東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくりしているのぜ!私が!!


第三十四話 断ち切れぬ繋がり

「うぁっ!?」

 

 光がドーム状に爆発し、依姫の体が吹き飛ばされる。

 このままでは地面に激突してしまう。

 普段ならばどうって事無いが、生憎大技を放ったためか体制を崩してしまい、受身が取れなかったのだ。

 

依姫!!

 

 しかし、黒い流星が依姫を捉えた。

 

 光の爆発から逃れたシン達だ。

 

 そのまま依姫を抱き抱え、負担が彼女にかからない様地面に着地する。

 打って変わって腕の中で小さく丸まる依姫は、一瞬何をされたから分からなかったが、鄒俊してある事に気が付いてしまった。

 

(わ、私…お姫様抱っこされてる…っ!?)

 

 彼女はソレを認識して真っ赤に染まり、カチカチに固まってりんごの様な顔を隠すことも出来なくなってしまう。

 さながら借りてきた猫状態だ。

 …一方シンはというと。

 

(やべぇ俺…依姫をお姫様抱っこしてる…っ!!…や、やわらけぇ)

<やっぱ馬鹿だろお前>

 

 シンも自分が何をしていたのか認識してー外面状は分からないがー真っ赤に染まっていた。

 彼の内心をより詳しく言語化するとしたらーーー

 

 フトモモ モチモチ ヤワラカイ

 

 …詳しくする所か退化してしまっている。

 腕全体から幸せな感覚が伝わり、彼の頭は幼児退行に似た思考を取っていた。

 ヴェノムの的確なツッコミが頭を突き抜けるが、馬鹿な考えを展開してるため反論出来ない。

 依姫以上にガッチガチに固まってしまった。

 

 数秒沈黙し、見つめ合う二人。

 

 二人の理性は今直ぐにでも離れるべきと訴え掛けたが、依姫はもう少しだけこの状態でもバチが当たらないだろうとシンに甘え、シンはハムスターのように腕の中で丸まる依姫をまじまじと直視し、心打たれて離さない。

 

 そんな中、ヴェノムと月読命が呆れたように語り掛けた。

 

<…おい、降ろしてやれバカ野郎>

『今はそんな事している暇は無いのだぞ…』

「そっ、そうですよねっ!?すみませんシンさんっ!?もう少し乗って居たかったけどごめんなさいっ!?」

っああ大丈夫だ!?っむしろもう少し乗っていても良かったんだがな!?

 

 依姫は慌ててシン達の腕から転がり落ち、目をグルグル回しながら建前と間違えた本音を暴露し、シンもそれに目をグルグルと回しながら思わず本音を吐露する。

 

 二人はテンパりすぎて自分が何を言っているのか分からなくなっている。

 燃えているかのような顔面とグルグル回した目が証拠だ。

 

 …一周回って何も考えられなくなっている二人の頭が、お互いがお互いの漏らした言葉を理解出来ていなかったのが唯一の幸いか。

 

『…兎に角、私が月の表面に現存する浄化の力を大妖怪に浴びせた…悪くても奴と彼女の間の繋がりは断った筈だ』

…お前は大丈夫なのか?

『まぁ、な…月からの神力しか使ってないからな』

 

 月読命が話題の転換をした為か、多少沈静化する場。

 それでも。

 

<>

「…」

『…』

 

 余りに気不味く、痛々しい現場だった。

 当の本人達は目を合わせられない。

 依姫は恥ずかしさからか顔を伏し、シン達は先の爆発によって巻き上げられた砂塵を注視する事で、自分はなんでも無い様に振る舞っていた。

 

 数秒の間虚無が続き、最終的に二人は先の痴事を考えないようにする事で…と言うよりも無かった事にして場を進めた。

 行方不明だった緊張感が場に戻り始める。

 

「それよりもカレンさんは…」

『安心するがいい、人間には害は無い…アレが効くのは悪鬼共だけーーー』

 

 月読命が淡々と答える。

 そんな中、シン達()()があることに気付いた。

 

 雲海に雷が映し出されるかの様に、砂塵に蒼い光が投影されるのを目撃したのだ。

 

 ーーーまさか。

 そう考え出した頃には、事態は急変に向かおうとしていた。

 

<おいシン!!依姫を守れっ!!>

ッ!!

 

 ヴェノムの切迫した声。

 考えるまでも無く、シン達は依姫に飛び付き、地面に転がった。

 

依姫っ!!

「えっ!?」

 

 シン達の腕の中で驚きの声を上げ、目を丸くする依姫。

 次の瞬間、砂塵から蒼光が飛び出し、雷鳴と共に依姫の居た空間を抉り取った。

 

 二人はその光景を見るなり警戒心を全開にし、二人は先の茶番は何だったのかと思わせるかの様に素早く構える。

 

「助かりました…っ」

礼ならヴェノムに言え…さて、どうする…!?

『ありえん…何故…っ!?浄化の光が効いていないのか!?』

 

 月読命の焦った"何故"がやけに強く頭に残った。

 シンの瞳に、柱状の通信機器が満月に手を伸ばし、その下で俯く奴の姿が映る。

 

 その背中は、オーラでも、気でも何でもない…ただ凄まじい程の()()を物語っていた。

 しかし奴は、エレクトロはそれが何でもないとばかりに腕を広げて笑いながら、呟いた。

 

「アッハッハッハッハッ…!惜しかったなぁ…!!私のコイツの繋がりを断つには物足りない一撃だった…ッ!だか…痛かったなぁ…!身が引き裂かれる思いだった…この私に…!!貴様らァ…ッ!!」

 

 一変、噴火寸前の火山の様に煮えたぎった怒りがエレクトロから溢れ出る。

 

 タラリ、と。

 依姫の頬に一粒の汗が流れた。

 

「もう油断も慢心もせん…ッ!!全力で…殺すッッッ!!!!」

 

 ゆらりと振り向き、顔全体にブチ切れそうな血管を浮かばせた奴の顔が満月に照らされる。

 鼻も無く、目も無く、口も、耳も無く、凹凸も無く、これと言った表情も無く、貼り付けた能面の様で、その奥に般若を宿らせている顔だ。

 

 妖怪と言う括りに入れるには余りに禍々しく、まるで別物の何かだった。

 

「私はエレクトロ…ッ!!この世の全てを恐怖に陥れる大妖怪だ…ッ!!」

 

 エレクトロが吠え、地面を足で踏み付ける。

 それだけで配管や金属が唸りを上げて飛び出し、蒼雷の柱が顔を覗かせる。

 同時に、エレクトロは電磁浮遊によって空高く、数百メートル先まで飛び上がってしまった。

 

 …磁界操作に加えて雷の柱。

 常人には脳が焼き切れる、それ程の情報量を纏め上げる電流操作の技術が無ければ不可能な御技であり、その難易度に比例するかの様に苛烈な攻撃だった。

 

 恐らくシン達だけ、又は依姫だけだったなら成す術は無かっただろう。

 だが、生憎今は一人では無い。

 

「私は雷の柱をッ!!シンさん達は目の前の鉄をやって下さいッ!!」

OK!任せとけッ!!体力の方はどうだッ!?

「六割程残ってます!!行きますよッ!」

<上出来だ!!ぶっ飛ばしてやるぞッ!!>

 

 絶望感に屈しないためか、啖呵を切る彼らは、同時に襲い掛かる雷の柱と金属の群れに向かって走り出した。

 

 同時にエレクトロの姿が柱と鉄の奥に消える。

 視界は蒼とその中を突っ切る銅や銀の色に覆われるが、依姫があらん限りの声量で叫び、長刀を振り下ろした。

 

飽咋之宇斯能神(あきぐいのうし)様ッッ!!」

 

 飽咋之宇斯能神、又の名を、道俣神(ちまたのかみ)

 道俣とは、いわゆる十字路や町中の道、物事の境目、分かれ目を指し、早い話が道の境界を操る神である。

 

 そんな神を降ろし、依姫が行った事は一つ。

 異物に覆われ、道と呼べなくなった通り道に、また"道"という意味を与える。

 そして、その状態で固定する。

 

 こうする事で依姫は、雷の柱限定ではあるが、進行方向にある柱を全て取り除く事に成功したのだ。

 視界に豆粒の様に映るエレクトロが僅かに身じろぐ。

 

「シンさん!援護お願いします!!」

OK!!

 

 依姫の一振り、それだけで消し去られていく雷の柱。

 その光景は正に、モーセの滝割りならぬ依姫の雷割りだった。

 

 だが、ここで依姫は道固定のため神降しは不可能となってしまう。

 そこでシン達の出番だった。

 

オラァッ!!フンッ!!うらぁァアアッッ!!

 

 刀を構え、疾走する依姫を護衛するかの様に躍り出るシン達。

 エレクトロの磁力によって放り投げられる数十の鉄の塊を前にし、ヴェノムの助けも借りながら捌いていった。

 

 鉄の雨は依姫の壁として避ける事はせず、はたき落としたり、パンチ一発でペシャンコにしたりで対処。

 様々な鉄が地面に突き刺さる中、目の前に豪速球で飛来した鉄板をヴェノムウェブで捉え、遥か前方のエレクトロ向けてスィング。

 

 当たり前の様に鉄板が音速の膜を突き破り、風船が割れるかの様な爆音が鳴った。

 しかし、音速の弾丸はエレクトロに届く事はなく、代わりに十数の鉄の塊を薙ぎ倒す結果に終わってしまう。

 

 その光景を目の当たりにしたヴェノムは作戦変更を声高らかに唱えた。

 

よしッ!プランbで行くぞッ!!

プランaも何も決めて無かっただろうがッ!!

 

 シン達の右手が大楯へと変化し、それが鉄の雨を防ぐ間にもう一方の左手を片刃の大剣へ変化させる。

 依姫の水鏡の如き刀身と違い、黒曜石を叩いて削ったかの様な荒々しさと輝きを持つ大剣だ。

 

 いくら豪速球で飛んで来る金属が相手だったとしても、バターの様に裂ける事必至だろう。

 

依姫ッ!!俺達の背から離れるなよッ!!

 

 ドスドスと鉄の刃が突き刺さる大楯を投げ捨て、襲い掛かる鉄に向けて剣を振るった。

 

おぉおおおおおおッ!!

 

 鉄パイプを回転する様に切り刻み、その勢いで降ってくるドラム缶を蹴り上げる。

 続いて襲い掛かる配管を唐竹で一刀両断。

 立て続けに魚の群れの様に鉄破片が飛来し視界を奪うが、逆唐竹で吹き飛ばし、開けた視界で豆粒からスイカ程度までに大きくなったエレクトロと、前方から更に飛来する鉄の塊を見据えた。

 

 満月をバックに浮遊しているエレクトロの周りに、取り囲むかの様に、又は、彼女を守る僕の様に鉄の群れが浮遊している。

 少なくとも鉄のガトリングの弾は十分な様だ。

 

 …エレクトロとシン達の距離はかなり縮んだ。

 だが、このまま接近する事をエレクトロが許しはしないだろう。

 依姫はシン達の真後ろで刀をを鞘に納め、力を溜めている。

 

 集中しながら疾走しているためか、珠の汗をかき、息も上がってきている様だった。

 

 恐らく…いや、必ずショートカットが、それもエレクトロの隙を突いた物が必須になる。

 どうした物か、そうシンが考えた瞬間。

 

<良い案がある!俺に任せろ!!>

…分かった…!依姫ッ!ショートカットだ!!月読命の準備をしておけ!!

「えぇ!!了解ですッ!!」

 

 依姫が了承した同時。

 

<集中しろ…!深くだ…!>

 

 声の通りにシンは目を閉じ、意識を精神の奥深くへと送り込んでいった。

 魂と魂を溶け合わせる様に思考を一体化させ、極限までヴェノムのパフォーマンス能力を引き出していく。

 "適応"によって更に力が増していき、高揚感が身を包む。

 

<俺達は二人で一つ…俺達なら何だって出来る…!そうさ俺達は…>

リーサルプロテクター(残虐な庇護者)、か…悪くねぇな…!

 

 言わなくても分かる。

 流れ込むヴェノムの思考が教えてくれるのだ。

 

 そして、その時には、何をすべきかも理解していた。

 

 開眼し、スゥと息を吸う。

 今から行う無茶を実行に移すためには、兎に角酸素が必要なのだ。

 

 前方に降り掛かる鉄の雨に向けて空いた方の腕を振るい、手の五指一本一本をヴェノムウェブとして発射する。

 べちゃりとその全てが命中したが、そのまま振るう事はせず、一度降ってくる勢いをそのままに地面に激突させ、鉄板が地面に突き刺さった。

 

 当然ウェブがゴムの様に伸び、体がガクンと後ろに引っ張られる。

 だが、止まってしまっては元も子もないため、歯を食いしばり、雄叫びを上げてーーー飛んだ。

 強靭なウェブが軋みを上げ、負荷に耐えられなくなった地面に五本の亀裂が入り、そのうちの何本かが地面から抜けてガラガラと不協和音を響かせる。

 

 そして、漸くエレクトロの顔が確認出来た瞬間に、ウェブを収縮させて拳を握り、腕を振るった。

 ウェブが更にギチギチと唸りを上げる。

 

ォォォオオオオッ!!!

 

 血管から血が噴き出る程の力を捻り出し、地面を踏み締める。

 

 そして遂に、鞭、と言うよりもゴム鉄砲の様にウェブに繋がれた五つの金属が放たれ、音速の壁を軽々と破り、エレクトロに向けて発射される。

 その最中、ウェブが鉄と鉄を繋ぎ合わせ、バラバラだった五つの鉄塊は、一つの巨大な鉄塊となった。

 

 しかしシン達はウェブに異常を感じ取り、そこでウェブを切り離した。

 

 ーーーボゥ、と。

 唐突に鉄塊が赤熱化し、炎を纏ったのだ。

 それは空気の摩擦による熱エネルギーへの変換であり、その巨大さ故の変化だった。

 

 しかしながら、その変化は決して不利益などでは無く、炎を纏い、電子化すら逃れさせない不可避の一撃へと変わったのだ。

 加えて大質量、先の投擲よりもはるかに速い一撃。

 磁界を操作しても到底防ぎ切れるものでは無い。

 

「…チィッ!!」

 

 巨大な火球に盛大な舌打ちを打ったエレクトロ。

 雷撃を撃てば磁界の均衡は崩れてしまう、かといって電子化しても逃れられない。

 みるみる内に目の前に迫り来る鉄塊。

 

 ーーー考えている時間は無い。

 

 エレクトロは仕方無く磁界を安定させていた電流の操作を中断し、掌に渾身のエネルギーを集めた。

 磁力の制御を失った金属が、地面に轟音を立てて落下する。

 

 だが、それは関係無い。

 使えなくなったらまた磁界を展開すれば良いだけの話なのだ。

 

 掌から漏れ出る蒼雷に黒が混じり、空気が震えていく。

 漏れ出る黒が蒼を完全に汚染したその瞬間。

 

「フォールン…ッサンダァアアア"ア"ッ!!」

 

 ーーー龍の如き黒雷が唸りを上げて炎に包まれた鉄塊に激突した。

 瞬時に爆音が鳴り響き、赤い鉄塊と黒の龍が拮抗する。

 

「ぐぉおおおおおッッ!!」

 

 しかし。

 エレクトロの雄叫びを上げ、拳を捻ると同時に、黒龍が重々しく顎を開き、鉄塊にガップリと齧り付く。

 

「ーーーハァッ!!!」

 

 そして、エレクトロが拳を握ると黒雷は龍と共に爆発を上げ、辺りは黒い光に包まれた。

 

 …妖力の残光が弱まり、光が止む。

 目の前には残骸をを撒き散らす砂塵だけ。

 つまりは、完全勝利。

 

 思わず嗤いが溢れそうになるが、シン達を殺したわけでは無いと心の帯を締め、真下に落下した金属を俯瞰してまた周囲に電流を流し、磁界を形成した。

 ーーーしようとした。

 

「月読命様ッ!!」

『今度こそ…浄化してくれるッ!!』

 

 心臓を握り潰されたような鳥肌。

 

 視界を目の前に戻すと、砂煙の尾を引き、光り輝く長刀を鞘から抜刀する依姫の姿が映った。

 

 何故?

 何故ここにお前が居る?

 お前が飛べる訳も無いのに。

 何故そうやって私の虚を突き続ける?

 

 ーーー理由は簡単。

 シン達が依姫を飛ばしたのだ。

 

 時はエレクトロが爆発を起こしたその瞬間まで遡る。

 

 エレクトロが爆発を起こし、砂煙を視認したその向こう側。

 そこでは当然、空中で鉄塊を飛ばしたシン達と、力を蓄え続ける依姫が居た。

 

 しかし、シン達の作戦はここで終わらない。

 砂塵が巻き起こった瞬間に、()()()()()ウェブを飛ばしたのだ。

 

 依姫は迷わずそのウェブを掴み取り、シン達が鉄塊を振るった時と同じ様に腕を振るった。

 

オラァッ!!

 

 そう、砂塵はただの目眩し(フェイク)

 投擲がエレクトロに防がれると見切った上で、全てを計算していたのだ。

 

 十二分に加速したと感じた依姫はウェブを手放し、砂煙の中に突入する。

 崩壊していく鉄の破片が頬を撫でるが、依姫は納刀した状態を、居合の構えを解かずに砂塵の中を突っ切った。

 

 理由は単純だ。

 

 ここまでシン達にお膳立てされたのであれば、ここで決め切めねば女が廃るという物。

 故に彼女は、どんな事があっても一撃を決めるという覚悟を持っていた。

 

 依姫の瞳が、紫の瞳が覚悟に燃え、砂塵の中で一際目立つ様に光り輝く。

 エレクトロにすら視認されていないこの時こそ勝機。

 

「ーーースゥゥ…」

 

 深く、息を吸う。

 

 砂煙越しに蒼い体のエレクトロが見えた。

 あと少しで抜けるだろう。

 

 鞘と柄を握り締め、体の隅から隅まで貯めた力を今、爆発させる。

 

 ーーいざ。

 

「月読命様ッ!!」

『今度こそ…浄化してくれるッ!!』

 

 砂塵の膜を飛び出し、砂煙の尾を引く依姫は、二度目の月読命の神降しを行った。

 声に気付いたエレクトロがこちらを驚愕の眼差しで見つめるが、既に超至近距離まで迫っている。

 

 それは絶対の間合い。

 

 鞘の中で超加速する刀身。

 鞘から抜刀した刀からは光が滲み、依姫を、エレクトロを、漆黒の夜を照らしていく。

 

 肩を跳ねさせて驚き。

 全身から吹き出る汗が光を反射し。

 ひゅっと、息を飲む。

 

 そんなエレクトロの動作が依姫極限の集中によって、スローモーションに動いていた。

 

「さぁ!!カレンさんをーーー返せッ!!」

「ーーーッッッ!!」

 

 音速を超えた切っ先。

 ゼロ距離の居合。

 振り抜かれた長刀。

 

 エレクトロの、何も無い顔が光に照らされた光景を最後に、依姫の視界は輝く浄化の光に包まれた。

 

 黒洞々とした空に、一筋の巨大な流星が駆け登っていく。

 星の光さえ凌駕する浄化の光は瞬く間に空に溶けてゆき、数秒後には姿を消してしまった。

 

 依姫はエレクトロにギリギリ触れない…つまり、剣先が当たらない、且つその状態でゼロ距離の浄化を放出した事で確かな実感を胸に宿らせていた。

 カレンを元に戻せた、と言う実感を。

 

 ーーーだが。

 

「ーーーククク」

 

 光が消えたその場には。

 

「ーーーハハハ」

 

 腰を思い切り反って光の奔流を回避したエレクトロが居た。

 

「ーーーアーヒャッヒャッヒャッ!!」

「そんな…そんなぁ…っ!」

『クソッ!!』

 

 絶望。

 シン達が必死で作り出したこの一瞬を。

 カレンを戻せなかったと言う申し訳なさを。

 

 ただひたすらに絶望した。

 

 その顔をマジマジと観察したエレクトロはまた一際大きく嗤った。

 

 ーーーさて、ここでの誤算は大きく分けて三つ。

 

 まず、ほぼゼロ距離だった事。

 何故か?

 それは浄化の光を放出プロセスにある。

 

 月読命が月の浄化の力を刀に宿し、それを振る事で放出する。

 だが、その放出の仕方が問題だった。

 

 その仕組みは刀の切っ先から収束された光が光線の様に発射され、それが拡大していくもの。

 つまりゼロ距離で放たれた光の奔流は、刀自体を避ける事で、後に続く光線も回避出来てしまうのだ。

 

 ーーー二つ目。

 

 それは、カレンに傷を付けまいと刀を当てなかった事。

 …甘さが原因とも言える。

 

 つまりエレクトロを本気の居合で斬っていたならば、そもそも避けられはしなかっただろうと言う事だ。

 

 ーーー三つ目。

 

 それはーーーエレクトロが依姫の剣術を理解して(知って)いたからだ。

 

 何故知りもしない相手の剣術を知っているのか。

 それは、皮肉にも最初の浄化の放出が原因なのだ。

 

 確かにあの一撃はエレクトロとカレンの繋がりを絶とうとした。

 しかしその結果。

 

 ーーー繋がりが弱くなったからか、カレンの記憶の一部がエレクトロに入って来たのだ。

 運が良ければその時点でカレンが体の制御を取り戻していたと言うのに。

 

 運悪く。

 本当に運が悪いことに、カレンの人生の中から依姫との模擬試合の記憶を手に入れたのだ。

 その結果、反射的に、紙一重で依姫の一閃を掻い潜る事が出来た。

 

 だから…この結果は不幸に不幸が重なった偶然が引き起こした、()()()()()なのだ。

 

「アヒャヒャ…ヒャァッ!!」

「げほっ!?」

 

 空中である事が災いし、マトモな受け身も取れずに叩き落とされる依姫。

 苦痛に喘ぎ、エレクトロを睨んでものっぺりとした顔が遠くなっていくだけ。

 そんな依姫に彼女は追撃はせず、鼻で嗤い、電子化してシン達の方向に消えていった。

 

 代わりに依姫の頭に焼き付いたのは、あの凶悪なのっぺりとした顔。

 無感情。

 無表情。

 それでいて内にはドス黒い魂を抱え込んでいる。

 

 その闇を、虚無を、あの顔は醸し出している。

 ーーー恐ろしい。

 一端の妖怪が持つには、過ぎた闇と言えるほど暗い。

 

 そんな感情を露知らずと言わんばかりに、無常にも落下する体が地面に激突する。

 しかもその地面は、エレクトロが金属を大量に落としていった剣山の様な地。

 

「ぐぅぁッ!?」

 

 なんと運悪く、鉄筋が腕に突き刺さってしまったのだ。

 

 ーーー痛い。 

 血が、ドクドク溢れ出る。

 貫かれた皮膚の痛みが徐々に頭を焼いていく。

 

「っぐぅうううう…!」

 

 足じゃ無いだけマシだが、それでも刀を両手で震えなくなったのは痛手だ。

 そしてその怪我を引き金に、依姫の心には亀裂が生まれてしまった。

 

 それは依姫に本当にカレンを取り戻せるのかという疑念。

 鈍ってしまった覚悟。

 

(本当に私はカレンをーーー)

 

 折れてしまいそうな心。

 心と肉体の痛みで涙が溢れそうになる。

 

 それを正したのは、他でも無い月読命だった。

 

『まだだ!!しっかりしろ!勝機は残っていない訳では無いのだッ!!主が諦めたらどうするっ!?』

「…そう、ですね、でもーーー」

『でももへったくれもあるか!第一カレンはお前の()()だろう!?』

 

 依姫の負傷した腕を抑える掌が、ピクリと動く。

 

『親友ならばこれ程度の絶望何でもないだろう!?』

「ーーーえぇ、そうです…立ち止まっている場合ではありません」

『そうだ!!カレンを救え!!それが出来るのはお前だけだ!!」

 

 ()()ならば。

 救え。

 

 言葉が頭を反芻する。

 

 ーーーそう、カレンは、友なのだ。

 依姫にとって大事な大事な友達。

 

 共を救うからには、この程度の怪我で諦めるなど言語道断。

 どうやら闇を見たせいか、気弱になっていた様だ。

 ついさっきまで折れかけていた自分を殴ってやりたい気分である。

 

『…それでいい…いいか依姫よ、次で絶対に決めるのだ…次で、我の全てをぶつける』

「えぇ、分かりました…!」

 

 その言葉を皮切りに、声は聞こえなくなった。

 神降しが中断されたのだ。

 

 ーーー行かなければ。

 

 依姫は、腕から血を滴らせながらも、シン達に加勢すべく足を運んだ。




ゆっくりご拝読ありがとうございますなのぜ!!
一話で纏める筈が三話になった!?…ウーン(絶命)

ま、まぁ許し亭許し亭なのぜ…

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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