「はぁっ、はぁっ…依姫はどうなった…!?」
<分からん…目の前の煙が邪魔だ…!>
依姫を吹っ飛ばしてから数秒が経った。
やはり相手側の情報が無いと少しばかり心配してしまう様で、シン達は頬に汗を垂らしている。
彼女を信じてはいるつもりだ。
だが、やはり。
すぐ側にいないと言うのは、どうしようも無くーーー
(クソ…ッ!)
ーーー分からない。
心の内にこびり付いたこの感情はなんだ?
形容し難い感情だ。
無理に言語化しようとしても霧を掴むような感触。
その感情は、その色は、一体何色なのだろうか。
ーーー不意に。
眩い光が目を襲った。
「…ッ!!」
その光に目を焼かれ、思わず目を覆ってしまう。
シン達は低く唸り、マトモに物を見れない瞳で砂煙の向こう側を見つめた。
「どうなったっ!?」
ジリジリと痛む目に耐え、徐々に浮かんで来る景色にはーーー
力無く地面へ落下する依姫が映っていた。
ほんの一瞬、惚けた顔で、瞳孔の空いた瞳で呆然と眺めるシン達。
失敗した?
生きているのか?
シンの心には失敗を嘆く気持ちよりも、ある種の縋りが大半を占めていた。
彼女が死んで欲しく無いという、縋り。
無意識的に手が依姫向けて伸びる。
まるで届きもしない月に手を伸ばすかの様に。
そしてその手はーーー
「ハロー!!元気ぃッ!?」
「ーーーっ!?」
届く事は無かった。
代わりに届いたのはエレクトロの拳。
砂塵を突き抜け、雷の様に飛来して来たエレクトロがシンの顔を思い切り殴り付けたのだ。
音速を遥かに変えた拳で、だ。
シン達はまるで声にならない声を上げ、エレクトロが拳を振り抜くと同時に、そこから姿を消してしまったかのように殴り飛ばされてしまった。
「がっ…ぁ…っ!!」
視界が目まぐるしく回り、柱が目に入っては消えて行く。
それだけでは無い。
柱を何本も破壊し、柱の一本に激突して漸く停止したシン達は、ある異変に気付いた。
ーーー平衡感覚を保てない。
「ぐぅ…!!」
<大丈夫か…?>
その名は、脳震盪。
立ち上がっても立ち上がっても、地面が近づいてくるような気分だ。
視界が震える。
腕を地面に突き立てながらも顔を上げられない。
不味い、苦々しい顔でそう考え始めたその時、雷鳴が響き、下にしか向ける事が出来ない瞳に、何者かの足が映った。
華奢で、細くて、まるで小学生の様な脚。
今一番救わなければいけない人、しかし今一番忌々しい存在を示すものだ。
「ーーーおぉ、無様無様」
「てめぇ…ッ!!」
心底愉快な声がシン達を現実に引き戻す。
「少しーーー自慢をしようと思ってね?女には
「…お前…依姫を…殺したのか…!?」
その一言に身体が、声が震える。
「あぁ…?そんな事はどうでもーーー」
「答えろゲス野郎ォッッ!!」
「…お前は立場が解ってないのか?」
愉快な声色から一転、ライオンがウサギを見つめる様な、絶対零度の瞳を持って言葉を投げ出すエレクトロ。
コツコツと音を鳴らして近付いたと思ったら、その足を上げ、シン達の頭にぽすりと置いた。
シン達の身を嫌な悪寒が包んでいく。
「なぁ…シンッ!!!!」
「ごぶぁッ!!」
直後にシン達の頭が地面に沈み、コンクリートの破砕音が響いた。
ヴェノムを纏っているため致命傷にはならないが、生死がどうあれ、依姫を傷付けたこの存在が、堪らなく憎い。
そして、そんな存在にしてやられている自分自身も憎たらしかった。
エレクトロはそんなシン達の心情を目敏く読み取り、クツクツ嗤う。
「クヒヒ…本当感謝しないとなぁ、この身体に…あぁ、それと
「緑の男…!?アースのことか…!…お前、まさかーーー」
一瞬怪訝そうな顔をするエレクトロだったが、シン達の言葉を聞いてアースと彼らに面識があると分かり、ぬぅっと口を裂かせる。
悪魔の笑みだった。
「キヒ…クヒヒヒヒッ!!あぁ…あぁ!!」
聞きたくない。
だが、雑音は心の奥底まで刻みつける様に響く。
「ーーー殺したッ!!今頃彼は真っ二つさ!!クヒャヒャヒャヒャッ!!」
その瞬間、シンの心に、
絶望という名の泉から、止めどなくヘドロが溢れる。
そして、今この戦闘、この一瞬で決して抱いてはいけない感情。
ついさっき依姫に抱いていた感情の正体は掴めなかったが、今度ははっきりと分かる。
その感情の名は、激烈な殺意。
頭上のエレクトロが僅かに仰け反り、息を呑んだのを感じる。
依姫の友?仲間?未練?
知った事では無い、兎に角殺したいのだ。
怒りに身体が脈動し、燃える様に熱い。
しかし、それでいて頭を冷たく、どこか客観的になっている。
脳震盪でも関係無い。
そう、お前をーーー
「ーーー殺す」
<駄目だ!!>
殺意を伴った覚悟を決め、強引に立ちあがろうとしたその時。
ヴェノムがシンを引き止めた。
エレクトロの足とはまた別の、押さえ付けられた様な感覚。
ヴェノムがシンの身体を抑制しているのだ。
「おい、ヴェノム、身体を動かせ」
「駄目だ!俺はハッピーエンド主義者だ!お前にそんな選択肢は選んで欲しくないし、選ばせたくもない!」
「っ黙れヴェノム!!いいから身体を動かせ!!」
「ごちゃごちゃと…五月蝿いッ!!」
言い合いをしていたシン達はエレクトロに蹴り飛ばされてしまう。
首を蹴り飛ばされてもなんのその、すかさずに体勢を立て直すシン達だったが、やはり身体の重心がどこかに行ってしまっている様で、膝を着いてしまった。
「ぐぅっ…!」
「いいか、シン?緑のガキも依姫も生きている、死んでるはずは無い!何でかかってアイツらは俺達と真っ向からやり合えた人間だからだ!!」
「分かってる…!解ってんだよそんな事…!!」
シンは理性の中で理解している。
だが、本能が暴れ出し、殻を破って殺意が剥き出しとなっているのだ。
彼は頭を覚ますため、大きく深呼吸をした。
燃え上がる熱意を吐き出し、熱い身体を覚ますために深く息を吸う。
少しぐらいは落ち着いただろうか。
…といっても、気休め程度だが。
「ふーーー…!!…よし落ち着いた、これでいいだろ?」
「…まぁいい、俺が重心を取ってやる、シンは殴る事だけ考えておけ」
「おーい?聞いてんの?二重人格?」
「下衆は黙ってろッ!!」
「おー…こわぁ」
腰辺りからタコの様な触腕が生え、地面に三脚の如く突き刺さる。
エレクトロが馬鹿げた様子で問い掛けるが、シンはそれに射殺さんばかりの眼光を持って答えた。
グラグラ揺れる視界で、エレクトロを見据える。
「いける…!」
「あーそうそう、何が話したいってそう!女と繋がった時だよ!!」
緊迫した空間を動かすかの様にエレクトロが叫び、同時に彼女の腕に光が集まった。
ニタリと擬音が付く程、醜悪に皺を寄せる姿はまるで邪悪の化身であり、異様な威圧を孕んでいる。
シン達はその異様な自信とも取れる仕草に、僅かに身じろいだ。
「記憶が雪崩れ込んできたんだよ…!異様な承認欲求、お前への羨望、僅かな希望…そして
「…何が言いたい?」
光はやがて戦斧を形作り、眩いばかりの蒼を放って辺りを照らす。
シンの問いにエレクトロは俯いて答えず、代わりに戦斧を頭上に掲げた。
そして腰を落とし、前傾姿勢を取るエレクトロ。
「ーーー嫌でも分かるさッ!!」
「っ!?」
<ボケっとするなッ!振り下ろしが来るぞ!!>
平された顔がシン達を見据えると同時に輪郭が曖昧に変化したエレクトロは、電子化をもって彼らに襲い掛かる。
余りに唐突な始まりに身体が硬直するが、ヴェノムのアドバイスに意識を一気に戦闘用のソレへと変化させ、稲妻と化したエレクトロを迎え撃った。
ーーーやはり、早い。
落雷の様なスピードは誰にも捉えられず、歴戦の戦士ですらその追随には叶わぬだろう。
元々が非力と言う弱点を持ちながら、大妖怪としての腕力でそれを解決し、加えて武器はステータスを破壊力に全振りした戦斧。
この一撃に反応し、対処出来るのはシン達の知る限り、依姫ぐらいしか居ないのかもしれない。
勿論シン達も含めて、だが。
ーーーしかし。
「ーーー
エレクトロがヴェノムの弱点を知っているのだとしたら。
彼らが彼女を止める方法は、いよいよ無くなるだろう。
<がぁっ!?>
「ッづぁッ!?!?」
ヴェノムの助けもあり、膂力を増した状態で腕をクロス状に重ね、戦斧を受けようとしたシン達。
しかし、クロスした黒腕と蒼電を放つ戦斧が触れ合おうとしたその瞬間。
ジュッ、と。
斬撃には似つかわしく無い音が響いた。
まるで熱したフライパンに水滴を垂らした様な、鉄が溶鉱炉に沈み込む時の様な。
思わずシン達は、取り分けヴェノムが苦悶の声を漏らし、強引に防御を解除してバックステップした。
「クヒヒッ!どうしたぁっ!?腰が引けているぞぉッ!?」
「ッグォオオオッ!!」
背後に飛んだシン達を追い掛け、常に懐に入り込むエレクトロ。
戦斧に触れてはいけない。
何が起きた、それを考えるよりも先に直感がそう囁いた。
「クソッタレがッ!!」
「熱か!この野郎ッ!!」
悪態を漏らし、痛みの原因を知ると同時に、右前方から迫る袈裟斬り。
それをシン達は、いや、ヴェノムは身体を横に倒し、戦斧に滑らすかの様に回避した。
ーーーそして。
「なぁっ!?ヴェノムお前!それはキツイ!!」
<これぐらい我慢しろッ!!>
体勢を立て直す事も、ましてやそのまま倒れる事も無く。
シン達の周りだけ重力が反転した様に、彼らの身体は真っ逆さまになった。
それを可能としているのは腰から生える数本の触腕。
巨木すらもへし折るパワーを持った黒腕が脚の役割を担うのは、実に簡単な事であるのだ。
しかし、シンへの負担も凄まじい。
彼は脳震盪で揺れる視界の中、上下反転した世界でエレクトロと戦い続けなければいけないのだ。
冷静に考えて、誰でも胃の中身をぶち撒けるだろう。
「ちょこまかとぉッ!!」
そんな事露知らず、エレクトロは戦斧を振り、幾度も空を切る事を繰り返している。
どれだけ紙一重でも、攻撃の手を全て防御に回したシン達にとってはお茶の子さいさいな話であった。
そうやってシン達は触腕を使いこなし、元に戻した体の位置を微調整し、攻撃の手をずらしていく。
ーーーしかし。
「がぁっ!?」
優勢に見えた攻防は、呆気なく終わってしまった。
シン達の胸元に迫った一撃。
対して彼らは触腕を背後の地面に差し込み、そこから体を引き寄せる事で間一髪で回避した。
ーーーにも関わらず、胸元に一筋の傷痕が刻まれたのだ。
それを皮切りに、次々とシン達の身体に傷跡が刻まれて行く。
避けている筈なのに、何故。
斬撃の最中浮かぶ疑問の答えは、戦斧の刃先が物語っていた。
ーーー蒼い輝きの他に、紫の雷が纏わりついている。
シンは戦斧を回避した瞬間、その事に気付いた。
そして青の残光が残しながら黒い皮膚の上を滑る戦斧、遅れて紫電が弾け、シン達の身を焼き切っていくのだ。
(種は分かった…!だが…)
結局、対処の方法は無く、あるとすれば大振りに回避するだけ。
しかしそれもギリギリで回避して来たシン達にとって、無理難題に近しい。
瞬く間にシン達の黒の体は、赤熱化した列線が浮かんでいった。
不意に、エレクトロが戦斧を振るいながら喋り出した。
「…何故だ?」
「ぁあ!?」
戦斧を振り回し、後退するシン達を追い詰めるエレクトロが、そう低く呟いたのだ。
その顔持ちが表すのは、疑問。
「先までの攻勢はどうしたッ!?弱い、お前は■■とは思えない!それとも私の勘違いだったかァ!?」
「お前は何言ってんだッ!!」
意味不明な言動。
その言葉に違和感を覚えたシン達だったが、目の前の脅威に直ぐ消え去ってしまった。
熱に冒された身体はいよいよヴェノムを剥がす一歩手前まで迫り、さらに斬撃の険しさが増していく。
そして後退を繰り返したシン達の体はーーー
「ぐっ!?」
<シンッ!!>
背後の柱に気付かず、鈍い音を立てて激突してしまった。
ーーーもう後退は出来ない。
受けるしか、無い。
「クヒャッ!!弱いぞォッ!!」
愉悦を滲ませたエレクトロが顔がシン達の白い目に映り、続いて絶望を伴った蒼の戦斧が天は掲げられる。
満月と重なった戦斧が月光に煌めき、無慈悲に振り下ろされた。
<ぐぅおおおッ!!>
幾本かの触腕がシン達の盾として重ねられるが、戦斧が触れると同時に、まるでバターを切るかの様に切断されてしまった。
漆黒の防御すらも破られ、切断された触腕が宙を舞う中。
ーーー戦斧が深々とシン達の身体を切り裂いた。
「ぐがぁああああ"あ"あ"ッッッ!!!」
<ぐぁあああ…ッ!!>
シン達の胸に灼けた一線が刻まれ、次の瞬間、噴水の様に血が噴き出す。
電熱に熱せられた鮮血がエレクトロに降り注ぎ、あまりの苦痛にシン達は遂に膝を着いてしまった。
血の噴き出す胸を押さえながら、それでもエレクトロを見上げ、睨み付ける。
「…クク、本当に私は運が良い…こうやってお前を追い詰めることが出来たのも、全ては天命…いや、我が主神の思し召しか…!」
「…ッ!!」
顔に飛び散った返り血を拭いながら戦斧をもう一度振りかざすエレクトロ。
今度はシン達の首を飛ばす気だ。
(ヴェノム…俺一人でやる…!それなら熱も関係無い…!!)
<駄目だ!電撃はどうする!?>
(それぐらいどうって事ない…わかったらさっさと解けヴェノムッ!!)
「さぁ…言い残す事は?」
「ある訳無ぇだろ…!」
掲げられた戦斧が黒雷を纏い、歪に曲がった放電が周囲の地面を穿ち、逃げ場を無くしていく。
それを見たヴェノムは、低く唸り、本当に仕方が無さそうに言葉を漏らした。
<ヘマはするなよ…!絶対だ…!!>
「ありがとなヴェノム…さぁ…行くぞ俺…ッ!!」
覚悟を決めると同時、戦斧から黒の光が弾け、戦斧が振り下ろされた。
「ーーー死ねぇッ!!」
「ふっ!!」
刻々と迫る戦斧を前に、シンはヴェノムをその身の内に収め、2m以上に昇る身体を二回り小さくさせてみせた。
当然、縮小した身体ならば避けれない攻撃も避けれる様になる。
「なっーーー」
「オラァッ!!」
片足を軸に身体を回転させ黒雷を纏う戦斧に滑らすかの様に回避し、ダンと音が鳴る程地面を踏み込み、エレクトロの顔面に一発。
渾身の力を込め、腕を振り抜くと同時に、シンの身体を紫電が襲った。
戦斧に付属していた紫電が、だ。
体が異様に痺れ、更に激しく動いたからか、胸の太刀傷が開き、無視できない量の鮮血が流れる。
「ゴポッ…」
<熱に灼けた部分だけは治せねぇぞ!無理するな!>
「わーってる…!!」
内臓が灼けたからか、喉の奥から血が溢れ、血に塗れた掌を見る。
その掌はプルプルと震えていた。
身体に限界が近付いている証拠だ。
「ーーーっ!」
その次の瞬間、雷鳴が轟き、視界を掌から真正面に向けると。
蒼の光と化したエレクトロが目の前まで迫って来ていた。
「シンんんッ!!殺してやるぞぉおおおオオ"オ"ッッ!!!!」
「ぐぅッ!!」
咆哮とも取れる雄叫びを上げながらエレクトロはシンに突撃し、その勢いのままシンごと柱を貫き、貫き、貫きーーー。
「この野郎ぉおおおッ!!」
柱に激突する背中と腹部中心に広がる刺す様な電撃に顔を苦痛に歪めるシンは、エレクトロを引き剥がす為、意を決して電流の中に手を突っ込んだ。
しかし応えられたのは空を切る感触と腕を焼き尽くす様な電撃。
「アヒャヒャヒャヒャッ!!お前がこの私に触れる事は出来ないだろうッ!?」
「ぐっぉおおお’’お"ッ!!!」
腹部が異様に熱い。
口端から血が溢れ、加速していく身体は遂に発電所の中心部である管制塔に轟音を立てて激突し、そこでようやくエレクトロが停止した。
「ぐっ…ぉ…ッ!!」
<シンッ!!来るぞ!!>
「クヒヒヒヒ…!磔としては十分か…!!」
エレクトロは雷となって距離を取り、続いてその掌に戦斧を形成する。
シンは白黒した視界で管制塔にめり込んだ身体を動かそうと身じろぎするが。
ヴェノムも無く、力も入らない、そんな身体では管制塔の壁に軋みを上げさせるだけに終わってしまう。
ーーーだが。
「クソがぁ…ッ!!」
怒りが、自分に対する積怒が、エレクトロに対する怨念が。
シンに際限なき力を与え、瀕死によって能力がシンの身体をより強靭に作り替えていく。
燃える戦意に灯油が注がれ、足りない腕力はより高く、より太く。
裂けた胸から滴る鮮血が止まり、体の奥底から知らず知らずのうちに力が湧いてくる。
「…?」
バチバチと唸りを上げる戦斧を大振りに構えるエレクトロは、そのシンの変化を嗅ぎ取りーーーいや、感じ取ってしまった。
ーーー
大の字で壁にめり込んでいると言うのに、脱力して項垂れた顔から、三日月に裂けた口が映っているのだ。
優位なのはこちらの筈、しかしエレクトロを敗北の悪寒が身を包み込んでいく。
「ーーーヒ…ッ!」
恐怖。
強者から感じ取る絶望などでは無い。
もっと根源的な、
だが、次の瞬間にはそんな感覚は消え失せ、歯を食いしばってコチラを睨め付けるシンの姿が眼前に映し出されるばかりであった。
(なんだ…今のは…!?いや、そんな事より…)
ーーー早期に決着を着けなければ。
そうしなければ、自分が奴に殺されてしまう様な気がした。
そしてエレクトロは手に持つ戦斧を握り締めると共に、ある可能性に気付き、シンに対しての評価も一転させた。
「まさか…お前は…
「ガァアアアア…!!」
「不味い…!!」
雄叫びがエレクトロの鼓膜を震わせ、管制塔にヒビが入っていく。
直感的に更なる危険を感じたエレクトロは、地面を割る程の勢いで飛び出し、未だ身動きの出来ないシン目掛けて戦斧を振るった。
その時である。
「…っ!?」
「なっ…!?」
一条の流れ星が轟音を立ててシンとエレクトロの間に落下したのだ。
衝撃でエレクトロの体が吹き飛び、シンとの距離を離してしまう。
そして砂煙を立て、その姿を現したのは流れ星などではなくーーー
しかし目を引くのはその色。
銀ではなく、黄金に似た青銅色。
10円玉の様な青銅色がギラギラと月光に煌めき、無骨な光を放っているのだ。
「…ふんッ!!」
シンは遂に体のめり込んだ壁を破壊して脱出し、マジマジと刀を見つめている。
ーーー依姫の使っていた刀とは違う。
「なんだこれ…」
<丁度良い!武器も無かったんだ!今のうちに取っちまえっ!>
確かに武器が無いと攻撃は受けれない。
シンはヴェノムの言う通り、重たい身体を引き摺り、刀の柄に手を掛けた。
「…?」
<…どうした?>
「いや、何か…」
何故だろうか。
この刀ーーー仮に青銅刀としようーーーの感触、
それに空から降って来た事も気掛かりだ。
一体何が、誰がーーー
思考は、雷鳴に掻き消された。
「今度こそッ!終わりだッ!!」
「ッづォオッ!!!」
青銅刀に手を掛けるシンの姿を蒼電が照らし、続いて月光を遮る影がシンを覆う。
シンは顔を上げる暇すら無いと考え、青銅刀を引き抜きて防御に出た。
顔を向けてはいないが、鉄と鉄とをぶつけ合ったかの様な鈍い音が耳に響く。
蒼光が弾け飛び、一瞬の間力が拮抗するが、シンは腰を捻り、強引に刀を振り抜いた事でエレクトロごと戦斧を弾き飛ばした。
しかし彼は、ある異変に気付いた。
ーーー刃が…
蒼電纏うエレクトロの戦斧との鍔迫り合い。
本来ならばもっと甲高い音を上げる筈が、響いたのは重低音。
地面に拳を突き立て、もう片方の腕から蒼電を溢れさせるエレクトロを見据え、チラリと刀の刃に目をやると、やはりと言うべきか、刃が潰されている様だった。
これでは斬る事は出来ない、むしろ鈍器だ。
<おい!!今電気は流れたかッ!?>
「…ない…っ!これはーーー」
「
ヴェノムの声が脳内に反芻するとほぼ同時。
閃光が弾け、雷の龍が仰々しくその顎を開き、シン達に襲いかかった。
「クッソォ…ッ!!」
逃げ場も無い程巨大な雷の光線。
余りに大きな電流の塊は、ある程度の指向性を持っていたとしてもエネルギーが溢れ、付近の柱を抉り取っていく。
この身を信じて防御しても良い。
ーーーだが。
「上等…ッ!!行くぞッ!!」
シンの考えが、この仮説が本当ならーーー。
目と鼻の先にまで迫った蒼龍。
地面すらも飲み込んで破壊していくソレが放つは、絶望的な威圧感と圧倒的な力の差。
受ければまず間違いなく死ぬ。
防御も回避も不能ならば?
ーーーそう、叩き切って仕舞えば良いのだ。
「うるぁあああ'あ"あ"ッッ!!!」
雷鳴に掻き消されぬ程の怒気が詰まった咆哮が上げられ、踏み込みによって地面が円状に割れる。
ドクンと筋肉が限界を超えて脈動し、迫る蒼龍が遂にシンを飲み込もうとしたその瞬間。
人生最大の力が込められた振り下ろしが龍に炸裂した。
電気と言う実体の無いエネルギー、ソレがなんだと言わんばかりに青銅刀は蒼龍の鼻っ柱を砕き、一瞬の均衡の末、鮮烈な光を弾けさせてシンの刀がエレクトロの蒼龍を打ち砕いた。
「ごぶぁッ!?」
ソレだけでは留まらず、振り抜いた力のエネルギーが衝撃波となって押し出され、蒼龍を真っ二つに裂き、その先のエレクトロの胸に直撃したのだ。
そして二つに裂けた蒼龍がシンを分岐点として管制塔の真横を滑り込み、柱を薙ぎ倒して消えていく。
「ハァ…やっぱりな…ハァ…材質は分からないが、コイツは
<いける…いけるぞ!>
蒼龍を見事叩き切ってみせたシンは、疲労から遂に片膝を突き、なんとか青銅刀を杖にして倒れない様にしているだけの状態に陥ってしまった。
しかし感電していない事から電気は通されていない。
やはり仮説は正しかったと口がニヤけるが、同時に疑問も生じた。
ーーーこの刀は、一体なんなんだ?
「ぐぉおおお…!!ぐるぁあああああッッ!!」
「考えてる暇は無ぇか…!!クソ…体が重てェ…!」
<まだ耐えろ!!俺の相棒なんだからそれ位でへこたれるな!!>
「当たり前だ…ッ!!」
咆哮と激励が響き、シンはこのまま地面とキスしてしまいそうな顔を強引に上げ、青銅刀を上段に構えた。
しかし手の中の刀は異様に重く、今にも滑り落ちそうだ。
更に止まりかけていた胸の裂傷が開き、ドプリと血が溢れ、赤黒く服を濡らしていく。
やはり、限界が近い。
「ッ…!!」
目の前に映るのは、おどろおどろしいオーラと共に莫大な電力を放電するエレクトロ。
その邪気に月さえ姿を隠してしまい、エレクトロの蒼の体と放電される雷が暗闇に一層映えている。
そして青筋を浮かばせているエレクトロは、突撃の前傾姿勢を取り、自身の鮮烈なほどまでに蒼い電気を、漆黒に変えた。
電気に妖力を混ぜたのだ。
果たして、この状態でエレクトロと渡り合えるのか。
「ハァァァァ…!!」
「…フゥ…!!」
渡り合えないじゃない、渡り合うのだ。
生憎喰らい付くのには慣れている。
ーーー勝てないならば、何処までも強く慣れば良い。
限界なんて物はあってない様なモノ、むしろ邪魔。
それが俺達の
ーーーだから、死にかける事なんぞ、恐るるに足らないのだ。
エレクトロのスパークが一層激しくなり、圧を体現した死神の様に膨れ上がる。
同時にコンクリートの床が余りの重圧にビキリと唸りを上げていく。
<不味いぞ…!!シンッ!!全力で行け!!>
「面白い…!!俺の全てをぶつけてやるッ!!」
シンは上段に構えた青銅刀を、鞘に収めるかの様に腰の側に置き、そう低く呟いた。
黒い様で眩しい光がシンの顔を照らす。
照らされた口元は、微かに歪んでいた。
「行くぞォッ!!」
「ガァアアアアア"ア"ア"ッッ!!!」
大爆発を起こしたかの様な閃光が爆ぜ、コンクリートが破壊されると共に黒雷と化したエレクトロが蛇行を繰り返してシンに迫る。
シンもそれに答えるかの様にコンクリートの床を砕き、エレクトロに勝るとも劣らない速度で飛び出した。
次の瞬間、飛び出した衝撃に両者の背後の床が波状に砕け散り、爆発が起きたかの様に破片が飛び散っていく。
「ウォオオオオオ"オ"オ“ッッッ!!!!」
「ガァアア"ア"ア"ア"ッッッッ!!!!」
両者の目が合うと同時。
漆黒の轟雷と流星が爆音を立てて交差し、その衝撃波で周りの全ての柱を粉々に破壊していった。
ご拝読、ありがとうございますなのぜ!!
三週間くらい?ほんっと〜に遅れて申し訳ないのぜ!
あとR18の方の小説も投稿したのぜ是非見てくださいなのぜ…!
登場人物紹介っている?
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やってくれ 必要だろ(いる)
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それは雑魚の思考だ(いらない)