東方修羅道   作:おんせんまんじう

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この回では主人公、シンの能力の片鱗が見せられるよ!
ゆっくりしていってね!


第六話 "適応“

 シン達は目が覚め、急いで玄楽の部屋へ移動していた。

 長い通路を抜け、昨日言われた部屋の前にたどり着いた。

 シンは怒っているだろうなぁ、と思いながらノックをする。

 

「入れ」

 

 厳格な声がドアを通して、響き渡る。

 失礼する、と一言入れ部屋に入り、書類に何かを記入する玄楽が目に入った。

 玄楽はシンを見るなり待っていたと言わんばかりに椅子から立ち上がって言う。

 

「おぉ、待っていたぞ、娘から話を聞いている。体は?」

「大丈夫だ…悪いな、昨日来れなくて」

 

 娘、というは観戦していた門下生の中にそのような人がいたのだろう。

 シンがそのように思案しているところ、玄楽の口が開く。

 

「気を病むことはない、私の娘と戦ったのだろう…?訓練も無しに良く依姫を追い詰めたものだ、あの子も少し嬉しそうに話していたぞ?シンのことを話してやったら顔が青くなったり赤くなったりで面白くてな、カッカッカ!」

「ん!?待ってくれ、まさか俺と戦った強情…薄紫色の髪の少女はあんたの娘か!?」

「その通りだが…強情か…確かにあの子は些か真面目がすぎる…あの子が何か粗相を犯したか?」

「ん?あー…いや、そんなことは無いが…」

 

 まさかの新事実が発覚した、玄楽の子供が強情女、もとい依姫とは…

 だったらあそこまでの天才ぶりも納得だ。

 しかし、強情の一言が漏れ出てしまったが、玄楽にも思い当たる節があるようで遠い目をしていた、きっと苦労していたのだろう。

 

「ああそうだ、八時から訓練が始まるからな、八時になるまでこの部屋にいてくれ、んで道場に来い、我はもう行くからな、自己紹介の言葉でも考えておけ」

「おう、了解した」

 

 ぶっきらぼうに玄楽言い放って去り、シンは部屋に一人取り残された。

 

 途端に静まり返る部屋。

 

 直ぐに暇を持て余した彼らは、玄楽に言われた通りヴェノムを出し、自己紹介の仕方を話し合った。

 

「さーてヴェノム、どうする?」

よし、俺が実践してやろう!!…"お前らは俺達の踏み台だ!文句を言う奴は食い殺してやる!覚悟しろ!!"こう言え!シン!

「無理に決まってんだろ!血気盛んすぎでやべぇ奴に思われるだろ!!」

ならお前が言ってみろ!!

「なら言ってや…」

 

 最初は気怠げに考えていたシンもヴェノムの言葉に呆れ、くだらない議論は白熱化を迎えていく。

 そうやってヴェノムとシンが言い争いをしていると。

 

 ーーー不意に、ガチャリと。

 

 水を差す様に扉が開き、シン達は自身達の議論を邪魔された事に多少苛立ち、扉の向こうを睨み付けた。

 姿を現したのはーーー薄紫の長い髪をポニーテールで携え、紫がかった紅い瞳を伏す少女。

 

「失礼しまーーー」

 

 他ならない、依姫だった。

 

 彼女はシンとヴェノム、二人の姿にパチクリと目を見開く。

 彼らも彼らで驚きに動くことが出来なかった。

 

 余りにも唐突に訪れた静寂。

 一秒、二秒と過ぎていく時間の中、それを破ったのは依姫だった。

 

「あ、貴方達は!?」

「お前!強情…あの時の女じゃねぇか!?」

どの面下げて来た!!

 

 釣られてシンも声を荒げ、ヴェノムに至っては牙を剥き出しにして荒々しく吠えた。

 ここまで彼らが敵意を剥き出しにしたのだ、依姫だって最初会ったときのように敵意全開で来るーーー

 

 と言うわけでもなく、真っ先に頭を下げた。

 シン達は予想外の反応に言葉が止まる。

 

「あ、あのときはごめんなさい!私の勘違いで言いがかりを付けてしまって、挙句に怪我まで負わせてしまって…!!」

「………あー顔を上げてくれ、別にもう気にして無いし…」

 

 依姫は頭を下げた状態から動かない。

 気不味い、そう感じた瞬間、よく整えられた髪の隙間から涙がこぼれ落ちるのを見た。

 

「っ!?おい!泣くな泣くな!気にして無いんだから顔を上げろ!いや上げてくれ!?」

( ゚д゚)

 

 思い上がりの強い依姫はどうやら責任感も強いらしい。

 シンは大いに動揺…いや、困惑した。

 初めて少女を泣かせてしまったのだから当然と言えば当然である。

 

 あやし方なんてものは生まれてからこの記憶に存在しない。

 

 頼みのヴェノムでさえあまりの驚きに口を開けて固まってしまった。

 

「いいのですか…?あんなことをしたのに…?」

 

 ゆっくりと顔を上げ、涙目で依姫はシン達を見る。

 初対面当時からは想像出来ない程弱々しい表情であり、彼は思わず顔を顰めた。

 

(止めてくれよ…どう言えば良いんだこんなとき…!?)

< 知るか!! >

 

 シン達は今度会ったらタダでは済まないようにしてやると話し合っていたが、こうも涙目で見られると言葉が詰まる。

 ーーー仕方ないことである、男は女の涙に弱いのが世の常である。

 

 シンは依姫を直視出来ず、少々目を泳がせながら答えた。

 

「えーっとな…この通り俺は元気だし、そもそもお前は玄楽に会いにきたんじゃないか?って言うかすれ違わなかったのか!?」

「え、えぇ、すれ違うことはありませんでした…ですが…」

「良いから!詳しいことは訓練中に話す!!」

 

 シンは強引に依姫を追い出すように部屋から連れ出した。

 危なかった、あのままでは気不味くてどうにかなりそうだった。

 

「ふぅ…なんとかなったな…」

あの女がまさか謝るなんてな

 

 全くその通りである。

 再開したら嫌味の一つでも言われるかと思っていたが、蓋を開ければそんなことはなかった。

 

◆◆

 

 依姫が部屋に乱入してからは特に何事も無く、時計の長針が八時の五分前を指した。

 

「良し、行くかヴェノム!!」

おう!

 

 シン達は座った状態から立ち上がり、ドアを開けた。

 相も変わらず長い通路を抜け、昨日と同じように道場の扉の前に立つ。

 

 普通に扉を開けると、十数人の門下生が談笑をしていた。

 その中の一人がシンを見つけると。

 

「よぉ!負け犬!!」

 

 笑い声を上げながら、シン達に向けて野次を飛ばした。

 続いて周りの門下生達も冷笑する。

 まるでこの空間そのものがシン達を受け入れていない様だった。

 

 シンは腹の内がドス黒いものに覆われるのも感じ、ニヒルに笑って皮肉を返す。

 

「指差して笑うことしか出来ないデクの棒がよぉ…鬱陶しい…!!」

「なんだと貴様!?」

 

 ーーー敵意を孕んだ言葉、しかしそれはまるでチワワが懸命に吠えている様でもあった。

 簡単に言えばシンは門下生達が依姫のような圧を感じることが出来ず、言葉しか出ない門下生に呆れを感じていたのだ。

 

「何度でも言ってやるよ!!オメェらは雑魚だッ!!」

< 良いぞ!もっと言ってやれ! >

「言わせておけばなんだこの負け犬野郎ッ!!」

「そこまでだ」

 

 言い争いをしていると絶対的な圧を伴った一言が両者へ下された。

 今度はチワワなんかじゃない、まるで龍。

 思わず場は沈黙し、振り返るとそこには真剣な顔をした玄楽が仁王立ちしていた。

 

「お前の行為は道場全体の質を下げている、自重しろ…シン、我が弟子の非礼を詫びる…だが我の顔を立てて許してやってくれ」

「…ウッス、師範…」

「チッ、仕方ねぇな…」

 

 行く当ての無いシンを受け入れた恩もあるので、シンは玄楽に従った。

 そして続々と門下生が道場に集まり、その中には依姫の姿もあった。

 目が合うと直ぐ目を逸らされてしまったが。

 

 玄楽は全員集まり、時計が八時を指したのを見計らって言った。

 

「今日は新しく我の道場に仲間が来た!出て来い!」

「…あい分かった…」

 

 皆に注目され、コソコソと話をされながら前に出る。

 烏合の衆の視線、一人を除いた全ての視線が気持ち悪く感じた。

 

「では、簡単な自己紹介を」

「…俺はシン、昨日喧嘩したから知っている人は知っていると思う、よろしく」

< おい!さっき言ってた奴は言わないのか!? >

(言う訳ねぇだろ!ついでに出て来てくれ!)

チッ、良いだろう…

「んでこっちがヴェノムだ、妖怪では無いから勘違いすんな」

 

 ヴェノムが渋々といった様子でシンの肩から出て来る。

 出て来た瞬間、ヒュッと誰かが息を呑んだようだが、妖怪では無いと理解したようで安心の空気が流れた。

「挨拶は程々に、早速だが訓練を始める!」

 

 玄楽は大声を出して、指をパチンと鳴らす。

 

 次の瞬間にはシンがリストバンドによって気絶させられていたあの大門の景色が映り込んでいた。

 先ほどまでの薄茶の床や天井ではなく、澄んだ青空と無骨で巨大な壁。

 

 シン達は混乱するが、優男や攻撃的女では無い門番や、門下生達はまたかといった涼しい表情をしていた。

 混乱するシンに話しかける人なぞいなく…いや、いた。

 依姫である、視界外からポニーテールが跳ね、シンに優しく語りかけたのだ。

 

「大丈夫ですか?師範は強引なので…すみません…」

「いや、お前が謝ることではない、そう言う力でもあるんだろう?」

 

 まるで超常的な、いや、人知を超えた力に混乱してしまったが、玄楽は天才依姫の父親、こういうことは造作も無いのだろうと無理矢理納得した。

 シンの疑問に答えるでもなく玄楽は叫ぶ。

 

「今からこの都市の外周を三周回れ!!いいか、能力は使わず四時間経つまでに走り終われ!妖怪やらの心配はしなくても良い!走ることに集中しろ!」

「…は?」

 

 シン達は耳を疑った。

 都市は巨大であり、その外周を周ろうと思うと一日は費やす。

 だが、ヴェノムを纏えば余裕だろうと考えていると。

 

「シンはその生身の状態で行け!」

「…マジか」

 

 玄楽はかなりスパルタのようだ。

 少し絶望するが、それでも身体能力は高いのでギリギリ間に合うだろう、そうシンは考えていた。

 しかし、その希望も虚しく打ち砕かれる。

 

「シン、お前はヴェノム無しの身体能力にすることは出来るか?」

「出来るか?」

<…出来る>

「出来るらしいが…まさかお前…」

「ああ、やれ」

 

 どうやら慈悲もないようだ。

 諦めて身体能力を普通にするようヴェノムに頼む。

 恐らくバレないように使っても、玄楽にバレるだろう、そう確信するほどにはシンは玄楽を認めていた。

 体の力が抜け、弱体化しているのが分かる。

 他の門下生が俺のことを笑い、依姫が心配そうな目でシンを見たが無視した。

 

「じゃあ、行くぞ!よーいッ!スタァーートォ!!」

「はっ!?っおい!」

 

 唐突にスタートを下され、シン達や門下生は走り出す。

 だが、門下生ぐらいならーーー

 

 そんな一条の希望すら無い。

 その速度が異常なのだ。

 他の人は韋駄天のような速度で駆け出し、依姫に至っては、正に弾丸だった。

 

「ざっけんなよ…!」

 

 シンはもう点になった人々。

 普通に走っても間に合わないだろう、そう感じたシンは初っ端から全速力で走った。

 

◆◆

 

 走り出して一分、もうすでにシンの息は上がっていた。

 全力疾走ならば十数秒持てばいいほうだが、もう背も見えない依姫のことを思うと、あの時の悔しさが蘇り、意地で全力疾走を保っていた。

 視界の端に何度も玄楽の姿が見える、正直気持ち悪い、まるで()()()()()()()かのように音沙汰もなく現れる。

 そんな存在に無性に腹が立った。

 

◆◆

 

 走り出してから、三十分が過ぎた。

 脇腹が痛く、腕を振る肩、足も痛い。

 依姫との距離が空いていることを自覚しながらただひたすらに走った。

 諦める訳には行かない、ここで諦めたら打倒依姫など夢のまた夢だと、己を鼓舞して走る。

 さらにヴェノムもシンを鼓舞してくれている、もっと早く走らなければ。

 

◆◆

 

 二時間、まだ一周の印である門番も見えず、文字通り血反吐を吐きながら走った。

 ヴェノムは心配そうな声を上げるが、シンはその声に応えることは出来なく、走ることにだけ集中していた。

 すると、門番の姿が見える、シンはやっと一周を迎えたことを喜んだ。

 途端、後ろから草を踏み締める音。

 シンはそれが何かは理解しようとはしなかったが、現実は残酷に状況を教えてくれる。

 依姫だった。

 そう、一周の差がついた。

 追い越された拍子に目と目が合い、彼女は玉のような汗を顔に浮かばせているのを読み取ることが出来た。

 シンは絶望し、もう諦めてもいいのではないか、という想いが頭をよぎり、否定した。

 彼女に勝たなければならない、と…

 

◆◆

 

 最早、時間も分からない。

 ヴェノムが何を言っているか分からない。

 ただ地獄のような胸の苦しみや鉛のような足をひきづる様な感覚を味わいながら、()()()()()()

 もっと早く、速く、疾く…

 喘鳴のような呼吸音が響き、喉から血が噴き出る。

 

◆◆

 

 気付けば依姫と並んでいた。

 ブチブチと筋繊維が千切れていくが気にはならない。

 一周差を巻き返すには、もっとハヤク走らねば。

 さらに()()()()()()

 門番を通り過ぎ、二周目を迎えたが、シンにそれを気付く余裕はなかった。

 

◆◆

 

 前に依姫の、背中が見える、追いつかなくては。

 シンは思考があやふやになり、音もあまり聞こえなくなっていった。

 追い付いた依姫が驚いた表情で何かを言うがよく聞き取れなかった。

 遂に追い抜かしたことについ笑顔を浮かべる。

 乾いた唇が裂け、血が噴き出す。

 門番が見え、通り過ぎる。

 その途端視界が真っ黒になり、地面に倒れ込んだ。

 

 




シンの好感度呼び方
テメェ(敵意)
お前、あんた(普通)
名前呼び(普通以上)

主人公、マトモじゃないのぜ。

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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