それはそうと、みんなー!依姫のお料理教室、はーじまーるよー!依姫みたいな料理下手を目指して、ゆっくり読んでいってねー!
少々キャラ崩壊注意のぜ(ボソッ
「…無ぇな」
「…無いですね」
私は綿月依姫です。
突然ですが事件が起こりました。
それは軍来祭が終わって、目の前の人…シンさん達に激闘の末に敗北した数日後の事。
軍に正式に加入し、仕事にも慣れ始めた夏の下旬。
その日は軍に入って最初の休みであり、昼休みの時間のことでした。
いつも通りに偶然を装ってシンさんについて行って、食堂で一緒に食べる…まぁ、顔を合わせる度にまたお前か、という表情をされますけど……嫌われてませんよね…?
話が逸れましたね。
食堂には行ったのです、ですが…無いのです、料理が、メニューが。
正確には全ての料理が"売り切れ"になっていたのです…
何と言うことでしょうか…これでは私とシンさんとが折角話せるタイミnゲフンゲフン…別に違いますよ、たまたまです、そうたまたま。
「…何故でしょうか…?いつもはもっと人足もあったはずなのに…」
「さぁな…おーい!!オバチャン!!食堂のオバチャーン!!」
余りにも閑散とした食堂を不審に思った私達は、普段受付兼厨房係に就いている小太り気味な…いえ、恰幅の良い女性を呼びました。
その方は呼びつけに直ぐに応じて、はいは〜いという声と共にのっそりと現れました。
「どうしたんだい?」
「ええ、すみませんが尋ねたいことが…どうしてこんなにも閑散としているのですか?」
「客足が少なすぎて遂に閉店でもしたか?」
シンさん、それは笑えないジョークです。
目の前の女性はまるで何を言っているんだと表すが如く目を丸め、キョトンとした仕草をとっていました。
鄒俊私達を交互に見た女性は納得したかのように声を漏らし、私達にこの状況に説明してくれました。
「さては通達を聞いていなかったね…今日は食堂オフの日なんだ、悪いが飯なら他を当たりな、このバカップル」
「かっ、かかカップルじゃありましぇんよッ!?何を言ってるでしゅか!?」
「…落ち着けよ」
おちおち落ち付けられますかこんなくぁwせdrftgyふじこlp!?!?
その時、私の脳裏に一線の閃き…電流が流れます。
…いや…待って下さい、こちらのおば様からはカップルの様に見える…つまり私達は実際には付き合ってなどいませんが他人から見れば充分付き合っていると判断出来る…これは客観的にかなり親密であるということと同義であり少なくとも彼に嫌われていないと言う証明に他ならない!つまり実質的に私達は付き合っているのでは…?事実婚という言葉がある様に実際にプロポーズされて居なくても事実的、客観的に付き合っているという判断をしても良いのでは!?きゃー///!付き合ってるだなんてそんな、えへへ…んふふ…ぐへへ…
「えへへ♪そんな…カップルだなんて〜」
「…大変だね、アンタ」
「…とっくの前から知ってる」
そうですか〜見えちゃいますか〜、カップルに♪
今きっと、にへらとした表情してます…
お二人方が何かお話ししてらっしゃいますがきっと他愛の無い話でしょう。
と、ここで。
聞き逃せない一言がシンさんから放たれました。
「はぁ…弁当でもありゃ良かったな…あぁ?悪かったよ…」
最後に付け加えられた一文はきっと彼の中に潜む、
しかし、弁当…その言葉が私の頭の中で反芻しました。
ならば!
この擬似実質的彼女の私が弁当を拵えて差し上げましょう!
キッチンには昔からお父様や姉さんが触らせてはくれませんでしたが…私だって卵焼きぐらいなら作ることが出来ました!(第五話参照)
思い立ったが吉、私は早速その場を後にしー彼と離れるのは吝かでしたがー弁当の作り方を家族に教わりに行くのでした。
◆◆
「絶対ダメよ」
「同意見だ」
「ぐすっ、何故ですか…ッ!?」
料理を教えて下さい、その言葉が言い終わる前に私の提案は、お父様と姉さん二人に却下されました。
ぐっ…一体なぜ…
「だって依姫…あなた料理下手じゃ無い」
「数年前の悲劇は忘れてないからな」
「ぐぅ…」
呆れたように言う姉さん、これにはぐぅの音しか出せません。
しかし、数年前…?私何かしましたっけ…?
「私何かしましたっけって顔だな、依姫」
「まぁ、依姫も小さかったしね…」
「…?」
全くその記憶の無い私を見兼ねてか、お父様が感慨深そうにフライパンを撫でて話し始めました。
…いかにも重大な話が始まりそうですが、やってることがただの思い出語りなんですよね。
「今から十年程前…お前に生まれて初めてキッチンを触らせた…料理の練習と言う名目でな、お前はその時は既に能力が使えるようになっていただろう?」
「…確かにそうですね」
お父様の記憶を聞くと同時に朧げながら、記憶が蘇ってきました。
あの時はお父様の料理を作る姿ばかり見ていて…姉さんも時々手伝っていたから、私もやってみようと思ったのでしたっけ…
それで人生で生まれて初めて包丁をにぎ………
あれ?そういえば包丁なんて使ったことがないですね?
「事件の始まりはそう…依姫が台所に立った所から始まった…まずはレタスを切らせようとまな板に置いた瞬間、まな板ごとレタスが真っ二つに切られていた、いや斬られたと言った方が正しいか」
「あの時は怖かったわよ〜、まさか料理に
おどけてみせる姉さんを横目に、私の脳裏に小さい頃の幻影が映りました。
◆◆
「依姫、まずはこの包丁を持って…」
「ぎおんさまの力!」
愛娘に料理を教えることに心を躍らせる父を無視し、可愛らしい声と共に振り下ろされた凶刃。
それは包丁…ではなく神の力によって生成された刀であり、彼女が神降しを施行した裏付けをしていた。
心無しかレタスも何かを諦めたような雰囲気を醸し出している。
レタスの直径を軽々と超える刀は、まるでバターを切るかのようにレタスを斬殺し、刀を受け止めるまな板すらも一刀の内に両断した。
それすらも飽き足らず、恐るべき神剣はキッチンに深々と突き刺さり、勢いが止まったところでその頭身を霧散させた。
「あれ?」
「………ちょっ、ちょっと待て?依姫?」
「( ゚д゚)」
思ったように切れなかったレタスに可愛らしく首を傾ける料理音痴、依姫。
はちきゅっぱのキッチンをオシャカにされた挙句、可愛い可愛い愛娘が実はとんでもない料理下手である可能性がある現実を受け入れられないニ児の父、玄楽。
ただただ目の前の惨状に口を開けて驚愕する頼れるお姉さん、豊姫。
まさに三つ巴、これが甲乙丙、
三者三様の沈黙が訪れる。
しかし颯爽と依姫がそれを破り、事態を更なる混沌へ突き落とす。
「えーと…次はフライパンですね!」
「待て依姫ぇ!」
「依姫!間違っても神降しなんて…」
静止は半ばで遮られた。
何故なら油もないと言うのにレタスが豪火に包まれたからだ。
「あたごさまの火!」
「あわわわ…」
神の豪華に焼かれるレタスは、正にそう、ギャピィィィイイ!と言う擬音が似合うほどその身を迸せて炭と化していった。
神の炎はそれだけでは止まらない。
皆はフランベをご存知だろうか。
アルコール度数の高い酒をフライパンの中に落とし、一気にアルコール分を飛ばす調理法である。
派手に炎が立ち昇ることから演出としても人気だ。
しかし、依姫のするフランベは尋常じゃない程炎が立ち昇り、天に昇っていく炎は天井を黒く染め上げた。
このままでは炎が引火して大惨事となってしまう。
しかし依姫はまだ幼い。
制御する術も知らず、それどころか神秘的にも舞い上がる焔に夢中となってしまっている。
轟々と燃ゆる炎がまるで依姫を見下すかのようにその身を膨れ上がらせる。
いよいよ収拾がつかなくなったその時。
頼れるお姉さんが動いた。
「そいやー!!」
「きゃっ!?」
プシューッと噴き出した白い煙。
そう、豊姫だ。
小さな体に不釣り合いな消火器を携え、依姫向けて白い煙を浴びせている。
神の炎と言っても使用者はまだまだ子供、瞬く間に白い煙に抱かれて 、炎はみるみる鎮火して行った。
しかしどうやって彼女は重い消火器なんて物を入手して来たのだろうか?
「依姫大丈夫か!?」
炎が鎮火したのを見計らって玄楽が白い煙の中に突貫していく。
無論、依姫を煙の中から救い出す為である。
少しの緊迫。
多少の心配を胸に宿した豊姫だったが、依姫を背負って煙から出て来た二人にそんな心配は霧散した。
安心したように消火器を床に落とし、依姫ごと父に抱きつく。
「はぁ〜良かった〜」
「豊姫、助かった、我が能力を使わなかったら危なかったな…」
依姫の無事に安堵の声を漏らす二人だが、何の声も上げない依姫を見て二人は思わず嘆息した。
「すぅ…すぅ…」
いかにも幸せそうに寝ているのだ。
「…恐らく許容範囲を超えた能力使用で体が強制的にシャットダウンを掛けたのだろう」
「何言ってるかわかんないけど、要は疲れて寝ちゃったってことでしょ?」
「むにゃむにゃ…」
丁寧に説明した玄楽だったが、まだ子供の豊姫にその説明は理解出来なかった。
依姫はそんなこと露知らずに熟睡している。
その姿はさながら遊んだばかりで疲れた童である。
そして、二人は黒焦げとなり、正に悲劇を体現しているキッチンを見据え、決意を込めて言った。
「「もう依姫に料理はさせないでおこう」」
◆◆
「…と、言う訳だ」
「ももも申し訳ございませんでしたぁっ!!」
全て思い出しました…いえ、思い出してしまいました!
私は何てことを…
心なしかレタスの怨霊が背中にのしかかっているような気さえします…!
「よせ、昔のことだ、それに家族の仲であろう?」
「そうそう♪」
「お、お父様…!姉さん…!」
優しげな瞳でこちらを見つめる
な、なんと寛容な…!
「それでは料理を…!」
「あっそれはダメよ」
ズコー!
完全に今の流れは了承する流れでしたでしょうに!WHY!?
あっけらかんと言い放つ姉さんは続け様に続けました。
「私には教えられる技量も余り無いし、お父様もかなり忙しいから、依姫が下手以前に時間が無いのよ…情けない話だけど」
「済まない…情けない父で…」
「い、いえ…なら仕方ないですが…」
…鼻から不可能な話だったのですね。
申し訳無さそうに顔を逸らす二人に少しの罪悪感を感じ、メラメラと燃えていた情熱が急速に萎えていくのを感じました。
いや、それ以前に私の技量の問題ですが…はぁ…
と、そこで。
お父様が私の情熱の炎を吹き返す言葉を放ちました。
「…提案だが、依姫に友がいただろう?新入りのカレンだったか…?その子に教えて貰ってはどうだ?」
「…!!その手がありましたかっ!!」
「カレンってあのビリビリしてる子?」
姉さんの問いにうなづく事で返事を返し、新たに希望が見え、拳を握りました。
確かにあの人は弁当をいつも持参していました、ならば彼女か彼女の母に聞いてみるのが賢明でしょう…!
思い立つ日に日咎なし。
わざわざ時間を取って下さった二人に感謝を示し、早速彼女の元に向かうことにしました。
◆◆
「料理ぃ?…私に?」
「はいっ!お願いします!」
お父様の話を聞き、彼女を探し出してはや十分。
ようやく彼女を見つけ、呼び止め様に頭を下げてお願いしました。
しかし彼女から面倒臭そうに手を振って拒否されてしまったのです。
「嫌だね、なんで私がそんなこと」
「お願いします!」
「…だからさ」
「お願いしますっ!!助けが必要なんです!!」
二度三度と断る彼女に私は必死でお願いしました。
そしてその心が届いたのか、徐々に徐々に彼女の態度が軟化し始めたのです。
更に、彼女の顔色は分かりませんが、身振り素振りでそわそわとしている事が分かりました。
「ふ、ふーん…私に?まぁどうしてもって言うなら?いいけど?」
「本当ですか!?ありがとうございますっ!!」
その言葉を聞いて私は目を輝かせてカレンさんに詰め寄りました。
しかし彼女の顔は紅潮しており、どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせていたのです。
それは可憐な花のようであり、可愛らしい体躯にあった表情でした。
彼女は頬の紅潮を誤魔化すように言います。
「べ、別に嬉しいとか思ってねぇからな!」
「ふふっ、ありがとうございます!」
「…ケッ…まぁいい、依姫だったよな?厨房借りても良いか?」
「えぇ、よろしくお願いします!」
カレンさんはそっぽを向いてぶっきらぼうに言い、私はその提案を快く了承しました。
自宅のキッチンはある意味事故物件ですが、この方と一緒ならそうそう事件は起きないでしょう。
「じゃ、案内してくれ」
「了解しました♪」
◆◆
キッチンへ行く途中、私はとある質問をカレンさんに投げ掛けました。
「いつもカレンさんが持参している弁当は母親が作っているのですか?」
「…なんかむず痒いな、カレンでいい…弁当は私が作ってる、まぁ、結構前までは母上が作ってくれたが…」
気まずそうに話すカレンさ…カレンから何処か哀愁を感じとり、疑問に思った私は理由を聞くことにしました。
「何かあったので?」
「…言う必要もない、それよりお前は料理は作ったことがないのか?」
適当にはぐらかされ、きっと話したくないくらいには思い詰めた雰囲気を感じとり、これ以上詮索するのは止めました。
誰にでも話したくない過去というのはある物です。
「ええ…恥ずかしながら…」
「へぇ…そう言えばシンとお前はライバルと言っていたが、どう言うことだ?」
その質問が来ましたか…
彼との秘密のような関係を第三者に打ち明けるのは吝かではありますが、上目遣いのような視線にそんな気持ちも吹き飛んでしまいました。
実際には見上げているだけかもしれませんが。
端的に言うならば…そう、庇護欲…
「…随分前に、ですね…彼が
「勝敗は?」
「…勝ちました、ただ…彼はその時も、それからもずっと諦めなくて、わたしはそんな姿が…」
「OK OK、分かった、これ以上聞くと砂糖を吐きそうだ」
私の言葉を遮り、顔を少し顰めて言った彼女は少し歩くスピードを落として言いました。
まるでキッチンに着く前に言うべきことがあるとでも言うように。
「アイツは元からそこまで強くないんだな?じゃあ私にもチャンスがある、奴を落とすチャンス、がな…」
「えっ?(恋に)堕とす?」
「そう、アイツを(勝負的な意味で)落とす」
…
……………
え?
彼女ってそう言う意味のライバルだったのですか?恋敵!?
こここ混乱して来ました…彼女はシンさんのことが、す、好きと?
カレン…恐ろしい子…ッ!
こういうことはどうすれば…そうだ、とりあえず"釘"を刺さないといけませんね…!
「彼を攻略する前に、まず私を倒さないといけませんよ…?」
「ん?あぁ(決勝戦でお前に勝ってたし)そうだな」
…なんでしょう…この無愛想さ…
はっまさか眼中に無いと!?お前を超えるのは楽勝だと、そういうことですか!?
不味い…彼女は自信満々だ…これこそ彼の胃袋を掴んでアドバンテージを得ないと…負ける…ッ!
「…おーい、おーい?ここじゃ無いのか?足が止まってるぞ?」
「あっ、えっ?あぁ着きましたね!どうぞ中へ!」
頭をグルグル駆け巡る問題に夢中になっていた私は、カレンに言われて初めてついさっきの部屋まで戻って来たことが分かりました。
…とりあえずこの重大な問題は後にして、今は彼女に料理を教わるとしましょう。
それはそうと彼女が小さい背を伸ばして扉を開けるその姿は口調とのギャップがあり、正直可愛らしかったです。
まさかこのギャップを狙って彼を堕とそうと…まさかね?
…おっと、雑念が。
料理に集中しなければいけませんね。
カレンは部屋に着くなり冷蔵庫の中身や調味料の種類、食器の状態とさまざまな事を確認していました。
大方何を教えるか迷っているのでしょう。
「あの、弁当に入れるような料理がいいのですが…」
「ふむ、そうか…分かった、じゃあ依姫には包丁のやり方とフライパンの使い方を教える、最低これらと白米があれば弁当は出来るからな」
「分かりました!」
包丁もフライパンも苦い思い出しかありませんね…
そんな私を横目に彼女はまな板をキッチンにことりと置き冷蔵庫からレタスを持ってきました、うっ頭が…
そして彼女はレタスをそのまままな板の上に置かず水で洗い始めましたのです。
「何故水で洗うんですか…?」
「…表面の汚れを洗い流すためだ、寄生虫がいるかも知れねぇし…常識だろ?」
ひぇっ…やはり無知とは罪でした。
彼女に教えを乞いていなかったら恐ろしい事態になっていたかも知れません。
彼女はレタスを冷水で洗っていると、あ、と言う間抜けな声を出して私にレタスを差し出してきました。
「私がやってちゃ意味ねぇんだった…私が逐一教えてやるから、やってみな」
「はは、そうでしたね…では…」
流し台に立ち代わってレタスを受け取った私は、初めて触るとも言っていい生のレタスの感触に少し戸惑いながらも表面を水で流していきました。
十数秒、無言でレタスを洗い続け、冷水に手が慣れてきた頃にカレンからストップが掛かりました。
「そこまでだ、洗いすぎると旨味がなくなるからな…それをまな板に置いてくれ」
「は、はい」
言われた通りにまな板に置くと包丁を取り出し、説明と共にレタスにヤイバを突き付けました。
「今回作るのは別に包丁を使わなくてもいいが、一応教えておく、猫の手は分かるな?」
「ね、猫の手?こうでしょうか?にゃー///」
「…」
ね、猫ポーズをしてみましたが絶対違いますね…恥ずかしい、恥ずかしすぎます…顔が熱いです…
彼女もやれやれと言った表情で溜息を吐いていました。
「忘れてください…///」
「…まぁ、猫の手っていうのはな…手を丸めて食材に添えて指の第一関節が包丁の腹に当たるようするやり方だ、四、五㎝間隔で切ってみな、包丁は前後に動かして切るイメージだ」
「はぃ…」
意気消沈、その言葉が似合うような雰囲気で私はレタスをザクザクと切っていました。
無心で切りましょう、無心で……痛ッ!?
「大丈夫かっ!?」
「うぅ、大丈夫です、少し切っただけなので…」
「ちょっと待ってろ、バンソーコー貼ってやる」
どうやらボーっとしてしまったお陰で伸びた親指を切ってしまったようでした。
幸いにも傷は浅く、トクトクと血が流れ出ただけで済みました。
それにカレンが絆創膏を携帯していたようで、壊れ物を扱うかように優しく親指にそれを巻いてくれました。
ガーゼの部分がジワリと紅に染まります。
「ありがとうございます…」
「気にすんな、一旦休憩するか?」
「いいえ…続けます、せめて野菜だけは切り終えたいので」
折角時間を割いて手伝ってくれているので余計な時間は取らせたくありません。
それに…
そう奮起した私は今度は指を切らないよう、慎重にレタスを切りました。
ですが、上手くいきません…何故でしょうか…
困り果てた私は、助けの視線をカレンに送りました。
「慎重になり過ぎだ、自分の手にさえ注意しとけばいいからな」
「はい…」
慎重に…されど迅速に…
◆◆
「出来ましたっ!」
「…うん、 OKだ」
格闘するとか約数分、ようやくレタスを切り終えることが出来ました。
やはり剣と包丁とはまるっきり違う物ですね…危うくまな板ごと切るところでした。
しかし、達成感に浸る私にカレンは更なる試練を与えました。
「次はこれをベーコンで巻いて、爪楊枝で刺すんだ、手伝ってやるからまずはやってみ」
「了解です」
言われた通りに、レタスを重ねてベーコンを巻いて刺す…
重ねて巻いて刺す…重ねて巻いて刺す…
随分単調ですが…みるみる内にその量は大きくなり、二人でついつい二十個も作ってしまいました。
ですが大丈夫!彼女なら何か考えがあっての行動の筈!
「こんなに作って大丈夫ですか?一応弁当の具材ですが…?」
「………あ」
テキパキとベーコン巻きを作る彼女の腕が止まりました、ついでに冷や汗も流れ始めました。
ちょっと待ってくださいよ、なんですか"あ“って。
まさか…
「…く、食えるよな?これぐらい?」
「食べられないに決まってるでしょうっ!大体これは贈り物なんですからっ!」
「ハハハ!すまんすまん、ところで…誰への贈り物だ?」
「そりゃあシンさんに決まって…」
…
………く、口が滑りました…
彼女がニマーっとこちらを向いています…は、恥ずかしい…
一体今日で何回目の辱めなのでしょうか…!?
それに…
「そうか〜アイツにね〜…弁当を…へぇ〜」
「そ、そんなことはどうでもいいので料理を教えて下さいませんかっ!?」
「いいけどよ…ふ〜ん…乙女だねぇ…」
チクチク言葉、反対。
とはいえ彼女も飽きたのか山盛りのベーコン巻きレタスを皿に入れ、IHコンロへと向かいました。
「てかお前の彼氏ならこれぐらい喜んで食うんじゃ無いのか?」
「〜〜〜っ!?!?」
「揶揄いすぎたか…」
か、かっ、かれ、かれしっ、彼氏じゃ……
あーもうっ!フライパンじゃなくて顔から火が出そうです!
…彼女はフライパンに油を敷き、火を通してからドサドサとベーコン巻きレタスを投入しました。
別にもう助けなんて入りませんけどね!
「悪かったって…ほら、焦げ目が付いたら転がして…んで満遍なく火を通すんだ」
「分かりましたよ…」
なんだかんだ言う通りにしてますが別に助けてもらってるわけでは無いですからね!って私は誰に説明してるのでしょうか…
…次第にベーコンの魅惑的で抗い難い匂いが部屋に充満して来ました。
ベーコンから滲み出る煌めく肉汁、その肉汁に包まれていくレタス、じゅうじゅうと音を立てて焼けていくこの感覚…
なんでしょう…この衝動は…そう、正に…一口食べてみたい…そんな感情…
今日やっと盗み食いをする人の気持ちが分かった気がします…
「…味見ぐらいならして良いぞ?そんな顔をしてる」
「っ!」
お、お見通しですか…ご丁寧に皿に一つ盛ってまで…
それでは…失礼して…
パクリ
…これは…これは、これはっ!
パリパリと小気味のいい食感、それにベーコンの肉汁が絶妙にレタスの風味とマッチする…っ!
美味しい…っ!たった二つの食材でここまでとは…!!
てっきりどこかで失敗したかと思っていましたが…これは…
「とても美味しいですっ!」
「料理ってのはそんなモンだ、スーパーのより手作りの方が俄然美味いし、これだけの食材でもこんなに美味くなる」
「もっと早くに"料理“に触れておけば良かったかもですね…」
これなら彼だって満足してくれるでしょう…!
そう私が感動している隙にカレンは恐るべきスピードで山盛りのベーコン巻きレタスを弁当に詰めていきました。
は、疾い…見えなかった…これが普段料理をしている者としていない者の違いでしょうか…?
「あとはご飯よそって野菜入れて完成だ、まぁ野菜は次回だな…今回はトマトでも入れてやる」
「何から何までありがとうございます…っ!恩人です本当に…!」
「よせよ…照れる…」
これは揶揄われても許してしまいます…
今の彼女を人言で表すなら、家庭的…そう断言出来る程手慣れていました。
そして…!
「完成しましたっ!!」
「おう、お疲れさん」
明日に渡す弁当が遂に完成しました!
紆余曲折…様々なことがありましたが…やっと…やっと完成です…!
言うならば私のカレンの努力と友情と結晶…
達成感凄まじく、私は思わず泣いてしまいそうでした。
「やりましたよカレン!本当にありがとうございます!お礼に私に出来ることなら何でもしますよ!!」
「いいさ何でもなんて………いや」
彼女は口ごもり、恥ずかしいそうに言いました。
「えーっとな」
「どうしました?」
少しの時間が空き、耳まで真っ赤にして言いました。
「私と、その、と、友達になってくれるか…?そんでまた料理を教えるからさ…」
「え…?」
「だ、駄目か…?」
一世一代の大勝負とも言ってもいいくらいの雰囲気で言ったと思えば、拍子抜けしました。
だって私達は…
「私達はもう友達でしょう?今更ですよそんなの!」
「…そうか…そうかぁ」
彼女は安心したかのように溜息を吐くと、今度は涙をぽろぽろと落としてしまいました。
えっ涙!?えっえっえっ?
「だ、大丈夫ですか!?そんな泣いて…」
「あぁ、大丈夫だ…ただ、一緒にいて楽しいと思った他人が…友達が初めてで…」
…きっと、私と同じように周りから疎まれたり、恨みの対象となったことがあるのでしょう。
必死に嗚咽を堪える彼女を見て、私は咄嗟に彼女に抱きつきました。
「大丈夫です、私は、あなたの友達です…悲しいことがあったら、私に話してください、話し相手になります…約束ですよ?」
「…っ」
「それとまた今度料理を教えるのも約束ですよ?」
「……ふふ、何だそれ…ありがとう、元気が出たよ」
彼女は少し目元を腫らした顔を上げ、部屋の出口まで戻って行きました。
…帰ってしまわれるのでしょうか。
「じゃあな…また今度」
「えぇ、今日は本当にありがとうございます…さよなら♪」
ぶっきらぼうに別れの挨拶を告げた彼女は早足に帰って行きました。
ガチャンと扉が閉まり、部屋には私一人が残されます。
少し寂しさが残りますが、同時に嬉しさも込み上げてくるような気がしました。
弁当が出来たからか、友達が出来たからか、はたまたその両方でしょうか。
◆◆
<おい!飯だ!メシを食わせろ!>
「分かった…待ってくれ…!」
不味い…ピンチだ…また食堂が空いていなかった…
昨日と変わらずがらんどうとした空間。
畜生…俺は昨日何を学んだんだよ…調べときゃ良かった…
<飯が無いなら闘えッ!闘ってアドレナリンを出せッ!それかチョコを寄越せ!兎に角腹減った!!昨日から何も食ってねェ!>
「今金が無ぇんだよ…!…なら悪人でも食いに行くか?」
手元にあるのはチョコレートを一、二枚買えるか買えないか程度のはした金。
ヴェノムは満足する(恐らくしない)として、俺が飢え死にしてしまう。
妖怪と戦うのも、こんな状態では正直リスクがある。
だが、人の脳から直接神経物質を取り込めば、その限りではない。
妖怪より弱く、ヴェノムも満足する。
残った金でおにぎり一つ、最低でも菓子が買える筈、それで明日に繋がる。
何を隠そう明日は、初任給が渡される、運命の日だ。
うむ、決定だ。
人を食うのは初めてだが、罪悪感が残らない様、飛び切り悪い奴を食おう。
違法なペットショップ店で働くオーナーなんかが望ましい。
兎に角こちとら極限状態だ、四の五の言ってられない。
<グッドアイデアだ!じゃあさっさと行こうぜ!!>
「あ、あの!」
「…?…依姫か」
悪人カニバルを実行しようとしたその時、依姫に呼び止められた。
何事かと振り返ると、どうやら彼女は手に何が携えているようで、見たところ…弁当を持っているようだった。
「これをどうぞ!作ったんです!」
「これを依姫が?」
「は、はい…!」
<飯か!?>
差し出されたのは兎のプリントされた弁当箱。
ふと、視界の端に依姫の指が映った。
絆創膏の貼られた親指、大方包丁で失敗したのだろう。
少しの申し訳無さと多くの感謝が胸を占め、思わず言葉が漏れ出た。
「…ありがとな」
「…っ!!」
瞬間、言葉を聞いた依姫は耳まで朱に染め、脱兎の如く走り去ってしまった。
ちなみに弁当はおかずの量が異常な事以外は普通に美味しかった。
本当に助かった…ギリギリの食費が浮いた…
<俺のは!?チョコレートはどうしたっ!?>
「…」
どうやら無一文になりそうだ…
◆◆
やりました!
今度は野菜もカレンとしっかり作って、また彼に送りたいですね!
ご拝読、ありがとうなのぜ!
本当に遅れて申し訳ないのぜ…
これからももしかしたらこのペースで投稿するかの知れないので…どうかよろしくお願いしますなのぜ…!
Twitter始めましたのぜ…よろしくなのぜ…
https://mobile.twitter.com/cDyMHGEPwTLy1kw
登場人物紹介っている?
-
やってくれ 必要だろ(いる)
-
それは雑魚の思考だ(いらない)