Fate/summoning Fake 〜fgo鯖とオリマスターの聖杯戦争   作:堕落侍

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2019年に書いた小説の再掲。
マシュというより、SNの没シールダーのイメージです。
当時のまま掲載しているので、設定の矛盾はスルーしてください。


藤丸立香×シールダー&カドック×キャスター

 空を仰ぐ。

 何処までも澄み切った青は、僅かたりとも穢れることを許さない。

 世界に穢れなき物なんて一つもないんだ、と俺に話してくれたのは誰だったっけ。

 穢れを知らぬ故に、穢れだらけの地上に降りてくることも出来ないそれは、未だ空気の味を知らぬ腹の中の胎児のようで。

 ただ、求められた通りに行動するだけの機械のようでもあった。

 

 

 藤丸立香。それが平凡な俺を象徴する、平凡な名前だった。

 女みたいな名前だな、とは聞き飽きるほど言われてきたが、俺自身は両親が与えてくれたこの名前を気に入っていた。

 フジマル、リツカ。

 なんとなくその名を声に出してみる。

 キレの良いその単語は、名を二つに分けることで更に別々の意味を持つかのようだ。

 丸っこくもさっぱりしたフジマルと、洒落ていながらも芯のあるリツカ。

 俺はその名前を、俺ではない誰かに口にしてもらうのが好きだった。

 

 それにしても、今日は驚くほどの快晴だ。

 学校から帰宅する途中、俺はふと歩みを止めて空を見上げた。

 何気なしに空に向かって手を伸ばし、その物理的な距離の遠さに思わず苦笑する。

 手のひらの上の青空は、俺の手の上で完結することなく何処までも広がっていく。

 そんなイメージを頭の中で広げている途中、俺はその異物に気がついた。

 

 右手の甲。

 そこに、朝までは確かに存在しなかった筈の痣が浮かび上がっていた。

 

 痣ができてしまったと言うよりは、痣があるべき場所に刻まれたというフレーズの方が似合うのではないかと思われるほどの存在感。

 痛みはない。何処かでぶつけた記憶もない。

 おかしなこともあるものだなとは思いながらも、痣なんて学生なら誰でもできるものかと、その時の俺はあまり気にすることもなかった。

 

 

 その後何事もなく帰宅した俺は、まず制服から普段着に着替え、今日の授業の内容を忘れないうちに復習し、母が作ってくれた晩御飯をかき込み、父や兄とテレビを見て団欒の時間を過ごし、いつの間にやら妹が入れてくれていた風呂に入って明日のことを考えていた。

 何か意味があるようで、何の変化もない毎日。

 誰に犯されることもない、他人からすればその価値もない普通の日常。

 ……その普遍的で愛おしい日常がその日のうちにたやすく砕かれてしまうだなんて、そんな悪夢に一体誰が気付けるというのか。

 当然その時の俺はそんな悪夢を少しもイメージすることはなく、ただ終わりかけた今日を背に、明日も続くであろう日常を想像するばかりだった。

 

 

 風呂からあがったあと、俺は学校の部室に財布を忘れたことを思い出した。

 時間は9時半。校舎の鍵が開いているかは分からないが、部室の鍵は手の中にある。

 最悪学校自体が閉まっていても、何処からか壁を乗り越えて学校内に侵入しよう、などと我ながらなかなかチャレンジャーなことを考えていた。

 今思うと普段はできる限り危険を避ける俺が、いくら財布を忘れたとはいえ何故危険を冒してまで学校へ侵入しようと思ったのか、それが分からない。

 ただ、敢えてそれを言葉にするならば、そのあとに起きたことも含めて運命としか捉えようがない。

 

 正門は閉じられていなかった。

 だが、夜にそびえ立つ学校は昼間とは違い全てのものを拒絶しているかのように見えて、その昼夜の変化が俺に少しだけ恐怖を与えた。

 いや。その時の学校は、確かに来るものを拒んでいたのだろう。

 正門を抜けると、なんだか妙な感じがした。

 それは魔術師が張った結界だと後から聞かされたのだが、そんなことを一般人の俺が知るはずもなく。

 俺は、常識の裏側にある夜の闇へと引き寄せられていった。

 

 ***

 

 無防備で学校へと入っていく藤丸の気配を、屋上から捉える二つの影があった。

 一人は気怠げながらも好戦的な様子で、もう一人は氷のような冷たさで。

 運悪く魔術師たちの世界に足を踏み入れてしまった、一般人の運命を哀れんでいた。

 

「……キャスター」

 

「えぇ、私も気付いています。

 貴方の張った結界、ちゃんと作動しているらしいわね」

 

「……平凡とは言え、僕は魔術師だ。

 いや……平凡だからこそ、僕は小細工抜きでは勝ちぬけない。

 ならば結界だとか、そういった仕掛けに力を入れるのは当然だろ」

 

「そうね、貴方の努力は私も認めています。

 それで、結界の内側に入ってきた子はどうするの? 

 あくまで一般人みたいだけれど」

 

「いや……あの男、令呪を宿しているみたいだ。

 それを隠しもせず僕の陣地に入ってくるなんて、よっぽどの自信家か、それとも哀れな素人か……。

 どちらにせよ、あいつが令呪を持っているならやるべきことは一つだ」

 

「分かりました、それなら私はマスターの指示で動きましょう。

 それにしても、契約を結んで初めてのマスター戦ね? 

 早速お手並み拝見と行きましょうか、カドック」

 

 キャスターと呼ばれた少女が姿を消す。

 言わずもがな、それはサーヴァントの霊体化だ。

 カドックはキャスターが背景に溶け込んだのを確認してから何気なしに空を見上げ、キャスターにも聞こえないような声で呟いた。

 

「……今日はまた、えらく天気が悪いな」

 

 ***

 

 一撃目が、致命傷だった。

 俺に何が起きたかさえ分からぬまま、俺は後方へ吹っ飛ばされた。

 ただ俺の知らない何らかの力で、俺が顔も分からぬ何者かに襲撃された事だけは分かる。

 不可能を可能にする、常識の定型を最初から作り直すかのような力。

 それはまるで、御伽噺の魔法のようで。

 

「魔法……だなんて、僕を馬鹿にしてるのか? 

 僕が何かを為して評価されることもなく、根源に挑戦する資格さえ持たない魔術師だって」

 

「ま……じゅつ……?」

 

 魔法と魔術、何が違うのかは分からない。

 少なくとも俺には、その魔術とやらが俺を死へと叩き落とす手段である事しか理解できない。

 

「あんた、本当に素人か。

 サーヴァントも連れ歩かず……

 いや、そもそもサーヴァントの召喚すら成し得ていないのか? 

 ……それは、災難だったな。

 まあ、運がなかったと諦めてくれ」

 

 倒れた俺を見下してきたのは、白髪の青年だった。

 俺と同じくらいの歳で、俺と同じくらいの背丈。

 けれど力の差は圧倒的。

 その瞳からは、人を殺すことへの戸惑いが感じられない。

 けれど力に溺れるタイプでもないようで、目の下にある酷い隈からは、彼がマジュツとやらの習得に並ならぬ努力を重ねて来たことが読み取れた。

 

 つまり、油断も隙もないって訳だ。

 

 今の彼の言葉からは、彼自身のマジュツの腕に自信がないことが読み取れる。

 けれど、そのマジュツは少なくとも無抵抗な一般人を殺すのに全く問題はない。

 それに加えて彼は『自分が未熟』だと理解しているからこそ、自分の力の上で胡座をかくタイプでもないらしい。

 むしろ一般人相手でも手を抜かず、幾重にも罠を張って相手を慎重に追い詰める。

 結局のところ俺に勝ち目なんてなかったし、生きたままこの場所から逃げ切る可能性も0に等しかった。

 だからこそ、俺は今冷静に相手の能力を思考しているのだろう。

 これは命を脅かされた者の悪足掻きですらない。絶対的な死の兆候に対する、ただの諦めだ。

 

 それなのに。

 俺はその日、運命に出会ってしまった。

 そして白髪の青年の襲撃が突然のものならば、運命の乱入もまた突然だった。

 

「うぁぁあああああ!!」

 

「っ!? なんだ!?」

 

「マスター! 

 サーヴァントよ、一旦引きなさい!」

 

「くっ……!」

 

 舌打ちをして、青年が姿を消す。

 声がした方へと振り向けば、その影を追って少女が一心不乱に盾を振り回していた。

 どう見ても俺を助けに来た様子ではなく、ただ目の前にあるものを壊そうと暴れ回る死神のようにすら感じる。

 けれどその少女の目には、決して癒えぬ悲しみと寂しさと、捨てられた子犬のような臆病さが隠れているような気がした。

 

「君……って、こっちに来る!? 

 ちょっ、待って!」

 

「お願い……! 

 マスターはみんな死んで──!」

 

 泣きながら俺に死ねと懇願してくる少女から距離を取るために全速力で逃げるが、驚くことに全く距離は縮まない。

 それどころか、少女はあの非常に重たそうな盾を振り回しているにも関わらず、有り得ないスピードで俺に迫ってきていた。

 

 目の前のガラスを割って、校舎の中に飛び込む。

 死の音は、すぐ背後に近付いていた。

 

 火事場の馬鹿力とでも言うのか、今までの人生の中でなら明らかに最速であろうスピードで廊下を駆けていく。

 流石に校舎の中では盾がネックになるらしく、ほんの僅かだけ少女が動きを止めた。

 

 しめた……! 

 

 それを確認してから俺は二階へと上がる階段を駆け上った。

 ……そう、思った。心だけは。

 

「…………っ!」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……! 

 でも、私は──!!」

 

 少女が盾を振り上げる。

 それを見た瞬間、あぁこれは助からないな、と思った。

 だが、結果としてその盾が俺に振り下ろされることはなかった。

 

「…………あ」

 

「な…………」

 

 そのか細い声を耳にすると同時に、妙な気配の消失を感じた。

 固まった身体を無理に動かし振り返ると、少女が力を失い、今まさに階段から落ちようとしていたのだ。

 

 危ない。最初にそう思った。

 

 何故だかは分からない。

 先程まで俺を殺そうと追跡してきた相手にさえ、俺は手を伸ばさずにはいられなかった。

 

「くそ…………!」

 

 思うように動いてくれない身体をそれでも何とか動かし、間一髪で少女の手を握る。

 その少女の手は、人間としては有り得ぬほどに冷たかった。

 

 盾が階段の下へ落ちる音を聞きながら、俺は少女を階段の上へと運んだ。

 だが、少女はもう意識を失っているようだった。

 彼女にできるのは、悪夢を見ている時みたいに僅かに唇を動かして言葉を零すだけ。

 少女をそっと寝かせてから、俺はスマホを取り出して電源を入れた。

 

「取り敢えず救急車……! 

 彼女の様子は、ええと……」

 

 少女の容態を見るために少女を見下ろすと、そこには常識外れな光景が広がっていた。

 なんと少女が言葉の通り、目の前から消えかかっていたのだ。

 金色の粒子を放出しながら、少女は少しずつ形を失くしていた。

 駄目だ。何がなんだか分からないが、とにかく救急車じゃ間に合わない……! 

 

「答えてくれ、どうすれば君を助けられる」

 

「あな……がマスターな……ら、さいけ……くを……」

 

「何!? 分からないよ! 頼むから、訳わかんないまま俺の前で消えないでくれ! 

 俺はあんたに、聞きたいことが山ほどあるんだ!」

 

「…………手を、握ってくれますか」

 

 少女は辛うじて俺の言葉に反応していたが、その気力も失ったらしく、そう言ったきり言葉を紡ぐことさえ諦めてしまった。

 

「手……? 

 分かった、握るよ。

 だから、生きることを諦めないでくれ……!」

 

 少女に願われるまま、少女の手を両手で握る。

 その瞬間、少女の身体が可憐にぴくりと跳ね、同時に俺の右手の甲にあった痣が熱を持ち始めた。

 

「熱っ……!? 何だ……?」

 

 熱……それに伴う痛みは時間が経つにつれて、だんだん強さを増してくる。

 それでも俺は少女の手を離さなかった。

 俺よりも小さな少女の手を握りつぶしてしまわぬよう、左手が潰れる覚悟で右手の暴走を押さえながら、少女と手を繋ぎ続けた。

 意識が途切れるその時まで、熱に魘される俺の手には、確かに少女の手の冷たさがあったのだ。

 

 ***

 

「起きてください、マスター。

 起きないと殺しますよ」

 

 殺意の高すぎる言葉を投げかけられ、思わず俺は跳ね起きた。

 どれだけ時間が経っただろうか、気がつくと俺は気を失っていたらしい。

 目の前には、ちょこんという擬音が聞こえてきそうな可憐さを纏わせて、先程の少女が座っていた。

 少女の身体の輪郭ははっきりしていて、金色の粒子も見えない。

 助かった……のだろうか? 

 

「マスター、まずは確認を。

 貴方の名前を教えてください」

 

「藤丸立香……

 っていうかマスターって……」

 

「リツカ……先輩、ですか。

 分かりました。では私の真名をお伝えします」

 

「ま、待ってくれ! 何がなんだか……

 真名? は後にしてくれ、取り敢えず今までの戦いの説明をしてくれないか!」

 

「では、私のことはひとまずシールダーと呼んでください」

 

 見た目は外国人だし彼女は本名と偽名の両方を持っているのかもしれないが、良く分からない真名より、今はもっと良く分からない先程の戦いだ。

 少女……シールダーは感情を表に出さないポーカーフェイスだったが、彼女が俺の名前を口にした時、僅かに嬉しそうな表情を浮かべた気がしたのは気のせいだろうか。

 というか先輩とかマスターとか、一体何……? 

 

「あの、では私も先に尋ねたいことがあるのですが。

 どうして私を助けたのですか。

 ……私なんか、あの時に死んでしまえば良かったのに」

 

「死にたい、だなんて言うな。

 目の前で助けを求めている人がいたら、手を差し伸べるのは当然だよ」

 

「……助けを求めていた? 私、が?」

 

「ああ。少なくとも、俺の目にはそう見えた」

 

「……マスター。

 聖杯戦争の前に、一つ伝えなくてはいけないことがあります」

 

 俺の答えに納得したのかそうでないのかは分からないが、シールダーは真面目な表情で俺に向き直った。

 その瞳に一抹の寂しさと、果てのない暗さが宿ったように見えたのもまた、俺の気のせいだろうか。

 シールダーは一呼吸置いてから、相変わらず感情の読めない表情のまま言葉を紡いだ。

 

「私は、マスターを殺しました。

 貴方ではない、貴方よりひとつ前の、マスターを。

 貴方はそれでも、私と共に戦えますか?」

 

 それはすぐに言葉を返すには、あまりに重すぎる一言で。

 マスターというのが何かは分からないし、俺がどんな規模の争いに巻き込まれているのかも分からない。

 けれど、少女が犯した罪の重さは嫌でも理解してしまった。

 要するに、少女は人を殺したと言ったのだ。

 それも恐らく、自分に寄り添う筈だったパートナーのような存在を。

 

 こうして俺の日常はあっけなく崩れ落ちた。

 崩れ落ちた瓦礫の中に、希望が残っているのか、それとも更なる絶望が埋まっているのか。

 それは誰にも分からない。

 

 それでも理解できることが一つ。

 運命の歯車は今、確かに噛み合った。

 

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