奴隷にしっかり言い聞かせておくのぜ。
それはそうとゆっくりしていってね!
依姫との二度目の試合から数日が経った。
走って、試合をして、敗れる。
剣を撃ち合い競り勝ちながら受け流されを繰り返し、学習しても依姫はシン達を上回り。
そうして勝負の合計は、千回以上に昇っていた。
ーーーそして同時に、シン達は依姫に未だ一度も勝つことが出来ていなかった。
そうやってしばし憂鬱な気分に陥っていたある日、シン達は相変わらず依姫に何度も喧嘩を売っていた。
勿論そんな状態で勝てる筈も無く、幾度も竹刀で体をしばかれて地面に倒れ伏す。
「大丈夫ですか…?」
少し心配した様な顔持ちでこちらの瞳を見詰め、手を差し出す依姫。
「…当たり前だ、もう一度やるぞ」
「ファイトだ!なんならチアガールでもやってやろうか?」
「うっせぇぞヴェノム」
そんなやり取りを間近で見ていた依姫は差し出した手はそのままに、クスクスと笑う。
そして、窓の方向を指差して言った。
「ふふっ…仲が良いんですね、でももう夕暮れ時ですよ?そろそろお開きにしませんか?」
「むっ、もうそんな時間か…」
指差した方向からは燃えんばかりにオレンジ色の光が差し込んでいる。
帰りの支度を始める門下生も見られ、シン達は依姫の言う通り、名残惜しいがここいらが潮時だと感じた。
少し残念そうに竹刀をしまうシンだったが、その瞬間。
傍観に徹していた玄楽が全員にあることを語った。
「聞け、明日は休日だ、ストレス発散するなり出掛けるなりなんでもして来い」
「…はぁ?」
告げられた内容は、明日は休日だという事。
唐突に休みを告げられても、することもないし、むしろ修行して一刻も早く依姫を超えたい。
シン達とは反対に喜色を浮かばせた門下生の皆が寮へ帰り、休日はどうするか思案に耽っていたところ、玄楽から声を掛けられた。
「シン、八意殿から休日に医務室へ来るように、と言う伝言を預かっている、いつでも来ていいとのことだから、準備ができたたら行くといい」
…どうやら用事ができた様だ。
はて、何が望みだろうか、いつかになんでも言ってくれと大言を溢してしまっているので、冷や汗がタラリと落ちた。
人体実験だろうか…そう恐れながら寮へ行き、一日を終えた。
◆◆
翌日、食堂で軽く食事を済ませたシンは重い足取りながらも地図を片手に道場を出た。
コンクリートの地面を踏み締め、一度体験した道だからか、軽快に永琳の医務室への道を辿っていく。
その道すがら、依姫、そして隣に歩く全周につばのついた白い帽子を被る金髪の少女にばったり出会った。
依姫はどうやら私服のようで、半袖で襟の広い白シャツのようなものの上に、右肩側だけ肩紐のある、赤いサロペットスカートのような物を着ており、腰に斜めに巻いているベルトのバックル部分には、剣の紋章があしらってあった。
妙にお洒落である。
そして、もう一人は長袖で襟の広い白いシャツのようなものの上に、左肩側だけ肩紐のある、青いサロペットスカートのような物を着ており、腰に斜めに巻いているベルトのバックル部分には、鏡と思われる紋章があしらってあった。
依姫と対照的な奴だ、それが第一印象だった。
依姫はこちらを見るなり慌ただしく挨拶した。
「あっ!シ、シンさんおはようございます!?」
「あ、ああ…おはよう、隣のあんたは誰だ…?」
「…?」
隣の少女はきょとんとした顔でシンを見るが、やがて何かに気がついたのか、ニヤニヤとした表情でシンをを横目で見て言った。
「もしかして…彼氏!?」
「ちっちがっ、違います!!」
彼女は林檎のように紅潮した顔を見て、ニヤニヤとした顔から一変、大輪の花のように笑顔を浮かべ笑った。
「あははは!!図星じゃな〜い!?今日は赤飯よ〜!」
「だ〜か〜ら〜!違いますって〜ッ!!」
依姫は腕まで赤く染まった手で少女をポカポカと叩いていた。
ーーーあぁ、面倒臭い奴が来た。
大声によって通りの人の視線が集中する中で、対面しているシンはこの惨状を見て、そう悟りを開いていた。
<前々から思ってたけどな…お前随分と好かれてんだなぁ?>
「はぁ〜………」
兆候は感じていた、ご飯のお裾分けや食堂で隣に座られたことなどだ、しかしそれをただ認めたく無かっただけで。
正直なところ、依姫のような美少女に好かれるのは吝かではない、むしろ歓迎だ。
ただシンが打倒すべき敵と認識しているせいか、恋愛感情を向けることは出来なかった。
とりあえずシンは、今目の前で起こった出来事を無視しつつ、もう一度尋ねた。
「あー…盛り上がっているところ悪いが、あんたの名前は?」
「あら、豊姫よ、綿月豊姫、貴方達のことは依姫から聞いているわ、よろしくシン、ヴェノム」
「よろしく」
「おう!」
シンとヴェノムは握手に応じながら、依姫と豊姫について考えていた。
成程、依姫の姉妹か、先程のやりとりやこの距離感の近さも納得出来る。
しかし、堅物の依姫の姉妹となると、更に頑固な堅物だと思っていたが、こうも対面すると天真爛漫な性格で依姫の性格とは真反対であった。
そこで依姫が豊姫を叩くのを中断し、慌てて口を開いた。
「ちっ違いますからねッ!別に貴方が好きとかそう言うのとかじゃなくて…そう!修行仲間…?いえ、友達として好きと言うことですからねッ!!loveではなくlikeです!!!」
依姫は林檎顔のまま、最早自分に言い聞かせているのではないかという程の気迫で訂正を促した。
かなりの大声だったので、更に視線が集まり、その中には微笑ましいものを見ているような、優しい瞳を向ける者までいた。
自分で墓穴を掘り、更に大衆の面前で暴露するように言った依姫が哀れに思え、挨拶もそこそこにその場を立ち去ろうとした。
しかし、腕を引き留められるような感覚を味わい、後ろを見る。
そこには豊姫が迫ってきており、そのままの勢いで耳元まで接近し、あることを呟いた。
「依姫を不幸にしちゃダメよ」
そばにいた依姫にも聞こえないほど小さく発せられたその言葉に、俺は努力する、と返し、今度こそその場を後にする。
「姉さん!彼に何を言ったの!?」
「ふふふ♪さぁね〜」
後ろからそんな声が聞こえ、温かい視線も霧散し、シンは永琳のいるだろう医務室へ向かった。
◆◆
今度は何事もなく永琳の医務室へ到着出来た。
殺風景なほど真っ白な通路をコツコツと歩き、医務室のドアを開けた。
「あら、待っていたわよ」
「単刀直入に言う、なんで俺達を呼んだ?」
「もう少し愛想良くした方がモテるわよ?」
「うるせぇ」
永琳は椅子に座り、初対面の時とは違い、白衣ではなく、青と赤から成るツートンカラーの服を着用し、更に上の服は右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆という、奇妙な配色をしていた。
永琳はシンの質問を軽く受け流すが、本題に入った。
「ここに来て貰ったのは他でもない、かっこよくて逞しいヴェノム、引いては貴方の研究をするためよ」
「…やっぱりか」
「体を弄られるのは癪だが、そこまで言うなら手伝ってやろう」
ヴェノム、チョロいぞ…そんなことを思ったらヴェノムが頭を出し、頭突きをした。
何故だかデジャブを感じた。
永琳はそんなシン達を横目に、ある薬を差し出した。
「これはなんだ…?」
「これはーーーー」
◆◆
実験が終わったのは数時間後してからだった。
昼も飯を貰い、食事中も検査をされた。
とは言え、お陰で様々なことを知れた。
ヴェノムが他の生物、特に人間に共生しようと思うと、適応せず死んでしまうことが多いこと。
ヴェノムは宿主に応じて能力が変化すること。
本来、シンビオートと共生したら攻撃的な性格になることetc
そしてこの一時間、永琳はずっと実験を繰り返していた。
横顔からは真剣な表情が見え隠れし、その瞳からは貪欲な知識欲を感じられた。
三十分程前から顕微鏡を覗いたり、薬品を加えていたりしていた永琳は、はぁ…と、溜息を吐き、俺にあることを尋ねた。
「貴方、
「はぁ?…今のところ無いが…唐突にどうした?」
「そもそも今の時点で人間では無いだろう?」
永琳はヴェノムの指摘を華麗に無視し、顕微鏡で覗いていたモノをビーカーに移して言った。
「今作ったモノはヴェノムの弱点である超音波や熱に耐性を付けてみようと試作したモノなのだけれどもね…失敗して少し性質がおかしくなって…」
「なんだと!?飲ませろ!!」
「落ち着け、ヴェノム…で?何が失敗してどう変化したんだ?」
自身の弱点が無くなる可能性があると知り、ヴェノムが頭を永琳に詰め寄るが、シンがそれを制止し、永琳に尋ねた。
「えーと、ね…まず熱、音波耐性付与自体がなくなって、しかも飲んだら二度とヴェノムと離れられないわ」
「つまり、一生頭の中にヴェノムが住み続けるってことか…」
「二つ目に体がスライムみたいになるわ」
「…」
俺の頭に黒いスライムでずっと森を彷徨う姿が思い浮かんだ。
目線が低く、べちゃべちゃと体を引きずり、誰にも受け入れられない…想像しただけで体が震えた。
永琳は続けて言う。
「要はヴェノムがそのまま人間になったような物よ、腕を切断してもくっ付く、そんなことが出来るようになるわ」
良かった、危うく正真正銘の化け物になるところだった。
「最後に三つ目、不老になるわ」
「…は?」
「ほう?」
耳を疑う一言が聞こえた、不老?
ヴェノムが興味深そうに身を乗り出し、永琳を睨む。
「ヴェノム自体がかなり長命な生物みたいでね、適合性の高い貴方が…そうね、仮に同化と呼びましょうか、同化するとそれこそ不老に近い寿命を得るのよ」
「成程な…」
「良いじゃねぇか!!」
ヴェノムは歓喜し、口を開けて笑うが、シンはあまり気が進まないようだった。
少し考える仕草をしたシンはこう答えた。
「…保留だ、今は決められない…だが、それを貰ってもいいか?」
「いいわよ、賞味期限は無いし、保存方法も適当でいいわ」
「助かる」
正直人間を止めるのは吝かだ。
ヴェノムは賛成のようだがシンは違う、決断は今すぐする必要は無い。
腐るわけではなさそうなので容器に入れて、ポケットに突っ込んだ。
「…これで終わりか…?」
「まだまだあるわよ、ざっと五十個ぐらい」
「マジかよ…」
シン達は頬が引き攣り、なんでもなんて言わないほうが良かったと思った。
数時間後、永琳はニコニコホクホクと満足したような顔で、反対にシン達はげっそりとした表情だったというそうな。
ご拝読、ありがとうなのぜ。
ベルルー様、評価☆9ありがとうなのぜ。
あぁ^〜たまらねぇぜ!なのぜ。
登場人物紹介っている?
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やってくれ 必要だろ(いる)
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それは雑魚の思考だ(いらない)