シン達が決意を固め、数週間が経った。
剣術訓練ではぶつかり合い、敗北するが、確かに勝利へ近づいていく感覚があった。
霊力訓練では霊力を行使する依姫に勝負を挑んだ。
霊力とは便利な物のようで、牽制の霊力弾、身体強化、五感強化など、使用方法は多岐に及んだ。
流石の玄楽もハンデが大きいと判断したのか、シンにヴェノム無しの身体神経から、ヴェノム有りの身体神経にすることを許可した、流石にヴェノムを纏うことは許されなかったが。
それでも勝つことを叶わなかった。
最初は接近すら許されず、一方的に霊力弾で打ちのめされたが、何度も試合の回数を重ねると、霊力弾を掻い潜り、依姫の懐へ潜り込むことが出来るようになった。
しかしいざ剣戟に持ち込もうと思っても、身体強化された依姫の一撃に鍔迫り合いすらもマトモに出来ず、叩きのめされた。
そして数十戦後、そのときが訪れた。
「貰ったァああッ!!!」
何度も打ちのめされ、叩きのめされたシンは僅かながらも膂力を増していき、依姫に匹敵する力を手に入れたのだ。
幾度も敗れた鍔迫り合いに辛勝し、体勢の崩れた依姫目掛けて、岩すら粉砕するであろう力で竹刀を振り落とす。
しかし相手は依姫、体勢を崩した状態で身を捻ってシンの一撃を避けて見せた。
渾身の力だったため、回避にカバーすることが出来ず、竹刀は道場の床を激しく穿つ。
「あがァ!?」
ガラ空きとなったシンの横腹に依姫の竹刀が叩き込まれ、シンの体が横にくの字となって吹き飛ばされた。
隣で打ち合いをしていた男女に突っ込んでしまい、一言謝ってから諦めずにまた依姫と再戦する。
依姫は体力切れ、もしくは霊力切れを起こさず、そこでも才能を感じられる。
…結果的にまた敗北してしまったが、余り悔しくはない。
なぜなら、成長を感じることが出来るからだ。
手も足も出ない依姫に、ついさっき手が届いた、これほど嬉しいことはない。
「もっとだ…ッ!もっと戦えッ!」
依姫は竹刀を構えることで答えを示し、シンも依姫に向かって飛び出した。
◆◆
数ヶ月が経った。
他の門下生は敵ではないほど成長し、自分でも驚くほどの成長スピードだとも思う。
依然勝利をもぎ取ることは出来ていないが、かなり近付いている。
依姫との戦いで何度も勝利のチャンスは訪れているが、それでもあと一歩が届かない。
そんなとき、シンはあることを思いつき、解散する前に依姫を呼び止め、誰も居なくなったらここに来るように言った。
戦うためである。
しかし、本気で。
シンはヴェノムを纏い、依姫は持っているだろう能力を使用してぶつかり合い、あと一歩を踏み越える。
それがシンの狙いだった。
「依姫、一時間後ここに来い、準備もしておけ」
「…!はい…」
依姫は顔を赤らめ、目を逸らしながら言った。
俺は承諾の意を得ることが出来、ニヤリと笑って道場を去る。
しかし、何故顔を赤らめる必要があったのだろうか?
気分でも高揚したんだろうか…?
◆◆
一時間が過ぎ、二本の木刀のうちの一本を床に置く。
何故木刀か、それは刀や剣と同じように重く、実戦に近い形で運用することが出来るからである。
そして、扉が開いた。
私服姿の依姫である、扉の奥から光が差し込み、オレンジ色の後光が依姫を照らしている。
依姫は緊張したような顔であり、冷や汗を掻きながらこちらへ歩んだ。
「依姫…!」
「ひゃいっ!?」
依姫の顔が紅潮し、受験の合格を祈る学生のように目を瞑って返事を待っている。
「…俺と本気の勝負をしろッ!!」
「はいっ!よろこ………へ?」
静寂がその場を支配した。
依姫は目をこれでもかと見開き、何を勘違いしているのか知らないが、シンに何を言ったのか尋ねた。
「……今…なんとおっしゃいましたか?」
「だから、俺と勝負しろ、本気で、全身全霊で」
「今度こそ叩き潰してやるよ!!」
依姫は深いため息と共に小さく呟いた。
「えぇ、わかってましたよ…どうせそんなことだろうと思っていました…はあ…」
小声でも聞き取れる。
まさか告白でもされると思ったのだろうか…一時間前の依姫の紅潮や、今の言葉…間違いない、依姫はそう勘違いしていた。
どこか居た堪れない依姫は強引に地面の木刀を手に取り、鬱憤を吐き出すように言った。
「えぇ!やりますよッ!受けて立ちますよッ!!」
「もう一度言おう…本気で来い!能力も霊力も使ってッ!どちらかが気絶し、敗れるまで、全身全霊で来いッ!!」
シンと依姫は木刀を構え、開戦の時を待つ。
合図などいらない、必要なのは絶対に勝つという覚悟。
やがてキシリ、と、床の木材の軋む音がした。
それが勝負の始まりだった。
両者共々走り合い、雄叫びを上げながら意識を刈り取らんと木刀を振るう。
両者の剣は吸い込まれるように惹かれ合い…爆音、木刀を叩き合ったとは思えない音が響いた。
数ヶ月の訓練で既に霊力強化の依姫に匹敵する膂力を持ったシンは、鍔迫り合いに軽く勝利し、依姫を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた依姫は空中でクルリと回転して、着地し、その身からオーラのような何かが噴き出るのを感じた。
霊力か…!そう考えた時には依姫の姿は掻き消えており、身体中に衝撃が走った。
痛みに耐えながら、依姫が圧倒的な速さにヒットアンドウェイを繰り返していると気づいたシンはその身をヴェノムを纏わせ、駒のように身体中から鈍器を生やして回転した。
その攻撃は風を巻き込み、嵐のような姿となって依姫を撃墜せんとする。
依姫はこの攻撃に不意を突かれたのか、減速せず、マトモに攻撃の嵐を受けて道場の壁に激突した。
壁は隕石が墜落した地面のように凹み、頭から血を流した依姫が這い出て来た。
「こうやって対面するのも久しぶりだなぁ?えぇ?」
「…強いですね…ッ!」
「そう思うなら能力を使えッ!どうせ持っているんだろう!?」
依姫はクスリと笑った。
こんな会話してないでさっさと戦いに身を投じてしまいたいが、さっきの回転攻撃で思ったより体力を消耗したらしい。
つまり、この会話は向こうにとってもこちらにとっても休憩のような物だ。
依姫は続けて言う。
「えぇ…勿論持っています…!とびきりの
依姫は叫ぶように言い、木刀を地面に突き刺した。
シンは能力の発動を警戒し、注意を充満させる。
「祇園様の力!!」
依姫は宣誓し、シン達の足元から檻のように木剣が飛び出してきた。
しかし、攻撃は加えられない、木剣の檻を破壊しようと試みると、依姫が言った。
「下手に動くと祇園様の怒りに触れますよ」
「上等だァ!!」
動かないと確実に勝利は訪れないので、派手に木剣を破壊する。
すると、地面から莫大な量の木剣が湧き出て、その切っ先をシン達の方に向けた。
その数、軽く五百以上。
(やっちまったかもな…だが!)
「思い知りなさい!祇園様の怒りをッ!!」
「全て受け止めてやるよぉオッ!!!」
木剣全てがシン達向かって発射され、初めはシン達も肥大化した腕や、戦斧で弾いていたが、津波とも呼べる剣の濁流に押し流され、今度はシン達が道場の壁を凹ませた。
しかし、その衝撃は依姫の物と比ではなく、轟音と巨大なヒビを壁に入れることになった。
壁に押し付けられても止まない木剣の濁流に骨がミシミシと唸るが、次第に慣れる。状況に
「ハハハハハハハ!!!はぁァァア!!!!」
この命の危機とも呼べる激戦がどうしようもなく楽しく、雄叫びを上げて黒い腕を濁流に殴り付けた。
攻撃に僅かに隙間が生まれ、渾身の力を振り絞って突進する。
モロに攻撃を喰らうが、足は止めずに依姫を眼光で射抜いた。
木剣のストックも切れた頃、シン達は依姫の目の前まで迫っていた。
依姫は能力の代償か、動こうとせず、玉の汗をかいており、ヴェノムを纏ったまま木刀で斬った…いや、殴打と言った方が正しいか。
ようやく体が動いたのか、転がりながら受け身をとり、立ち上がる、依姫は既にフラフラだ。
依姫は疲労困憊、こちらは骨をいくつか壊され、疲労も溜まっているがまだまだ動ける、遂に勝利が見えてきた。
しかし、依姫がこちらにとって最悪の一手を打って出た。
「愛宕様の…
依姫の右腕が炎に包まれ、その炎が木刀に移る。
シン達は道場に燃え移らないことや、木刀が炭と化さないことに疑問を抱くが、それどころでは無かった。
「炎…だと…!?」
< マズいぞ…これは…ッ!! >
決戦の刻は近い。
ご拝読、ありがとうございますなのぜ。
誰も居ない道場で二人、何も起きない筈がなく…
ところで何で依姫は何を勘違いしてたのぜ?(すっとぼけ)
登場人物紹介っている?
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やってくれ 必要だろ(いる)
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それは雑魚の思考だ(いらない)