東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくり!していってね!


第三十三話 タッグマッチ

遅すぎだ依姫…さて、初めてのタッグマッチだ…行くぞッ!!

がぁあアアア"ア"ア"ッッッ!!

「えぇッ!!!!」

 

 シンは歪に生え揃った歯を剥き出しにして吠え、依姫は長刀を構え、軻遇突智の燃え上がる炎を纏わせる。

 ヴェノムには、シン達には影響しない炎をだ。

 

 そして二人が構えると同時に、目の前の瓦礫とした柱状の通信機器から極光が爆ぜた。

 爆発が起きたかのように瓦礫が爆散し、砂塵が吹き荒れる。

 

「面白いじゃないか?えぇ?人間とお前のコンビ…クヒヒ…!!」

 

 声が響くと同時に、紫色の風が砂塵を吹き飛ばした。

 それはエレクトロの溢れ出る妖力と霊力の混じった何か。

 決して爽やかな物では無く、ねっとりと、悪意を孕んだ悍ましい物であり、圧が内包された邪気だ。

 

 依姫が僅かに顔を歪め、警戒心を高めたその時。

 

「風が…!?」

 

 吹き抜ける風の向きが変わった。

 顔に正面衝突していた風が、逆向きに、つまりエレクトロに向けて吹いているのだ。

 

 悪寒を感じてエレクトロに目をやると、彼女が吹荒ぶ風を渦のようにして吸収しているようだった。

 その姿は妖力を体に充填させる様。

 嗤う彼女は、やがてオーラのような物と雷ををその身から燻らせていく。

 

 太陽は地平線に沈み込み、空の闇と光のグラデーションは急速に夜に支配されていく。

 

 空と呼応するかのようにエレクトロは嗤い叫び、凹凸の無い顔を凶悪に歪めて輪郭を曖昧にさせた。

 電子化するつもりだ。

 

依姫、カレンを元に戻すためには月読命の神降しが必要だ、だから俺達がエレクトロの動きを止める…その隙にやれ…!

「…月読命様が…?分かりました…!」

手加減はするな…したらこっちが殺される…!!

「………分かって、います」

 

 ボソリと、エレクトロに聞こえないように話し合う。

 ヴェノムが言った内容に、依姫は歯切れの悪い返事を出した。

 

 顔を出した満月が彼らを照らす。

 

 遂に、彼らは行動に出た。

 

「クヒヒヒヒッ!!ヒャハハハハハッ!!叩き潰す!!捻り潰す!!グッチャグチャにして喰ってやるッ!!」

オオォォォオオオオッッ!!!!

「ハァアアアアアアアッッ!!!!」

 

 一方は雷の如くスピードで襲いかかり、もう一方は突撃しながら迎え撃つ。

 

 狙われたのは依姫。

 女の方が弱い、それだけでエレクトロは標的を絞ったのだ。

 しかし、彼女は直ぐに 2VS1(リンチ) の恐怖を知る事となる。

 

 依姫に迫る雷速の拳。

 しかし、依姫は冷静に神の炎と長刀を用いて防御する。

 

 だが、それ以前にエレクトロにとって間違いがあるとすればーーー速さにかまけてシン達の存在を置いておいた事である。

 

 エレクトロの目に、依姫の目と鼻の先まで迫った拳が、別の腕に掴まれる光景が映る。

 焦燥に駆られて漆黒の腕の持ち主を見ると、シン達が凶悪な顔で微笑んでいた。

 

どうした?俺がいるのを忘れたか?

 

 ビキリ、と。

 のっぺりとした顔の全てに膨れ上がった青筋を浮かべ、憤怒のまま電子化し、シン達の背後を取る。

 

 どう足掻いても避けられない。

 そう確信した上で雷撃を発射させるがーーー。

 

「私がいるのを忘れましたかッ!?」

 

 シン達の体が前方に引っ張られ、入れ替わりで出て来た依姫が雷撃を炎で弾いたのだ。

 続け様に炎の刀をエレクトロに押し当て、炎を爆破する事で吹き飛ばす。

 

 2VS1とは、一人に固執せず二人の行動を常に考える必要がある。

 一つずつ狙っていたエレクトロが先手を取れるはずがなかった。

 

依姫ッ!お前が危険になったら俺が助ける!!だから背中を預けろッ!!

「こちらこそッ!シンさん達が危険になったら私が助けます!!だから背中を預けて下さいッ!!」

<俺達のも良いが…こっちのコンビも中々良いな!!>

 

 加えて二人は何ヶ月も一緒に訓練を行って来た。

 互いの癖も、剣術も、戦い方も熟知しているのだ。

 

 即席の連携でも、絶対的な信頼感の元にその完成度は尋常では無い。

 

「ぐぅ…ッ!ク、クヒヒヒヒ…ッ!それでもこの程度…ッ!」

 

 吹き飛ばされた体を空中でフワリと静止させ、爆発を受けた腹部を摩る。

 指先には僅かに血が滲んだだけ。

 更に傷も直ぐに閉じ、何事もなかったかのような状態に戻ってしまった。

 

 目の前の人間よりも遥かに優れている。

 劣勢にも関わらず、その優越感によってエレクトロは更なる力を呼び起こした。

 

 それは自身をコイルと見立てた磁界の操作。

 

左右から行くぞ!!俺が動きを止めた隙に月読命の浄化の力を使えッ!!

「どう止めるのですかッ!?」

 

 地面が亀裂と共に唸りを上げ、吸い寄せられる砂鉄が頬を撫でる。

 

…マイナスの電子を吸い寄せるのはプラスの陽子…依姫!プラスの陽子は作り出せるかッ!?

「水素イオンの事ですか!?行け…るかも知れません!」

 

 本来、物質とは原子を構成する、電気を帯びていない中性子と、プラスの電気を帯びた陽子、そしてそれらを取り巻くマイナスの電気を持った電子で構成されている。

 そして、そんな原子の中の一つ、水素は陽子と電子を一つずつ持っている。

 

 この水素が電子を失った物。

 それこそがプラスの電気そのものであり、水素イオンと呼ばれる物、これこそがエレクトロニック(電子)と対を為すプロトン(陽子)だ。

 

 このプラスの力があれば、エレクトロが電子化しても引かれ合う性質のため避けられる可能性は無くなる。

 

 しかし、水素イオンは単体として存在出来ない。

 不安定すぎるからだ。

 化合物として存在する事は出来るが、今この場で科学の実験をする事は出来ない。

 

…クッソッ!!永琳がここに居れば!!

「考えている時間はありませんッ!行きますよッ!!」

 

 地面に亀裂が走るの同時に、二人は目にも止まらぬ速さで走り出し、挟み撃ちする様に左右に散開する。

 そしてほぼ同じタイミングで彼女に飛び掛かるーーーが。

 

 磁場(フィールド)は既に完成していた。

 

オルァアアアアッッ!!

「ハァアアアアアッッ!!」

 

 大槌へと姿を変えた漆黒の腕がエレクトロの右上半身を、神の炎を宿した長刀がエレクトロの左下半身を捉え、今まさに振り下ろされんとしたその時。

 

 大地が唸りを上げ、遮るように地面から分厚い鉄板が飛び出して来た。

 二人の渾身の一撃はエレクトロに届かず、一方は轟音を立てて鉄板を凹まし、もう一方はとても甲高い音を響かせ、長刀が弾かれるだけに終わってしまったのだ。

 

 しかし、シン達は鉄板に腕を突き刺してまるで粘土のように引き裂き、依姫は鉄板より高く飛ぶ事で対処する。

 

「そうこなくては面白くないッ!!」

 

 エレクトロは先ず、鉄板を引き裂いて現れたシン達に拳を突き出し、特大の雷撃を発射した。

 青白い光が一面を包む。

 シン達が苦悶の声を上げて雷に埋もれるのを確認し、雷を放出している腕はそのままに上空へ目をやる。

 

 目に入ったのは高々と掲げられた炎の剣。

 

 片手は塞がっている。

 絶対絶命ーーーでは無い。

 

「ふッ!!」

 

 電流を操り、大規模な磁界を形成。

 地中から、周囲から金属を選りすぐり、何十にも及ぶ鉄の壁をエレクトロと依姫の間に形成した。

 

 目を見開く依姫の姿が鉄に消え、星が輝く夜の空に鋭い反響音が響く。

 

 …防ぎ切った。

 しかも黒の怪物(ヴェノム)はモロにカウンターを食らっている、暫くは動かないだろう。

 (依姫)一人なら負ける訳も無いだろう。

 

 口も無いのに頬が吊り上がり、喜びの感情が湧いて出る。

 呆気の無い結末に嗤いが込み上げてくるーーーが。

 

「ククク…クヒヒ…!ハハハーーー」

 

 ふと、頭上の幾重にも重ねられた鉄板から焼け焦げる様な音が響いた。

 短い舌打ちが思わず漏れ出る。

 

 グイと首を上げると、赤熱化した鉄板。

 次の瞬間には、満月をバックに、鉄の壁を炎で焼き切った依姫の目があった。

 

 そのまま轟々と燃える刀が振り下ろされる。

 生み出した戦斧を振るい、片手で応戦する。

 

「ハァアアアアアアアッッ!!」

「一人で何がーーー」

よォ!!元気にしてたかッ!?!?

「ヒャ…ッ!?」

 

 ゾクリなんて、血の気が引いたなんてレベルじゃない。

 雷の光線から漆黒の腕ががぬらりと手を出すと言うーーー()()()()

 この女(カレン)の全身の細胞が恐怖を訴え、釣られてエレクトロの心にも恐怖が縫い付けられる。

 

 思わず光線も放出を止めてしまい、怪物(ヴェノム)の体が露わになってしまう。

 マッシブな体から所々煙を出しているものの、概ね無傷。

 あり得ない、電撃の直撃を受けてこれだけ?

 灰となっていて当然な筈なのに。

 

 これが…私と()()

 同じどころか()()()()に強い…一体どうなっーーー

 

守ってないで受け止めて見ろォッ!!

「ックソがぁああああッッ!!」

 

 思考を裂く様に化け物から蜘蛛の様な糸が飛び出し、手を、体を、足を縛り付けられ、化け物(ヴェノム)が腕を振ると同時に体が地面に縫い付けられる。

 その拍子に戦斧が手から零れ落ちてしまった。

 

「カハッ…!?」

 

 空気を肺から強制的に吐き出されながら考える。

 

 今から電子化して逃げ出そうにも距離が近すぎる。

 無理矢理逃げ出そうにも必ず被弾してしまうだろう。

 

 …化け物(ヴェノム)は私を縛って動けない。

 (依姫)の炎ぐらいなら耐えられる。

 

 ーーー攻撃を耐え切ってカウンターを仕掛けてやる。

 

 それが最終的な結論だった。

 だがそんな結論、次の瞬間には幻のように霧散してしまう。

 

今だ依姫ッ!ぶちかませぇぇええええッッ!!

「えぇ!!月読命様ッッ!!!」

「ッや、止めろ止めろ止めろぉおおおおッッ!!!!」

 

 女の刀から延びる獄炎が空に消え、代わりに刀から光り輝く何かが漏れ出る。

 

 そこまで来て、漸く気付いた。

 コイツらは()()()を消し去ろうとしている。

 

 刀から感じるのは、言うなれば浄化の力。

 妖怪にとって天敵よりも恐ろしい物だ。

 

 死。

 

 その一文字が脳内を汚染する。

 何度目かの恐怖が身を支配する。

 

 エレクトロは女の背後で輝く満月が神秘的に輝き、神々しい女神の姿を幻視した。

 刀から一層光が溢れ、夜に光の筋が駆けていく。

 

「食らえぇええええッッッ!!!!」

「ッ旧神(雑魚)の分際でッ!!己!己ッ!!己ぇええええッ!!」

 

 私はまだ全力を出していない。

 私はまだ神に成れていない。

 私はまだ人を殺したりない。

 私はまだ混沌を齎していない。

 

 圧縮された時間の中、意識だけで感じ取れる世界で後悔を爆発させ、女の掲げられた光り輝く刀が振り下ろされる現実を拒否する。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!

 折角生き返ったのに!あの()()にチャンスを承ったというのに!!

 己ぇええええッ!!!

 

「クソがぁあああああッッ!!!」

 

 断末魔の様な叫び声を上げ、エレクトロは光の中へ姿を消した。




ご拝読ありがとうございますなのぜ!
や っ た か !?なのぜ。

それはそうと今R-18の方を執筆しているのぜ、楽しみにしててくださいなのぜ。

ナンバーさん、☆9評価ありがとうございますなのぜ!!

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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