東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくりしてくれのぜ。


第二十七話 躊躇い

誰か…?私はエレクトロ…人類の抹殺者だ…!!

 

 目の前の少女は名乗ると同時に手を突き出して蒼電を放出した。

 呆然と彼女を見ていた俺達は一瞬反応が遅れたが、間一髪の所で横に飛び込み、電撃を免れた。

 肝心な顔が見えないがこの体躯、この能力…まさか…

 

 考えが纏まらず、目の前の少女を敵が味方かも判断出来ない。

 突っ立っている俺達は無防備だったが、避けられたことに驚いたのか、攻勢に出ないことを不思議に思ったのか、少女はアクションを起こさなかった。

 

「ハハハ!避けたか!避けられたのは初めてだぞ!!なぁ!?」

「………お前は…カレン…なのか?」

「あぁ?…私はエレクトロだと…ぁがッ!?聞こえなか…ぅぐッ!?おええええ"え"…」

<…アイツ本当にカレンか?>

 

 荒々しく宣言する彼女は会話途中で急にえづきだし、頭を押さえて道端に吐瀉した。

 ただ単に酔った訳ではないだろう。

 彼女が苦しそうに、けれども吐くモノも無いのか胃酸を口から垂れ流している。

 

 一体どうしたと言うのか。

 

「お、おいカレン?何の真似を…」

「黙れッ!!!」

 

 彼女は顔を上げて俺達を忌々しげに見て言った。

 その顔は苦痛に満ちた表情であり、困惑、殺意、苦悶、苛立ち、様々な表情が読み取れる。

 

 本当にどうしたんだ。

 

 そう尋ねる前に口早に彼女は言った。

 

「ぐぅうう!?何故だか知らんが貴様の声を聞くと頭が痛むッ!殺す!あぁ殺してやるッ!」

「ぅおっ!?」

<おいシン!迷ってないでさっさとやるぞッ!!>

「…仕方ない…ッ!」

 

 何処か情緒のおかしい彼女はヒステリックに叫び、電流を纏って突撃した。

 余波だけで地面のコンクリートが剥がれ、暗い夜に閃光が走る。

 

 目の前に迫る電気の塊を真上に飛んで回避した俺はヴェノムに言われて着地と同時に彼女は向き直り、ヴェノムを纏った。

 いつもならば高揚感が襲う筈だが、全くそんな気は起きない。

 

 彼女はフード越しでも分かる程強い眼光でこちらを見据え、電流を迸らせている。

 まだまだと言わんばかりに彼女は両手を地面に突き刺し、雷を弾けさせた。

 

「エレクトロピラーズッ!!」

 

 直後にバリバリと地面に彼女を中心として雷光が走り、地中から大量の雷の柱が立ち昇った。

 

 視界を埋め尽くす雷陣を避け切ることは出来ず胴に柱の一本が直撃する。

 

グッ!?

<危ねぇッ!前からくるぞッ!>

「まだまだァッッ!!」

 

 目の前は雷色一色だが、彼女が雷を突っ切ってこちらに突進してきているようだった。

 気づいた時には猛々しい蒼が目の前一杯に広がり、全身の激痛と遅れてやってくる背後の激痛に体を身悶えさせた。

 

 …どうやら突進に突き飛ばされ、その勢いで壁に激突したようだ。

 背後に蜘蛛の巣状のヒビが入っており、ヴェノム越しとはいえ体が痺れて上手く動けない。

 

 痺れを無視して壁に背をつけながら立ち上がる。

 

クッソ…てめぇ…ッ!

 

 …今のは電量も威力も軍来祭と比較にならない、正に殺す気の一撃だった。

 

 そうか…ならば覚悟は決まった。

 アイツがカレンだろうが無かろうが叩き潰してやる…!

 

…お前がカレンか何者かなんて…もうどうでも良い…いいぜ、そこまで俺と勝負したいなら付き合ってやるよ…ッ!!

「黙れッ!!オオオオォォォオオッッ!!」

 

 フードから漏れ出る金色の髪を振り回して雄叫びを発する彼女。

 

 今だけは…今だけは過去も、しがらみも、思い出も、全てを忘れて(闘い)だけに全ての意識の目を向け、神経の隅々を鋭く尖らせよう。

 目の前の相手と闘い合う(殺し合う)ために。

 相手がカレンだとしても腕が鈍らないように!

 

行くぞッッッ!!!!

「ガァああああッ!!殺すッッ!!!!」

 

 歯を剥き出して咆哮する彼女は両の手のひらを突き出し、蒼電を発した。

 爆音を立て、幾多もの道筋を描きながら飛来する電撃を避けるのは至難の業だろう。

 

 だが今の俺には…遅い。

 依姫の斬撃と比べて密度が少なく、速度も足りない。

 唯一勝っているもすれば威力か。

 

俺も舐められたものだなぁッ!!」

 

 体を蒼電に滑らせる様に回避し、一息で彼女の眼の前まで接近する。

 

 一瞬で目と鼻の先に現れたシン達に、驚愕に染まる彼女。

 その腹部へ強烈なボディブローを炸裂させた。

 肺まで届いた一撃に彼女は空気を吐き出し、ミシリと骨を唸らせる。

 恐らく彼女は内臓をシェイクされたかの様な感覚を味わっただろう。

 

 続け様に横薙ぎに蹴りを繰り出し、彼女を吹き飛ばした。

 

「ごハァッッ!?!?」

その程度かァッ!?

 

 十数メートル吹き飛び、バウンドしながら減速する彼女は体制を立て直し、地面に爪を突き立てながら着地した。

 こちらに伸びる様に爪痕が地面に刻みつけられる。

 

「おのれェッッ!!」

 

 彼女はボディブローを喰らったとはいえ、なんとも無い様に声を荒げた。

 

 ヴェノムの力で殴ったはずだが…

 口元が裂け、歯を剥き出しにした…いわゆる憤怒を表す彼女は更に力を弾けさせる。

 

「オォォォオ…ッ」

 

 両手から溢れんばかりの光を灯し、低く唸る彼女。 

 恐らく軍来祭で発動した【ゼウス・ドンナーシュラーク(神の零した雷)】の様なエネルギー砲だろうか?

 

<今更俺達にそんな技が効くかッ!>

 

 そう豪語するヴェノムだったが、時折溢れ、漏れ出る雷電が地面やビルのコンクリートを破壊した光景を目の当たりにし。

 

<…よしッ、絶対避けろよシンッ!!>

 

 掌を返して俺に忠告した。

 勿論心得たつもりだが…明らかに上昇している電力…技が放たれる前に攻撃を仕掛けることも出来るが、未知の攻撃にそれは悪手。

 

 ならばどうするか。

 答えは簡単、迎え撃つ…最悪の場合は回避すれば良い。

 

 どんな攻撃が来ても対応できる様に腰を深く落とし、構えを取る。

 

 一方彼女は電力の蓄えられた両手を握りしめ、前方…つまり俺達の方向へ両手を合わせた。

 ビリビリとライトブルーの雷の音が一層激しくなり、今にも爆発しそうに電力のエネルギー体が脈動する。

 

 来る…来る…来る、来る来る来るッッッ!!

 

ジゴラーク・アスカロン(蒼砲・天翔雷撃)ッッ!!」

 

 極限まで貯められた電力はその身を暴力的、かつ破壊的なエネルギーの結晶へと姿を変え、猛烈な蒼光を発しながら俺達を襲った。

 

 目の前に迫るは圧倒的な絶望を伴った死の権化。

 そう表しても差し支えない程の迫力、破壊力、電力。

 

 受ければ真面目に消滅する。

 電光が顔を照らすと同時にそう悟り、壁に飛び付いた。

 

 通路丸々を覆い尽くす蒼雷の奔流が目の前を通過し、息を吐くーーー

 

 そんな暇が与えられるはずも無く、横を通り抜けていた極太の光線の如き雷光がこちらへ迫った。

 客観的に説明するならば…彼女が極太レーザーを振り回している…と言ったところか。

 

うおおぉぉぉぉッッ!?!?

<追ってくるぞッ!>

 

 俺達が元いた壁を雷の奔流が打ち砕き、高層ビルに易々と大きな穴を開ける。

 ガラガラと崩れる瓦礫を横目に、俺達は壁を伝って雷の奔流を避けた。

 

 俺達の後を追う様に雷の奔流が追跡し、その度にビル群を破壊させていく。

 だが…着実に近付いている…

 

 ようやく目と目が合うほどに近づいた俺達は、あることを思い付き、ビルに張り付いた。

 無論、あわや雷の奔流に飲み込まれる直前の領域に足を踏み入れる。

 そして力及ばず飲み込まれ、星空の藻屑になる…なんてことは無く。

 

 奔流に飲み込まれる一歩手前の所で、コンクリートを踏み砕く程に壁を踏み締め、弾丸の様に彼女で飛び出す。

 ヴェノムの力で飛び出した俺達の体は一瞬で亜音速の世界に辿り着き、ソニックブームを発生させた。

 

 その勢いで驚愕に染まる彼女の顔を掴み(アイアンクロー)、慣性に任せて地面に叩きつけた。

 

「ぐぉぉォォ"ォ"オ"ッッ!?!?」

オオォォォオオオオッッッ!!!

 

 悲鳴にも似た咆哮を上げる彼女はコンクリートの地面を割りながら暴れ、光の奔流はいつしか霧散していた。

 亜音速で打ち出された勢いは止まらず、T字路に差し掛かるまで止まらなかった。

 

 しかしそれだけでは終わらせない。

 彼女の華奢な体を持ち上げ、顔を掴んだままビルの壁に叩きつけ、爆音と共にめり込んだ彼女をそのまま壁ですりおろすかの様にビルの横を走った。

 

 壁に彼女をめり込ませたまま走ったのだから、勿論彼女は顔面で壁を破壊し、激痛の余りに咆哮を上げた。

 

「ぐぁああああああああッッッ!!!!」

ッッオラァッッ!!

 

 ついでとばかりに彼女を思い切り壁から引き抜き、その勢いを持って今度は地面に思い切り叩き付けた。

 ドォンッ!そんな衝撃音が星空に響き、コンクリートが許容量を遥かに超えた衝撃によって半球状に窪み、通路全体にヒビが入る。

 

「ッごぁァッッ!?」

ッこれでッッ!!終わ…

 

 最後の一発。

 両手を合わせて握り拳を作り、頭蓋骨を砕き割る勢いで振り下ろした。

 しかし…血と肺の中の空気を強制的に吐き出した彼女のフードは破れ去り、その顔が露わになった瞬間、その拳は止まってしまった。

 

 体躯、電撃…いかにフードで顔が隠れてしまっていても、体が蒼く迸っていたとしてもその少女がカレンだと言うことは確実であり、自明の理であった。

 ただそれを信じたく無かったのは()()()()()で命の危機に陥れてしまった罪悪感、彼女は俺を恨んでいるのでは無いかと言う恐怖が根底に潜んでいたからだろうか。

 だからこそ目の前の少女はカレンでは無いと決め付け、殺害しようとした。

 

 しかし、露わとなった彼女の顔は、どうしようも無く、カレンと同じで。

 

「あぁ……すまん…………カレン」

<おいッ!!シンッッ!!動けッッ!!>

 

 今まで攻撃を加えたのはカレンだった、俺のせいでここまで変貌してしまったのか。

 その事実に思わずヴェノムを解いて、拳を止め、謝罪してしまった。

 しかし、バケモノと化したカレンにはその姿は隙でしか無く…

 

「…死ねェッ!!!!」

「〜ッッッ!?!?!?」

 

 見境なしの放電。

 その電量、実に二千万ボルト。

 

 ほぼ密着した状態から放たれた雷撃は、生身の状態のシンを瞬く間に瀕死の状態へと追い込んだ。

 蒼を通り越して白く染まる視界、焼かれていく内臓、出鱈目な電気信号に震える手足、衝撃に投げ出される体。

 

 

 …気付けば壁に背を預けていた。

 カレンの一撃は痛覚を置き去りにし、頭に響く声すらも遮断した。

 

「はぁっ、はぁっ…ッはははははッッ!!どうしたテメェッ!?私を()るんじゃねぇのかァッ!?」

「…ゲフッ…なぁ…カレン…いや、エレクトロ…」

<ーーー!ーー!!ーーーーー!!!!>

 

 頭の中でヴェノムが呼んでいるが殆ど聞き取れない。

 俺は倒れ込んだ状態でカレンも見ずに言った。

 

「笑っちまうよな…あんな状態からこんな逆転されるなんてよぉ…」

「クッ、ハハハハハッ!?何を言い出すかと思えばッ!?恨み節かぁッ!?」

 

 月光に照らされたカレンの影が腹を押さえて笑う。

 あぁ、畜生…覚悟決めたはずなんだがなぁ…

 

「お前がカレンだったとしても…殺せる覚悟をしてたはずなんだがな…」

「あぁあああッ!?!?そのカレンってのを止めろよッ!!頭がァッ!?ぐぅうッ!!」

 

 影は頭を掻きむしり、頭を押さえて蹲るが、直ぐにフラフラと立ち上がった。

 そろそろ瞼も落ちて来た。

 

「あぁッ!やはりお前と喋ると頭が痛くなるッ!!もういいッ!死ねぇッッ!!」

「あぁ…カレン……本当に済まなかった…」

 

 暴言を吐いて掌に電流を迸らせ、俺に向けて発射しようとする彼女。

 しかし…俺の言葉を聞いて石像の様に固まってしまった。

 

 どうやら…邪神は俺のことをまだ死なせたく無いらしい。

 

 重い首を上げてカレンの顔を見る。

 彼女はーーー泣いていた。

 

「あ、あれ?なんだ?なんで急に…クソッ…」

 

 擦っても擦っても溢れる涙。

 強引に涙のまま電力を貯めようとしても直ぐに霧散してしまい、マトモに俺に攻撃を加えることができなかった。

 

「クソ…が…おいッ!お前には特別に崩壊していくこの街を見せてやる…ッ!今ここで死んだ方がマシだったと思えるほどにな…クソッなんで…こんな…

 

 そう吐き捨て、涙を零しながら彼女は去ってしまった。

 

 …どうやら助かった様だ。

 あぁ、本当にアホらしい…覚悟を決めてこのザマか…

 今直ぐ道場へ戻りたいが、体が動かず、特に眠い。

 

<ーーー!!ーーーーーーー!!!!>

 

 ヴェノムが何か言っているが…少しぐらいいいだろう。

 少し…寝させて………くれ…

 

 




ご拝読、ありがとうございますなのぜ。
ほんッと〜にお待たせしたのぜ!!
二週間程も待たせて…申し訳ない限りなのぜ…
現在GWなので少しぐらいは投稿速度も早くなると思うのぜ…
あと次回は23.5話…日常回なのぜ。
次回もゆっくりしてね!!

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)

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