鬱注意なのぜ!ゆっくりして行ってね〜
木刀を片手で掴み、動揺するアースの顔をを丸太のような黒腕で思い切り殴り付けてやった。
衝撃で砂塵が飛び散って一瞬シン達の姿を覆い隠し、観客からはアースが突然吹き飛ばされたかのように見えただろう。
まさか反撃されるとは思ってもいなかったのか、それともまた驚きで行動に移すことが出来なかったのか、痛々しい音と共にフィールドの中央部まで転がりながら吹き飛ばされた。
砂塵からいきなり現れたクリーチャーに観客から悲鳴が上がり、司会者が興奮したかのように言った。
「これはッ!?これは〜〜〜ッ!?!?絶体絶命かと思われたシンが黒い化け物となってアースに逆襲した〜ッ!?何なんだアレはッ!巷で聞く黒い化け物とは彼の事なのか!?」
やはり悪い意味でかなり注目されてしまう。
キャーッと騒ぐ観客を無視し、目の前の戦闘に集中する。
アースは油断して追い詰められれば追い詰められる程強くなる能力と言葉を溢した。
スロースターターとはこの力が所以だろう。
顔を大きく腫らしたアースがゆらりと起き上がり、ポツリと呟いた。
「何でだよ…」
「あぁ?」
滂沱の涙を流しながらアースは叫んだ。
「何でいつも思い通りにならないんだよぉぉ!!!!!」
「…はぁ?」
◆◆
僕は子供の頃、同級生から虐められていた。
理由は簡単で、気が弱かったからだ。
護ってくれる親なんてとうの昔に死んでいた。
当時はー今もだけどー悪口を言われても言い返さず、されるがままだった。
それが同級生にとって都合が良かったのか、イジメはエスカレートして、陰口を言われることは勿論、下駄箱から靴が無くなることも当たり前、仕舞いにはカツアゲやサンドバッグにされることもザラにあった。
酷い時は芽生えたての能力の実験台にされることもあった。
火、氷、殴打………思い出しただけでも体が痛む。
学校に行って、ボロボロになって、誰も居ない家に帰る。
出来ることといったら、布団の中で彼らを返り討ちにする妄想をすることだけで。
そんな生活が数年続いて、十三になった頃だ。
僕に友達が出来た。
鼠だ。
路地裏でポツンといて、血を出して弱っていて…そんな姿がどこか僕と似ていたんだ。
「お前も虐められてるの?」
鼠に向けた言葉は虚しく空に溶けていた。
けどヒューヒューと息をする鼠を見捨てられず、汚いことや細菌なんて考えずに家へ持ち帰ったんだ。
最初は鼠を治すのに四苦八苦していたけど、いつの間にかすっかり元気になったんだ。
その子は傷付いた僕を慰めるように甘えて来て、暗く荒み始めていた僕の心も癒していってくれた。
虐めもこの子が居てくれたらへっちゃらだった。
そんな頃、その子に名前を付けてやろうと思ったんだ。
でも中々決まらなくて、登校する日の朝も頭をウンウン唸って考えていた。
それで、思いついたんだ!とっておきの名前を!
そしたらその子が胸ポケットの中に入り込んでいて、私も行く!とばかりに顔を覗かせていたんだ!
まん丸な目で見つめられてとても可愛くて…つい一緒に連れて行ったんだ。
それで名前を付けるのは帰ってからにしようと思ったんだ。
学校ではいつも通りに虐めを受けたんだけど、コイツを連れて来て少し後悔していた。
陰口なら問題はないけど、殴られたりしてこの子が潰れちゃったら大変だからだ。
胸ポケットを最低限庇うことでこの子を守ったんだ、それでトイレでポケットから出して、生きているか確認して安堵した。
そして放課後になった。
いつもは校舎で不良に絡まれていたけど、今日はそんなこと無くて無事に帰り道の道路まで漕ぎ着けたんだ。
安心して胸に温かみを感じて歩いていると、不意に掴まれて路地裏まで連れてかれてしまったんだ。
不味い、そう思った瞬間には押し倒されていて、ニヤニヤとした不良達がが僕に絡んできたんだ。
「おいお前、今日胸になんか入ってたよな?大事そうに守ってたよな?見せてみろよ」
「そ、そんなの知らない、勘違いだから僕を家に返してよ!」
「は?お前に拒否権なんてあると思ってんの?おいお前ら!取り押さえろよ!!」
僕は危険を感じてすぐさま逃げ出した。
けど不良の一人が僕の足も掴んで引きづりながら連れ戻し、両腕、両足を掴んで拘束された状態にされて。
「何が入ってるかな〜♪」
「ヤダ!やめてよ!お願いだからッ!!」
身を捩る僕を強引に取り押さえて不良は僕の胸ポケットを弄って、暴れる
「うえっ!?鼠!?気持ち悪ッ!」
「放せ!その子を放してッ!」
「…あ?もしかしてペットかぁ?鼠とかキッモッ!お前らしいわ」
涙を流して懇願するけど、不良はその子を握りしめて放さなかった。
「そうか、放してやるよ、可哀想だしな、お前らも放してやれ」
不良は笑ってパッと手を放し、その子を自由にしたんだ!
それに僕を拘束していた不良も放してくれた。
なんて奇跡だ!そう思ってうつ伏せの状態でその子に手を差し伸べて、その子は手に向かって少し弱ってしまったのかよちよちと歩いた。
その子が手に届こうと言う瞬間でーーー
目の前に壁が出来た。
いや、壁が降って来た。
ほっぺにぺちゃりと何かが付いた。
全身がこわばるように、血の気がひいて、目の前の光景を現実と思えなかった。
「え?え?いや、え?なんで?え?」
僕はその子が居た場所に壁が出来ていたことを疑問に感じーーーいや、認めたくない。
だって、だって、その壁は足で、その子の真上から降って来て、いやだ。
名前だってまだ付けてないのに、君が居ないと僕は、僕は。
不意に壁がゆっくりと赤い何かを滴らせながらが上がった。
違う足だ、いや、違う、違う、違う。
「プッハハハハハハッ!!きったねぇ!!」
「そこまでやるかよ普通ッ!?足がベチョベチョじゃねぇか!」
「それよりコイツの顔見てみろよ!間抜けな顔してやがるッ!ハハハハハッ!!」
周りの嗤い声が聞こえる。
目の前には何かの水溜りが出来ていて、中心に何かがいた。
シミみたいだ、けど違う筈だ。
違うよね?君は咄嗟に逃げ出したんだよね?そうだよね?ね?
「聞こえてるぅ?どんな気分?ねぇねぇ?」
「………」
「…チッ、無視かよ、お前ら!コイツシメとけ!!」
「…ねぇ?」
一応、一応僕は目の前のこれが何なのか彼らに聞いた。
勿論違う答えが返ってくるはずだ。
「な、に これ」
「何って見てわかんねぇのか!?んん?お前が大事にしてたクソ鼠だろ?違うか?」
「違うよね、違う、違う違う違う!!」
「何だよお前キモイ…たかが鼠一匹でよぉ」
僕は不良の言葉を否定した…けど、心の中では否定できなかった、もう解っているはずだと。
涙がポロポロと零れ落ちる。
こんな、あっさりと?連れてこなければ良かった、僕の責任だ。
だから、だから、許してくれ■■■、名前を与えてやれなくてごめん。
守れなくてごめん。
涙は更に溢れて、肉片を掻き集めた。
「内臓集めてやがる…キモ…クソ鼠のきったねぇ肉を集めてやがるよ」
「ハハハッ!!言ってやんなってッ!」
僕はその言葉を聞いて、初めて人に反抗した。
「取り消してよ…!!」
「ああ?」
「今のクソ鼠って言葉を…取り消してよ…!」
■■■をそっと置いて、不良達を睨め付けた。
「…お前もう殺すわ、キモイし楯突くし、もう半殺しじゃすまさねぇわ」
■■■の受けた仕打ちよりかはマシだ、そう思って殴りかかった。
バキリ
そう音を出したのは僕の方で、倒れ込んでその後は寄ってたかって蹴られ、殴られた。
「はぁ〜〜…頭悪いよなぁ、お前…俺達の方が強いってのに…」
数分間暴力を尽くされた。
僕は丸く蹲って耐えるしかなくて、やがていつもみたいにそのまま何もしないようになってしまった。
身体中から血が出て、意識が朦朧としてきた頃、■■■のことを思い出した。
僕は不良達に猛烈に怒りが再燃して、悔しさに食いしばり、涙を抑えようと目を閉じた。
無意味だと分かっていても力を振り絞って拳を振るった。
そうしたら突然、轟音のような音と男の叫びが木霊した。
「がぁぁぁあああッ!?!?腕がッ!?腕がぁぁあああ!?!?」
目の前の不良の腕がミンチのようにぐちゃぐちゃになり、辺りを血で濡らしていた。
僕は全く理解不能だったけど、今の一撃が僕がやったと思うと、少し、気分が良くなり、周りも思い切り殴ってみた。
すると面白いように腕は千切れ、骨が粉砕する音が路地裏に響いた。
暫く不良をぐちゃぐちゃにして、逃げ出そうとする■■■を踏み潰した不良を捕まえた。
「あっ!?悪かったから!!悪かった!?だから…」
「嫌だ」
そこからは何も覚えていない。
貧血で倒れたのか、初めての能力使用で意識を失ったのか。
分かるのは■■■を失ったことだけだった。
喪失感と虚無感で胸がいっぱいになって、枕を濡らした。
目が覚めた場所はどこかも分からない病院らしく、看護婦は僕に話そうとせず、お金も要求されずに治療だけされて追い出された。
誰が病院に運んだのか、なぜ無償でやってもらえたのか、何も分からなかった。
そこからはトントン拍子だった。
行く当てのない僕は優しい人に拾われて、能力を知って。そこで体を鍛えて、■■■みたいな子を出さないように軍に入ろうとした。
最初は挫折も多かった。
けど■■■を思えばなんてこと無かった。
早く、軍人になってーーー
◆◆
「…お前は何を言っているんだ?思い通りに行かない当然のことだ」
「五月蝿いッ!!お前に僕の何が分かる!!」
叫びながら爆音を立ててレースカーも真っ青な速度で飛び出して来たアースを真っ向から叩き潰し、強引に剣を奪い、目の前で叩き折る。
攻守が逆転した展開に会場は大盛り上がりだ。
「これでお前は武器を失った、降参しろ」
「うぅぅ!!まだだッ! 僕は戦えるッ!!」
アースは飛び起きて、大きく振りかぶって拳を振るった。
驚異的な速度だが、いかんせん大振りすぎる。
迫り来る一撃に紙一重で避け、アースの拳は轟音と共に壁に大きなヒビを入れた。
振り抜いた隙を狙って、地面が陥没する程腰を入れて腹部にレバーブロー。
大砲を撃ったかのような重低音が会場を戦慄させ、司会者すら冷や汗を流した。
衝撃を身体の隅々にまで行き渡らせた一撃、衝撃を逃す術など無く、ビクンッと体を震わせた後にアースは泡を吹いて倒れた。
「見る者にすら戦慄を与えた強烈なレバーブローッ!!これにはアースも沈黙ッ!!よって勝者、シ…」
「まだだぁああッ!!!」
アースはゾンビのように立ち上がり、シンと距離を置きながらシンの勝利を告げる司会者の声を遮る程の大声で行った。
「まだだ、戦えるんだ!僕は!ゲホッ!」
アースは見れば足が…いや全身がブルブルと震え、激しく咳き込んでいる。
余程効いたのだろう。
しかし不味い、奴の能力はいわば究極のスロースタート、時間を掛ければ、ダメージを与えれば与える程強くなる。
敗北扱いになってくれないか…それと共に立ち上がってもっと闘えと言う淡い期待を抱き、それは勝敗を告げる司会者では無く、月読命が宣言した。
「其方の決意を称して、吾が許そう、試合は続行だ」
「え!?あ、はい!月読命様から試合続行の意が表されました!!よって続行ッ!!」
何と言うことだ、思いもしない熱い展開に観客のボルテージはこの日最高潮まで湧き上がり、歓声の熱気がシン達とアースを包んだ。
「行くぞッッ!!!」
丁寧に攻撃の宣言したアースの突撃は先の比にならず、音速とも言っていい程の速度を叩き出し、踏み込んだ地点には
途轍も無い速度と増幅された力の権化とも言える鉄槌に、シン達は無意識とも言って良いほどの反応で横へ飛び避ける。
隕石が落ちたような轟音、目の前には粉々に破砕された壁が映った。
マトモに受ければ本当に死が訪れる、そう感じてシン達はアースから距離を取る。
アースは勿論そんなシン達を追い掛けるが、直線的な動きで、回避するのは容易だった。
ここでヴェノム、続けてシンははあることに気付いた。
<どうやら、力をコントロール出来ていないみたいだな>
(…確かにな…だがどうする…?)
弱点は分かったが、対策が立てられない。
更にこれ以上強くなられては困るので、攻撃も加えられない。
アースは即死級の拳を振るうが、当てられない。
場は緩着状態に陥っていた。
しかし、場は動く。
アースが突然両腕を地面に突き刺し、怒声と共にちゃぶ台返しのようにフィールドを捲り上がらせたのだ。
派手な攻撃に会場は盛り上がり、岩石の雨がシン達に降り注ぐ。
「ぐぉおおおッッ!?!?」
「何とッ!?フィールドを捲って岩雪崩を実現させたッ!それをする為にはどれほどの力がいるのか想像も出来ないぞッッ!」
岩の処理に手一杯でアースの拳が腹に突き刺さる。
辛うじて貫通はしなかったが、内臓に重いダメージが蓄積した。
しかも、アースは岩雪崩を全く気にせず殴り続ける為、ダメージが入るがどんどん強くなるというマゾのような攻撃システムを実現させてしていた。
岩雪崩は終わる気配はない。
ならば…この状況を利用する!
シン達はその場から飛び上がり、岩に激突する直前で体勢を変え、岩に着地したかと思うと、また岩へ飛び移る。
岩を利用した三次元運動は踏み込みで岩を砕く程速さを増し、観客やアースにも捉えられないほどのスピードで跳躍し続けた。
その速度はゆうに音速を超え、音を置き去りにしていく。
「敵の攻撃を利用したぁッ!?シンはどこまでの力を秘めているんだッ!?目で追えないぞッ!!まさに黒い流星だ!!」
アースの目がこちらを追えなくなり、岩雪崩が止むタイミングで飛び出し、後頭部に踵落としを繰り出す。
爆発したかのような音が響き、衝撃で砂塵が吹き荒れ、観客の目を襲った。
それでも…それでもアースは落とされた踵ごと頭を強引に振り上げ、更に強化された拳を振るった。
「オォォオオオオッッ!!!」
不味い、その言葉が頭を埋め尽くし、打開策を弾き出す。
膨大な力、コントロール、利用…これしか無い、シンは全身の力を抜いた。
<シンッ!?不味いぞッ!!>
(これでいいんだッ!!ヴェノムッ!!)
アースの剛腕はヴェノムの体越しにシンの胸を穿ち、肋骨を易々と粉砕し、その奥の肺すらもひしゃげさせた。
しかし、シンの体は吹き飛ばず、衝撃が蓄積された。
シンの脳が激痛を訴えるが、この衝撃こそが最大の武器であり破壊力!
身体中に巡る衝撃を右腕に集め、ただのカウンターはアースの拳とシンの拳の威力が合わさった究極の一撃と化す。
即死級の一撃を喰らったのは全てこのカウンターのためッ!
「喰らいやがれぇぇぇええええッッッ!!!!」
叫びながら放った一撃は轟音と共にアースは弾丸のような速度で打ち出され、壁に陥没させる結果を生み出した。
砂煙から姿を現したのは完全に沈黙したアース、つまり。
「決まったぁああああッ!!完璧なカウンターッ!!勝者ッ!!シン〜〜〜〜ッ!!」
一瞬の沈黙の後、爆発したかのような感性が湧いた。
ご拝読、ありがとうなのぜ!
転生者さん、カタツムリさん、F.KITさん、わけみたまさんそれぞれ☆10、☆9、☆8×2評価ありがとうなのぜ!!
評価バーが真っ赤に染まって…涙が、で、出ますよ…
みんな結婚して♡
登場人物紹介っている?
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やってくれ 必要だろ(いる)
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それは雑魚の思考だ(いらない)