東方修羅道   作:おんせんまんじう

59 / 68
 これまでのあらすじ。
 人妖大戦にて、大妖怪『角』に敗れたシン達は、同じ妖怪である紫によって助け出される。
 妖怪に助けられた事実と敗北してから何千年も時間が過ぎているという事実に、混乱と焦燥に襲われていたが、紫に形ばかりの礼を言い、目的がある訳でもなくどこかへ歩いて行った。


第五十七話 強襲、祟り神

 目の前に広がる、見渡す限り鮮やかな緑、もしくは小麦色の低地。

 山麓を抜け、なだらかな斜面を持つ扇状地の先には、紫の言っていた人里が見られた。

 

 人の居る所に行く。

 

 その言葉はあの場所を離れる為の口実に過ぎず、本心から行きたいと思った訳ではない。

 しかし、それ以外に行きたい場所があると言う訳でもない。

 

 半ば興味本位、無理矢理理由を捻り出すとしたら、強い奴が居るかも知れないから。

 そんな思いから、彼らはゆったりとした足取りで、豆粒の様に見える人里へ歩を進めて行った。

 

◆◆

 

<ずっと疑問だったんだが…このナマクラは何なんだ?>

「さぁ」

 

 歩いて一時間か、のんびりと景色を眺めてヴェノムと会話を交わす中で、ヴェノムは顔を出してそんなことを口にした。

 

「無くしても無くしても帰ってきやがる…気味が悪いな」

「まるで犬だな、ヴェノム、お前犬好きだろ?やるよ」

 

 触手を滑らせて青銅刀を取り出し、まじまじとそれを見つめるヴェノム。

 鈍いブロンズの反射光がヴェノムの目を焼き、彼は目を細めている様だった。

 

 燻んだ老木の木陰に入り、立ち止まって思案する。

 

 色(・)々(・)と(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)彼の目からしても不明な代物。

 便宜上、青銅の色をしているから青銅刀、なんて呼んでいるが、本当にその成分から出来ているかすら怪しい。

 青銅なら少なくとも展延性を持つ筈だが、刃こぼれも無ければ折れるなんて事も無い。

 

 その証拠に———

 

「ちょっと貸せよ」

「おい!何をする!!」

 

 ヴェノムから青銅刀を掠め取り、そのまま隣の老木目掛けて横薙ぎに叩き込む。

 切先を倒し、側面を向けた状態で、だ。

 

「…っふん!!」

 

 けたたましく、枯れた音が響き渡る。

 木片が宙を踊り、腹を割かれた老木が倒れ込む様に倒壊していく。

 

 その様子を見る事も無く、シンはまた歩き始めた。

 バキバキと心地良い音が背後からシンを包みこむ。

 

 視線は青銅刀。

 そこには果たして、何の傷も変形も無い青銅刀。

 

 あの『角』の攻撃すら耐えたのだ。

 木を峰でぶっ叩いた所で、この刀が折れる訳が無い。

 

「おい!環境破壊だ!」

「知るか———-」

 

 その時だった。

 

 地面に、足(・)が(・)付(・)か(・)な(・)い(・)。

 

「っお———」

「何だ!?」

 

 いや、違う。

 沼地に足を突っ込んだ様な感覚。

 

 地面が、水に近い泥に変化している———

 

 そう気付いた時には、もう手遅れだった。

 

「ヴェノ———ぶっ!?」

 

 倒れ込みながら、ヴェノムの名前を呼んでも間に合わない。

 瞬く間に視界は黒く埋め尽くされ、彼らの身体は真後ろにぶっ飛ばされた。

 

 沼地に顔面から突っ込んだのでは無い、何かを顔面に叩き込まれたのだ。

 

「ごふっ!!」

 

 シン達は背後の老木に突っ込みながらもヴェノムを纏わせ、老木を背にして目の前の物体を睨む。

 

 下手人は石柱。

 いや土柱とでも呼ぼうか。

 

 蛇の様に伸びた土の柱が、先までシン達の居た場所に鎮座している。

 そこに、現れる。

 

「何の用かな?まぁ、興味ないけど」

「おい…おい…!!おいおいおい!!そういうのはよ!!人里に!そこに行ってからだろっ!!」

 

 金髪のショートボブが風に揺れる。

 ぎょろぎょろと、市女笠から生える二つの目玉がシン達を睨み付ける。

 

 撒き散らされる、存在感。

 心臓のボルテージがフルマックスを飛び抜ける。

 

「そんな真っ黒な気配で来られても、困るんだよね、もてなしとか出来ないよ?」

「いきなりメインディッシュかよ!!あぁ!?早すぎるだろ!?」

「随分と失礼な挨拶だ…!」

 

 身長は140センチに届かない程度、しかし内包する圧は比べ物にならない。

 滲み出る、というより、溢れ出す。

 純然で、思わず畏怖してしまう様な、『角』にも似た気配。

 

 気分が高揚する。

 脳からアドレナリンが滲み、嬉しげにヴェノムの口が歪む。

 これまでの不機嫌も、苛立ちも、全てを忘れて。

 

 今、この刹那が、最高の瞬間。

 サンタクロースのプレゼントだ。

 

「だから諏訪国を統治する神として、相応のもてなしをするよ」

「ああ!?神!?最高のもてなしだよ!!クソガキ!!お前の名前は!?」

「残虐な庇護者(リーサル・プロテクター)は女子供は喰わない…だから『躾けて』やる…!!チワワみたいに噛み付くガキをな!!」

 

 ヴェノムの怒気が背骨を突き抜け、共鳴してシンの感情がヒートアップしていく。

 まるで目の前にステーキの肉汁が溢れる様を、まざまざと見せつけられている様だ。

 

 手の中の青銅刀にヴェノムの粘液を纏わせ、硬質化させていく。

 鋭利に、強固に。

 

「私の名は、守矢諏訪子…諏訪国を治める、土着神の頂点だ」

「「俺達は!ヴェノムだ!!」」

 

 腕を振るい、叫ぶ。

 

 身体から溢れる激情に駆られて、彼らは飛び出した。

 が、考え無しの行動はすぐに狩られる。

 

「学習しないなぁ」

 

 流砂の様に姿を変え、ヴェノムの足元を捕える地面。

 初手に一発貰った物と同じ手法だ。

 

 当然、そう来る事は理解している。

 彼らは青銅刀を持っていない方の腕を諏訪子に向けた。

 

「学習は得意分野だ!」

「———っん!?」

 

 発射、ヴェノムウェブ。

 

 こちらが動かないのならば、相手をこちらの土俵に引き摺り込めばいい。

 発射速度200km以上の筋繊維、常人には感知する間も無いが———

 

「やるじゃん…!」

 

 相手は神、それもおそらく『角』クラスの強者。

 そう単純にはいかない。

 

 手を振り上げる動作と共に土柱が凄まじい速度で隆起し、ヴェノムウェブを防いだのだ。

 

 しかし、次の瞬間。

 

 諏訪子の目の前の壁が横薙ぎに破壊され、彼女に漆黒の刃が襲い掛かった。

 

(はっや!?30尺近く距離あったのに一瞬で詰められた!!)

 

 彼女はその光景に目を見開くが、すぐさま剣の軌道を読む、その太刀筋は真っ直ぐ首元。

 回避も迎撃も不可。

 反射的に腕を首と刀の間に腕を滑り込ませ、彼の一撃を防いだ。

 

 しかし、あまりの重さに片腕では防ぎ切れず、両腕を使ってヴェノムの剣に対抗する。

 

(おっもい!それにしてもあの糸を引っ張って自分の身体を引き寄せたの…!?あの体を腕一本で引き寄せたって事!?なんていう———)

 

 鍔迫り合いの最中、ギリギリと、諏訪子の身体が押し込まれて行く。

 

「なんていう…馬鹿力…!!」

「ハハ…!!」

 

 対してヴェノム。

 諏訪子と同じ様に、こちらも焦燥…いや、興奮に襲われていた。

 

(この…クソガキ…!!素手で受け止めやがった…!!見かけによらず———)

「そっちも馬鹿力か!!」

「くぅっ…!!」

 

 体格差により、諏訪子はどんどん押し込まれ、遂には地面にヒビが入り始める。

 埒が開かない。

 そう悟った彼女は、滅多に使わない『権能』の使用を決意した。

 

「しょうがない…!来い!ミシャグジッ!!」

「ぐっ!?」

「蛇だと!?」

 

 地響き。

 ヴェノムと諏訪子の間に割って入る様に、地中から巨大な純白の蛇が姿を現れた。

 鍔迫り合いに夢中になっていたヴェノムに防御は許されず、大蛇の頭がその腹筋に突き刺さり、押し込まれながら諏訪子との間合いを稼がれる。

 

「鬱陶しい爬虫類が!!」

 

 腹を貫通しそうな勢いで突進する大蛇に激怒するヴェノム。

 最早邪魔だと剣を投げ捨てて、大蛇の頭を捻り潰そうと手を伸ばした。

 

「『身鎖虞(ミシャグ)』!」

 

 しかし、諏訪子による言霊がそれを防ぐ。

 大蛇の瞳が怪しく光ると同時にヴェノムの身体が硬直、その隙に大蛇がヴェノムの腕に纏わり付き、更に巨大な顎でヴェノムに喰らい付いたのだ。

 

「呪殺しろっ!!『赤口(シャグチ)』ッ!!」

 

 続け様に唱えられる言霊、またの名を呪言。

 瘴気が大蛇の牙を通してヴェノムに注入される。

 

 その効果は大蛇の呪いに伴う激毒の付与。

 脳と内臓を溶かし、大量の血を吐き出させるからこその『赤口』。

 

 ミシャグジという祟り神の真髄だ。

 

 そこらの人外に耐えられる訳が無い、どんなに軽症でも失血死、酷ければ全身が溶けて無くなるのだ。

 そんな思いから、彼女の脳内に勝利の二文字が浮かぶ。

 

 だが———

 

「…おぇ、気持ちわる」

「これは、あれだ、二日酔いだ、酒に弱いシンのせいだ」

「———はぁ?」

 

 二日、酔い?

 

 諏訪子は信じられなかった。

 最上級の祟り神であるミシャグジの呪い、それを?二日酔い?有り得ない。

 

「…意味分かんない」

 

 開いた口が塞がらない。

 そんな状態でフリーズした諏訪子と大蛇。

 

 その瞬間を逃さず、緩くなった拘束を逃れて距離を取るヴェノム。

 しかしその足取りはやや千鳥足気味で、覚束無い。

 

「っとと…んー…まだ気持ち悪いな」

「ちょっと理解できないよ、その鈍感さ」

「こいつの鈍感さには俺も参ってる」

「うるせぇぞヴェノム」

 

 警戒を強め、ミシャグジを手元に戻して体勢を整える諏訪子。

 『酔い』が残っている内に追撃してしまうのが吉だろうが、まるっきり正体が分からなくなった相手に、彼女は少しばかり尻込みしてしまっていた。

 

「…はぁ…ほんとに参っちゃう、君みたいな妖怪に構ってられる程、私は暇じゃないんだよ?」

「誰が妖怪だガキ、俺たちはヴェノムだと言っているだろ?」

「…今は感じないけど、ついさっき邪気を感じた、それは紛れもなく君の物の筈だよ」

 

 諏訪子の瞳に疑心が映り、市女笠の瞳がヴェノムを睨み付ける。

 こんなにちんまりとした体躯でも、一国を治める主、保守的とまではいかないが、国を脅かす不確定要素はどんなに小さくても、確実に排除する必要があった。

 

「正体を表すなら早い方がいい、その方が後腐れもないから」

「言ってろクソガキ」

「安心しろ、食い(悔い)はしない」

 

 一陣の風が彼らの間を通り抜け、緊張感を張り直す。

 光る様に靡く金髪を眺めながらヴェノムとシンは静かに思考した。

 

( 力(パワー)はこっちが上だ)

(接近して押さえ付ければ勝敗が決まる、それこそヴェノムの筋繊維で縛っちまえばこっちの勝ちは確定…!酔いも慣れた…!なら———)

 

 対して諏訪子。

 神経を尖らせて、ミシャグジと共に戦闘体勢に入る。

 

(信じられないけど、力はあっちが上、近付かれれば私が負ける…けど、遠距離なら話は別…多分アイツは遠距離に対する有効打点が無い、加えてこっちのミシャグジと土柱は効果アリ…だったら———)

 

 一瞬の無言を経て、互いに思考を終わらせる。

 息を合わせた様に視線が絡み合い、やがて双方が第二試合開始のゴングを打ち鳴らした。

 

「「———近付いてブン殴る!!」」

「———遠距離で封殺する!!」

 

 即座に飛び出すヴェノム。

 即座に溢れ出す土柱とうねりながら突進するミシャグジ、そして全力で後退する諏訪子。

 

 ヴェノムの勝利条件は、土柱とミシャグジの猛攻を掻い潜りながら、後退する諏訪子を捕える。

 諏訪子の勝利条件は、近付くヴェノムを土柱とミシャグジで捕らえ、一方的に攻めて殺す。

 

 究極のイタチごっこだ。

 

「なんて物量!!燃えてくるじゃねぇかッ!!」

「シン!ウェブスイングだ!!GO!!」

 

 目前にはミシャグジが引き連れる、暴風雨の如き土柱の大群。

 諏訪子の小さな体は最早一片も見えない。

 このまま突っ込めば敗北は必至、ミシャグジに喰われてジ・エンド。

 

 だがこのヴェノムには、蜘蛛男仕込みのウェブがある。

 

「マニュアルは止めてくれ!まだウェブはマスターしてないんだ!!オートマで任せる!!」

「任せろ!!」

 

 ヴェノムウェブ、発射。

 着弾と共にパチンコの要領で飛び出し、ミシャグジの上顎を蹴っ飛ばして土柱の群れに身を投げる。

 

 上も、下も、左右もどこも土、土、土。

 不思議なまでに心地良い浮遊感。

 細分化された時間、刹那と刹那の間、一瞬を支配する思考。

 

 見渡せば、どこにウェブをやればいいのか、一瞬で分かる。

 その意図が寸分の狂い無くヴェノムに伝わる。

 

 思考から行動に移すに至るのは、一秒にも満たなかった。

 

 土柱の押し潰しから逃れる様に隙間を潜り抜け、更に高密度の土柱の中へ潜って行く。

 避けられない土柱は拳で砕き、更に加速、ミシャグジすらもヴェノムの速度についていけない。

 

(速い!速すぎる!!出したそばから避けられる!!だったら———)

 

 突如、濁流の如く土が溢れ出す。

 土柱なんて比じゃない、地形が変わるレベルの土石操作。

 ヴェノムの回避を嘲笑う様な、土着神の本気。

 

 ここまでの能力使用は諏訪子の脳のキャパシティを食う。

 故にもう後退は出来ない、もう一歩も歩けない。

 

「潰れろぉぉおおおッ!!」

「チィッ!」

 

 ヴェノムは立ち止まらない、立ち止まれない。

 背後からミシャグジが猛追している、追い付かれて何かしらの術を掛けられれば一巻の終わりだ。

 

 だが、前方は最早壁と化している。

 ならば———

 

「跳ぶぞシンッ!!」

 

 真上。

 土柱から漏れる光を見据え、強引に空へ翔び立つ。

 岩石をまるでクッキーを粉砕するかの如く破壊し、土のドームを抜け出して太陽の光を全身に浴びる。

 

 眼下には目測三寸程の諏訪子。

 彼女への道筋を遮る様に、また幾本もの土柱が飛び出す。

 

 いや、飛び出したそれは最早土柱と呼べる代物ではない。

 先程まで直線的だったそれが、曲線的に、軌道を予測しづらくなっている、まさに土の蛇だ。

 

 ウェブを飛ばしても、直弾した瞬間に流動する土に飲み込まれ、ウェブスイングする事も出来ない。

 

 ならば。

 

「一歩でぶち抜いてやる…!!」

 

 着地と共に蹴り出し、何もかもぶち抜いて諏訪子をぶん殴る。

 

 真下にヴェノムウェブ、着弾。

 これで足元の地面は泥化していない事は確定した。

 

「行くぞ———-痛づっ!?」

 

 着地、地を蹴り出す———

 つもりだった。

 

 彼らヴェノムの踵から爪先に掛けて、針千本の如き土棘が貫いていたのだ。

 この着地から飛び出すまでの一瞬、今までの土流操作を見るに、見てからでは操作するまでにはもう少しのラグがある筈だ。

 

 恐らく、流動する土柱を繰り出した時点でヴェノムが地面に降り立つと予測し、彼らの真下に土棘のトラップを仕込んだのか。

 

「これで…仕舞いだッ!!」

 

 遥か先の諏訪子の口角が上がっている。

 勝ちを確信している表情だ。

 

 流動する土柱も直線的で面白みの無い軌道。

 勝ったという確信と油断が透けて見える。

 

 だからこそ、ヴェノムの勝利に繋がる。

 

「体を、脱力…体を、液体に…」

 

 夢想するのは『角』のスタートダッシュ。

 脱力からの瞬発。

 まるで溶けたかのように思わせる脱力が、『泥雷威(どろかむい)』という最速を生み出した。

 

 シンには身体を泥のように扱う想像力は、まだ無い。

 故に、ヴェノムの下半身を液状化させ、極限の脱力を完成させる。

 空想でしか成し得ない技を、無理矢理現実へと引っ張り出していく。

 

 そして、液状化させて仕舞えば、棘なんて関係ない。

 

「行くぜ」

 

 目の前に土柱が迫る。

 今からこれら全てを…ぶち抜く!!

 

「『泥雷威』ッ!」

 

 黒き弾丸が飛び出す。

 150kgの大砲が、全てを貫いていく。

 

 一瞬。

 瞬きの間に諏訪子に肉迫したヴェノム。

 

 しかし、最後の砦が立ち塞がる。

 

「シャァァアアッ!!」

 

 純白の大蛇、ミシャグジ。

 上空でもたついている間に追い付かれたのか。

 

 ———だが。

 

 このタイミング、この距離。

 金縛りも呪いの発動も許さない。

 

 大蛇に出来る事は何も無い。

 出来るのは意味の無い、肉壁だけだ。

 

「道を譲りやがれ!!」

「お座りだ!!クソ蛇!!」

「シャァッ!?」

 

 拳骨一丁。

 ミシャグジは地面に埋もれて消失、諏訪子への道が切り開かれる。

 

 コンマ数秒の時間稼ぎ、一発はカウンターを貰うかも知れない。

 たがせいぜい一発、この目と鼻の先とも言える距離では、延命にもなりやしない。

 

 顔いっぱいに焦燥を浮かべる諏訪子、苦し紛れに振りかぶる。

 

(土柱か?棘か?それとも呪いか!?どちらにせよ火力不足だ…!一発受けて確実に抑える!!)

 

 ヴェノムは、警戒の上での対処では無く、思考停止のゴリ押しを選んだ。

 先程の諏訪子と同じように。

 

 それが———

 

「うわぁあああっ!!」

「なっ———」

 

 ———勝負を分けた。

 

「ぐっ!?ぐがぁあああああっ!?!?」

「熱い!?身体が焼ける!!身体がぁああ!!」

 

 大前提として、諏訪子はヴェノムの弱点、高熱と高周波を知らない。

 そしてヴェノムも、諏訪子の能力を知らない。

 今までの技の傾向から、土を操る能力だと勘違いしていた。

 

 実際は『坤を創造する程度の能力』、平たく言えば大地の全てを操る能力。

 故に運。

 故に偶然。

 目眩しと攻撃、それらを両立した、しかしヴェノムの強靭さには敵わないだろうと思い込んでいた苦し紛れの一手。

 

 それが、マグマを浴びせる事だった。

 

 技を放った諏訪子自身も愚策だと感じていた。

 『坤を創造する程度の能力』と言っても、一番得意なのは土の操作。

 あまり得意ではない、尚且つ上澄みの妖怪には歯牙にも掛けられないマグマ攻撃は、焦りから繰り出してしまった愚策の一手だと。

 

 それがヴェノムの弱点を穿っていなければ、愚策だった。

 

「ぐぁあああ…!!ぁああああ…!!」

「え…?…え…?何…?」

 

 マグマを抜け出したヴェノムはもがき苦しみ、立ち上がる事すら出来ていない。

 諏訪子は、ヴェノムが剥がれ、素肌を晒していくシンを呆然と見下ろす事しか出来なかった。

 

「…なんだか、よく分からないけど…私の勝ち…って事でいいんだよね?」

「がぁ…!!」

 

 理由は理解出来なくとも、結果を受け入れた諏訪子の行動は早かった。

 地面を隆起させ、這い這いのシンを生き埋め状態に拘束する。

 

 頭から肩しか見えないシン。

 その表情は苦痛そのもの。

 今のシンはヴェノムの弱点を共用している状態にある、ヴェノムがシンに引っ込んだ所で、多少の効果はあるが、結局は焼け石に水だ。

 

「…ぁあ…!…ぁああ!!があぁぁあああ!クソ!クソッ!クソッ!!」

 

 呆然から憤怒へ感情がシフト、シンは歯軋りしながら頭だけで暴れる。

 納得出来るはずも無かった。

 勝っていたのに、あんな偶然で。

 

 あまりの暴れ様に地面がひび割れ、軋みを上げる。

 

「負け…?負け…!?負けたのか!?また!?駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ!!それは駄目だろ!!」

<…シン…!シン!何やってる!!>

「…どっからそんな力を出せてん…のっ!!」

 

 諏訪子が拳を握ると、ひび割れた地面が圧縮され、シンの拘束がより強くなる。

 それでもシンの激怒は止まらなかった。

 

「まだだ…!!まだ負けてない!!まだァッ!!」

<シン!お前だけじゃこの拘束は破れない!!>

「…勇んでる所悪いけど、さっさと終わらせるから」

 

 シンの青筋の浮かぶ額に、土の槍が迫る。

 流石に頭を潰されれば生きてはいけないだろう、そんな考えから冷や汗が地面にシミを作る。

 

「…頭が潰されても、お前に喰らい付いてやる…!!」

「…あっそ、見え透いた強がりだね」

 

 諏訪子の冷たい瞳がシンを突き差す。

 しかし、あわや脳天に突き刺さるその瞬間。

 

 諏訪子の目が見開かれた。

 

「———ッ!?この気配は…!!」

 

 即座に手を止め、振り返って遥か後方を睨み付ける。

 シンと戦っている時は苛立ちを全面に出していたが、今度は違う。

 

 殺意。 

 

 シンから諏訪子の顔は見えないが、青筋が浮かび、拳がわなわなと震えている。

 そんな彼女の雰囲気に、シンは思わず目を白黒させた。

 

「欲張りジジイ共の犬が…!!舐めやがって…!!」

 

 おどろおどろしいがなり声。

 するとぐるりとこちらに向き直り、先程までよりずっと殺意の籠っており、ギラギラと光る瞳をシンに向けた。

 

「…幸運だね、君に聞きたい事が出来た」

「…そうかよ、ならさっさとこれを解け、窮屈だ」

 

 身じろぎして、自身の解放をアピールするシン。

 おふざけが半分入っているが、眈々と諏訪子の隙を窺っている。

 

 ヴェノムが回復したら、すぐさま襲おうと諏訪子を狙っていた。

 

「いい?『待て』、だよ?大人しく、順番を待ってろ」

「何ピキってやがる、カルシウム足りてないのか?」

「…もういい、構ってる時間は無い」

 

 瞬間、両手両足に激痛。

 

「…ぐぅ…!」

<今は耐えろ、後少しで回復する>

 

 体が埋もれた土の中で、硬化した土の槍がシンの両手両足を貫いたのだ。

 拳が握れず、上手く力が入らない。

 

「妖怪に共食いされるか、私が戻ってくるか…どっちが早いかな」

「俺達を妖怪なんぞと一緒にするな!!」

 

 ヴェノムのフェイスが一瞬浮き出て刺々しく吐き捨てる。

 シン自身も、ただでさえ悪い機嫌がより悪くなった。

 

「…ふん」

 

 そんなシン達を諏訪子は一暼。

 その目には、お前が妖怪じゃない訳がないと言う不信が籠っている。

 やがて彼女は視線を切ると、遥か後方へと飛び立って行った。

 

「…クソったれ、なんてこう、俺は金髪の幼女ばっかりにここまで振り回されねぇといけないんだ」

<クソッタレな縁だ、だが、あのガキをお仕置きするのにはもう少し待て>

「…はぁ〜あ…」

 

 首だけのシンは地面に突っ伏して溜め息を漏らす。

 その姿からはかすかな哀愁が漂っていた。




ご拝読、ありがとうございますのぜ。
ほんっと〜に長らくお待たせしましたのぜ!一年ぶり!奴隷が私用で長らく執筆を停止していましたけど、漸く終わったらしいのぜ!!
これからは流石に投稿ペースも早くなると思うのぜ!
あと謎の青銅刀もいつか詳細を明かすのぜ!楽しみにするのぜ!!
今度とも『東方修羅道』をお願いしますのぜ!!

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。