東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくりしていってね♡


第十五話 軍来祭 初戦

 司会が軽い紹介を挟み、勝負のコングは鳴った。

 第一試合は漢の殴り合いと言ったような体裁を示し、どちらも一歩も引かず、一進一退の激しい殴り合いの末にどしゃりと崩れ落ちた者、満身創痍ながらも片腕を上げて勝利を宣言した者両方に拍手喝采が送られた。

 月読命も二人に対して、熱い戦いをありがとう、いまは休め、と感極まった様子で言った。

 テレビは事務員の肩を借りて戻る二人の姿を映しており、司会役の男がブラボー!と褒め称え、次の試合の開始を宣言した。

 

「ハハッ…盛り上がりすぎだろ…あと百戦以上あるってのに…」

<俺達の番が来れば、会場を熱狂の渦に叩き込めるってことだ>

 

 幾多の試合が流れ、その度に会場は熱狂し、歓声を上げた。

 興奮する観客や試合に敗れ、タンカーに運ばれていく選手をぼーっと眺めていたら司会が一際大きな声で選手紹介を行った。

 

『さぁ!お次は優勝候補!電気を操ると言う極めて攻撃的な能力を持つという少女!雷鳴のように現れた彼女は一体どのような試合を見せてくれるのか!?さぁその名を呼べッ!』

 

 大袈裟に言葉を放ち、口頭を述べる司会者、併せて観客も静かにその時を待ち、場が沈黙に支配される。

 そこまで言わせる優勝候補は一体誰だとシンはテレビに乗り出し、司会者も少し勿体ぶって叫んだ。

 

ミナクテット・カレンッ!!!

 

 瞬間、雷鳴が轟き、砂埃が舞った。

 緊張と期待がその場を包む中、砂埃が霧散し、少女の影が現す。

 更に影が片腕をゆっくりと空に向け、指先から雷の如き太さの電流が天を穿ち、砂埃が完全に霧散し、観衆の大歓声が響いた。

 まるでヒーローか何かのようなパフォーマンスだ。

 

 少女はショートヘアで太陽の光を表したような黄金の髪をしており、エメラルドの瞳が爛々と主張するように輝いている。

 その服は黒と黄色を主張としており、スカート部分には雷のような紋様があしらってある。

 そして腰には刃のない鉄剣が装備されている。

 ただ…その身長が幼女のように小さく、120センチ程だろうとテレビ越しでも目測がついた。

 

 これでは覇気も半減であり、観客席の何処かから可愛いー♡と漏れ出ていた。

 少女は忌々しげに観客の方を向き、カメラが回っていると言うのにも関わらず舌打ちをした。

 コイツが本当に優勝候補か…?そう思っていたが、試合が始まった瞬間、それを思い知らされることになる。

 

『続いて、そんな彼女に挑む挑戦者(チャレンジャー)!コイツは大会で類を見ない圧倒的な筋肉を持ち合わせた巨漢!!名はG・リアス!どこまで戦えるか!?注目の一戦だ!』

 

 歓声の中ドシドシと現れたG・リアスとやらは身長2メートルを超える巨漢であり、少女の二倍ほどの身長を持っていた。

 まるで巨人である。

 その男は少女を見るなり、笑い出し、嘲るような笑みと共に少女を見下して言った。

 

『随分なチビ助だなぁ!?優勝候補だか何だか知らないが、迷子なら帰ってママの元にでも行きなぁ!』

 

 テレビ越しに男の濁音が放送される。

 この大会で初めての暴言であり、今の一言で会場が凍りついた、恐らくテレビの前のお茶の間も極寒と化しただろう。

 

 この発言に最も反応を示したのが少女であり、俯いてプルプルと震えており、その瞳には涙を浮かばせていることだろう。

 険悪な雰囲気、凍りついた会場に司会者は焦り、慌てた様子で試合を開始した。

 

『そ、それでは試合を始める!両者準備は良いな!?それでは…始めッ!』

『ガハハ!このチビに負ける訳が…』

 

 煽り立てた男の言葉はそれ以上続くことはなかった。 

 言葉の変わりに呻き声を上げ、ブクブクと泡を吐き、痙攣しながら崩れ落ちた。

 

 その背後には剣を振り抜いた少女が立っており、予想を裏切り、額に青筋を浮かべながら振り返り、男に唾を吐き捨て呟いた。

 

『雑魚が…死ね…!』

 

 幼女の風貌通りの甲高い声であるが、恐ろしいほど低く聞こえ、会場を別の意味で戦慄させた。

 少女はそのまま身を翻して立ち去り、今頃になって気付いたのか、司会者が勝利宣言をする。

 

『…カ、カレン選手の勝利ーッ!圧倒的ッ!圧倒的な蹂躙ッ!一体誰が予測できただろうか!?こうも大見得を切って見せた大男を一瞬で!一撃で地に伏せたッ!その速さは正に疾風迅雷!誰がこの可愛らしい女帝を止められると言うのか!?』

…あ"?今、何()った…!?

『ヒィッ!?すみません語弊がございましたッ!?勇ましき女帝ですッ!!?』

 

 帰り際に司会者の口から放たれた"可愛らしい''という単語が自身の琴線に触れたのか、ゆらりと幽鬼のようにドスの効いた声で司会者を睥睨して言った。

 そこには可愛らしい姿など微塵も無く、鬼が顕現したかのようだった。

 

 これには司会者も間抜けな声を出して訂正するしか無い。

 訂正された言葉に少女は満足したのか、それ以上は何も言わずにフィールドを去った。

 

 しかし…男の意識を刈り取ったあの一撃…テレビで見ているからなのか全く姿が見えなかった。

 シン達は少女、カレンの名を胸に刻み、認識を要注意人物に変えた。

 

◆◆

 

 シン達は暫くは普通の試合ーと言っても霊力弾が飛び交ったり能力らしきものが使用される激戦だったがーをいくつか見ており、数十分後には自分がその場に立つと言うのに、野球やボクシングを見るような感覚で視聴していた。

 

いけッ!そこだッ!ああ!後ろだッ!後ろを見ろッ!!…クソ!負けた!腑抜けが!

「相手が霊力の扱いに長けてなかったら、選局は違ったかもな」

 

 目の前のテレビではステゴロで戦っていた男が映されており、後頭部から煙を出して倒れ込んでいた。

 

 ヴェノムはステゴロで戦っていた男に親近感を覚えていたのか、熱中して観戦しており、その身を出してまで熱中していた。

 しかし、相手の巧妙に隠されていた霊力弾に後頭部を撃たれ、遂に地に倒れ込んでしまった。

 ヴェノムは落胆した様子で、心無しか表情も落ち込んで見えた。

 

 と、ここで不意に扉がコンコンとノックされ、開かれる。

 

「すみません、シン様、二戦後にあなたの番が回って来ますので、準備が出来たら私にお申し付けください、ご案内致します」

「おぉ、もうそんな時間か…すぐ行く」

 

 慌ててヴェノムを引っ込め、トーナメント表を確認する。

 確かにもう自分の番だ、知らぬ間に試合に夢中になっていたらしい。

 シンは立ち上がり、最初に案内してもらった人とは別の案内人の力を貸りて長い道を歩いた。

 

 その道すがら、少し気になることも聞いた、

 

「なぁ、ここに来る前に結界で穢れがどうたらって話を聞いたことがあるんだけどよ、穢れってなんなんだ?」

「その質問に答えることは業務の中に含まれていません」

「…あっそ」

<この女嫌いだ!!>

 

 どうやらこの案内人は世間話が好きではないようだ。

 愛想がある訳でもなく、少しばかり辛い沈黙が続いた。

 黙って歩いていると、歓声が近くなり、だんだんと大きくなるようになって来た。

 

「もう直ぐ到着か?」

「えぇ」

 

 短く答えを返され、ある扉の前に案内される。

 その扉の前には剣と斧が交わった…所謂武器屋のマークが貼り付けられており、まさかと思って聞いてみた。

 

「ここで武器を調達しろって言うのか?」

「その通りです、あなたの試合開始までまだ時間はございますので、ごゆるりと」

 

 扉を開けると、鉄臭い匂いが身を襲った。

 樽の中に無造作に入ってある刃のない鉄剣や、立てかけられたハルバードが目立ち、マイナーな物だとヌンチャクやチャクラム、モーニングスターなど、あらゆる武器がその部屋に納められていた。

 全て刃の無い、鈍器のような物だが。

 

 シンはその中で無骨に鈍く光る、反った細く長い剣、俗に言う刀を手に取った。

 ズシリとした重さがあるが、振るえない程ではない。

 少しの愛着を持ち、刀を鞘を納め、シンはその部屋を出た。

 改めて部屋を見てみると埃が舞っており、あまり使われない部屋だと言うことを実感させた。

 

「よろしいですか?」

「勿論」

「それでは行きましょう」

 

 それから一分ほど歩き、更に歓声の声も大きさを増したように感じる。

 いや、違う…目の前で歓声が起こっているかのようだ。

 数十m先にはには剣戟を繰り返す男女と、剣戟と共鳴するかのように叫びを上げる観客が見て取れる。

 どうやらフィールドに到着したようだ。

 

「この試合が終わり、名前を呼ばれましたら、前にお進みください」

「おう、ありがとな」

 

 案内人は仕事は終わったと言わんばかりに去り、目の前の男女も決着がついたようだ。

 タンカーに運ばれた男が出口へ、つまり、シン達の横を通って運ばれて行く。

 

 テレビでは味わえなかった司会者のマイクに乗った大声が耳に響く。

 

「次は注目の一戦だ!かの有名な綿月玄楽様の運営する道場!そこから繰り出される刺客!玄楽様の娘であり、剣豪として才覚を見せる綿月依姫のライバルであり友!!本人の経歴が明かされない今大会のダークホースッ!その名はーッ」

 

 一歩を踏み締め、熱狂が全身を襲う。

 

「シンッッ!!!」

 

 名前が呼ばれた瞬間、シンはさまざまな視線を一身に受けた。

 多くの期待と尊敬、少しの疑問と嫉妬。

 かなりのプレッシャーと緊張感である。

 反対に観客は爆発したかのような盛り上がりを見せ、雰囲気に飲まれて来たのか、シンは気分が昂揚してきた。

 それにしても何処から情報が漏れているのだろうか、依姫のライバルなんて一言も言っていないぞ。

 

 ゆっくりと、それでいて確実に一歩を踏み出して行くシンの姿は何処となく気迫があり、観客達はそんなシンの姿に期待を抱いた。

 

「続いてシンと対峙するのはコイツ!速さを求める韋天流の門下生!!その剣でダークホースを切り伏せることは出来るのかッ!?」

 

 遠目だが細身の男が奥の入り口から姿を現した。

 

「太刀丸ーーッ!!」

 

 細身の男が日の光を浴びて観客に笑顔を見せながらフィールドを歩いた。

 かなり顔が整っており、荒々しさを残しながら爽やかさを兼ね備えていた。

 風格はかなりの強者であり、この瞬間に起きる激闘に心を躍らせる。

 男、太刀丸は観客からシンの方を向き、優しげな顔から一転、真剣な表情で短く一言を言った。

 

「よろしく頼むよ」

「こちらこそ、叩き潰してやるよ」

「それではッ!試合開始ッ!!」

 

 この挨拶が皮切りとなって試合は開始された。

 シンは相手の出方を窺うため、刀を抜いて構え、太刀丸は試合早々に先手必勝といった具合で居合切りを仕掛けて来た。

 

 周囲からは太刀丸が一瞬で姿を消したように見えただろう。

 しかしシン達からはーーー

 

(まるで遅い、依姫と比べ物にすらならん)

<俺が居なくても余裕だな>

 

 スローモーションのように全てが遅く見える世界で、太刀丸の居合を見切っていた。

 依姫はもっと早く、鋭い居合を放てる。

 速さが自慢だそうだが、依姫に届かない斬撃如き、実力で勝るのは簡単なことだ。

 

 ギリギリまで太刀丸を引き付け、刀を振るった瞬間に体を引いて避ける。

 太刀丸の顔が驚きで歪み、その顔目掛けてバットのように刀を振るった。

 元の勢いとシンの膂力が合わさり、太刀丸はボールのように吹っ飛び、地面と並行移動して壁に激突した。

 

「ヒット…ってところか…」

 

 シンはそう呟き、煙の中から太刀丸が出て来るのを待つ。

 しかし、いくら待っても出て来ない。

 煙が霧散した後にはグッタリと壁に背をつき気絶している太刀丸が目に映った。

 

 おいおい、嘘だろう?依姫なら立ってるぞ?

 

「ほら、立てよ」

「…」

「…チッ」

 

 どうやら本当に気絶しているようだった。

 目の前の光景に漸く司会者が反応し、次早に言った。

 

「なんとッ!なんと瞬殺だァ〜〜〜ッ!!太刀丸が動いたと思ったら次の瞬間には吹き飛ばされていたッ!?一瞬でノックアウト!韋天流も真っ青な早業!これほどの瞬殺はカレン以来ッ!一体どうなるんだ軍来祭ッ!?」

 

 興醒めた、少し楽しそうと思ったが、カレンと依姫以外強そうな者が居ない。

 そう考えながら次の試合に期待し、その場を去った。




ご拝読、ありがとうございますなのぜ!
あとえちちな小説とこの小説の誤字報告をしてくださった、ドンシャインさんありがとうなのぜ!
そして、モブのGくんと太刀丸くん、もう一生出番無いです、なのぜ。

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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