東方修羅道   作:おんせんまんじう

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ゆっくりしてネ。


第六十一話 欲求爆発欲望暴走制御不能

…あ…?

 

 視界が水の中の様に、ぼやけている。

 揺蕩いの先に、遍く光が散りばめられていた。

 

 満天の星空。

 

 星月夜が宇宙を舞い、目を焼くほどに燦然と光り輝いている。

 星の光に青黒く染まった大地はまるでトランポリンの様で、巨躯が縦横無尽に駆けている。

 

 世界が廻る、星が廻る。

 夢見心地だ。

 

 駆けて、跳ねて、飛んで。

 地を砕け、空を蹴れ、光の中に身を投じろ。

 

 思い切り力を振るうカタルシスに、()は大きく口を開けて笑いを溢した。

 

あっは…はははは…!!

 

 俺は何をしていたのだろうか。

 何をしに来ていたのだろうか。

 

 諏訪子と戦って、諏訪国に来て、夜這いされて———

 その後寝た、だったか?

 じゃあこれは夢の中か?

 

 地面を踏み締める感触がそれを否定する。

 ふやけた思考で必死に頭を回す、が、脳を埋め尽くす恐悦が思考を全て押し流した。

 

———ああ、そうか

 

 そうだそうだ。

 俺は、大和国に向かっているんだ。

 あれ?大和はどこにあるんだったか。

 いや、諏訪子が言っていたじゃないか。

 

 確かに聞いた、敵国は何処だ、と。

 諏訪子は言った、この方角の先だと。

 

 行っても良いのだったか?

 それは聞いていないから分からない。

 

 ヴェノムはなんて言っていたっけ?

 

………あー…?

 

 思考が頭の隅の隅にあって、手を伸ばしても届きそうにない。

 手のひらは黒い、いつもより高いところから物が見える。

 ヴェノムがすぐ側に居る。

 

 ヴェノム?

 

 おかしいな、ヴェノムを纏っているのに、反応が無い。

 寝ているのか?

 なんで俺は寝ていないんだ?

 

…まぁ…いいか

 

 楽しい、アトラクションに乗っている様で。

 ワクワクしている、その先に待つ物を期待して。

 胸が躍っている、身体全体で踊っている。

 

 俺がここに居る理由とか。

 ヴェノムが反応してない事とか。

 どうでもいい。

 

 楽しければそれでいい。

 戦えれば、それでいいんだよ。

 

◆◆

 

「それでよ、あいつこう言ったんだよ、『我はここ一番の侍ぞ』ってよ、そっからは切った張ったよ」

「なかなか面白いことになってたんだな、お前が解決したのか?」

「いや、陰陽衆がやってきてな、すぐに終息だ、あいつらもなかなかやるぜ」

 

 ここは大和国、その矢倉。

 大和国が誇る重厚な板戸門の上で、二人の若い男が談笑していた。

 

 軽く5mは超える入り口だ、門を開ける時は最低5人は必要なほど重い。

 男には理屈はよく分からないが、神様が出入りする時は特殊な法陣によって一人でに開くらしい。

 それ以外は手動で開ける必要があるが。

 

 こんな夜中に来客が来る訳もなく、妖怪もそうそう寄ってこない。

 彼らは気を抜いて話に花を咲かせていた。

 

 だが、その会話は不意に途切れる。

 彼らのうちの一人が闇夜の中で何かを捉えたのだ。

 

「…?…おい、何か居るぞ」

「なんだ?来客か?」

 

 声を潜め、二人は目を凝らす。

 仮眠を取っている同僚の元へ向かうべきか思案しながら、闇の先を見つめた。

 

 そして、気付く。

 

 見えなさ過ぎる。

 

「…今すぐ寝ている奴らを叩き起こして、陰陽衆か呪術師を呼んでくれ」

「…あいよ、死ぬなよ?」

 

 夜の闇に溶け込むほどの漆黒の姿。

 どう考えても常人のそれではない。

 

 そして、聖なる神の力に溢れる大和国に近付いてくるという事実。

 低級の妖怪は本能からこの地に近付こうとはしない、つまり目の前のモノは、少なくとも中級妖怪以上。

 まず間違い無く自我と理性を持った妖怪であると見て良い。

 

 神の印が編み込まれた門を突破する事は出来ないだろうが、目の前で相対する門番にとっては、死に近付く蛮勇だ。

 

「止まれぃ!そこの者!何ゆえこの地に足を踏み入れる!?」

…強い、奴を、出せ

「所属と名を名乗れ!さもなければ其方を妖と見なす!」

強い奴を!出せェ!!

 

 咆哮に似た叫び。

 雲の隙間から月光が差し込み。、巨大な白の瞳と生え揃った牙がぬらぬらと反射した。

 

 矢倉から見下ろしているのに、巨きい、思わずその巨きさに見上げてしまう。

 全身を覆うのは、仕事柄よく身に受ける、強者の圧。

 肌がひりついて鳥肌が止まらない。

 

 それでも、大国の門番というプライドが降伏を許さない。

 必死に体内で霊力を回し、震える唇で雄叫びを上げた。

 

「…!!…うっ、うぉおおお!!」

 

 霊力弾。

 

 男は人間の中でも、霊力が扱える数少ないうちの一人だった。

 門番という重要な仕事を任されたのも、それゆえだ。

 名だたる神々からすればゴミみたいな物だが、妖怪を退治するには充分。

 

 岩を破壊する程の威力、半ば願う様に放ち、着弾したソレは———

 

良い威力…期待が持てるな…!

 

 砂塵が舞い、乱反射する月光によって巨躯の輪郭が影となって揺れている。

 渾身の霊力弾は、防御すら、仰け反りすら、反応すらされずにその役目を終えたのだった。

 

 男の胸の奥底から恐怖が這い出てくる。

 

次は、俺の番だ

 

 悲鳴というべきか、絶叫というべきか、恐れに染まった声を漏らす前に、巨躯の影は掻き消えた。

 瞬間、耳を劈く破砕音と共に足場が崩れ落ちる。

 

 体が強張り、身動き出来ずに落ちていく彼の目玉が捉えたのは、空高く吹き飛ぶ大門の姿だった。

 

◆◆

 

 崩れる矢倉を背に、俺は歩き出す。

 内と外を徹底的に隔てる、見上げる程に巨大な門、威厳すら感じたが、拳一つで破壊出来てしまった。

 

 真後ろには門番の一人が居る、崩壊に呑まれても、死んだわけじゃない。

 態々瓦礫をひっくり返して喰う意味も無く、俺は何処に向かおうか思案しながら歩を進めた。

 

 その時。

 

 カンカンカン、背後からけたたましい程に五月蝿い金属音。

 これは拍子木、だったか。

 門番が力を振り絞り、警戒を知らせる合図を打ち鳴らしているのだ。

 

 だが、好都合。

 

 これは、火だ。

 虫どもを誘き寄せる赤い誘惑。

 

 小粒で腹の足しにもならないだろうが、構わない。

 最低レベルを知れば、この後の楽しみにも期待が持てると言うものだ。

 

「出会え!出会え!妖怪だ!」

…!

 

 ほら見たことか。

 灯火を持った男を先導に、十数人の人間がわらわらと湧いてくる。

 

 胴にも手足にも鉄を着込んだ男も居れば、儀式服を纏った男も居る。

 武器は槍持ちが大半、無手の儀式服が数人。

 

 統率が取れた動き。

 あっという間に四方を囲まれ、前衛後衛に分かれて俺を狙う。

 

 一人に対する攻撃体制としては大掛かりと言わざるを得ないが、背後の崩れ落ちた門がリンチの油断を消し去っている。

 俺を見る目は、恐怖か、敵意か。

 

悪くない

 

 突き刺す視線が、この俺を見る目が、心地良い。

 身体中に走るピリピリとした何かが抑えられない。

 

「刺せェ!!」

「ぉオオオーーーッ!!」

 

 ある一人が、腹の底から叫ぶ。

 それを皮切りに、四方八方から槍が突き刺さり———

 

「なっ!さ、刺さらない!?」

…ふん

 

 そう、刺さらない。

 腹、脇腹、背中、足、急所に至る全てにおいて、刃が通っていない。

 それどころか超高密度の筋肉によって、穂先が弾性座屈を起こしてしまう事態。

 

 すぐさま猿叫の如き号令が響く。

 

「っおっ!陰陽衆!!援護!!」

「臨兵闘者皆陣列在前!『結』!」

 

 四方から複数人の詠唱、足元に五芒星の光。

 瞬間、全方向から質量を持った空気が襲う、まるでその場に縫い付けられたかの様に、指ひとつ動かせない。

 正直、指圧マッサージみたいなものだが。

 

「『破』ァ!!」

んっ…!

 

 瞬間、肺の中が空になる、次いで身体全体を油圧プレスで押し潰されそうな感覚。

 見えない壁に潰されていると言い換えても良い、息を吸うのが少し苦しい。

 だが、先の圧力拘束とは違い、これはある程度指向性がある。

 俺を押し潰さんと唸る圧力の先には、儀式服の陰陽衆とか言う連中。

 

 元々、この技は仮想の質量で敵を押し飛ばす物なのだろう。

 しかし、敵を挟めば圧死を成す即死技。

 

 つまりこれは…四方から圧殺攻撃、総数は…八面。

 

…次は、こっちの番だな

 

 この程度、恐るるに足らず。

 

ふんっ!!

 

 筋肉の結合を崩し、半液状化。

 生まれた僅かな隙間を縫って地面に拳を突き出し、ドリルの様に地中を掘り進む。

 

「消えたぞ!?陰陽衆は何をやっている!」

「何処だ!!」

「分からぬ!彼奴は何処へ!?」

 

 足音、怒号、地中からなら良く聞こえる。

 どいつもこいつも、位置が丸わかりだ。

 まるで、喰ってくれと誘っている様ではないか。

 

 俺は地中から思い切り腕を突き出し、一人の男の足を掴んだ。

 

「ぬっ、うっ、ぉおっ!?」

 

 地面から這い出、男をそのまま持ち上げる。

 夜の光が、脂汗に塗れた男の顔をぬらぬらと照らしている。

 俺の手によって吊らされた男は、まるで死刑を待つ囚人。

 

油ばかり乗った、クズ肉共が…

 

 ビュッフェ、食い放題、バイキング、沢山の皿の上には小ぶりな肉共。

 まだだ、一口目にはまだ特別さが足りない。

 

がァっ!!

「うわぁぁあ!?」

「ばっ、化け物!ばけもっ——ぶふぁっ!?」

 

 タオルを払う様に、ドレスをはためかす様に、男を振り回す。

 

 それだけ、たったそれだけ。

 俺のワンアクションひとつで、十数人居た部隊は壊滅した。

 陰陽衆とか言う奴らも、鎧を着込んだ屈強な男も、気付けば全員が地面に伏していた。

 

 足を掴んでいた男も、至る所の骨が折れ、頭の穴という穴から血を吹いている。

 頑丈な事に、息は辛うじてあるようだ。

 

 俺は乱雑にそれを投げ捨て、息を吐いた。

 

足りねぇなぁ、全然足りねぇ

 

 体の奥深くから溢れる衝動は治まる気配が無い。

 今の戦闘で満ちる所か、むしろ溢れんばかりに暴れる始末。

 

 口からマグマを吐き出すかの如く、俺は怒号を上げた。

 

もっと強い奴は!!何処だァ!!

 

◆◆

 

 気配一つない街、そこに轟音が響き渡る。

 夜の闇という名のベール、それを邪魔だと言わんばかりに俺は豪快に走り回っていた。

 

ガァアアアアッ!!

 

 進路の目の前にあるもの全てを破壊して、街の中心だろう場所へ向かう、方角は知らないが、どんどん家の外観が豪華になっている所へ向かえば良い。

 人の気配は無い、避難したのか知らないが、どうでもいい。

 破壊のカタルシス程度では収まらない、戦いが、殴り合いが無ければ!

 

 ぶつけさせてくれ!

 この欲求を!殴り殴られる快感を!!この心臓を弾けさせてくれ!!

 

出てこぉおおいっ!!強ぇ奴ぁ大歓迎だァ!!アハハハハ!!

 

 俺より強い奴は!?

 アイツは!アイツは居ないのか!?

 

依姫!何処にいるんだ依姫ぇえ!!

 

 俺の目標!俺の好敵手!!あの強情女を超える!もう超えたんだっけ!?

 ああああ!!脳みそがかき混ぜられてるみたいに不快だ!!

 頭の中が爆発しそうだ!吐き出さないと!!

 

 ボルテージは加速度的に増加していく、燻り続けた焔が、油をドバドバ投下させて激しく燃え上がっている。

 

ッオォオオオオオオッ!!!

 

 ただひたすらに吠える。

 俺はここに居るぞと、強者を呼び寄せる鬨の声を上げる。

 

 その願いは遂に、果たされる。

 

ッ!?

 

 刹那、空気が軋む重低音。

 

 ———『何か』が風を切り、超スピードで飛来している

 

 知覚と同時にその場を飛び退くと、すぐそこに『何か』が着弾した。

 

くは…っ…!

 

 巻き上がる砂塵に顔を覆い、その先を睨み付ける。

 煙のカーテンの奥に鎮座する、ご馳走を。

 

「…貴様が、この都市に侵入した化け物だな?」

 

 女だ、しかし声質は力強い。

 月光が砂煙の中のシルエットを写している。

 背の高い女と…何本かの棒状の物体。

 

丁度いい…食い出がありそうだ…!!

 

 感じる気配は神々しく、のし掛かる重圧は重々しい。

 諏訪子と殆ど同様の圧力、神のプレッシャー。

 

 嗚呼、嗚呼!

 諏訪子の言っていた言葉は本当だった!

 

 『私以上なのは、最低でも二柱』

 その一つ目がこれか!?

 

 最高だ。

 胸が躍る、高鳴る。

 今にも歌い出したい気分だ。

 

「我が名は八坂神奈子、この大和国を守護する風雨の神、いざ———」

 

 煙が晴れ、彼女の姿が顕になる。

 麗しく紫がかった青髪のセミロング、背後に巨大な柱が数本。

 だが容姿は関係無い、内包された力にしか興味は無い。

 

 早く、早く始めよう。

 

「参る」

 

 メインディッシュの時間だ。




ご拝読ありがとうございますなのぜ。
いや急襲するのお前かーい。

登場人物紹介っている?

  • やってくれ 必要だろ(いる)
  • それは雑魚の思考だ(いらない)
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