東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ユックリ!


第四十四話 計画名:月隠れ

<おはようシン!朝だ!>

「…う、ん〜…なんだヴェノ———ッ!?」

「すー…すー…」

 

 シンの脳内で流れる大音量。

 疲労の溜まっていた彼を起こすのには不充分であったが…

 

 目の前の光景は彼の意識を覚醒させるのに充分であった。

 

「…っ…!そうだ…そうだそうだ…!ヴェノムてめぇ…!許さんぞ…」

<俺からのサプライズ!気絶する程嬉しかっただろ?>

「ああ〜…文字通り気絶したよクソッタレ」

 

 目の前に依姫の顔。

 密着した身体。

 甘い匂い。

 

 シンはこんな光景を作り出したヴェノムに小声で悪口を言った。

 そして依姫を起こさないようにゆっくりと、針に穴を通すように絡みついた身体を解いていく。

 

 依姫を起こさなければ昨日の事は無かった事にできるかも知れないからだ。

 億にもその可能性は無いだろうが、賭けないとシンの精神によろしくない。

 

 一秒に一ミリずつ。

 亀より遅く、時計の秒針よりももっと遅く。

 問題は握られたまま離せない手のひらだ。

 

「動くよな…?ヴェノム…」

<俺はもう何もしてない、ん?文句はあるか?>

「…無いが」

<ふふふ…ああ、俺は何もしていない…>

 

 もう拘束してないらしいが…手は離れない。

 シンが握ろうとしていないのに手が離れないと言う事は———

 

<つまり依姫がどうしようが俺に関係はないって事だ>

 

 依姫が握り返しているわけだ。

 

「…はぁ〜…面倒くせぇ〜…」

 

 依姫が絶対に起きないという保証があるならこのまま寝顔を鑑賞していても良いのだが、生憎そんな保証は何処にもない。

 取り敢えず今の時刻は…

 

「…十時、か…思ったより長く寝たな」

<今日は仕事もない筈だ、学生のように惰眠を謳歌しよう、しないならチョコレート>

「どの口がほざくんだよ…」

 

 チョコレートがやけに強調されている、と言うか最近のヴェノムはチョコチョコばかり言っている。

 それほどチョコを与える期間が空いたと言う事も事実だが…

 

「お前のイタズラが無けりゃあそうしていたってのによぉ…」

<そ、そうか…>

「…!」

 

 ヴェノムの、このしょんぼりとした声が脳内に走る。

 

 その時,シンに電流走る。

 チョコレート、これは利用出来る、と。

 

「本当さ、前言った全財産分ものチョコってのもあながち考えていなかった訳じゃあ無いんだぜ?」

<そうだったのか…>

「まぁ、仕方ねぇよな…依姫が起きちまえばそれどころじゃなくなる」

 

 シンの脳内のあらゆる方程式がヴェノムを欺く文章を算出し続ける。

 戦闘をするかのように脳内コンピューターはフル稼働を続け、様々な予測を立てては改良していった。

 

 シンは今、叡智に手を掛けている。

 ヴェノムを完全に欺いたその時、シンは自分がより高次元な存在になれるような気がしていた。

 

「妖怪を食うってのもあるが…あれは少し面倒臭いし当たり外れがあるしなぁ…あの黒団子みたいなジョーカーがあるかも知れねぇし…」

<確かにあれは不味かった>

「だがチョコの方が金は食うが量を買えるからな」

<む、むぅ…>

 

 ヴェノムの期待の色が強くなった。

 いいぞ、今なら大統領相手にも百万ドルぼったくれる自信がある。

 

「多分、今日ならセールスがやっていた筈だ…10%オフだったか?いつもより沢山食えるんだ」

<そうか…!>

「それにな、ここだけの情報だ…チョコが買えるスーパーは、まとめ買いで価格が安くなるんだ…十個ずつで一割引き、最大三割引きだ…つまり二百円のチョコ三十個なら合計六千円だが、この割引と10%オフで三千六百円だ…余った金で更にチョコが買える…通称まとめ割引って言うそうだ、信頼できる筋からの情報だぞ…!」

<ほう…>

 

 あと一押しだ。

 シンはゆっくりと囁く。

 

「だがな…ヴェノム」

<…なんだシン、勿体ぶらずに言え!>

「このまとめ割引、今日の午前丁度で終わる…!!あと数十分しかないんだ…!!」

<よし!仕方ないな!チョコのためだ!!>

 

 即答。

 勝った。

 

 シンは今、神になった。

 いやそれ以上の全能感。

 

(ここまで事が簡単に進むとは…ククク…フハハ……アーハッハッハッ!!)

 

 最早心内で魔王の様な高笑いが出来る。

 この世の全てを超越した悦びに浸っていると、シンの身体からヴェノムの触手が数本飛び出し、依姫のガッチリ掴んだ手のひらに向かっていく。

 

 あまり他人に見せてはいないが、実はヴェノムは手先が良い。

 ほんの一瞬で裁縫が完了するほどであり、絵を描かせれば数秒で芸術的な風景画が完成し、パソコンを触らせれば文字数は瞬く間に一万を超える。

 もしかしたらハッキングなんて事も朝飯前かも知れない。

 

 さて、そんなヴェノムが作業に取り掛かれば…

 

<よ〜し出来た!さっさと行くぞチョコレート!!>

「よし、よしよしよし…!よくやったヴェノム!!約束通りチョコをありったけ買ってやる!!」

<イェーイ!!>

 

 一瞬で問題が解決すると言う事だ。

 

 …さて、最後に、だ。

 依姫を起こすべきか否かを考える必要がある。

 何せこの部屋は、一応シン達の部屋、と言う扱いだ。

 

 男部屋に寝かせるのは如何なものだろうか。

 

<早く、早く!>

「わかったわかった」

 

 だが、生憎ヴェノムがシンを急かしている。

 それに依姫もゆっくりと寝る必要があるだろう。

 

 決めた、依姫は起こさない。

 

 そうと決まれば置き手紙でも書き置いておけばいいだろう。

 

「ああ、それと…」

 

 思い出したようにシンは机の上に寂しく佇んでいる小瓶を手に取る。

 粉状の何かが入ったそれは、永琳がヴェノムの弱点を無くそうとして失敗した、仮に呼ぶなら同化薬である。

 

 ヴェノムと永久に離れられなくなったり、アメーバと合体する為自分の身体がスライムのように変形したりする可能性があるため今まで決断を保留にしていた。

 ただこの薬を何かの間違いで依姫に飲まれたらシャレにならない。

 

 未知の生物、シンビオート用に作られた薬品だ。

 常人が飲んだら身体が爆発四散してもおかしく無い。

 

 そう言った理由からシンはポケットにこの薬を突っ込み、ヴェノムに促されるまま部屋を出た。

 

◆◆

 

こんなの初めてだ…ありがとう、ハグしてやる

「ソイツはどうも、全財産の代償がハグとは最高だね」

 

 パンパンのビニール袋を何十個と肩に掛けるシンと、ビニール袋を一つだけ口で持つヴェノム。

 キロ単位のそれを軽々と持ち運ぶ彼は、自分の部屋へと繋がる廊下を歩いていた。

 

 ヴェノムの瞳がキラキラ子供の様に輝いている。

 こんな子供っぽいところは初めて見たかも知れない。

 

食べてもいい?

「全部は駄目だぞ」

一個だけ

「じゃあいいが…どうやって食うんだよ」

 

 シンは結果的に全財産と引き換えにスーパーのチョコレートをありったけ買い占めた。

 店員が山となったチョコレートと十を超える万札を交互に見つめていたのは傑作だった。

 

こうする

 

 ヴェノムは肩から触手状に長い頭を生やしている。

 そこからヴェノムはニ本の腕を生やすと、器用に袋を持ち替え、チョコレートを取り出した。

 

 古き良き板チョコである。

 

(…なんか、ウナギ…いや、トカゲ…?それともオオサンショウウオ…?そんな感じだな)

「おいこら、ゴミは捨てるな」

 

 ヴェノムがビリビリと包装を破くのを見る傍ら、シンはヴェノムの姿に意識をやっていたが、ぽいと捨てられた塵紙を見るや否や、片手でキャッチしてヴェノムに注意した。

 

 しかしヴェノムは聞いていない。

 もっちゃもっちゃチョコを食べている。

 猫撫で声のオマケ付きだ。

 

「…はぁ…さて、依姫は寝てるかね…チョコレートでも分けてやろ———」

駄目だ!これは全部俺の!!

「あぁ〜…悪かったよ、お前のために買ったんだからな」

 

 あれから十分以上は経っている。

 恐らく起きてはいないだろうが、と、心配も込めて口に漏らすシンだったが、ヴェノムに怒られてしまった。

 

 流石にヴェノムの前では失言だった様だ。

 

「ま、今のは間違いってことにしといてくれ」

「ほう、じゃあ貴様の部屋に依姫が寝ているのも間違いか?」

「あれはアクシデントだ、偶然の…」

 

 突如背筋に走る戦慄。

 

 今のは、ヴェノムじゃ、ない。

 聞き覚えのある声だ。

 

 嗄れ始めた老人の様で、その実、力強い若さも備えている。

 聞き覚えのありすぎる声だ。

 

 誰か、それはもう分かっていたが、希望も込めて、シンは振り返って確認する事にした。

 

「ぐ、偶然…なん、だ」

「ほう…そうか…それが遺言か」

「おごごごご…ッ!!」

 

 シンは錆びついたブリキ人形の如く振り返るが、顔を見る寸前で視界いっぱいの暗闇が広がった。

 それは、手のひら。

 

 瞬間万力の様に顔面を締め付けるアイアンクロー。

 怒りの籠った声と同時に顔面がミシミシ音を鳴らす。

 

「あが…っ!」

俺のチョコ!!

「わが娘と寝たのだ、それ相応の罰は受けてもらおう…!!」

「ま、待て…っ!!やましい事は一切…ッ!!」

 

 シンの足先が段々地面から離れていく、それほど目の前の男、玄楽が力を込めていると言う事だ。

 激痛に彼は大量のチョコの入った袋を落としてしまったが、ヴェノムがそれを受け止める。

 

 ヴェノムには相方のピンチなんて気にも留めない。

 頭の中はチョコでいっぱいの様だ。

 

(ヴェノム…お前が引き起こした事態だろうがぁ…!)

「冗談を言え、あんな抱き合った状態で弄りあってないだと?驚いたぞ、看病してやれと言っただけであそこまでハッテンするとは」

「ち…違う…!ヴェノムの悪戯で…ああなっただけだ…し、信じてくれ…!!」

「ふ、む…」

 

 シンはジタバタと蠢き、玄楽の腕を掴んで抵抗する、が、巨木を相手にしているかの様に動かない。

 シンはマトモに玄楽と相手をした事が無い…と言うか稽古も殆ど受けていない。

 剣の使い方や身体の動かし方を教えたのは依姫だ。

 

 しかし、否が応でも理解させられた。

 強い、と。

 

 拳越しに理解出来る圧倒的な経験と自力。

 ヴェノムを纏えればフィジカルでゴリ押し出来るかも知れないが、ヴェノムが居ない生の状態では勝ち目が無いだろう。

 

「…」

 

 シンの視線の先の玄楽は、暫しの間モアイ像の様な顔と冷たい雰囲気を張り付かせていたが、小さく息を吐くと、拳の力を緩めた。

 

「ぐ…」

 

 唐突に拘束が終わったからか、シンは受け身も取れずに地面に崩れ落ちた。

 ヴェノムは未だにキャッキャとはしゃいでいる。

 

 恐らくだが、玄楽は何処かのタイミングで依姫と寝るシンの姿を見たのだろう。

 何故見つけた段階でシンを引っ剥がさなかったのかは疑問が残るが、それはどうでもいい。

 

「まぁ…いい、信じよう…真偽は依姫に聞く…それより吾はお前に伝えたい事があるのだ」

「…そう、か、良かった」

見ろシン!これって当たりじゃないか!?

「…頼むヴェノム、全部食っていいから静かにしてくれ」

 

 玄楽の返答に僅かながら安堵したシンだったが、視界にヴェノムが割り込み、歓喜の声を上げて包装された紙をシンに見せ付けた。

 そこには、大きく"アタリ"と、描かれている。

 アイス、ガリガリ君と同じ様なシステムなんだろうか。

 

 会話に水を差す形となってしまったが、それだけヴェノムにとって嬉しかったんだろう。

 

 シンが困った様に注意すると、ヴェノムは目を輝かせてチョコの山に頭を突っ込んだ。

 

 その光景は玄楽も見ていたはずだが、まるで何事もなかった様に話し始める。

 恐るべき胆力だ。

 

「伝えたい事とはな…単刀直入に言えば、アースは死んだ」

「…そうか…やっぱりな…いや、知ってたさ…墓が立ってたからな」

「…だがあやつは無駄死にではない…幼子を守って殉職した、そしてその幼子は保護されている」

「それは良かったな」

 

 …思ったより、哀情や悲哀の感情は湧かない。

 寝耳に水と言う言葉がピッタリだからか、どこか他人事の様に思えてしまう。

 

 それとも、あの夜、アースとエレクトロの墓を見つけた時に、悲しみの感情が出尽くしたからかも知れない。

 

 いずれにせよ、シンは玄楽の言葉に無表情で応えた。

 玄楽はそんなシンの表情を一瞥し、言葉を続ける。

 

「そして、もう一つ…これが本題だが…」

「…」

 

 玄楽は少し、言い淀む。

 しかしそれも鄒俊の事で、直ぐに話を再開した。

 

「この都市は…いや、この都市の人々は()()()()する事が上層部、ひいては月読命様の中で決定した…永琳殿から拝聴した」

「…何?」

 

 言葉を疑った。

 そんな事が出来るのか、と。

 

「分からなかったか?もう一度言おうか?」

「いや分かる、分かるが…月だと?今、月に移住するって言ったのか?…いや、悪かねぇし、可能な話かも知れないが…なんで急にその話が出た?」

 

 衝撃、その言葉がピッタリだった。

 確かにこの都市の技術なら月直通のスペースシャトルを作る事ぐらい容易ではあるだろうが、それにしたって脈拍が無さすぎる。

 

「永琳殿の話によると、だ…昨日、妖怪が出現しただろう?永琳殿曰く、アレはエレクトロ出現による人々の畏れが許容量を超えたかららしいのだ…畏れは穢れ…死にたくない、生きたいと言う感情からまろびでる穢れは最早、月読命様には対処出来ないらしい、そこで、穢れの存在しない所を彼らは探した…その理想郷が、この天の上と言うわけだ」

「よく分からんが、永琳から教えてもらったのか…確かに、アイツは医療やらのトップらしいからな…それで?そのニュースにもなってない重要事項を俺に教えた理由はなんだ?」

 

 玄楽が知っているのは軍の重鎮だったからと言う理由でカタが付く。

 しかし、この事実をただの軍人の一人であるシンに伝えるのは、違和感があった。

 

 シンの見立てでは、そこに最も重要な情報があると睨んでいる。

 

「察しがいいな、この計画は一ヶ月後に発表され、そしてその半年後に実行される…しかし、今や妖怪への畏れは止まらない、怖気は伝播していく…やがて、それは爆発する」

「つまり?」

「まずこの計画を実施する為には時間が必要だ、だが時間を掛ければ掛けるほど不安の爆発は大きくなる…そして、その爆発が最も起きる確率が高い日が、計画実施の日…ロケットを月に向けて飛ばす瞬間だ」

「…」

 

 段々、話が見えてきた。

 要約すれば、時間を掛ければ掛けるほど、そのロケットを飛ばす日に起きる穢れの爆発、ないしは妖怪の大量発生に拍車を掛かる。

 なぜロケットの日に穢れが爆発するかについては、見当が付く。

 

 人と言うのは決断の時こそ最も不安と迷いが生じる生き物だ。

 月ではどんな生活をすれば良いか、怯えなくてもいいのだろうか、そもそもロケットが墜落してしまわないだろうか。

 

 エレクトロが都市に侵入しただけでも月読命の許容量を超える穢れが出たのだ、今回の事例では一体どうなってしまうのだろうか。

 

 そして何より、大量発生した妖怪は都市に現れるか、外で発生して都市に押し寄せるだろう。

 ロケットが破壊されれば元も子もない。

 

 つまり玄楽の言いたい事は———-

 

「理解した、俺にロケットを守れ、と言う事だな?」

「そうだ、正確には軍に、だが…ロケットを守りながら戦えるのは軍の精鋭しかいない…中でもお前は最強格だ、大妖怪エレクトロを依姫と共に討った、だからこそこの計画を知らされたのだろう」

「…俺が了承するとして、どうやってロケットに乗り込めば良いんだ?まさか玉砕覚悟で突っ込めと?」

「そんなわけが無いだろう、ロケットは四機、順に軍の上層部や都市の中枢部、次に若い男や女子供、そして吾の様な老人、最後に戦い抜いた軍人が乗るロケットだ…お前が乗るのは最後のロケット、人数が少ないから機体も小さく発射も早い、どうにか妖怪を一掃した後、乗り込む…博打に近いがな」

 

 博打、そう、これは博打だ。

 妖怪が多すぎれば…それこそ百鬼夜行の如く押し寄せられたら一掃なんて事は夢のまた夢。

 

 もしかしたら依姫の様な範囲攻撃持ちの能力者なら一気に葬れるかも知れないが、ロケットの発射に間に合うか怪しい。

 誰かが殿を務める、つまりロケットに乗らずに妖怪の相手だけをするなら確実に行けるかも知れないが…

 

「かなりキツイな」

「だが、対策をすればするほど、時間を掛ければ掛けるほど妖怪の質も量も強くなるのは確かだ…それに、個人的に、一抹の不安もある」

「まぁ取り敢えず…戦局を大まかに考えるなら…常時多数vs一人…ってところか?」

 

 シンはヴェノムを纏い、妖怪を蹂躙していく様を瞼の裏に見た。

 身体を喰らい、血を浴びて、暴れ回る。

 多勢に無勢かも知れない、数の暴力に飲み込まれ、押し潰されてしまうかも知れない。

 中には大妖怪クラスもいるかも知れない。

 

 だが、どうしようもなく()()()()()

 

「ク…ククク」

 

 シンは玄楽にバレない程度の声量でクツクツ笑う。

 思えば、いつも1on1の殺し合いしかしていない。

 

 攻撃を避け損なえばその時点でピンチ。

 瞬間、防御は崩れる様に瓦解する。

 

 通常よりも気配察知も、空間認識能力も何倍にも尖らせる、正真正銘の乱戦。

 まるで甘美な試練だ。

 

「言うべき所はこれくらいか、そうだな…最後にだ」

 

 シンを背にして立ち去ろうとする玄楽の声が彼を現実に引き戻す。

 

「暫くは壁外の調査も中止だ、不安の軽減のためのパレードや都市に妖怪が現れた際の迅速な対処が今後の仕事になるらしい」

「へぇ…外に行くのは禁止か?」

「禁止というわけでは無い、その仕事が無くなるだけだ…行くなら死ぬな、来るべき日に向けて刃を研げ」

「そりゃ良かった、俺は強くならなきゃいけないからな」

「…」

 

 玄楽は静かにシンを一瞥すると、すぐに歩き出し、煙を撒いたかの様に消えてしまった。

 玄楽の能力、と考えるのが自然だ。

 

 彼の能力は聞かされていないし、大体予測も着くためこちらから聞いた事はない。

 恐らくテレポート系の能力だろう。

 

 そう考えれば、豊姫も遺伝的に同じ様な能力だろうか?

 いや、依姫の能力は神降し、一見繋がりは無い。

 

なぁシン

 

 テレポートと神降し…もしや能力は遺伝しない?

 彼女の馬鹿げたほど強力な能力を考えるに、その可能性は大いにある。

 

シンって

 

 それを考慮すれば…いや、さっぱり分からない。

 大体見たこともない能力の考察なんて事をするのが間違っているのだ。

 

 無いとは思うが、そもそも能力を持っていない可能性もある。

 

聞けシン!

「いってぇ!?なんだヴェノム!?考え事してんだよこっちは!」

 

 考えを巡らせ、思案に耽っていたシンであったが、何度も呼び掛けに応じない事にヴェノムは腹を立て、シンに頭突きした。

 ゴスンと重たい音が響き、シンは頭をさすりながらヴェノムの方を見る。

 

「…!?」

チョコがもう無い

 

 まず目に入ったのは適当に破り捨てられた包装紙の山。

 次に視界を主張したのはシンの顔を覗き込むヴェノム。

 

 頬や牙の隙間に黒茶の斑点が見られ、甘ったるい匂いがする。

 チョコの暴食をした証明だ。

 

 さしものシンのこの結果には驚いた。

 まさか百以上はあったチョコレートを物の数分で平らげてしまうなんて。

 

アタリだ、もっかいあのスーパーまで行こう

「いやいやいや…お前、キロ単位だったぞあれは…それに依姫も待たせてるかも知れないんだ、部屋だけ行かせてくれ」

いいだろう…俺は今凄く気分が良い

「その聞き分けの良さをいつも発揮してくれよ」

 

 数枚のアタリと書かれた包装をシンに差し出したヴェノム。

 文字の一部が欠損しているほどボロボロだが、辛うじてアタリと読める。

 

 スーパーに行けば交換してもらえるかも知れないが、シンはそれよりも依姫の様子が見たかった。

 ダメ元でヴェノムに尋ねたが、意外な事に帰ってきたのは好調な返事。

 

 チョコでヴェノムが手懐けられるのはこの上なく便利であった。

 

「ほら、ゴミを片付けるぞ」

面倒臭い、暇な使用人にでもやらせておけ!

「スーパー行ってやんねぇぞ」

悪かった!すぐ終わらせる!!

 

 流石チョコの誘惑。

 ヴェノムはやはりチョロい。

 

「さてと、起きてると良いんだが」

 

 そうシンが呟く間にも、ヴェノムによってどんどんゴミがビニール袋の中に吸い込まれていく。

 ゴミの山が目に見えて崩れていくのは、見ていて爽快だった。

 

よし終わった!すぐに行こう!今すぐだ!!

 

 やがてヴェノムがゴミ掃除を終えると、巨大なビニールのゴミ袋を抱えてシンを催促した。

 まるで真っ黒なサンタだ。

 プレゼントの中身はチョコのゴミだが。

 

「焦るなよ」

焦らずにいられん!チョコはすぐ逃げるぞ!

「どこの世界のチョコだそれは」

 

 ヴェノムは一体何を言っているんだ。

 どうやらシンの相方はチョコに脳が破壊されたらしい。




ご拝読、ありがとうございますなのぜ。

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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