とりあえずゆっくりしたいってねー!
「ウォオオオオオ"オ"オ“ッッッ!!!!」
「ガァアア"ア"ア"ア"ッッッッ!!!!」
互いの咆哮と凶器がぶつかり合う。
その瞬間、衝撃波が恐ろしいスピードで球状に広がり管制塔を除く周りの柱の全て破壊していった。
それでも、シンの青銅刀はエレクトロの戦斧に押され始めようとしている。
——-ほんの一瞬でも力を抜けば押し潰される。
力を絞り出せ、もっと強くだ。
「ぐぉぉおおおオオオオ"オ"オ"ッッ!!!」
<もっと強くだッッ!!!>
「がっ…ぁぁああアアアア"ア"ッッッ!!」
溢れ出る黒雷が青銅刀越しに身を貫き、地獄の様な激痛を与えるが、シンは青銅刀を持つその手を離そうとはしなかった。
むしろもっと強く、刀の柄すら握り潰すかの様な握力で刀を握っているのだ。
全身の血液が両腕に集まっている様な感覚。
避けた胸からまた鮮血があふれ、視界が白く、黒く点滅する。
対してエレクトロは、黒雷のスパークを弾けさせ、シンと同等以上の腕力を持って彼を押し潰そうと力を込め、咆哮している。
彼女の激情に比例するかの様に彼女から溢れる黒雷は激しさを増し、ボルトを上げていく。
そして余りある力の拮抗は、両者の踏み締める地面すら砕いていった。
「まだ…足りない…ッ!!!」
ーーーもっと。
ーーーもっとッ!
ーーーもっとッッッッ!!!
「ーーーッッ!!!!」
生暖かい血が蛇口を捻ったかの様に溢れ、電熱によってすぐに蒸発しても関係無い。
そしてリミッターを大きく外れた力は遂にシン自身の腕を壊し、血管が破裂し、ゴキリと奇妙な音を響かせた。
ーーーだが。
限界を超えた状態に、シンは適応していく。
指数関数的に際限なく力が漲っていく。
ゴム風船に貯められた水のように。
そして遂にーーー。
「ハァァァァアアアアッッッッ!!!!」
「ぐっ…!?ッォォオオオッッ!!」
シンは地面を砕き、一歩を踏み出した。
一歩に伴って地面が蜘蛛の巣状に割れ、エレクトロの体が仰反る。
シンの眼光が黒い稲妻の中光り輝き、黒雷に身を覆われながらもエレクトロを睨みつけた。
ーーー馬鹿な。
エレクトロの零した疑問は、自身の雷鳴に掻き消されてしまう。
触れれば即死級の黒雷に身を焼かれている筈なのに。
何故シンは激痛に焼かれてなお戦意が途絶えない?
あの男すらもこの一撃に倒れ伏したと言うのに。
そうか、それがお前のーーー
「それがお前の
「人聞きの悪ぃ奴だなッ!!!」
シンがまた一歩、足を踏み出す。
それだけで地面が破壊され、エレクトロが仰け反った。
ーーー押し勝てる。
五千万ボルトに達する黒雷を受け止めるシンの中で、熱い血潮が滾り出し、空っぽに近い体力から更なる力を引き出す。
体がどれだけ雷に焼かれようと、それはまったくシンの妨げにならなかった。
むしろ今のシンにとって痛みはカンフル剤。
生死を彷徨う激戦は、ただシンの
ーーーいや、待て。
(俺は今、何を考えた?)
それは、そこに合って当たり前とでも言うように、自然と湧いていた感情。
ーーー享楽。
(全然、楽しくなんて無かった筈なのにーーー)
大妖怪との会合も、カレンとの再会も、エレクトロとの熱戦も。
微塵も"楽しい"とは思わなかった。
だが今は?
(…そんな筈が、そんな筈が無ぇ!!!)
ーーーこれが俺の異常性?違う、絶対に違う。
エレクトロの言う通り?この湧き上がる感情は?
確かに、確かに戦闘は楽しい、命の凌ぎ合いは心躍る。
だが、こんな局面で抱えていい感情などでは、決して無い。
断じて無い。
以前にも自分が異常だと思う場面はあった。
だがまさか…こんな場面でも、楽しもうとーーー
(違う!!俺は…俺は…!!)
ヴェノムすら読み取れない程の深層心理、その中でほんの鄒俊だけ流れた思考は、歪み、捻くれ、形容し難く、複雑なモノへと変わっていった。
だが、アンチテーゼの立証に熱意を注ぐ場合でも無い。
シンは思考を断ち切り、激戦の中へ意識を投入した。
「まだ行ける…ッッ!!」
「くァアアアアア"ア"ッッッ!!
未だ電気を通さない青銅刀と、光を飲み込む漆黒を纏った戦斧が擦り合わせるような、歪な金属音を響かせる。
気分が最高潮にまで昇ったシンは、激情のままに自分の身が黒雷で焼かれるのも厭わずに頭をを振り、エレクトロに思い切り頭突きした。
「ガッ…ッ!?」
乾いた大木をへし折ったかのような異音が雷鳴の中響き渡り、互いに仰け反った二人の額から赤い血が溢れ出す。
特にシンは黒雷に頭から突っ込んだ事もあり、脳がショート寸前の重傷を負っていた。
ーーーだが、彼は止まらない。
心底楽しそうに口をぬらりと裂き、エレクトロに生まれた一瞬の隙を刺すかのように思い切り踏み込んだ。
「喰らえぇえええエエ"エ"エ"ッッ!!!!」
「このーーーゴブッ…ッッ!?」
迎撃のため振るわれた戦斧を、爆発させた力で粉々に打ち砕き、その勢いを持ってエレクトロの胴体目掛けて青銅刀をフルスイング。
凡そ人体が奏でるには異形すぎる音色を響かせ、エレクトロの肋骨と内臓が青銅刀に押し潰されてしまう。
口が無い関係上吐血はしなかったが、エレクトロの腹部から押し出された骨と内臓が飛び出し、それが地面に付着する前にエレクトロの視界からシンが掻き消えた。
「ガハッ…!!」
無論、シンが刀を振り抜き、エレクトロが吹き飛んだのである。
そんな彼女は錐揉み回転を描き、身体の中がシェイクされる様な感覚に襲われながらも、シンの吹き飛ぶコチラ目掛けて追撃をしようとする姿を視界に入れていた。。
加えて彼女は激痛に意識を手放しそうになりながらも、ある事を考えていた。
(コイツ…この身体の事を何だと思って…!)
ーーーあの女だってこの身体を盾にすれば立ち止まった。
そもそもアイツも最初は拳を止めた筈だ。
やはり、この私に負けず劣らずの異常。
「…ッッ!!!」
エレクトロは溢れ出る臓物を引き千切り、強引に身体を電気エネルギーで再生させた。
そして視界に入るのは、瞳孔が空き、ギラギラの光る眼光。
エレクトロはそれを見るや否や、拳を落として電流を地面に帯電させ、地面から大量の鉄片を引き摺り出した。
そして大多数の鉄片を自身を中心として回転させ、残った破片をシンにむけて放つ。
金属を引き摺り出した時に付着した土塊が辺りに飛び散り、金属同士の擦れ合う、気持ちの悪い騒音が響いた。
それはまるで
瞬く間にシンの姿は鉄の残骸に消え、その光景も鈍い光を放つ衛星達に閉ざされた。
「よし…ッ!!」
更にそこから妖力と霊力の混ざった雷を掌に集め、砂嵐の様に回転する鉄片越しに雷撃を放とうと腕を突き出した。
ーーーだが。
腕を突き出した瞬間、鉄の壁を突き破って
蛇の様に突出したそれは…腕?
「捕まえたぞ…ッ!!」
「あーーー」
短く、簡素な悲鳴。
続いて胸辺りを中心としてシンの方へグンと、引っ張られた様な感覚を受けた。
シンが鉄の嵐に逆らいながらもエレクトロの胸ぐらを掴み、思い切り引き寄せたのだ。
二人の距離は文字通りの目と鼻の先となり、エレクトロはシンの頭から血を噴き出し、眼を白黒と点滅する姿を眼科に収めた。
恐らく飛来した鉄など関係無しに突っ切ったのであろう。
血濡れた顔から飛び散った赤い液体がエレクトロの顔に付着する。
蒼く、何の無いキャンバスにはその紅が良く映えた。
ーーー馬鹿め。
この右手に溜められ、今にも暴発しそうな黒雷。
ーーーこの超至近距離でどう避けると言うのか。
それこそ無鉄砲に突っ込んだが故、つまり、運の尽きなのだ。
「受けてみろォッ!!」
「カッ…!?!?」
数コンマの差。
シンの拳が迫り来るよりも一瞬早く、エレクトロの拳がシンの胸にのめり込んだ。
瞬間、エレクトロの腕から黒い蛇が溢れ出し、シンの胸を、筋肉を、まるで太陽の刻印を刻むかの様に焼き切っていく。
更に暴走する破壊の雷はその胸の深く奥、心の臓にまでも電撃を与えた。
ほんの刹那にも満たないその一瞬で、シンの上半身の衣服は弾け飛び、鉄に反射した黒い光がさんざめいていた。
過負荷の電圧を加えられた心臓は痙攣し、シンは瞬く間に目を白眼にして額をガクリと下げる。
その瞬間。
彼の心臓は。
ーーー
「ーーー…」
瞬間、血の循環が止まり、彼の映る世界は暗闇に包まれ、瞬く間に呼吸すら忘れる。
僅かな、残りカスに近い心象心理に映るは水の中へ落ち続けるシンの体。
神経すら動きを止め、故に痛みも何も感じない、穏やかで、静かな死の海へ沈んでいった。
ーーーしかし。
魂が不確かな物へとなっても。
身体が瀕死寸前の重傷を負っても。
彼の命の灯火は、決して消えることは無かった。
「ーーー!!」
「うッ!?嘘だろーーーぉあッ!?」
限りなく死に近い重傷、意識の無い状態、流し過ぎた血液ーーー鼓動を止めた心臓。
そのどれにも意に介さず、シンは顔を上げてみせたのだ。
驚愕の声を上げるエレクトロに音速のシンの拳が突き刺さり、鉄の壁に激突してなお距離を詰められ、彼の足に沈む。
メキメキと異音を鳴らす彼女は鉄の嵐から弾け飛び、地面にバウンドして滑り落ちて行った。
「ア…ッが…ッ!!」
「ーーー」
彼女は消え入りそうな意識の中で磁界を操作し、掌を握って鉄の嵐の中のシンを圧殺する様に鉄を押し潰す。
破片の群れだった物は一つの塊へと収縮し、メキメキと軋みを上げていた。
したり顔で膝を突き、押し潰す電力に更に力を入れ、大きな破砕音を響かせると共に鉄の塊を一回り小さくさせる。
次の瞬間には鉄の塊から血が滴り落ちていく光景が網膜に映し出された。
「今度こそ…!!」
シンはどれだけの血を流しただろうか。
どれだけの負傷を負っただろうか。
目測でもニリットル。
実に致死量の二倍の血を流している。
だったらそろそろ死んでもおかしくは無い。
おかしくは無い筈なのだ。
ーーーエレクトロの視界に映る人物が異常でなければ。
「嘘だろ…!?まだ死なないのか…!?」
錆びた歯車の擦れるかの様な音が鳴り響いた瞬間、球体と化した鉄の内部から、鈍い輝きを放つ青銅刀とそれを掴む血みどろの腕が飛び出してきたのだ。
続いて、まるで泥をかき分けるかの様に容易く鉄が引き千切れ、現れたソレはーーーまるでゾンビかの様だった。
上半身は剥き出しで、赤黒い火傷が胸を中心に焼き付けられ、左腕があらぬ方向に捻じ曲がり、あらゆる所から血が噴き出ている。
その中でも特に、眼光だけは一線を画した存在感を放ち、闇の中ということもあってギラリとした白い眼がエレクトロを射抜いていた。
「ーーーハァァ…!!」
獣の如く発せられた、白い吐息。
エレクトロが畏れに似た感情から後退りする。
瀕死の彼にトドメを刺そうと腕を突き出し、電気を迸らせるが、狙いを付けた瞬間に彼はーーー消えた。
否、正確には彼が飛び出したのだ。
眼下に収めた情報が脳へ伝達された時には、エレクトロを薄く照らす月の影がシンによって遮られ、やっと時が動き出したかの様に鉄の球体がくの字に折れ曲がった。
シンは大きく腰を捻り、左腕を突き出す正拳突きの様な体勢を空中で取る。
ひと目見ただけで折れていると視認出来る左腕を、だ。
先の圧縮によって齎された左腕の複雑骨折。
まるで幾つもの節が出来た異形の腕。
エレクトロがあまりにも合理的で無い方法に一瞬嘲笑を浮かべ、受け止めようと腕を伸ばす。
しかしーーー
弛んだ紐を引き締めるかの様に。
ギュルンと音を立ててシンの左腕が元に戻ったのだ。
「なぁッ!?」
異常な正拳突きは確かにシンの本能によるものだ。
折れている腕も、ろくに動かない身体も、あらゆるリミッターが外れた。
思考すらも外れた、痛みを伝える事を忘れた脳によって。
そしてそれを行ってるのはシンの異常な戦闘意欲。
獣染みた勘。
そこに居たから殴った、そんな無意識。
それらが彼を突き動かしていた。
では、腕を治ったのは?
それこそヴェノムだ。
それだけでは無い。
(止まった心臓を動かせ…血を巡らせろ…コイツが死ぬ前に…息を吹き返させる…!!)
彼はシンの心臓が止まった瞬間からずっとシンの筋肉を操り、擬似的な心臓マッサージを行っていた。
そして同時に焦りも感じていた。
<おい!!シンッ!起きろッ!!頼むから起きてくれッ!!>
ーーーこのシンの体は死人に近く、何よりも血が足りないという事。
このままでは恐らく10分も経たない内に力尽きてしまう。
それはヴェノムが一番分かっていることでもあった。
シン自身の体も青白く変化し、手足に至っては青紫に染まり、着実に死への一歩を踏み始めている。
<シンッ!!!>
シンが今ここで目を覚ませば彼は無茶をしないかも知れない。
それは一条の希望であったが、まるで暖簾に腕押し。
シンの脳はマトモにヴェノムの話を聞き入れず、シンは勢いのまま拳を振り抜いた。
「ーーーッッッ!!!!」
「くぉおッ…!!!」
しかしエレクトロが間一髪で腕を強引に滑り込ませ、防御に出る。
彼女は骨が唸り、衝撃波が体を突き抜けていくのを感じながら、目の前の鬼の対処を考えていた。
(戦斧?距離が近すぎる…!!電子化…も、同じか?電磁力…ダメだ集中力が持たない………近接戦闘なら…?ク、クク…同じ土俵に上がるは癪だが…!!)
ーーー殴り殺す。
極めて単簡で、電気を扱う者として、はたまた異能を扱う大妖怪として異質な結論。
正面きっての殴り合いだった。
「おォラァッ!!」
「ーーーがッ!?」
正拳突きを受けた方の腕を逸らすように回して威力を殺し、無防備となったシンの腹部にアッパー、そして放電。
鮮烈な光が辺りを劈き、彼の内蔵を焼き焦がしながら蒼雷が天に向かって枝を伸ばしていった。
地面に向け、くの字になるシンを見つめるエレクトロは、そこで彼のある変化に気付いた。
ーーー眼球が。
彩度の低い灰の瞳が、それでいて燃える様な、瞳が。
目を限界まで開き、まるで猫の様に小さい瞳孔がコチラをギョロリと見つめている。
(っ今ので目覚めたのか…!?判断を見誤ったか…だが僥倖…!そんな身体で動いているのは意識が無かったから、無意識だからこそ脳が反応しなかったからだ!!その状態で…脳がドクターストップをかけた状態で…マトモに動けるとーーー)
幸か不幸か、あの雷撃が電気ショックにもなり、シンは僅かながら意識を取り戻したのだ。
僅かな恐怖がエレクトロを襲うが、その恐怖を一蹴し、次なる一撃を繰り出そうとした。
「思うなァ!!」
雷撃を纏い、腕を瞬時に電子化。
腕がすっぽ抜けない様に腕と電子の結合部の維持、そこから放たれる絶死の一撃。
それを無防備な体勢に、人体の弱点である脇腹に、風が吹けば散る様な死人に。
「ヒャハァアアアアアッ!!!」
ーーーガン。
空虚な音だった。
後に続く衝撃波も耳に入らないくらい、異様な光景だった。
「ーーーハ、ハッ、ハァ?」
片手、青銅刀。
エレクトロの目に、ソレが映っていたのだ。
エレクトロの拳を、鈍器の様な剣で、しかも片手で受け止めるシンの姿が。
「はぁああアアアアッッ!?!?」
ーーーあり、ありえない、どうして?どうして!?
何故?コイツが私の拳を?受け止めてぇエエ?
体の側面を向け、力も入るはずの無い状態なのに!!
血も足りず、力も出ない筈なのにィ!!!
この力の源泉は!?
ずっと立ち上がって、ずっとーーー
(殴っても、焼いても、掻き消してもォォオオ!!!)
「なんだお前はッ!?何なんだオマエはァ!?オマエはーーーごびゅっ!?」
溢れ出る疑問と憎悪は、拳と共に青銅刀に弾かれ、腰を捻って体勢を変えたシンの拳に沈んだ。
拳のめり込むエレクトロの狭い視界に、極限まで開かれた瞳孔と、大きく裂けた口が焼き付けられる。
「ぅゥウルァアアアアアアアアッッ!!!!
(っ弱くなるどころか…力がっ!?)
エレクトロを追撃するシンの拳が、一発一発ごとに威力を増していく。
初めは彼女にも捉えることが出来るほどだった。
しかし、シンの成長速度はエレクトロのソレを上回り、追い抜き、突き放しーーー
彼の成長線は、嘗て無い程の重傷、ソレを差し置いて湧き上がる戦意と享楽によって、指数的な急上昇を遂げていた。
そしてシンを上回らんと立ちはだかり、君臨していたエレクトロも力においては完全に切り離されーーー
「ハハハハハッッ!!」
「クソォ…!!!クソがァッ!!!」
笑う彼の一撃をノーリスクで受け切ることは出来なくなっていた。
一撃ごとに致命傷。
五体で受ければ粉砕、急所はぐちゃぐちゃに。
なんとか電気を身体に変換して再生し、距離を取ろうと電子化しても青銅刀を突き付けられ、即死のラッシュ。
とても勝てる形勢とは言えなかった。
(クァアア…!!!気をっ!!気さえ引ければァ!!)
コイツの気を引くモノはなんだ。
そう自問するエレクトロは、ある事を思い付いた。
それは苦肉の策であり、禁止されていた筈の情報。
頭で理解していても、命の危機という現実に無意識の警報を無視し、躊躇わずそれを解き放とうとした。
しかし、その言の葉が喉まで出かかったその時。
言葉…いや、思念が彼女の頭を焼いた。
【✋❄ ☠⚐ ❄ ❄☟ ✌❄ ❄【R e■ ul a■ ed】 ✡☜ ❄】
(ッッ!?!?もッ!もっ、しわ、申し訳、申し訳ありませんッ!!!)
それは…まるで…まるで、怒りを孕んだ王の眼。
魔王の眼差し。
邪悪な権化。
妖怪なんぞとは一線を…それどころか百線も超えた異次元の存在。
それはただ一つの思念だった。
"喋るな、黙れ"
深層心理をこじ開けられ、何かをねじ込まれるような感覚と頭に浮かんだバグのような文字列と思念に、エレクトロは言葉を飲み込み、怯えに支配されながら心中で謝罪の意を吐き出した。
そしてその怯えはシンの狂気とは比にならず、寒気も感じ、今の一瞬で心臓が握りつぶされたかのような気さえした。
その所業は正に邪神、いや、本当に邪神なのかも知れない。
と、言うのもエレクトロは一度、その存在とのコンタクトを取ったことがあるのだ、それも、つい数日前。
操りの大妖怪として死んだあの日。
エレクトロに焼き付けられた映像が頭の中で具現化しつつあった。
◆◆
あ、ああぁぁぁぁ…!!
己…己ぇえええ…あの女…女ぁあああッ!!!
私の計画を…メチャクチャに…クソ…クソォッ!
身体がぁ…溶けていく…
泥に沈むような感覚…こ、これが…死…
身体の感覚も消え失せた…人間と違い、精神を重点とする妖怪の私が行き着く先は…地獄…?それとも輪廻の輪…?
…大妖怪だぞ…!?この私が…!?
ぁぁぁあああああ“あ"…!!!!
私の何が間違っていたと言うのだ…!!
死にたくない…!!
何も成し得てない私に価値などない…!!
価値を与えるのは偉業だ…恐怖だ…!!
偉業を成し遂げていない私に!!!
価値などありはしない!!
『誰か…私を助けろぉォオ…!!誰でも良い…誰でもォォオオ!!』
ああ、ああ!視界が…暗くなって来た…!
体は今どこに落ちている?
曖mいだ…
思考が曖昧だ。
こうやって溶けt無くなっていくのか…
あ、あaAア…
邪神でもいい…わ、わたしをtAすkーーー
【
ーーー声?
いやそれよりも身体がーーー
「ぁ、ああ?ーーーぁああああ!?!?」
身体がひっぱられーーーいや、拗られーーーいや、引き伸ばされーーーいや、捏ねられーーーいや、崩されーーーいやーーーいやーーー
「ーーーはっ!?!?はっ、はっ…〜ッはぁ!」
身体が急停止した…何処だ…!?ここは!?
暗い…闇…!?霧…!?それとも宇宙…!?
一寸先も見えない漆黒の闇…!?
少なくとも…今私が落ちていたところではない…!
【
ーーーなんだ…なんだ、なんだなんだなんだッ!?!?
なんだこの悍ましい声は!?
なんで私はこれを理解出来ている!?
恐怖!?畏怖!?恐ろしい!?この私が恐怖を感じている!?
気配は!?目の前!?
いや、そっそんな事よりも答えを!答えを言わねば殺っ、殺される。
「っい、生きた、い…です」
この…私が…こんな引き攣った声?
大妖怪の、この私が…?
【なればチャンスを与えよう、彼を痛めつけろ、絶望させろ】
怖い…怖い怖い怖い!!
声が鮮明になった?
近付いているのか?
未知だ、何も解らない。
人は未知を何よりも恐れると聞いたことがある。
人は足掻くことが出来ない事に絶対に挫けると本能に刻まれている。
抵抗出来ない幽霊に怯えるように。
ゾンビを撃ち殺すゲームがそれ程恐怖されてないように。
そうか…これが…
「は…ハッ…は、い…!!」
支配…?
いや、カリスマ…?
口が震える…ガチガチ鳴っている。
この…このお方の目的は…!?
「知る必要は無い、お前は言われた通りに動け」
「〜〜…!!」
めっ、めの、目の前にいる。
こ、こっ声が鮮明にっ。
見えないのに、必ずそこに居ると確信出来る…!!
「■■の事は決して口にするな、さぁ、期待してやろう、行け」
このお方は狂気だ、狂気の神だ。
耳元で囁かれている。
なのに何が話しているのか、何がそ、そこに居るのか、分からない。
ただ確信出来るのはーーー期待されている。
邪の神に。
狂気の化身に。
あ、ああ、嗚呼ーーー嗚呼!!
先程の怯えが無くなった!
湧き上がり、燃え上がり、激しく爆発するこの感情は!?
ーーー
そうだ!このお方こそ絶対の神!
私がどれだけ背伸びしても届かないような邪神が!いや、我が主神が!!
期待されている!!!
ああ!思考が流れてきた!!
これも御力か!!
「コイツを…!!」
鮮烈に流れるこの男!!
コイツはーーー
死んでいなかったのか…!
シン…シン…!シンンンンッ!!!
クヒッ、コイツを、シンを絶望させる…!!
「クヒッ、クヒヒ…クヒャヒャヒャ!!!必ずや!!我が主神のご要望にお応えして見せまーーー」
「御託はいい、行けと言ったのだ」
ーーーあ。
あっ!?ああッ!?無礼をはたら…いや、身体がぁ…!?
最初の時と同じだ…!
引き伸ばされ、拗られ、引き伸ばされ、捏ねられ、崩され。
もしかしたらこれは次元を超えているのかも知れない。
ーーーが、考える必要は無い。
今の私の命は、我が主神に拾われた身。
ならば私はこの命の元に!最強に君臨し!シンにあらゆる苦痛を与える…!!
『体の歪みが済んだ…視界が開けーーーこれは…!!』
そうか。
そうか!
粋な計らいとはこの事を言うのか!!
我が主神はこの女…いや、エレクトロの精神に私を転生させて下さったのか!!!
粋な計らいには粋な計らいを!!
この女の身体!!乗っ取って!!そしてシンを絶望させてやる!!!
クヒャヒャヒャ!!!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!
◆◆
邪悪から遣わされた化身が思慮するその傍ら。
シンは朦朧とした意識の中で猛撃を繰り出していた。
「がぁああ!!ぁぁあああああああッッ!!!」
映るは白黒の世界。
背景なんて物は無い。
目の前の存在を屠るのにそんな情報は要らなかった。
「ハハッ!!ハハハハハッッ!!」
拳と青銅刀を打ち込み、赤黒い血が流れていくごとに頭を快楽物質が汚染し、120%を引き出していく。
ドーパミン。
β-エンドルフィン。
オキシトシン。
オピオイド。
エンケファリン。
ーーーそして、シンの力。
<止めろ!!もう拳を振るなシンッ!!!>
ヴェノムの静止さえ、身体の悲鳴さえ、頭はその受け取りを拒否している。
駆け巡る血が足りず、力が足りない。
ーーー適応。
雷に打たれた胸がビクビクと痙攣し、マトモに力が出せない。
ーーー適応。
内臓が焼き焦がされ、身体にエネルギーが足りない。
ーーー適応。
強く、強靭に、変化に耐えうる身体を。
<無茶するな!キャパオーバーなのが分からないのか!?何かの拍子でお前はナメクジみたいに崩れ去るんだぞ!?>
「アハハハハハハ!!!ハハハハハハハッッ!!!」
<クソが!!止まれ!!俺の言うことを聞け!!!>
ーーー目の前の悪が戦友の体を使っている。
ーーー目の前の最低が依姫を傷付けた。
ーーー絶対に叩き潰す。
表情の変わらない、蒼白ののっぺらぼう。
しかし、そこからはありありと焦燥が見てとれた。
クロスされたエレクトロの腕をこじ開け、顔面に膝蹴り。
防御の崩れた無防備なその身体の顔面、鳩尾、両脇腹に流れるような拳と刀の連撃。
「げふっ…!!こ"のォ"ーーー」
「クォアアッッ!!!」
エレクトロは崩れ落ち、顔だけをシンの修羅の如き瞳に向けるが、それが鄒俊と続くわけも無く、刹那の間に腹部へ渾身のアッパーを繰り出した。
その一撃は凄まじく、辛うじて貫通はしなかった物の、その光景はゴムの壁を思い切り押すかのようであり、事実彼女の内臓、背骨は粉砕と言った所だった。
更に衝撃が天を裂く刹那。
一瞬で体勢を変えたシンの青銅刀の振り下ろしが炸裂した。
「…ッ!!!ぉ…あ…ッ!!!!」
「おぁあああああ"あ"ッッッ!!!」
今の一撃で完全にエレクトロの胴体は肉だけで繋がっている状態となった。
しかし追撃は加える。
息継ぎなんてしない、出来ない。
それをしてしまっては脳内物質のブーストが切れてしまう。
「おるぁあああああ"あ"あ"ッッ!!!」
「がぁ…!!〜ッ!!!」
青銅刀を天に放り投げ、空いた両手でラッシュ。
簡単に言うようだが、その一撃は地を砕き、拳は幾重もの残像を描き、エレクトロに減らず口を叩かせない。
それが十数秒の間、何十発も続いた。
「ふーーーるぁッッ!!!」
「…ッッ!!!」
そしてクルクルと円を描いて落下した青銅刀を掴み取り、振り下ろしてフィニッシュ。
音速を超え、空気を破る音を劈かせた絶刀は接触、いや、着弾と同時に轟音を響かせ、隕石が落ちたかのようなクレーターを作り出した。
ーーーだと言うのに。
「ク…ヒヒ…!!」
「ッ!!クゥウルォオオオオ"オオッッッ!!!」
だと言うのにエレクトロは、悪戯を思い付いたかのように嗤った。
それはもう無邪気に。
それはもう醜悪に。
不吉な気配を感じ取ったシンは、獣の如く咆哮し、攻撃の手を激化させた。
手始めにエレクトロの頭を掴む。
ゴムに近い、ブニブニとした嫌な感触だったが、反撃の隙も与えまいとエレクトロを力一杯放り投げ、同時にシンも飛び出した。
無論、エレクトロの方角である。
「クォオオオオオッッッ!!!」
咆哮と共に両手で青銅刀を携え、一息で地面と並行移動するエレクトロの懐まで潜り込むシン。
まるで弾丸そのものであり、エレクトロは記憶の片隅から依姫の幻影がシンと重なった。
重なるモノはーーー
そう、居合。
「フゥ…!!」
風前の灯の意識。
それでもシンの中には依姫が、彼女の技がこびりついていたのだ。
「ハァッ!!!」
「グハァ…ッ!!」
彼女の足取り、息遣い、筋肉の使い方、振るわれる刀を夢想し、それをなぞるかの様に腰を捻り、腕を振るい、鞭のように下から斜め上に振り上げる。
それだけで空が割れ、衝撃が暴風のように突き抜けていった。
「ッ!!!」
更にエレクトロの顔に肉壁するほど接近し、十を超える斬撃を浴びせる。
そんな中、息も出来ず、傷も癒せないエレクトロがゆっくりと口を開いた。
「お前は…」
打撃音とエレクトロのくぐもった呻き声。
それらが入り混じる中で、それはやけにうるさく聞こえた。
「ーーー
ピクリ、と。
シンの剣筋が僅かに鈍り、瞳孔が震え、心臓が酷く騒々しく鼓動する。
そして絞り出すように彼は言った。
「…黙れ…」
「キヒヒヒヒ…!!」
焦りが形を成して溢れ出し、冷や汗が血と共に一滴、また一滴と地面へ落ちていく。
そんな話は聞きたく無いと言わんばかりにシンは拳に込める力を強くし、血濡れた拳を雑念ごとエレクトロに叩き込んだ。
それでもエレクトロは口を開く。
「キヒヒ!!気付かないか!?いや!もう気付いているだろう!?」
「黙れ…!!」
極度の動揺から剣先がぶれ、最低限の技術を持った剣術から力だけの粗雑な振り回しへと変わっていく。
シンは歯を砕けるほど噛み締め、血走った目でエレクトロを睨み付けるが、彼女は口を閉じようとせず、寧ろ嬉々として宣っていく。
「お前はコイツの為に戦っているんだろうッ!?なのにお前はずっと笑いっぱなしだ!!それに下手をすればコイツごと死ぬ様な攻撃ばかり!!楽しすぎてそこまで頭が回ってないんじゃ無いかぁッ!?それともこの女なんてどうでも良いかッ!?そうだよなぁ、お前には戦うことしか考えられないからなァッ!!!」
「〜ッ!!ッ黙れェ!!」
彼女はシンの根底を見抜いた訳じゃあない。
先の言動から読み取っただけに過ぎず、その言葉全てがシンに当てはまる訳でもなかった。
だがしかし、シンは言い返せなかった。
自分の中でどこか認めていたからかも知れない。
自分が今どんな気持ちでこの戦闘に臨んでいるか、を。
だから、ただ愚直なまでに突きつけるその言葉を聞きたくなかった。
「認めろよシンんッ!!コレの為…他人の為と…自分の欲求を誰かの為だと主語をすり替えてるだけだろうッ!?」
「ッああああッ!!!黙れ黙れ黙れェェッッ!!!」
「ぐぶぁッ!?…ヒ、クヒヒ…」
残酷なまでに突き立てられた現実。
自己嫌悪と殺意に身を囚われたシンは力の限り青銅刀を振り回す。
エレクトロはそれを防御する訳でもなくモロに喰らい、呻き声と笑い声を残して数百メートルも吹き飛ばされた。
技術もへったくれもない一撃だ。
恐らく大したダメージにはなっていないだろう。
「…く、ハァッ!ハァッ!ハァッ!く、そォッ…!ハァッ…」
<やっと止まったか…あと少しで取り返しのつかない事になってたぞ…だが…>
ーーーエレクトロは考え無しにシンを侮辱していた訳ではない。
どうにかしてシンの気を引き、体勢を立て直そうとする為に口撃を繰り返していたのだ。
しかしその作戦は思わぬ成果を遂げる事となる。
「ハァッ…ハァッ…!から、だ、がぁ…ハァッ…」
<この状況も状況だな…!>
シンを突き動かしていたのは、根性と麻薬物質だ。
しかしそれも唐突に訪れた休息によって途切れた。
更に麻薬物質によって押さえ付けられていた疲労と貧血が牙を剥き、シンは最早一歩も動けないような重傷へと陥っていた。
「あァ…?…ッ…」
<おいっ!?…クッソ…血が…血があれば…!!>
力の入らない身体はやがて崩れ落ち、青白い手を地に着けようとするもそのままべちゃりと倒れ伏した。
冷たい地面の温度が無造作に頬を伝うが、シンにはまるで冷たさを感じ取れず、身動きしようとしたが全く体が動かない。
それに痛みも苦しみも感じなかった。
もしかしたら痛覚も無くなってしまったのかも知れない。
『ーーー戦いたいだけだろう?』
「ク…ソ…」
エレクトロの言葉が頭を反芻し、楔を刺したかのような気持ち悪さを残す。
昂る戦意を押し退け、強烈な自己嫌悪と吐き気に覆われながらも、シンは立ち上がろうとした。
ーーーだが。
(あぁ、畜生…
何故だか力が入らない。
いや、頭では動かそうとしている。
身体が、精神が動きたくないと叫んでいるのだ。
「俺…は…ッ」
背けていた感情を弾糾された。
向き合わざるを得なくなった。
認めるしか無くなった。
「畜生…ちく…しょう…」
こんな自分に価値が、彼女の為に戦う価値があるのか?
そうして浮かんだのは、言葉に言い表せないような、口まで出掛かっていても出ることが叶わない、ドス黒い想いだった。
身は愚情に支配され、やがて彼の身体から動こうとする意志を、助けようとする想いを削いでいった。
「…っ」
<おい…?おいおいおい…!?シンッ!!気をしっかり持てシンッ!!もう戦わなくても良い!だからせめて今は寝るなッ!>
ヴェノムに受け答えする余裕もない。
シンはただただ少しずつ、絶望に塗れながら真っ暗闇へと意識が落ちて行くのを感じていた。
ーーーいや、まだ。
「ぁ…ぉ…あァ…!!」
<シ…シン…!?>
ーーーそもそも…まだ敵は生きている。
拳を突き立てろ、何も考えるな。
ーーー俺は。
まだ、戦えーーー
「起き上がると思っていたよシンンンンッッ!!!」
「がッ…!?」
<シンッ!!>
子鹿のように全身が震わせながらも立ち上がるシンを再び地に沈めたのは、他ならぬ
芋虫のように這いずる彼の頭を踏み付け、彼女は言う。
「お前が吹き飛ばしてくれたお陰で随分と回復出来た…油断はしないぞシンん…!私の電力も危うくなってきた…それにお前は隙を与えると何を仕出かすか分からないからなぁ…!!」
「…づぅ…ぉ…!!」
<シンッ!!こうなったら俺が無理矢理体を動かす!パフォーマンスは格段に落ちるが逃げるぐらいなら楽勝だ!!>
ヴェノムが叫ぶが、シンはバチバチ帯電するエレクトロを一瞥して言う。
(逃げるなんて…らしくねぇな…ハッピーエンド主義者だとか…なんとかじゃ…なかったのか?)
<うるせぇッ!軽口叩いてる場合か!俺達は生きるか死ぬかの選択をしてるんだよ!!>
(そりゃありがてぇな…確かにもうはっきり目も…耳を使えねぇ…だが…逃げたら、アイツに…依姫に、なんて顔…すれば良い…?)
<…>
沈痛な声色を感じ取ったヴェノムは、まるで歯軋りをするかのように黙りこくってしまった。
「お…れが…何とか…するから…俺…が…ぁ…!」
「クヒャヒャヒャ!!その身体でかぁ!?その夢ぇ!!叩き切ってやるッ!!」
<…分かった…そんなに戦いたいならーーー>
天に掲げた華奢で蒼い腕の中に戦斧を創り出したエレクトロ。
スパークが炸裂し、戦斧を高々と振り上げるその様は、まるで処刑人のようであった。
ゆっくりと、エレクトロが五指の一本一本を握り締め、今まさにそれが振り下ろされたその時。
ーーーシンの体が、ドクンと脈動した。
「"俺達"で行くぞッ!!」
「ヒャッ!?」
青白い身体から黒い泥のようなものが溢れ出し、血の気が無い顔を凶悪なマスクが覆い隠し、ベロリと長い舌が舌舐めずりをする。
そして頭部に迫る戦斧を受け止め、電撃をものともせずに膝を着いて立ち上がった。
「なんだ?今度はソレか!?早着替えもいい所だなぁシン!!」
「ぐぅぉお…!!あちィ…!!」
「おいバカヴェノム!!引っ込めッ!!お前じゃこの熱を突破出来ねェだろうが!!!」
しかし電撃を防げても、シンの言った通り、戦斧から溢れ出る紫電が電熱を生み出し、シン達の剛腕を赤熱化させ、煙を燻らしている。
力自体は上回っていても、肝心な所で押し切れない攻防。
ただピンチを先送りにしただけであった。
「ぐぅぅううう!!!」
「おい!おい!!聞けよヴェノムッ!!」
「っ嫌だ!!」
「はぁっ!?」
徐々に、徐々に掌に戦斧が食い込み始め、シン達に激痛を与えて行く。
火花が散り、溶け始めて行くヴェノムの体。
シンには見ていられなかった。
「お前!!死にてぇのか!?」
「こっちが聞きたいシン!何度も何度も死にかけやがって!!見てられない!!」
「じゃあお前だけでも逃げろよ!!!馬鹿野郎が!!」
「馬鹿はそっちだ!!」
側から見れば一人漫才。
そんなシン達を見て、エレクトロは腕に力を込め、嘲るように言った。
「お前はやはり二重人格だったのか?だとしてもその形態が熱に弱いことは知っているぞぉ?ほら、力を込めばズプズプ食い込んで行く…!」
「言ってろエレクトロ…!!…クソが…!こうなったらヴェノム…!!一蓮托生だ…ッ!!」
「おぉ!!なんて言ったって俺達はーーー」
シンの意識とヴェノムの意識。
互いにシンクロし、協調し、適合した身体は、瀕死にも関わらず爆発的な圧を滲み出していた。
「「ヴェノムだッ!!」」
「ぉお…ッ!?」
宣誓に似た咆哮を全身に受けたエレクトロは一瞬、ほんの一瞬だけたじろぎ、嫌な予感を感じたが、戦斧に込める力を強めることでシンを確実に葬ろうと画策した。
ーーーが。
「これ以上耳も傾ける必要もないなぁッ!?さよなーーーごっ」
「っ!?」
それは唐突で、今まであった緊張感を全て無に返すかのような静寂をもたらした。
エレクトロの紡がれる言葉は異音に掻き消され、身体が弓形にビクンと振動している。
エレクトロに起きた異変を確かめようと、シン達がぼやける視界で彼女の顔を確認するとーーー
「ぉ…あ…!?」
弓矢。
エレクトロの顔面を、弓矢が貫通しているのだ。
手からこぼれ落ちた戦斧がガランと音を立てて落下し、自身の頭に弓矢が突き刺さっているという事実を受け入れられないのか、顔を抑え、何度もペタペタと弓矢を触っている。
シン達はその光景を呆然と眺めていた。
「…は?」
ーーー何が起こった?
弓矢、援護射撃、誰が。
ぐるぐると頭の中を逡巡する思いは、やがて一つの思考へと終結した。
ーーーチャンスだ。
「ーーーッ!!!」
唐突に訪れたチャンス。
懐に潜り込むように駆け出された足。
エレクトロのよろめく身体。
極限状態だからか、その全てが、世界がスローモーションに見えた。
拳がギリギリと音を立て、振り抜かれんとした正にその時。
鶴の一声の如く、鮮明に、一言一句はっきりと、声が聞こえた。
「上に飛んで下さいッ!!!」
声のした方向に体を向ける事はしない。
分かるからだ、声の主が。
———
傷は?本物か?生きている?幻?
上に飛べ?いや———
(止まんね———)
依然世界はゆっくりと流れていた。
事を理解し、蒼白な顔を更に青ざめるエレクトロ。
空間を漂う微細な雷電。
止まらない拳。
依姫が言っている、飛べと。
———無理だ。
頭がもう働かない。
軌道修正すら出来ない。
どうする…どうすれば。
「大丈夫だ!俺がやってやる!!」
「ッ!!サンキュ…!!」
ヴェノムが叫ぶと同時に筋繊維がたっぷり詰まった胸から触腕が飛び出し、地面を叩くようにして自身の体を吹き飛ばした。
視界かぐるぐると回るが、その最中、シン達の身体を強烈な熱波が駆け抜ける。
「ッづぅ!?」
「良しっ!!行っけぇ!!!」
「繧ー繧ゥ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ!!!!」
「ギャッ!ぁッ!あぎゃァアアアッ!?!?」
辛うじて目に入ったのは禍々しい竜のようにエレクトロを飲み込んだ炎と不明瞭な雄叫び。
シンにはそれが酷く恐ろしいモノに見えた。
人類が初めて炎を発見した時のような、言いようもない悍ましさ。
熱波が駆け抜けた事から、周りに影響しない軻遇突智の炎とは別物で、かつ更に強い炎だろう。
…エレクトロが炎の中で踊っている。
ここまで強力な力、代償が無いわけではあるまい。
空中に舞うシンの体もいよいよ落下を始め、眼下の炎に身を落とそうとしていた。
しかし———
「ッ…落ちる…身体も動かねぇ…」
「クッ…熱すぎる…ウェブも満足に出せん…!」
ヴェノムを纏った身体も限界。
シン達はマトモな身動きも出来ずに落下していった。
そんな彼らに向けて閃光の如く飛び出る影が一つ。
「シンさんッ!!」
紫のポニーテールを棚引かせ、華奢な腕でシン達の黒腕を引いて、暗い夜に二つの人影が駆けていく。
シンの朧げな瞳に映ったのは、やはりと言うべきか、依姫だった。
それも力強い眼差しをした、彼女。
「…ッ」
二メートル近い巨躯を腕一本で引き、シン達を背負いながら炎の無い地面へ着地した彼女。
彼らを優しく降ろし、暴れる炎龍をバックにし、オレンジ色にかがやく彼女は申し訳なさそうに言った。
「本当に…本当に遅くなりました…!」
「へ…へへ…たす…たすかった…」
その姿はシンにとって、一つの光明で、眩しすぎる物だった。
ご拝読、ありがとうございますなのぜ…!
いやー…申し訳ない…二ヶ月も空いてしまったのぜ…
これもそれも全てテストが悪いのぜ。
悪いったら悪いのぜ。
兎に角何とかして一ヶ月毎に投稿できるように頑張るのぜ!奴隷が!
登場人物紹介っている?
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やってくれ 必要だろ(いる)
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それは雑魚の思考だ(いらない)