東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくりしていくよ!ゆゆ!


第五話 敗北の味

 シン達は地図を頼りに、広大な都市を彷徨い歩くように道場を探した。

 途中、周りの人々から見掛けない姿だろうからなのか、奇異の視線で見られ、ヒソヒソと話をされた。

 鬱陶しいことこの上無いが、問題を起こすことは論外なので無視して進む。

 

「これが道場…か…?」

<随分な大きさだな>

 

 そして、道場に到着したが、その大きさに驚愕した。

 大きめの道場を想像していたが、その五倍ほどの大きさであり、道場と言うより豪邸と言われたほうが納得できるほどだ。

 

 門の表札には、綿月(わたつき)、と刻まれており、その古めかしさからかなり古い家柄だろうと思った。

 永琳が連絡をしている筈なので、そのまま敷地へお邪魔した。

 門から玄関までも距離があり、チラリと横を見ると、手入れの行き届いた見事な松の木、存在感を放つ大岩、凹凸のない平らな地面と、それはそれは見事な庭園であった。

 

「良い庭だろう?」

 

 不意に声が響く。

 音も無くいつの間にか目の前に、髪を逆立たせ、目に十字傷を負った男が立っていた。

 突然と姿を現した男に、シン達は警戒を顕にする。

 

「そんなに警戒し無くても良い、我は綿月玄楽(わたつきのげんらく)、八意殿から話は聞いている…まずは上がれい」

「あ、ああそうか…俺はシン、こっちがヴェノムだ」

よろしくだ

「知っているさ」

 

 簡単な自己紹介を済ませ、目の前の人物を見る。

 綿月玄楽…この道場の主だろうか、彼は身を翻し玄関へ向かい、扉を開ける。

 シン達も彼の後を歩き、家?へ入る。 

 玄関も質素で細かながらも装飾が施されており、思わず見入ってしまった。

 しかし正面に扉、右に通路、左に通路、まるでどこへ行けばいいかまるで分からない。

 しかし、正面から何かを打ち合うような音が漏れている。

 

「右手はお前や門下生の住居だ、正面が道場、お前がこれから修行を積むところだ、そして左手、あっちは綿月家の家となる場所だ、滅多なことでは入るな、いいか?」

「ああ、大体分かった、しかし、道場では何をしているんだ?何か音が聞こえるが…?」

「む…それは扉を開けて確認するといい、見学が済んだら我のところに来い、我は左通路の扉を開けて真っ直ぐの部屋にいる」

「了解した」

 

 玄楽はスタスタと歩いて行ってしまい、シン達は玄関に一人取り残された。

 一人になり、急に緊張して来たシンは深呼吸をし、扉に手を掛ける。

 

 扉を開けると、竹刀を振る門下生が目に入り、休憩している者がこちらを驚いた目で見た。

 暫く熱気に包まれた人々、そして竹刀を振る姿を見ていると、門下生の一人が言った。

 

「終了!休憩して!休憩している人は組み手!!」

 

 言葉を聞いた門下生はテキパキと動き、竹刀で組み手を始める。

 シンはその中の一人、ポニーテールの薄紫色の髪をした少女の剣舞に魅入っていた。

 遠目から見ても洗練された動き、力強い一振りによって組み手の相手は瞬く間に一本を取られていた。

 

 その後も交代した門下生の組み手を見て、満足したのかシン達はその場を後にする。

 そのとき、誰かに呼び止められた。

 

「待って下さい、先程こちらを見ていましたよね、見ない顔ですが、何をしに来たのですか?」

 

 さっきの薄紫色の髪の少女であり、紫がかった真紅の瞳でシンを見据えて言った。

 毅然とした態度であり、殺気立っているようにも感じる。

 

 嫌な予感を感じながらも、シンは応対した。

 

「あぁ?俺は軍に入るためにここへ来た、これで十分か?」

「嘘ですね、もう入隊期間は終わっています、吐くならもっとマシな嘘を吐くんですね」

<ダメだこいつ…話を聞かねぇタイプだ >

(永琳が確かコネで入らせるとか言ってたっけなぁ…そのせいで変な勘違いされてやがる)

 

 キリッとした目で少女は言う。

 確かに入隊期間は終わったという話だが…

 シンは嘘ではないと証明するために永琳の名を出す。

 

「永琳が入れるようにしてくれたんだよ!」

「なっ!?師匠の名を騙るのですか!?巫山戯ないで下さい!いいですか!?二度とこの道場に近づかないで下さい!!」

「だーッもうッ!嘘じゃねぇよ馬鹿野郎!!」

 

 あまりの話の聞かなさについ怒り出してしまう。

 すると、少女は驚くべき提案をした。

 

「あくまでもそう言い通すのですね!?分かりました!私と勝負しなさいッ!!私が勝ったら出て行きなさい!!」

「ッ望むところだ!強情女ァ!!」

< ブッ殺してやるッ!! >

「いいでしょう!ついて来なさい!」

 

 シン達は激昂し、提案を受け入れた。

 そこでヒートアップする訳にはいかなかったが、最早後の祭り。

 吐き出した唾は飲み込めないのだ。

 

 周りの門下生も騒ぎ出し、事態が大きくなる。

 

 練習をしていた門下生も外野へ移動し、二人は道場の中心へ移動した。

 二人は睨み合い、外野の門下生達は、誰だアイツ、アレとやるのか、と騒ぎ立てる。

 目の前の女の心配もせず、自分はまるで関係無いと騒ぐ聴衆に、シンは苛立ちながら言う。

 

「ルールは?」

「私は木刀だけでいいでしょう、能力は使いません、貴方は何をしてもいいですよ、それなら、貴方だって素直に敗北を認めるでしょう」

「舐めやがって…ッ!」

<本気で行くぞ…ッ! >

 

 あまりの見下した言いように怒りのボルテージが最高潮に上がる。

 ヴェノムもやる気は十分であり、生身の状態では無く、ヴェノムを纏った形態で相手をすることを決意した。

 

「このコインを投げて、地面に落ちた瞬間を試合開始としましょう」

 

 少女は懐からコインを持ち出し、人差し指に乗せる

 そしてピン、と弾き、コインが高い天井を舞う。

 外野が緊迫感に包まれ、静かになっていった。

 シンは意識を集中し、飛び込む構えを取る、少女も目の前の侵入者を討ち取ろうと、木刀を相手に向けて構える、いわゆる正眼の構えを取った。

 

 コインが地面間近に迫ったと所で、シンは足に力を込め、一息を吸う。

 コインが地面に触れ———

 

ウオォォ"ォ"オ"オ"オ!!!

 

 直後にシンはヴェノムを纏い、雄叫びを上げながら突進し、少女へ剛腕を振り下ろす。

 外野から悲鳴が飛び、妖怪だ!と叫ぶ者も現れる。

 

 当たった、反応のしない少女を見てシン達は密かに確信した。

 少女の顔よりも巨大な黒腕の影が少女を覆い尽くし———

 

 シン達の顎に一撃が入った。

 

…ッ…!?

 

 少女は冷静にその一撃を紙一重で避け、懐に潜り込み顎へ一撃を入れたのだ。

 一瞬視界が点滅したが、怯むこと無く少女を足で蹴り上げ…られなかった。

 

 少女は軽やかなステップで距離を取り、クイクイ、と、シンを煽る。

 この煽りを受けてシン達は理性を失い、四足歩行で少女を追い詰めた。

 

 いざ追い詰めて攻撃を加えようとしても、いなされ、避けられ、カウンター、そして距離を離す。

 しかも的確に急所を穿つように斬っていくので、シン達にダメージが蓄積していってしまっていた。

 外野はさらに騒がしくなり、勝利のムードが漂っている。

 

 シンは少女の認識を変え、さらに攻撃の速度を上げていく。

 だが、その全てが少女へ致命打を与えることは無かった。

 もはや力ずくで勝つのを諦め、勝つ手立てを探し、ある策を思い出す。

 

 それは手足の武器化である。

 以前妖怪を相手にしていた時のような戦斧では無く、意表を突き、相手の動きを止める方法…

 

 いい物があるではないか…ニヤリと口を裂き、再び突進する。

 

「芸がないですね…ご愁傷様です」

 

 少女は侮蔑を込めた一言を放ち、再度いなそうとする。

 しかし、殴り付ける直前に腕を八方向に裂き、ネットのように少女を覆い尽くそうとした。

 やったことがない上に武器でもなんでも無いが、体を変えられるなら出来て当然だろう、と一発で成功させることが出来た。

 その体制からならば、後ろに下がることも出来ない、腕ネットで左右に避けることも出来ない。

 少女は目を見開き、真紅の瞳を丸くさせる。

 

油断したなァ!!俺達の勝ちだ!!ご愁傷様ァ!!

 

 ヴェノムが言葉を放ち、勝利を確信したそのとき。

 

「いいえ、私の勝ちです」

 

 無慈悲な一言が()()から聞こえた。

 腕には既に少女の姿は無く、直後に後頭部に衝撃が走った。

 何故、と思う暇もなく視界が揺らぎ、膝から崩れ落ちる。

 

「貴方の策には驚きましたが、上に逃げることが出来ました…詰めを甘くしたことが、貴方の敗因です」

(嘘だろう?飛んだのか?この高さを!?)

(コイツ…天才か…!?)

 

 なんと、少女はネットが自身の周りを覆い尽くす前に唯一隙間のあった上に飛び、2mに届くシン達の体を飛び越えながら頭に一撃を入れたのである。

 そして度重なるダメージの蓄積により、体は限界を迎えた、と言うわけである。

 何という戦闘センス、何という判断能力、シンはこの天才に嫉妬した。

 

 しかし、そんなものは自身が負けることになぞ関係ない。

 体が限界ならばその先へ、激戦を()()()ためには限界を越えなければいけない。

 纏っていたヴェノムが剥がれ、体に戻ってしまったが関係ない。

 震える足を無理矢理立たせ、シンはファイティングポーズを取った。

 

「…まだすると言うのですか…!その体で…ッ!」

「関係無ぇな!そんなことッ!」

<止めろ!シン!それ以上は体が壊れるぞ!!>

(勝利のためなら!関係無ぇって言ってるだろうが!!)

 

 少女は初めて攻勢に出て、シンの頭を狙い、木刀を振り下ろした。

 シンは腕をクロスにして防御に出るが、あまりの重さに顔を歪めた。

 流石に生身では勝機は薄いと感じたのか、少女に背を向けて走り出す。

 その姿に嘲笑する人や失望した人が出る中、シンはひたすら外野目掛けて走った。

 

 止まらないシンの姿に慌て出した外野は急いでその場を離れ、シンは目的のものを手に入れた。

 

「それは…竹刀…?」

「はぁっ、はぁっ、何でもして良いんだろ?」

 

 先程、組手をしていた人が持っていた竹刀である。

 シンは少女と同じように正眼の構えで相手の攻撃を待った。

 何故なら、ここで切り掛かってもいなされるか避けられるかが関の山だからである。

 

 痺れを切らしたのか、少女が行動を起こした。

 シンはカウンターに出ようと構える。

 

(ッはや———)

 

 しかし、恐るべき速さで接近され、まともに連撃を受けてしまった。

 顔や体、足、と言ったように体全体を撫でるように木刀が走る。

 

 しかし、()()()()()

 少女は息も切らさず、嵐のような連撃は止まらないが、押されていた体はいつしか踏みとどまることが出来るようになり、全く見えなかったはずの剣筋は、朧ながらも捉えることが出来るようになっていた。

 

 剣撃に合わせて竹刀を打とうとするが、圧倒的な重さに押し潰され防御が意味を成さない。

 それでも竹刀を握る手は決して離さず、少女に鍔迫り合いを挑もうとした。

 

「何なのですか…!貴方は…ッ!これ以上は命も危ないですよ!!」

 

 少女はいつまでも自分に挑み続けるシンに、連撃を続けながら問う。

 愚問だ、答えは決まっている。

 

「テメェに!()()()()()()だ!!」

<…シン…ッ!>

「……ッッ!!!」

 

 少女は訳が分からないと言った表情で力を込めた一撃を振りかざす。

 シンは竹刀で、防御に出るが…

 

 バキン、音を立てて竹刀が叩き割られ、ヴェノムが避けろ!!と声を荒げるが、目の前の木刀を避けることは出来ず、木刀が頭を強打する。

 少女は続けて振り下ろした木刀を振り上げ、シンの鼻っ柱を持ち上げた。

 

 シンの体が宙を浮き、そして潰れたカエルのように地面に墜落する。

 

「ふぅ、ふぅ…これで…」

 

 少女は渾身の力を込めたため、息が切れてしまったが、流石にこれ以上は起き上がらないだろうと安堵し、背を向けた。

 

 その時である、外野の一人があっ、と声を漏らした。

 少女も身の毛がよだつ殺気を感じ、後ろを振り返ると…

 

 修羅の形相をしたシンと拳が目の前に迫っていた。

 周りの風景すらも歪む様な熱気を漂わせ。

 遥か彼方の領域に佇む人外の気配を纏わせる。

 

 その様は幽鬼。

 正に修羅の権化。

 

 慌てて防御しようと構えるが、間に合わないの察し、目を閉じてしまう。

 しかし、いつまで経っても顔を襲う衝撃が来ない。

 代わりに、ドシャッ、と倒れるような音が響いた。

 

 恐る恐る目を開くと、シンが拳を振ったまま倒れており、少女の勝利を表していた。

 

 静寂が、その場を支配する。

 ポツポツと、拍手と称賛が道場に響き、少女を讃える。

 まるでそこまで少女が勝つのが嬉しく無い様で。

 

 少女は喜ぶ気にもなれず、かと言って、悔しい気持ちでも無い、複雑な心境を味わっていた。

 

「…」

 

 とりあえずこの男性の肩を担ぎ、嬉しくも無い拍手と門下生の疑問の声の中、道場を出た。

 

 体が重いが、先ずはこの男性を寝かせる事が先決だろう。

 だがどこに寝かせれば良いだろうか。

 

 迷った挙句に、門下生の住居の空いているベッドに寝かせた。

 寝かせてから気づいたが、何故自分はこんなことしているのだろう、と疑問に思う少女。

 

 最初は負けたら出て行け、という約束事であったが、この男の死に物狂いで勝利を掴もうとする姿を見ていたら、そんな気は無くなっていた。

 暫くその場で考えていた少女だったが、部屋に男女二人きりという状況を自覚すると、途端に恥ずかしくなり、顔を赤らめながらその場を去った。

 そう言えば、彼に朝食は出るんだろうか…そんなことの思いながら、少女は道場に戻った。

 

◆◆

 

 シンは羊毛の柔らかさに眠気が襲われるが何とか耐え、目を覚ました。

 ふと部屋に目をやると、時計は七時を指しているようだった。

 

< やっと起きたか…別に心配はしてなかったがな… >

「おぉヴェノム…ああ、そうだ…負けたのか…」

 

 この世界で敗北したことがない故、強烈な悔しさを感じた。

 更にあれは試合、実践での真剣ならば、一撃目で終わっていただろう。

 ヴェノムも二人ならば敵無しと言っていただけにショックを受けているだろう。

 

「あの強情女…絶対打ち負かせてやる…ッ!!」

< その意気だ!!あの女に吠え面かかせてやるぞ!! >

 

 シン達は闘志を燃やし、打倒強情女を誓った。

 しかし、ここで腹の音が響く、昼も夜も食事をしていないからだ。

 

< とにかく飯を食わせろ!お前の肝臓が旨そうに見えてきたぞ…! >

「頼むから我慢してくれ…!…ん?」

 

 ふと視界の端に黒い何かが見えた。

 それは料理のようで、真っ黒焦げで何かは分からなかったが、添えられた紙には食べるように、と綺麗な文字で書かれている。

 一応そのままにしておくのも億劫なので、一思いにパクリと食べた。

 

 …炭の味だったが、腹の足しにはなったので良しとする。

 ふと、玄楽のことを思い出し、慌ててシン達は部屋を去った。




ご拝読、ありがとうなのぜ。
黒い物資は卵焼きらしいのぜ。うげ、げろまずぅ
それとヴェノムがシンの寝ている間に体を治していたのぜ、めっちゃ心配しながら治してたぜ。

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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