東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくりしていってね!


第十三話 綿月依姫の独白

 冷たい空気が部屋を包む早朝、眉間に深い皺を刻みながら、シンの目が開かれる。

 理由は単純に重い筋肉痛。

 しかし心中に渦巻く想いは、シンに二度寝を許さず、彼は顔を曇らせながら起きた。

 

 その想いの名は、敗北感。

 

「…負けたか…」

 

 燃える拳に頬を殴られてから意識が無い。

 つまり、負けた、ということだろう。

 

「何が駄目だったんだろうな…ヴェノム…」

<…お前が居合を切り抜けた時に油断したこと、何より依姫の覚悟を侮ったことだろう>

「やっぱりか…」

 

 何となく白い天井を仰ぐ。

 そうしなければ目から何かが溢れ出しそうだった。

 そういえば、シンは道場で倒れた筈だ、どうして部屋にいるのだろう。

 そう思ったとき、ヴェノムが藪から棒にシンへ言った。

 

お前が倒れたときな、豊姫と玄楽が出て来て、玄楽がお前をここに運んだんだ…それでな、三ヶ月後に軍の試験があってリベンジしてみろってことを言ってたぜ

「軍試験…?なんだ?そこでもキャットファイト出来るのか?」

 

 殺し合いに匹敵する試合はキャットファイトとは言わない、が、しかし、シンの心中は期待に溢れていた。

 依姫との勝負で得たものは、依姫と互角に近い、という事実。

 負けてしまった悔しさは残るが、リベンジは夢では無いという希望、そしてまたあの勝負が出来ると思うと、心が浮だった。

 

「そうと解れば、修行だ!行くぞ!」

<待てッ!疲れが残っているんだから、ゆっくり行け馬鹿野郎!!>

 

 シンは筋肉痛を無視してベットから跳ね起き、道場へ向かった。

 

<そもそもまだ早朝だッ!大馬鹿野郎ッ!>

「あっ…」

 

 さて、本当に彼らは依姫を超えることが出来るのだろうか?

 

◆◆

 

 私の名前は綿月依姫、姉さんと一緒に道場へ通っていて、いずれ妖怪から人々を守る軍隊員になる少女です。

 …姉さんは殆ど来ないけど。

 私は幼い頃から軍隊員になりたいと思っていました、何故かは自分でもよく分かっていません。

 

 物心がついた時から、漠然と軍人になりたいと思っていたのです。

 恐らく人を守れる…お父様の様な人になりたかったからでしょうか。

 姉さんは、私が優しくて人一倍正義感か強いから、と、私を頭を撫でて、褒めてくれました。

 

 その時の頭を撫でる掌の感触は、暖かくて、安心出来て…

 私を産んですぐ亡くなったと言うお母様が生きていらしたら、きっとこんな感じだったのでしょう。

 

 けれど、お父様は小さかった私を気遣い、私が成長し、十五になる頃に訓練は行うと言い、私はその齢になるまでそわそわと待っていたものです。

 

 そして一五になり、ハッピーバースデーを祝った翌日に、私はすぐさま訓練生へとなりました。

 訓練生の募集をとうに終わっていた、秋の話です。

 

 最初は仲間と競い合い、切磋琢磨するように走ったり、素振りをしたり、剣術訓練を行なったり…さまざまな基礎訓練を行っていました。

 そして、私には才能があるようで、日が経つにつれ、他の仲間を圧倒するように成長していきました。

 私は喜びました、これで皆を守れる人になれる、と。

 

 しかし、ある時から仲間が私への見る目を変えました。

 皆が時々暗い目で私を見るのです。

 時が経つにつれ、目の暗さはどんどん深くなっていきました。

 

 その時は私は口下手であまり人の気持ちを理解することが出来なかったので、何故私をそんな目で見るのか、と疑問に思いました。

 しかし、今なら解ります……嫉妬、なのでしょう。

 

 曰く、途中から参入した、ぽっと出の小娘。

 曰く、所詮は親の、お父様の権力を使い、興味本位で入隊したチビ助。

 

 皆さんだって、最初は馬鹿にする様な視線を向けていたのかも知れません。

 それがすぐさま自分の実力に追い付き、果ては抜き去ってしまう。

 特にこれといった親しい友達が居たわけではない私に、庇ってくれる人は居らず、簡単に私は避けられる様になったのです。

 

 視線は段々攻撃的になり、一六程の幼い私は余裕が無くなっていました。

 自分の責任だと考え、お父様にも、姉さんにも相談せず。

 

 もっと練習して強くなれば、皆の視線は優しくなるんだろうか…

 そんなことを考えながらいつも訓練を続けていました。

 最早、私には人々を守る、なんて将来の夢は無く、どうすれば皆んなが私と仲良くしてくれるか、そう考えに耽っていました。

 

 そんな余裕を無くしていたある日、私に転機が訪れました。

 

 突然、黒い服を纏った青年が道場へ入って来たのです。

 その青年は暫く扉の前で突っ立って私達を観察している様でした。

 最初は気にはなりませんでしたが、私が訓練している時にジッと、私のことを青年は見ているようでした。

 

 当時視線に敏感になっていた私は、その青年がどうしようもなく鬱陶しく思ってしまい、よくも考えず、試合に負けたら二度と道場に近寄るなと、一方的に約束を押し付けてしまいました。

 今考えても恥ずかしい限りです。

 

 しかし、その青年との試合が私を変えました。

 青年が黒くなり、驚きはしたものも勝負は私の優勢で進みました。

 途中で青年が奇策を講じましたが、私は容赦なくそれを破り、青年に勝利する———筈でした。

 

 青年はボロボロの状態で立ち上がり、生身で私に掛かってきました。

 意味がわかりませんでした。

 そうまでして勝利したい理由がわかりませんでした。

 

 押し寄せる感情に混乱した私は、彼に問いただします。

 何故そこまでして立ち上がるのか?

 彼はなんとこう答えました。

 勝ちたいから、と。

 

 真っ直ぐな瞳で私を見る彼に、私は心臓の音を劇的に加速させながらも、更に疑問を感じました。

 その一心で、勝ちたいというだけでそこまで頑張れるのか。

 その想いだけで、ここまでの熱さを噴き出すのか、と。

 

 そこからは良く覚えていません。

 ただ我武者羅に剣を振るい、彼を追い詰めました。

 しかし、唯一鮮明に覚えていることがあります。

 

 私が最後の一発を放った後の、彼の執念の一撃。

 その一撃が結果を振るうことはありませんでしたが、その時の彼は、今でも鮮明に思い出せます。

 その時の気迫は、恐らく一生忘れないでしょう。

 当時、私の網膜には彼が人としての輪郭ではなく、燃え上がる炎の様に荒々しく、危険的な雰囲気を纏った化け物のように映りました。

 まるで、蠱惑するかの様に。

 

 その光景は私の瞳に、脳に、深く刻み込まれ、熱く焼き付きました。

 恐ろしい貌で、同時に()()()、その目は私だけを見ていました。

 

 彼を倒した後、何となく彼を担ぎ、空いている部屋に寝かせました。

 自分が何故こんな事をしているのか、理解出来ずに、寝かしつけた彼の顔を、何分を見ていました。

 

 その時、私はいったいどんな顔をしていたのでしょうか。

 

 その後、お父様から彼のことを聞いて、自分の行いがとても恥ずかしく感じました。

 

 その瞬間からでしょうか、気付けば私は彼に惹かれ始めていました。

 

 彼はただ一人で私に挑み、諦めず、挫けなかった。

 彼だけが訓練の中で私を暗い目で見なかった。

 

 その感情を好意と気付くまでさほど時間は掛かりませんでした。

 

 彼、シンさんは最初の頃は、剣術が下手で私には足元にも及びませんでした。

 ですが、何千、何万と勝負を繰り返す内に彼は破竹の勢いで成長しました。

 今では剣技こそ私に劣りますが、膂力や体力は完全に彼が上でしょう。

 

 私に挑む人は、お父様が見ている時以外は誰も居なかったため—恐らく、お父様への外面をよくしようとしていたのでしょう—彼が私に挑む時が、訓練の中で私の一番の楽しみでもありました。

 

 霊力を手に入れた時でも、私に食らいつき、いつ負けてもおかしく無い勝負を繰り返しました。

 私はそんな彼の姿に憧れも好意を抱きました。

 その不屈の闘志(負けず嫌い)に。

 

 そして今日、彼から一時間後に来い、との要求を受けました。

 私はそのとき、完全に告白されると思っていました。

 何度を夢想したこの刻。

 顔が赤らむのを必死で隠し、彼が幻滅しないように精一杯おめかしをしました。

 

 心臓が未だかつて無いほど響いたのをよく覚えています。

 緊張しながら道場に入り、顔がこわばらないように平静を保ちました。

 いざ彼の言葉を待つと、信じられないことを言いました。

 

 ー本気で勝負しろー

 

 理解出来ず、少しの間、私は呆けました。

 言葉が漏れそうになって、危うく唇の噛んで抑えました。

 

 私は全く想像しなかった展開に肩を落とし、同時に彼らしいとも思いました。

 告白だなんて勘違いした私自身は、途轍もなく恥ずかしかった、とも。

 

 勝負は苛烈を極めました。

 何かが違っていたら、それこそ私が限界を超えたという理由で諦めでもしたら、確実に負けていたでしょう。

 

 意識が落ちた事に気付いた時には、既に私の部屋のベッドでした。

 私が、勝った。

 激戦を極めた勝負に勝ち、実感が沸々と湧きました。

 感慨深くもありました、共に修行した彼がもう私と同じ強さまで至っている事にも。

 

 そんな時、ドアがガチャリと開き、姉さんが現れました。

 

「目が覚めた?依姫、体の調子は?」

「えぇ、若干怠いですが、大丈夫です」

「よかったわ〜、依姫が神降ろしを何回も成功させるなんて…お姉ちゃん嬉しいわ!」

 

 …え?なんで姉さんが知っているの?

 私はその旨を姉さんに話しました。

 

「えぇ、ずっと覗いていたわ、お父様と一緒に」

 

 私は顔が熱くなっていくのを感じました。

 

「まさか…最初から…?」

 

 私が危惧しているのは、そう、告白と勘違いしている私を見られていないかです。

 しかし、現実は非情でした。

 

「ん〜♪どうでしょう〜♪」

「ちょっと!姉さん!嘘と言ってくださいッ!それか私を殺してくださいッ!」

 

 にまーと持ち上がる姉さんの頬。

 

 姉さんが楽しそうに話をはぐらかすのはいつも何かを知っているときです、つまりバレている…姉さん、そして、よりによってお父様にも…

 私は顔から湯気が出る程上気し、暫くして青くなりました。

 恥ずかしさで死にそうです。

 

「どんな顔してお父様に会えば…!」

「プクッ!ククッ!あはははッ!耐えられないわ!何その顔ッ!あははっ!心配しなくてもお父様は依姫の一世一代の大勝負(笑)に出るような顔を見て遠い目をしていたわよ!あはははっ!!」

「うわぁぁああああっ!!」

 

 姉さんは一世一代の大勝負の部分を強調して言いました。

 どうやら全て見られていたようでした。

 私は枕に顔を埋めて現実逃避をし、姉さんの笑い声をひたすらに無視しました。

 シンさんにもどんな顔すれば…

 せめて彼には告白されるつもりだったことがバレていないと祈りつつ、逃げるように道場へ向かいました。

 朝練をして、気を落ち着かせるためです。

 

「依姫〜♪気をつけるのよ〜、プククッ…」

 

 姉さんはまだ笑い悶えている。

 いつかお仕置きしてやる、私はそう誓ったのでした。




ヒロインのヴェノム(&シン)と依姫が戦うからキャットファイトだぜ。
異論は認めないぜ。

…むらむらするのぜ、R-18版小説がみてぇのぜ…そうだ、奴隷!書け!!
という訳で本編更新は三日ほどお待ちくださいのぜ!

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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