姫やシンも瞑想を始める。
道場はこれまでにないほど静寂に満ち、それがまた彼らの集中を深くしていった。
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最初に声を上げたのは案の定、依姫だった。
何かを感じ取ったように肩を震わせ、霊力の塊を掌から放出する。
依姫に感化されたのか、次々と霊力の顕現に成功する者が現れ始め、遂に成功していない者はシンだけになってしまった。
シンはどれだけ瞑想しても、意識を集中させても、その暗闇から光を見出すことは出来ず、周囲から一人霊力を感じることが出来ていないと罵倒される声にも気付かないほど集中した。
しかし…
シンはヴェノムに問う。
(なぁ、ヴェノム…俺にそんな力なんてあるのか…?)
< 正直なことを言うと…
簡単な話だ。
才能がない、ただそれだけだった。
また依姫との差が開き、愕然とする。
勝てるのはマラソンだけ、勝負に善戦はしても勝てはしない。
ならば…ならば俺に何が出来る…ッ!?
そうやって黒い感情が湧き出るのを感じ、激しく自己嫌悪する。
顔を俯かせるシンの瞳に誰かの顔が映る。
依姫だった。
俺に好意を抱く奴、天才に嫉妬を抱く俺、どれだけ頑張っても手の届かない虚しさ、常に先をいかれる焦り、どうしようもない不感情。
溢れ出る思いを溜息として流し、やはり天才に勝とうなどという考えは、無駄だったのだろうか、とシンは思った。
しかしシンの愚痴を黙って聞いていたヴェノムが爆発したように心の中で口を開いた。
< ふざけんじゃねぇッ!!!何が無駄だッ!!お前は何のために修行した!?お前が限界を超えて挑んだ者はなんだ!? >
(依姫だ…)
< そうだろう!?お前が無駄だと思った試合も!技術が無くても食らい付いた勝負も!!限界のその先まで行ったあのマラソンも!!無駄な物じゃねぇッ!! >
(けど…けどよ、勝てねぇんだ…ッ!)
ヴェノムが発破を掛け、いつしか言葉にした台詞を吐いた。
< 言っただろう!!俺とお前が組めば
(そうか…そうだ…!俺達は負けねぇ…ッ!)
< そうだッ!!例えお前が無駄だと言っても、俺が声高らかに無駄にならないと言ってやろう!!シン!!それにお前は言っていただろう!“勝てないなら、次勝てばいい“と!!勝つまでやれッ!!勝ってあの女の顔をくしゃくしゃにしてやれッ!! >
(…ッ!!…ありがとな、ヴェノム…)
ヴェノムがヴェノムらしく無い。
心の靄が消えたような感覚だ。
…そうさ、今負けても、次勝てばいい、次勝てないのなら、その次に勝てばいい。
そうして得た一勝は千金に勝る価値がある…ッ!俺の努力は無駄では無かったと!証明してくれる!!
少し、涙が滲んでしまったが、シンは立ち上がり、依姫に向かって宣誓した。
「依姫ッ!いつかお前を倒す!!霊力が無くても、お前を捻じ伏せてやるッ!!覚悟しておけ!!!」
周囲がなんだとばかりに注目し、依姫も目を見開いていたが、すぐに返事を出した。
「受けて立ちましょうッ!!」
こうして、シン達は依姫に勝つ、という意志を固め、日々の修行に没頭して行った。
依姫を超える日は近いだろうか…
ご拝読、ありがとうなのぜ。
シン達、臭いですね、これは青臭い…のぜ。
詰め込み過ぎましたが、許して下さいなのぜ。
登場人物紹介っている?
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やってくれ 必要だろ(いる)
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それは雑魚の思考だ(いらない)