今回は衝撃がいっぱいですのぜ。
夏油スグリ君ぐらいシン君は心が荒れるのぜ、でも大丈夫。
シン君には苦しませるだけで、発狂なんてさせてあげないのぜ。
「あっあっ!あなっ!貴方!!やっ、やっと目覚めたのっ!?」
「あん?」
見知らぬ金髪少女の捲し立てる声が洞穴に木霊する。
一体何をそこまで早口で言う必要があるのだろうか。
ヴェノムを見て怯えているだけかも知れない。
シンはその様子に怪訝そうな声を上げ、しかし特に深く考えもせずに応えた。
「…あぁ、まぁ、そうだな…今、起きた」
「へ、へぇ…!」
「ヴェノム、一応戻っとけ」
「分かった、けど納得してないからな」
わざとらしく首をゴキリと鳴らしてやると、生返事が返ってくる。
少女に怯えさせない様、ヴェノムにも戻る様に指示すると、彼は悪態を吐きながらも身体の中に戻っていった。
しかしキスの事でこうも引き摺るとは、ヴェノムの新たな一面に驚きだ。
そしてシンは質問を投げ掛ける、しかし彼の抱く不信感ゆえに、敵意は隠さない。
少女はその敵意に怯えながらも、しどろもどろに話し出した。
「んで…あんたは誰だ…ここはどこで、何しに来た?」
「わ、私は
「…そうか」
彼は周囲を見渡し、散らかった部屋を一瞥して少々引きながらも、嘘は言っていないと断定した。
警戒を続ける彼に、少女、八雲紫は言う。
「貴方は…ずっと硬くて黒い石の様な状態で、私が家に置いておいたの…」
「…!ヴェノム…嘘は?」
<吐いてない、多分傷を癒す為の仮死状態の事だ>
「傷…か…お前仮死状態なんて出来たんだな」
<フフン>
ヴェノム、と言うよりシンビオートにそんな能力があったとは驚きだ。
いや、微生物だって仮死状態になれるのだ、万能な細胞を持つシンビオートなら意外と当たり前に出来るのかも知れない。
仮死状態になった理由は『角』の最後の一撃…恐らくだがアレが原因だろう。
兎も角生き残れたのは幸いだった。
この少女が生き残った俺達を拾ったのだとしたら、この少女には感謝しなければならないだろう。
仮死状態のシン達を知らなかったとはいえ、匿い、守ってくれた様なものだ。
そう考えるとさっきの態度は失礼だっただろうか、そう反省し、彼は謝罪した。
「悪かったな、紫…だったか、失礼な態度だった」
<謝れてエライぞ>
「いやっ…そんな…えへへ」
可愛らしく、にへへと笑う紫。
その姿が依姫と絡む時のカレンに似ていて、ずきりと心が痛んだ。
アイツが生きていたら、こんな風に笑ってたんだろうな、と。
話題を変えようと、シンは紫に世間話を持ちかける。
「俺は邪魔だっただろ?自己紹介が遅れたな、俺はシン、こっちがヴェノムだ」
「ハロー!俺達を助けてくれてありがとう!」
「わっ!これがあの…!」
「…なんだ?知ってんのか?」
突如、鎌首をもたげる
知らぬ間に心に巣食っていた大きな違和感が顕在し、背筋を冷やす。
何か、大きな何かを見落としている気がする。
「えぇ、ずっと、何年も…」
そうだ、この違和感は、この少女に会ってからずっと胸にへばりついていた。
既視感だけじゃない。
言葉の節々に異変を感じる。
注意しなければ分からない、矛盾のない様に見えて、食い違っている会話。
最初にこの少女は『やっと目覚めた』と言っていた。
つまりこの八雲紫と言う少女は俺達のことを
だが、どこで?
疑問は尽きない。
こんな齢十五にも満たない少女が、何年も?
おかしい、前提条件を間違えている様な気がする。
致命的な見落としを———
<シン!!この女は俺達を助けてくれたんだ!恩人を疑うなんてもってのほかだ!!>
「…あぁ、確かに、そうかもな」
体の中に戻ったヴェノムの怒声が頭に響く。
確かに、失礼だった、そうシンは反省する。
見た目も幼い少女だというのに、何でもかんでも疑いに結び付けるのは人道に反するだろう。
第一、こんな小さい子供が何かを企むと言う事こそ、ぶっ飛んだ妄想だ。
彼女が何者だろうと、シン達を助けてくれたのは変わりないのだ。
不信感を無視して、おしゃべりを続ける。
彼女も緊張がほぐれてきたのか、落ち着いた雰囲気で話し始めた。
「本当に…長かったわ…」
「…お前は月に行かずに地上に残ったクチか?」
「そりゃあそうよ、そもそも私には永遠の命なんていらないし、それを受け取る事も出来ないもの」
「あ?永遠の命?」
<…?…なんだそれは>
藪から棒に発せられた、永遠の命。
ヴェノムが興味深げに呟く。
永遠の命、そして月移住。
両者に繋がる共通点を見出せず、シン達はきょとんとした顔で紫を見つめた。
彼女も彼女で、きょとんと惚けた顔をシンに晒した。
まるで、シン達が知っていて当然だとでも言わんばかりに。
「え?知らないの?」
「ヴェノム、知ってるか?」
<さぁ>
「相棒が知らないって事は俺も知らねぇ、第一月に移住するのは穢れが無いからどうたら…って話だろ?不老不死だかと関係あんのか?」
うんうんと、年相応の仕草で紫が頷く。
「えぇ、確かに月には穢れが無いわ…だからこそなの」
「だからこそ?」
「ええと…穢れが妖怪の力の源になっている事は知ってるわよね?」
「あぁ」
人差し指を立て、身振り羽振りで説明しようとする紫。
何処か微笑ましい光景である。
「穢れっていうのは欲望そのもの…人が生きたいと思う感情すらも穢れとなって、妖怪への畏れへと繋がるわ…でも…」
「でも?」
「生きたいと言う感情を捨てれば…人は穢れを超えて、ある種の神に近づくわ、人の寿命と言うシステムを破壊してね…大体の半神半人や仙人はそれに当たるわね」
「ほう…」
人を超える。
俄かには信じがたい話だ。
月読命は、不浄の地である月には妖怪が出ないからだと、その様に声明を発表していた。
しかし、神であるあの月読命の事だ。
不老についても何かしら知っていたはずだ。
何故、その事実を黙っていた?
シン達はおろか都の住人にすら知らせていないとなれば、どうにも不信感が湧く。
何か理由があってその事実を隠していたか、あるいは———
(コイツが嘘をついているか…だが…)
<だが見たところ嘘をついている様子はないぞ、冷や汗も出ていないし瞳孔の大きさも変わっていない>
ヴェノムの言う通り。
目の前の少女が噓を吐いているとはとても確信が持てず、ただただ月読命への不信感が募る。
生きたいと言う思いを捨てる、それが良い物であるとは決して言えない筈だ。
まるでロボットの様に生きるのかも知れないし、もしかしたら逆に、争いもなく平和に生きていくのかも知れない。
(…依姫が無事なら…それでいいんだが…)
難しい顔をするシンに紫は気付かず、そのまま話を続ける。
「だから穢れの無い月に行けば、人は次第に穢れを捨てることで出来て、寿命が無くなるってわけ」
「…そうか、分かった、ありがとう」
短く告げ、沈黙が訪れる———
と、思われたが、紫は息つく暇も無く顔をシンに寄せた。
聞きたくて聞きたくてしょうがない、そんな顔だった。
「ねぇ、私からも少し良いかしら?」
「…?なんだ?何か聞きたいのか?」
「貴方は…どうして———」
「…?」
紫が小さな身体をシンに寄せ、傷に塗れた上半身に触れる。
それどころか首に手を回し、火傷の跡の残る胸を指先で撫で、瞳をシンに合わせた。
その姿は酷く蠱惑的で、シンを軽く誘惑した時の『角』に重なる。
どうしても癪に障る光景だ、しかし少女に抱くには少々不躾、彼はそう切り捨て、代わりに顔を顰めた。
「どうしてこの穢れた地上に残ったの?」
「俺には、守りたい物があったからだ」
「それは何?それは一体誰?」
「…教えてほしいなら離れろ」
<シン、少し落ち着け>
「…そう、ごめんなさいね」
紫の瞳はひたすらにシンを粘着する。
そこにあるのは泥の様な昏い何か。
にんまりと笑っている様で、気持ちの悪い薄ら笑い。
無垢な少女と言うには、余りに穢れていた。
思わずシンは紫を拒否し、彼女もまた大人しくシンから離れる。
目の前の少女に僅かばかりの忌避感が湧き出るが、助けてくれたという事実がそれを抑えた。
警戒が混ざる友好関係という、チグハグな状況。
複雑な心境のもと、彼は呟く様に話し始めた。
「…好きな奴が居る、そいつを確実に月に行かす為に、俺は残ったんだ」
「馬鹿みたいな理由だが、本当だぞ?」
「…!」
ヴェノムが茶々を入れ、ピクリと、ほんの少し紫の目尻が上がる。
だがそれも一瞬の事で、構わずにシンは続けた。
「ま、理由はそれだけだ、暫くはそいつに会いに行く為に行動するさ」
「…中々ロマンチックね、でも、もうその人、貴方の事忘れちゃってると思うわよ?」
「んなわけねぇだろ、あの強情女の事だ、知った口聞いてんじゃねぇ」
「…?」
紫の言い様に少しばかり苛立ち、シンは語気を強めて反論する。
依姫が簡単に人の事を忘れる人だと言外に馬鹿にされている様な気がしたからだ。
そのせいか、強情女とシンとヴェノムしか知らないあだ名を呼んでしまい、その意味の分からないのか紫は首を傾げた。
いや、首を傾げた理由の主軸はそこでは無い。
「いや、貴方———」
紫の不思議そうに言葉を発する様子に、シンは目を離せない。
まるで本当に疑問で、当たり前の事を忘れているのかと聞いている様な態度に、抱いていた不信感が這い寄る。
この答えを聞けば、後悔する気がする。
馬鹿げた妄想だ、そう自身に言い聞かせるが、目線は紫の口元に合わせたまま。
そして遂に、聞いてしまった。
聞くべきではなかった、真実を。
「あの戦争からもう、
「———は…?」
「なに…!?」
最早、自分でどんな声を出したか分からなかった。
何万年も経った、それが意味する所を突き付けられ、理解と無理解の狭間を往復する。
簡単な文字の羅列、脳が理解する事を拒否し、終わる気配の無い処理にぐるぐると視界が回る。
ヴェノムが現れ、驚愕の声を上げる。
それすらも耳に入らず、シンの視界は売れない画家のキャンバスの様に色褪せていく。
真っ黒に、絶望に。
「…ぁ…?」
「シン!」
「ちょっと…?大丈夫…?」
必然とも言えるだろう、立っていられない目眩がシンを襲い、彼は崩れ落ちた。
そして縋る様に紫の肩を掴み、訳も分からないまま叫んだ。
「………冗談だよな…?っおいアンタ!!噓だと言えよ!!」
「えぇ…!?冗談も何も…なんでここで冗談を言うのよ…?」
「噓だ!」
信じられない、彼のぐらぐら揺れる瞳がそう訴える。
ヴェノムが彼らしくも無い声を上げて、顔を悲壮に歪める。
シンがここまで大きく取り乱した理由はただ一つ。
依姫だ。
今からでもすぐに依姫に会う為に、あらゆる方法を探し出そうとしていたのに。
少なくとも十年以内には月に行く方法を見つける筈だったのに。
もう、数万年も経った?
依姫はもう、死んでいる?
いや、彼女達は紫によると不老になったと言う話だ。
生きている筈なんだ。
違う、そうじゃない。
何万年も会いに来ない男を、彼女がまだ待つと?
あり得ない、現実的じゃない。
待っている訳がない。
もう、誰の目から見ても明らかだった。
彼女はもう、シンの事を忘れている事に。
「ぁあ…ああああ…!!!」
「………」
「えっ?えっ?」
一人状況を理解出来ていない紫。
ポカンと口を開けて、戸惑いながらおろおろとする彼女に、彼は堪らなく苛立ちを覚えていた。
———-お前がこんな事を言わなければ。
半ば、いや、完全に八つ当たりだった。
「ぁあああッ!!テメェ!!噓を吐くなァ!!そんなモン…ありえねぇだろうがァ!!」
「うぐっ…!?」
「っ止めろシン!!」
ぬらりとシンの腕が紫に伸び、その細い首を握り締める。
息がかひゅっと弱々しく鳴り、あまりの腕力に彼女の頚骨の軋みが掌越しに伝わる。
それだけで殺意の衝動は止まらない。
遂に紫の足先が地面から浮き、宙ぶらりんとなる。
紫の混乱を帯びた瞳と、シンのぼんやりと光だけを反射する瞳が交差したその瞬間。
彼は吹き飛ばされ、壁に頭から突っ込んだ。
「…がっ!?」
「ッゲホッ!ゲホッ…!!」
「頭を冷やせ馬鹿野郎!女を無闇に傷付けるお前じゃない筈だ!!」
シンを頭突きで吹き飛ばした張本人はただ一人。
当たり前と言うべきか、理性を失った彼を止めるのは、やはりヴェノムだった。
紫は喉を締められた為か何度もえずき、胃液混じりの咳を吐きながら、頭を抑えるシンを見る。
「…ぐっ…ぅうう…!!止めろ…!!その目を止めろ!!」
彼らの視線が交錯し、瞬間、何度も抱いていたデジャブが爆発する。
こちらを見つめる怯えた瞳、妖怪を食う内に何度も向けられた。
捕食者が非捕食者に回ったかのような、絶対的に勝てない存在に出会したかのような。
生きる事を諦めた者達の、虚しい視線。
その中の、1番新しい記憶。
あの。
金髪のクソガキだ。
妖怪を通すゲートを開けていた、戦争の主因とも言える妖怪。
その金髪と体躯が
ちょうど目の前の幼女と、姿が重なる。
あの忌々しい妖怪。
ああ、そうか。
コイツが。
「…そうか…!!このクソガキが…!!ッテメェが!!あの時のクソ妖怪かッ!!」
「じっとしてろ!!」
「ごばァ!!」
彼は感情を爆発させると同時に、ヴェノムによって再び壁の中に埋まり、即鎮火。
その隙にヴェノムがヴェノムウェブに似た物質でシンを締め上げ、困った様に唸った。
パラパラ岩の破片が天井から落ち、遠慮がちな紫の声が響く。
「え…えと…」
「ヴェノムゥゥウ…!!これを解け…!!コイツをぶっ殺してやる…!!」
「…いつもはこんなんじゃないんだ」
困り果てた声色をするのはヴェノム。
この数分間に何度も衝撃を受けているシン、その感情の嵐がヴェノムに分からない訳ではない。
しかしこの少女がシンを助けた事は百を承知、二百も合点。
正気を失っているシンとは違い、ヴェノムは紫をそこまで敵対していなかった。
「…お前は『角』のやつの攻撃を耐えた後に紫に拾われたと思っているだろう?そうじゃない、あいつの攻撃を受けている最中に、俺達は救い出されたんだ、紫の気色悪いゲートにな」
「…なんだよ、このガキが俺達を救った恩人だとでも言いたいつもりか!?」
「そうだと言っているんだ!」
意外と義理人情を重んじるヴェノムは、徹底的にシンと反対の立場を取る。
そしてそれは、外道の道に落ちようとするシンを諌める為でもあった。
感情のままに紫を殺しても、シンは後悔するだけであり、何より後味が悪い。
対して、黙って話を聞いている紫は何も言わずにシンを見つめており、それがまたシンを苛立たせた。
「ッコイツは妖怪だ!一丁前に笑ったり怯えたり人間みてぇなフリしやがって!!どうせ俺達を助けたのにも裏があるんだよ!!」
「裏がある以前に紫は俺達を助けた!!それは変わらん!!」
「だから見逃せって!?馬鹿を言うのもいい加減にしろヴェノム!!」
頭では、分かってる。
紫は恩人で、妖怪だとしても傷付けるのは外道の行為、若しくは考えなしの馬鹿のする事。
ただ、シンは目の前の妖怪を認めたくなかった。
エレクトロや『角』といった飛び切りの外道を見て来た故に、妖怪に対する偏見とも言える嫌悪が、『見逃す』という選択肢を排除していた。
最初から少女に向けるべきではない感情があったのも、彼女が妖怪だと、無意識的に気付いていたからであろう。
「コイツは!
叫び尽くすが如き怒号。
その迫力にヴェノムも僅かにたじろぎ、シンの荒く息を立てる音だけが残った。
分からず屋、そう叫ぼうとしたヴェノム。
しかし、彼が反論に口を開いたその瞬間。
「…ひぐっ」
すすり泣きが、シンに冷水をぶっ掛けた。
「うぇえ…そこまで言わなくたって…いいじゃない…」
「…っ…ぉおっ…」
「おい!女を泣かせるなんてサイテーだぞ!」
失念していた、と言うより考えてもみなかった。
目の前にいる者は確かに妖怪だが、同時に少女だ。
目の前で罵倒紛いの事をされて、傷付かないはずが無い。
ましてや見た目は思春期に入ったばかりの子供。
言葉のナイフが刺さりやすい子供だ。
もしかしたらこの啜り泣きも演技なのでは、そう頭によぎるが、それ以上にショックを受けたのは。
事実であろうとなかろうと、女を泣かせた自分自身だ。
「…っ…!…〜っ……〜〜〜っ…!!」
激しい感情の波にシンは溺れる。
彼は息も出来ず、歯を食いしばって激情に耐えるしかなかった。
演技ではないかと訝しむ疑念、目の前で女が泣いているのにそう思う自分自身への失望、理性が生み出す申し訳無さ、それら全てを上回る憎しみ。
火山の様な感情を抑える為には、建前を用いて自分を抑えるしかない。
そうして助けてもらった義理という物を胸に刻み込み、感情を抑えた彼は、遂に言葉を搾り出した。
「…ッ…紫、わる、かった…俺が言い、過ぎた…」
一度言葉を吐き出して仕舞えば、溜飲もある程度下がる。
自分の非を認める行為、プライドを捨てるとも言える行為は、彼に冷静さを取り戻させた。
そう、紫が多くの妖怪達を連れて来た、その事実を一旦忘れる事にしたのだ。
つまり彼は少しだけ、大人になったという訳だ。
「…ぐすっ…謝らなくたっていいわよ、私も酷い事をしたとは思ってるし…」
「…じゃあ、何でやった」
戦争に加担した事を、紫は酷い事をしたと言っている。
快楽愉悦の為に都を襲ったと思っていたシンは、驚きの混ざった不機嫌な顔で彼女を見つめる。
そうだと分かっているならば、何故襲った、と。
「私は貴方と戦っていた大妖怪に従ってたの、暇潰しになるからって…それで私は…」
「いや…言わなくていい…アイツの命令でゲートを開けたんだな…?」
「もう分かっただろ?」
「…ああ」
「よかったな、お前への俺の評価は大馬鹿から馬鹿にアップだ」
「…」
シンに施した拘束、それを解きながら皮肉を言うヴェノムは無視だ。
シンはさっきまでの自分の言動を省みようとした。
酷く自分勝手で、自己中だった。
だがそう反省しても、紫を認めたくない気持ちが根底にあった。
彼女の話がまるっきり嘘だと疑う程に。
だから、結局。
「…もう、俺達は行く」
「…え…?」
彼は目を背ける事にした。
人間みたいに考える、理解し難い妖怪を。
何故シンを助けたのか、そんな事を聞く気にすらならなかった。
一刻も早く視界から無くしたかった。
いいのか?と、小声でそう尋ねるヴェノムに頷き、出口に向かい歩を進めた。
「ど、どこに行くの…?」
「…人の、いる所」
洞窟の出口に近づくにつれ、光に目が焼ける。
困惑した紫の質問には、適当に答えた。
「…西の近くに、人里があったと思うわ…」
「そうか」
<親切なやつだ>
「あと…これ…」
すれ違う瞬間。
紫は空間に切れ端を作ると、無数の目玉の浮かぶ空間が現れ、何かを取り出した。
そうして現れた物に、シンは立ち止まって目を丸くした。
それは刃の潰された日本刀、いや、形状は片刃の曲刀に近い物だ。
重厚かつ鈍いブロンズ、もしくは青銅の鏡面が紫を写している。
片手で剣の柄を、片手で剣の側面を危なっかしく持つ彼女の姿は、見てられないほどに不釣り合いだ。
「なんで…お前が
シンはそれを見た事があった。
最初は軍来祭で、次はエレクトロとの決戦で、最後は『角』との死闘で。
無くす度に誰かがシンの元に持ってくる、訳の分からない青銅刀だった。
混乱しながらも彼はそれを受け取り、触り心地を確かめた。
———やはり、しっくりくる、手のひらに馴染む。
「貴方があの妖怪と戦っているとき、私がこっそり回収しておいたの…何故かずっと錆びなかったし…い、要らなかったかしら…?」
「いや…そうか…あ、ありがとう」
ぎこちなくシンは礼を言う。
特に感謝はしていなかったし、礼を言いたかった訳でもないが、折角渡してくれたのだから、と、最低限の気持ちだ。
ヴェノムが気を利かせて鞘と腰にかけるベルトを作り、彼は腰にかけられた鞘に差し込み、今度こそ外へ歩き始めた。
陽光が目を刺激する、と言っても、ここは山の麓の様で、木漏れ日が差し込んでいるだけの様だった。
それでも薄暗い所より、気分は幾らか晴れる。
さっきまでのイライラも少しは解消されたかも知れない。
「…」
…だが、紫の目線が背中にチクチクと突き刺さる。
名残惜しい様な、べったりとした、そんな視線だ。
「…」
彼は終始無表情で目の前の木々を見つめていたが、やがて小さく息を吐くと、徐に言葉を発した。
「…おい」
「…ぅえ…?」
「…お前が何か困ったら、俺を頼れ…一度だけだ、内容次第だが、助けてやる」
それは彼なりの最大限の借りの返し方だった。
不用意に傷付け、真摯な謝罪もしなかった詫びでもあった。
このまま去るのは、居心地が悪かったからとも言える。
そして森の中に溶け込む声、されどしっかりと紫は聞き入れ、うん、と短く返した。
顔は見えなかったが、浮き足だった返答だった事は分かる。
———これでもう、未練も無い。
彼はまた歩き始める。
生い茂る草を踏み締めるのは、いつぶりだろう。
そんな事を考えながら、シンは道の中へ消えていく。
そして、そんな彼を見えなくなるまで見つめていた彼女、紫。
表情の読み取れない彼女の独り言が、薄暗い洞穴内に静かに響いた。
「…妖怪と、人間が、
その瞳は、未だシンだけを見つめていた。
ご拝読、ありがとうございますなのぜ!
ゆかりちゃん、ねんれい、すうじゅうまんちゃいっなのじぇっ!
まぁ因幡のウサギも万単位の年齢であの見た目だし、紫自身に精神的成長もなかった為、ゆかりちゃんモードなのぜ。
そのうち大人になるのぜ。
にしてもゆかりちゃんシン君にペタペタ引っ付きすぎじゃないのぜ?
これは…匂うのぜ…
シン君の前だからっていい子ぶってるの、バ レ バ レ なのぜ。
最後に猫じゃらしだまし様、☆10評価
けん0912様、☆9評価、ありがとうございますなのぜ!
登場人物紹介っている?
-
やってくれ 必要だろ(いる)
-
それは雑魚の思考だ(いらない)