東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくりしていってね!


第二十話 軍来祭 医務室にて

 体は依然電熱による煙を発しており、ヴェノムによって治癒も出来ず、重い体を引き摺って永琳のいる医務室へ向かった。

 

 特に右目、ブスブスと煙を立てている。

 手を当ててみるとドロリとした皮膚の感触と熱さを感じ、反射的に手を離した。

 

<まるでゾンビだな>

「じゃあアイツはちっちゃなバーキン博士だな」

 

 シン達は軽口を言い合いながら医務室へ歩いた。

 

◆◆

 

 カラカラとした振動と、掛けられた布、その感触で私は朧ながらに目が覚めた。

 うっすらとした視界で目まぐるしく過ぎ去って行く白い壁と私を運ぶ人達をぼーっと見つめて、何故こうなっているか考えた。

 

 …そうだ…あの野郎に負けた。

 私は…母上に醜態を見せてしまった。

 

 粉砕された右腕がジクジクと痛む。

 後悔、嫉妬、憤怒、鬱屈、悲哀…辞書で言い表せない複雑な感情が身を包む。

 

 と、そこで突然電子扉の独特な機械音が耳に入った。

 視界も殺風景な白い壁から、清潔感の漂うベット、簡易的な医療道具に変わった。

 動かない体を必死に動かし、周りを見渡そうとすると、透き通った声が私を静止した。

 

「ダメよ、動いたら…貴方は一応重症なんだから」

「ッ!?」

 

 声に驚き、硬直していたところを私はベットに移されていた。

 沈む様な感覚で眠気に襲われるが、声の主を探すために首を動かした。

 

 その人物は簡単に見つかり、赤と青のツートンカラーの奇妙な服を着ている医者っぽい人が私の寝かされたベットの横に座っていた。

 その顔は優しげでいつかに聞いたナイチンゲールとやらを連想させ、そして誰もが知っている程の著名人だった。

 

「八意…永琳、様!?」

「あら、知ってるのね、別に"様"はいらないわよ?」

 

 ニコリと笑ってその人は私の粉砕された右腕を触った、いや、この場合は触診と言うべきか。

 とにかく骨がぐちゃぐちゃな腕を触られるのは吝かで、触られると同時に激痛を私の脳は発信した。

 

「うぅ…ッ!?」

「まぁ落ち着きない…そうね、麻酔だけ掛けとくわね、あと耳栓も付けておくわ」

 

 永琳…さん、はおもむろに私の腕に注射を刺した。

 次第に腕の激痛が治まっていき、安堵の溜息をついた。

 永琳さんはその間も私に耳栓をつけたり、肩の部分に布を下ろしたり、メスやらピンセットやらを持ち出したりしていた。

 

 肩に下ろされた布で腕の状況が見えず、耳栓でどうなっているかも分からなかった。

 手術なのか?そう思っているとふと、ポロリと片方の耳栓が取れた。

 

 グチャ、ミチ、ペチャ。

 

 肉を引き裂く様な音が腕から聞こえて、私は永琳さんに何をされているのか少し恐怖に思った。

 自由な左腕で耳栓を付け直して、ジッと目を閉じて手術?が終わるのを待った。

 

 案外、手術は一分ぐらいで終わって、永琳さんから。

 

「もう目を開けても大丈夫よ」

 

 と、耳栓を外しながら私に言った。

 恐る恐る右腕を見ると、何の変哲もない元通りな細い腕がそこにあった。

 

「右腕なら治したからね、でもあんまり動かないでね、また()()()()()()()から」

「ひぇっ!?」

 

 永琳さんの言う言葉からは何と言うか…凄みがあって、私に有無を言わさず安静を言い渡した。

 どうやって、そう聞く前に扉の開く機械音と共に誰かがここに入って来た。

 

「永琳…火傷治しの薬をくれ…」

「あら、シンじゃない?ちょっと待って」

 

 身体中から煙を出し、いかにもボロボロな彼はくたびれた様に言っていた。

 アイツは…!あの糞野郎ッ!!?

 何でここに?疑問が頭に溢れて、思わず私は起き上がって言った。

 

「何で貴様がここにッ!?」

「あぁ?怪我したからに決まってんだろ?他ならぬお前の手でな」

 

 巫山戯るな、私に恥をかかせた手前でよくもノコノコと…

 そう言葉を大にして言いたかったが、永琳さんに優しく諌められた。

 

「ダメ、安静にして…貴方体がヒビだらけなんだから…シンはこれでも塗っておきなさい」

 

 永琳さんが放り投げた薬品ー火傷治しだろうーをアイツは軽々とキャッチし、焼け爛れている顔や体に塗っていた。

 苦悶の表情をしながら、ジュウジュウと音を立てる箇所を押さえ、煙が立たなくなったら直ぐに黒い何かを纏わり付かせて体を治していた。

 

「何なんだ…!貴様は…ッ!?」

「…俺はシン、そしてヴェノムだ…お前も知っていることだろう?」

「違うッッ!!」

 

 私は永琳さんの目を憚らずに叫んだ。

 そうでもしないと泣いてしまいそうだった。

 

「何で貴様がッ!何で…!何で勝って…ッ!私が…負けて…ッ!」

「…何で、か…それは背負っているものが違うからだ」

 

 彼は私を釈然とした目で見下ろして言う。

 背負っているもの?皆の視線を集めて、注目されて、私は母上の目を向けさせるように、私は努力して…

 

「私はッ!母上の為に頑張って来たッ!母上はッ私を…」

「じゃあ聞くが…お前はその母に何か言って貰ったのか?褒めて貰ったことはあるのか?」

 

 私にある記憶が甦った。

 

 十…の頃だ。

 私は能力が発現して、腕からパチパチと電気が出たのを母上に報せようと駆けつけていた。

 それはもう嬉しくて、顔から笑みが溢れるのを押さえて母上を探していた。

 母上は、豪華に飾り付けされた妹の部屋に居た。

 私はまだ歩けない妹を可愛がる母上の背中を叩いて、呼ぶ。

 

 久しぶりに話した恥ずかしさどんな顔するかの期待で、顔は見えなかったけど、私の話を聞いてきっと笑ってくれていた筈だ。

 私の話を聞いた母上は、そう、と返事を返して、また妹をあやし始めた。

 きっと………笑ってくれた…筈…だ。

 

 そんな考えを振り払って、逆にアイツに聞いた。

 

「貴様は…!あるのかよ…ッ!?」

「ある…それは他でもない…俺の…俺達のためだ…ッ!勝ちたいから努力する、諦めない、負けたくないから足掻く、必死になる…逆に誰かの為に頑張るお前のような奴には、その誰かに助けて貰うことが必要だ、この意味は分かるな?」

「私は…私は…ッ!そんなのッ!…分からないッ!」

 

 分からない筈がない、私は母上に…ッ!

 言葉は気持ちと裏腹に叫んでしまう。

 

「だってッ!分からないんだッ!母上は私がどれだけ頑張ってもッ!応えてくれることなんて無かったッ!私はどうしたらいいんだッ!?私に出来ることはッ!?何なんだッ!?」

 

 胸の内を全て吐き出した私の目は熱くなり、押さえれば大粒の涙が溢れているようだった。

 私の心の内でこんなことを思っていたのか。

 自分でもよく分からない位、言葉が溢れ、胸の内が痛んだ。

 涙を見られないように俯く。

 綺麗な布団に涙の染みができていく。

 

「…それはお前が探せ、アドバイスをするなら…そうだな、人生の目標でも作ったどうだ?」

ひぐっ、そんなのっ、うぐっ…」

 

 心の声を出し切ったからか、私は嗚咽と涙を抑え切れなかった。

 目標なんて、母上だけしか見て来れなかった私が作れない…

 ふと、試合の最後だけは母上も、何のしがらみ無く、()()()を見ることが出来たことを思い出した。

 

 彼を目標にすれば良いのだろうか…?

 そんな思考をブンブンと頭を振り回して霧散させた。

 でも、殺意の意だとしても彼だけを意識したのは初めてで…

 

 そんな邪心を振り払うように彼に言う。

 

「おい、ひぐっ…ふざけるなよ… ひぐっ、貴様…」

「あら、彼なら居ないわよ?もう言っちゃったし」

 

 彼の代わりに永琳さんが応えた。

 私は俯いた顔を上げ、彼を探す…しかし、空いた電子扉が閉まってしまったこと以外に見つけたことは無く、思わず口を開けて固まってしまった。

 

「…は?」

「あら、私が代わりに聞いてあげましょうか?」

「…いいッ!」

 

 ここまで話したのに一瞬で消えてしまった彼にまた殺意を覚え、同時に永琳さんに全て聞かれていたと思うと体が燃えるように恥ずかしく思ってしまい、布団に蹲ってふて寝入りをかました。

 

 永琳さんの笑い声を聞きながら、疲労が溜まったのか、それとも泣き疲れたのか、私はいつの間にか眠ってしまった…

 

◆◆

 

 シンはあまりカレンのことについて関わらないつもりだったが、彼女の顔を見ていると口出しせずには居られなかった。

 彼女の物言いから察するに、母親に固執し、呪いのように彼女を縛っていると感じた。

 

 シンは精神科医では無いが、応急処置として目標と言う名の精神安定剤を施し、大元である母親についても考えておかなければならないと思った。

 

<随分と優しくなったなぁ?>

「…気まぐれだ」

 

 そう言って場を誤魔化し、シンは依姫と…誰だったか、思い出せないが二人の試合を見る為に白い通路を抜け、控室へ向かった。

 途中で売店を通り過ぎた時、ヴェノムがチョコを要求し、財布の合計金額が半分になってしまったが。

 

 控室に辿り着き、もう終わっているだろうかと一抹の不安を抱きながら、テレビのモニターの電源を入れる。

 

『…姫優勢ッ!しかし浩二ッ!力を貯めているが依姫は動かないッ!受け止める気かッ!?』

『迫真流 邪剣・夜 逝魔焼音』

『ハァッッ!!』

 

 丁度クライマックスのようで、目にも止まらぬ速度で放たれた技を、真っ向から打ち合う依姫はそのまま競り勝ち、茶色に焼けた男は鳩尾に一発、奇声を上げて倒れた。

 

 突如に湧き上がる大歓声。

 司会者も興奮したかのように捲し立てる。

 

『綿月依姫vs田所浩二ッ!激闘を制した勝者は依姫ッ!!遂にッ!決勝だぁぁあああッ!!』

 

 夜に観客の雄叫びが響く。

 映像では月読命でさえも、右頬の口角を上げており、期待に満ちた表情をしていた。

 会場が今日一番の盛り上がりを見せ、熱狂の中司会者が叫ぶ。

 

『三十分の休憩を挟むッ!その間、フィールドにて待つも良しッ!控室で瞑想するも良しッ!兎に角二人は静かにその時を待てッ!!』

 

 シンはその言葉を聞き、静かに控室を出た。

 腰に刺さっている刀の感触を確かめながら、誰に向けたのでも無く独り言ちる。

 

「これで最後の勝負だ…行くぞヴェノム」

<…おう、We'll do our best(本気で叩き潰す)ってとこだ>

 

 最後の決闘が幕を開ける。




ご拝読、ありがとうございますなのぜ。
バーキン博士とはバイオハザードのボスなのぜ!
そして永琳がした手術とは、カレンの肉を裂いて、バラバラな骨を元の位置を戻すと言う作業だぜ。
それを一分で、傷跡も無く完了させた永琳…やばいのぜ。
最後にれみにゃんさん、プリズ魔Xさん、おつらはさん、☆10×2、☆9評価、そして誤字報告、ありがとうなのぜ!

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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