隕石が目の前に堕ちた。
巨木を挟み、数メートル程距離があるにも関わらず、衝撃により、まるで目と鼻の先に落ちた様に感じる。
押し寄せる熱気が肩と頬を焼き、熱を孕んだ爆風が吹き荒れ、視界の奥にある小さな木々は根本からへし折れていく。
現に、今背にもたれ掛かっている巨木もギシギシと音を立てて軋んでおり、へし折れない事を祈るしか無かった。
目を閉じて生存を祈っていた俺は、爆音が小さくなって行くのを感じ取り、恐る恐る目を開ける。
———嵐に遭ったかの様に葉が舞い散っていた。
運良く俺が背にしているこの木は倒れなかったようだが、隕石による暴風を受け止めた面は、少し炭化しているようだった。
「はぁ…はぁ…チキショウ…」
俺は少しぼやけた思考で悪態を吐いた。
隕石がこちらに向かっていると目測はついていたのもの、まさか目の前に降ってくるなどと誰が思うものか。
きっと前世では、大量の悪行でも積んでいたのだろうか。
そんな思いが頭に浮かび、これまでの不幸の連続に思わず舌打ちする。
ーーーその時である。
べちゃり、べちゃ…と、何が溶けたような、気持ち悪い音が響いた。
俺は熱で木でも融解したのか、と思いながら眠たくなってきた体を捻り、隕石のほうを向いた。
「……っ!?」
絶句した。
煙を燻らす隕石と共に、何だあれは、生物なのか、と疑問を呈する程に奇怪な姿をした
それはドロドロに溶けた黒いスライム、言い換えるならば、黒いアメーバと言えるものだ。
多くの人ならば、生理的嫌悪感を抱くに充分すぎる見た目だ。
しかし、俺は嫌悪感でも無く、はたまた、恐怖でも無く、ただ期待を抱いていた。
(何だ…あれ?…何であれを見ると…こんなに
自身でも何故こんな感情が湧き出るのか、不思議であった。
そう考えているうちに、黒いアメーバはべちゃりべちゃりと、こちらに移動している。
もしかしたら、黒いアメーバに触れたら、何かしらの病気になるかも知れない、本当に為す術無く殺されるかも知れない。
そんな想像は容易に出来るが、黒いアメーバに手を向けてしまう。
理性は止めろ、止まれ、と命令してくる。
本能はやってしまえ、強くなれる、お前ならば、と良く分からないことを囁く。
俺は本能に従い、左腕を黒いアメーバに伸ばした。
俺は傷が深い、どうせ一日後には死んでいるだろう、という思いから来た、半ば自暴自棄のようなものだった。
黒いアメーバの触手のような物と俺の指先が触れる。
触れるだけでは飽き足らず、指、腕、体と絡めとるように巻き付いていく。
どこか心地よい感覚に身を委ね、黒いアメーバが顔に到達しようというところで、ある異変に気付いた。
(何だ…?痛みが治まっていく…)
背中と胸の裂傷、肋骨の骨折、右腕の感覚までもが、戻って来ているように感じた。
眠気も覚めてきた。
今思えば、このまま眠っていたら死んでしまっていたのだろうと思う。
体の中に何かが入ってくるような感覚がする。
ここまでのことをするこの黒いアメーバは一体何者だろうか。
そう思ったとき。
<俺は黒いアメーバなんかじゃねぇ!!俺はヴェノムだ!! >
凶悪な声が頭に響いた。
「!?!?!?」
俺は大いに驚愕し、辺りを見回すが、荒れた森林が視界広がるだけで声の主は見つからない。
< 間抜け!手を見てみろ! >
混乱しながら右手を見ると、みるみるうちに手が黒く変色し、人間の頭部ぐらいの大きさになると、白く瞳のない大きな目、鋭い歯を形作り、長い舌を揺らしていた。
「ぎゃああぁぁぁあああ!?!?」
俺はいきなり手が目の前でホラーじみた変形をしたことに対して、悲鳴を上げる。
しかし、そんなコントじみたリアクションをしている間に、十数体の化け物が寄って来ていた。
隕石やらで有耶無耶になっていたが、俺は元々大怪我で血の臭いを森に撒き散らし、川に血を流したのだから、釣られて化け物がよってきていても、不思議ではなかった。
しかし、俺はそれどころでは無い。
怪我は治り、手がカビ頭みたいになり、化け物に囲まれ、パニック状態だった。
「おい!どうすんだよこの状況!このカビ野郎!!」
「 何だとてめぇ!俺はヴェノムだと言ってるだろうが!!カビなんぞとは違う!!」
俺はカビ…ヴェノムは変形させられた右手で頭突きをかまされる。
俺は反応に遅れ、モロに喰らってしまった。
「 大体、お前を治してやったのはこの俺だ!少しぐらい感謝しろ!!」
「ぐぅぉぉ…悪かったよ!感謝する!感謝するから止めてくれ!」
五、六発頭突きを食らったが、ヴェノムはふん、わかればいいんだよと呟く。
チョロい奴だと思うと、また一発頭突きを喰らった。
お前は心でも読めるのか、そもそもお前は何だ、と質問する前にヴェノムは言う。
「質問する前にまず、この生物モドキを殺すぞ」
俺はジリジリ立ち寄る化け物達を見て、正直無理だと思った。
狼っぽい化け物でも身を削って二体が限界だった。
ましてや十数体の化け物、それも多種多様な奴らがいる。
虫をそのまま人にしたような奴、人間大のでかいムカデ、目の血走った猿や、先ほど逃げ出した狼も居た。
どいつもコイツも血の匂いに興奮している、狼の化け物も俺を射殺さんとばかりの眼光で見る。
「おいおい…何だ?お前がやるのか?」
< 違う、俺達でやるんだ>
俺はヴェノムに尋ねるが、ヴェノムは体に戻り俺達でやると答えた。
冗談じゃない、そう言おうとしたが、体が勝手に戦闘態勢を取る。
原理はわからないが力が溢れるような気がする、そして何故だか空腹感も増している。
「ジャ"ァ"ァ"ア"ア"!!」
巨大ムカデが身を捩らせながら、巨体とは思えない程凄まじい速度で襲い掛かる。
普段は避けられない筈だが、ムカデの体がスローモーションに見える。
俺は軽々とムカデで突進を避けた…だけだったが、体が勝手に動き、回避のついでと言わんばかりにムカデの甲殻を
ムカデの悲痛な声が響き、俺は俺で黒光りのするムカデの甲殻がいとも容易く割れたことに驚く。
< お前とならば、これ以上のことが出来るぞ… ! >
ヴェノムは頭の中で俺に囁き、俺もこの戦いに期待して笑みが溢れる。
さぁ、虐殺だ、そう言わんばかりの顔だった。
まず、虫人間に弾丸もかくやと言う速度で飛び付き、頭を握り潰す。
虫人間は膝から崩れ落ち、左右から隙を突いて二体の猿が飛びついて来た。
瞬間意図せず俺の腰から生えて来た二本の腕。
それらが猿を縛り上げ、地面に叩き付け、汚い花を咲かした。
おそらくヴェノムの仕業だろうと確信し、、本格的に体が変わっていることを実感する。
< ハハハ!まだまだいくぞ!!>
ヴェノムは歓喜の声を上げ、俺の体も変化する。
体は黒いアメーバ状のヴェノムに覆われ、二回り大きく、筋肉質になる。
顔には大きな瞳のない白い目が浮かび、鋭い歯が生えそろう。
今の俺はまさに異形だが、暴力的な力を感じた。
数分前までグチャグチャだった真っ黒な右腕を確認し、少し感慨深いものを感じる。
「ぐるる…!?」
化け物共も突然俺の姿が変わったことにより、攻撃に躊躇している様だった。
俺は化け物を見回し、隕石の時に逃げ出した狼を見つける。
目があった瞬間、ある考えが脳裏をよぎり、それに呼応するかの様に空腹感が増した。
そうだ、
俺は狼に向けて弾丸の如く飛び出し、反応出来ていない奴の右腕で狼の足を掴み、宙ぶらりんの状態で固定する。
驚きに目を見開いた狼が胸を切り裂いたり、他の化け物が俺を攻撃したりと、俺を格好の的とばかりに袋叩きにするが、まるで痛みを感じず、傷付いても治っていく。
攻撃の嵐に晒されつつも、口を大きく開け、大きく狼を掲げた。
その姿は正にモンスターだった。
宙ぶらりんの狼は何をされるのか悟ったのか、身を捩って暴れる。
余りにも激しく暴れる狼を少し鬱陶しく思った俺は、もう一方の腕で狼の首を抑え、マトモに動かない様にしてやった。
身動きすら出来ない狼の紅い目の瞳孔が小さくなり、ヴェノムの中の俺の灰色の目と目が合う。
そして———
俺はグシャリと頭から狼を喰らった。
頭蓋骨が軋みを上げるが、脳ごと噛み砕く。
すると脳汁とも言うべき汁が口の中に広がり、そのまま狼の体を口に押し込んでいった。
そうして咀嚼し、骨ごと噛み砕き、飲み込み、狼の体の全てを喰らっていく。
ピクピク硬直する足も喰らい終わり、未だ攻撃を続ける化け物の一体を掴み、ヌンチャクのように扱い、周囲の化け物を吹き飛ばした。
「ああ、美味い…血肉の中にスパイスを感じる」
ヴェノムはヴェノムで狼の感想を言う。
俺も空腹感が和らぎ、代わりに満足感を感じる。
しかし、まだエサは十体程まだ残っている。
気分はまるでフルコースの前菜を食べた様だ。
俺の戦意は膨れ上がり、どうやって殺そうかと考えてしまう。
「ガアアァァアア!!!」
俺は雄叫びを上げながら、正面の人間に似た化け物へ四足歩行で走り出し、地面が爆音を上げる程大地を強く踏み締め、駆け抜ける。
俺は一瞬で距離を詰め、目の前の驚いたような仕草をする化け物の顔を思い切り殴り付け、頭を破砕する、一体目。
方向転換し、逃げ出そうとするヤギ型の化け物の首根っこを掴み、近くに居た仲間だろうヤギも巻き込んで、地面に叩き潰す、ニ、三体目。
そしてヤギ型の化け物にトドメと言わんばかりに踵落としを炸裂させた。
地面が揺れる様な衝撃と共に臓物が飛び散る。
しかし…このまま殺戮を続けるには“飽き"が来る。
そこで俺はもう少し簡単に殺すため、効率の良いやり方を考えた。
木を引きちぎって鈍器にする?
化け物を骨で突き刺す?
う〜む、どれもナンセンス。
「そこで提案だ、武器を使え」
ヴェノムのおどろおどろしい声が森に響き、両腕は戦斧となる。
なるほど、不定型のヴェノムならではの武器だ、と感心する。
俺は近くの木に向けて戦斧を振るうと、まるでバターのように木を斬ることが出来た。
俺は切れ味を確認してすぐさま、右隣に忍び寄って来た蟷螂化け物を一刀両断し、その勢いで三体程の化け物を斬った。四、五、六、七体目。
そして、一気に三体の化け物が俺に向かって飛び掛かった。
奇しくも狼の化け物だった。
俺は、一体を肩から足に向けて斬り落とし、続け様に腕の戦斧を伸ばし、一本の縄としてもう一体を縛り上げ、最後の一体を巻き込みながら木に叩き付けた。
木は薙ぎ倒され、二体の狼はミンチとなったようだ、八、九、十体目。
そして、誰も居なくなった。
「…終わりか…?」
<ああ、終わりだ、気配も無くなった >
死体の山を見回し、ヴェノムが体内に入り、体が元に戻る。
戦闘の高揚が収まらず、この惨事は本当に自分がやったのか、と疑問が生じる。
血の匂いが辺りに充満するのに気付き、化け物が集まるのを恐れ、すぐさまその場を立ち去る。
<おい!何をビビっている!!俺とお前ならば無敵だ!恐れることは何もない! >
「違ぇよ!こちとら疲れ果ててるんだよ!連戦なんてもってのほかだ!!」
俺はヴェノムに抗議し、超人的な速度で走り去る。
木々が視界に入っては出ていく、そんな光景がずっと続いた。
ヴェノムはその間、何故記憶がない、俺に完全すぎる適合をしたお前は何者だ、と俺に聞いてくる。
こっちが聞きてぇよ、そう答えたかった。
◆◆
一分ほど走り、幸運なことに別の小川を見つけた。
俺はそこで休憩を取ると共に、本来の目的である水の入手に成功し、たらふく命の水を飲んだ。
ひと段落し、小さな丘となっている場所に腰を下ろし、俺はヴェノムに今、最も聞きたいことを聞いた。
「ヴェノム…お前には大分助けられたが聞きたいことがある…お前は一体何なんだ…?」
「… いいだろう、教えてやる… >」
ヴェノムは俺の右手から姿を現し、話を始めた。
ごはいどく、ありがとうなのね!
ちなみにヴェノムの言うスパイスとは妖力のことなのね。
あと、エディとヴェノムとの適合率が100%とすると、主人公の適合率は120%とか言う化け物性能なのね。
だから、ヴェノムには出来ないだろう武器変化ができるのね。
登場人物紹介っている?
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やってくれ 必要だろ(いる)
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それは雑魚の思考だ(いらない)