IS~暁に浮かぶ白を忘れない~   作:不落閣下

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13――相見える。

 

 先日の浅草さんの見事なパフォーマンスの熱が冷めぬ教室はISの話題、特に技術等の話がちらほらと聞こえてくる程に熱狂的で、次第に近付いてしまったクラス代表戦の話題が浮かぶのも時間の問題だった。女の子のお喋りは引き出しが多いからな。特に最先端を行くIS学園女子なら当たり前なのだろう。……うん、俺は付いていけないなぁ。

 クラスメイトの子たちが言うには、専用機を持っている代表は俺こと一組代表と、あそこで浅草さんにべったりとくっついてお喋りしている小動物を彷彿させる更識さんの四組以外には居ないらしい。そもそも専用機を持つ同級生がクラス数で増えるのも可笑しい事であるし、俺みたいな例外を除いて二百十数台しかないISが同年代の女の子にポンと手渡されるのも不思議な話だ。確か、規則ではこの学園に編入するのは代表候補生と特別編入生、言わばVIPな留学生でしか入る事はできない筈だ。と、なると俺と四組は大変なリードを他のクラスにとって、代表にとって持っている事他ならない訳だ。

 そりゃ、リサーチする子たちは熱心に俺を応援する訳だな。

 ……学食デザートフリーパスが掛かってるんだからな。

 女の子は甘い物に目が無いってのは蘭や鈴から知ってるし、当然の結露ではあるんだがさ。

 

「負けは認められんぞ一夏! 男なら勝利、即ち頂点に立つべきだ!」

「そうですわ一夏さん! 貴方の雄姿をここに!」

「そうだよ織斑君! 皆の期待を背負ってるんだからね!」

「あ、ああ……。気合入れて頑張るさ」

 

 ここまで露骨に応援されると何だかなぁと思ってしまう熱の差だった。

 というか箒はフリーパスではなく本当に勝負事に命掛けてる感じの様子だし、セシリアは何故かやんやんと奇妙な踊りをし始めて胸部装甲が揺れて目に毒だし……。居た堪れなくなった俺はつい視線を逸らし、窓際に見える憂い気な浅草さんへ向いてしまった。浅草さんはぼんやりと更識さんへ相槌しつつも目線は空へ向けていて意気消沈と言った具合に見える。物憂い気な吐息が浅草さんの小さな口から漏れて何処か扇情的に見えて、悩み事があるなら頼って欲しいと思ってしまう。俺は浅草さんの友達のつもりだ。そう、友達なら友人の憂いを払うのも当たり前な事だ。

 ……そうだよな?

 けど、最近心配に思えた重い雰囲気は無くなってるみたいだ。憑き物が晴れたような雰囲気だし、何か憂さ晴らしにできる何かがあったのかな? うーむ、最近は勉強会以外での場で食事の時ぐらいしか話せてないからよく分からんな。気になるっちゃ気になるんだが、何となく聞いちゃいけないような気もするし……。

 

「四組代表はあそこでごろにゃんしてるし、話を聞けば無関心らしいからフリーパスは私たちのものよ!」

 

 谷本さんの力が篭った握り拳が天を指すかの如く持ち上げられ、ついでに豊満なバストも揺れた。そう、俺の目の前での出来事だ。……うん、弾たちにぶん殴られそうだからそれ以上は止めておこう。唯でさえ美味しい思いと社会の波の辛さに立ち会っている俺だ。あいつらから嫉みと同情の念をこれ以上煽るのは拙い。何故か、ニュータイプかの如くあいつら俺が学園で起こったアクシデントを察知するからな。

 

「ふふん、それはどうだかね」

 

 そして、そんな聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと教室のドアへ皆の視線が向いた。クラスの誰もが先程の挑発的な声を聞いたのだろう。俺も其方へ視線が向く。其処にはノースリーブにしようと思って失敗したような、腋が開いている制服を着た小柄な少女――セカンド幼馴染こと凰鈴音、愛称鈴が其処に立っていた。相変わらず身長は小さいようだが育っているらしく、前に見た時と少し目線が違うように見えた。……まぁ、それ以外はあんまり変わってないな、うん。

 

「二組に編入してきた凰鈴音よ。一夏、アンタが一組の代表らしいじゃない?」

「り、鈴か? でも、中国に帰ったんじゃ……。そうか、だから、か」

「ええ、そうよ。私の肩書きは中国代表候補生。久し振りね、一夏」

「ああ、久し振りだな、鈴。元気にしてるようで何よりだ」

 

 久し振りに、二年振りに見る鈴の背格好や口調は変わってなかった。だが、鈴の雰囲気は以前の元気溌剌な学生という其れではなく――大人っぽく格好を付けたが幼児体系な背格好のせいで台無しな感じだった。恐らくながら、一皮剥けて大人っぽくなったのをアピールしようとしたのだろうが、残念ながらその枠は既に浅草さんで手一杯だし、何よりも身長と胸が足りてないのでお子様にしか見えん。

 うん、やっぱりいつもの鈴だった。変わらないなー、色んな意味で

 

「アンタも息災で……、何か不穏な気を感じたけどまぁ、良いわ。積もる話もあるし、昼一緒にしましょ。食堂で待ってるわ」

「ん、そうするか」

「じゃね、一夏。楽しみにしてるわね」

 

 ……あれ、本当にこれ鈴か? 前は友人のノリでの喧嘩口調というか、前衛的な雰囲気だったのに冷静沈着な感じで違和感を覚える。というか、その、女の子っぽく見える。猫っぽい印象だったのに、今じゃ虎のようにも思えるんだが。……会わなかった二年で何があったんだ。まぁ、そこらへん後で追々って感じで良いか。どうせ、昼一緒に喰うんだしな。

 鈴は悪戯っぽくウインクを決めて廊下へ出て行った。その後、怒涛の質問をされながら箒たちに囲まれたが、千冬姉の登場で一瞬で散開、着席という謎の連帯を見せた俺たちは授業へと頭を切り替えるのだった。もしかすると、鈴が長々とお喋りしなかったのは廊下を歩く千冬姉が見えてたからかもしれないな。

 あー、うん。そうだった、確か鈴は千冬姉が苦手だったな。亭主関白っぽい雰囲気で帰宅してきたのを見た頃から変わらずのままだった気がする。すると、もしかすると先程の雰囲気は素を出さないで速やかに教室へ戻るためのささやかな努力だったのかもしれない。そう言えばと後ろを見やれば既に更識さんは消えていて、鈴が去った頃にクラスへと戻ったのだろうか。

 ……あれ、チャイムはいつ鳴ったんだ?

 

「はっ!?」

「ほぅ、貴様は教師に後頭部で挨拶をするのか――」

 

 頭上から聞こえたのは出席簿が空気を切り裂く音。そして、次の瞬間に衝撃が襲い掛かる。それにより頭部から激痛の響きを教室へ響かせ――俺の意識がそこで途切れた。視界が闇に落ちる刹那に浅草さんの呆れ顔が見えた気がした。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 油断した、と私こと凰鈴音は一瞬で思考を切り替えた。

 一組の教室に居るであろう一夏に会えるという一心で、久し振りに出会う初恋の幼馴染へのほんのささやかな再会を格好良く決める……つもりだったんだけどね。まさか、日本鬼子こと浅草染子日本代表候補が一組に在籍しているとは思わなかった。一夏を探すために教室内を見渡したのが運の尽きだったんでしょうね……。

 私の視線に気付いた彼女は天秤で計るかのように目踏みする瞳で此方を向いたのだ。一瞬だけ、ほんの一瞬だけだが彼女が発した気配は恐ろしい怪物の唸り声のように感じてしまった。その場から肉食動物に追われる小動物の如く全力で逃げ出したい気持ちに駆られたが、浅草は一夏の方をチラリと見やってから私を見直してから視線を外してくれた。

 恐らくながら、彼女は既に私の情報を知っているのだろう。一夏の幼馴染である、という情報があったからあの時一夏の場所を把握してから見逃してくれたに違いない。そう、あの誰よりも代表らしかった代表候補生たる浅草が、他国の代表候補生を一夏に、いや、言い方が悪くなってしまうが唯一無二の男性IS搭乗者に対してガードが甘くなるだなんて有り得やしない事態であろう。

 そう、日本にとっては災いにして希望の一筋。世界を改革する可能性のある唯一の存在なのだから。

 一夏の存在はいまや各国では最重要人物にしてサンプリングにしたい人物一位に君臨するのでしょうね。それは、雲隠れした篠ノ之束博士よりも遥かに上位に当たる程に。けれど、未だに一夏がこうしてIS学園という場所に五体満足で居られるのは……、悔しいけれどあそこに居た浅草のお陰だ。彼女は一部の者にしか知られていないが、偶然に聞いた情報だと幾多の刺客を葬った日本の守護者にして、日本政府の切り札(ジョーカー)と呼ばれているらしい。そのため、威勢はよくも内弁慶な上官たちは決して浅草に喧嘩を売ってはならないと口酸っぱく言われている程だ。こうして視界に入っただけで分かる威圧感に足が震えそうになるが、流石に一般人顔している一夏の前で変な挙動はできないから必死で堪えた。そのため、普段のあたしらしくない雰囲気になっちゃったけれど、一夏の興味を引けたから問題無いかな。

 そんな事を思っているとチャイムが聞こえた。

 

「よし」

 

 つまらない授業を終えて、あたしは食堂へと足を向ける。少しだけ、そう少しだけ早足になってしまうのは気分の問題だろうけれど、……一夏と話せると思うとスキップになりそうになってしまう。ええ、恥ずかしいけれどもあたしは一夏に恋をしている。中国語訛りで変な日本語だったあたしを庇ってくれて、更には学校での居場所にもなってくれた一夏が好きだ。こうして内心で想う分には素直で居られるのだけど、何故だか一夏の前では素直に成りきれない。何処か曲がってしまって、活発な印象を活かしてつい誤魔化してしまう程にテンパってしまう。

 久し振りに見る一夏は雰囲気はそのままに、けれど身体付きが男らしくなって逞しく感じた。風の噂程度、と言うよりもクラスメイトの噂話を聞き及んでいるだけなんだけども、どうやら一夏は浅草と中々良い感じになっているらしい。最近は少し四組の更識と言う他の日本代表候補生と絡んでいて教室での関わりは薄くなってしまっているらしいが、勉強会と称して色んな事を教え込んでいるとの事だった。中でも、浅草に対する噂……、ではなく事実の確認であるのだが、彼女は毎朝二十五キロの全力疾走マラソンをジョギングと称し、その後シャワーを浴び終える時間を残す程度にペンチプレス百キロオーバーは当然の事、それぞれの機材を三桁以上を軽いトレーニングと断言するような色々と桁違いにやばい身体能力を有しているとの事で、更には一組の友人から聞いたと言う内容ではあるが、ISの展開時間がコンマ零に近い瞬時展開仕様、更には曲芸と呼ばれながらもその操作の難しさから絶望を知る登竜門であるトップ3を完璧にして優雅な様子で授業で遣り切ったと言う出来事。

 ……何かしらね。天は人に二物を与えずと言う言葉を全力で横合いから殴ったかのような化物スペックっぷり。流石にあたしでも喧嘩を売ってはならない人物なのだとよーく分かった。アレは抜き身の刀だなんて物じゃない。撃鉄が上がってるマグナムよあれ、しかも連射できる改造タイプの。甲龍が教えてくれたけどあいつ腋下に自然な形で拳銃を隠し持っているみたいだし、次期日本代表にして次期ブリュンヒルデ候補の一人に上がる程に彼女の意識は高いのだろう。

 食券を買って注文を果たそうとして、ふと彼らの授業が伸びてたら麺も伸びちゃうなぁと思ったあたしは注文は彼らと一緒にしようと考え直す。そして、他の人の邪魔にならないような位置で腕を組んで仁王立ちした。よし、準備は終わった。お腹すいてるんだから早く来なさいよね……。と数分程待っていたら色取り取りな面子を連れて一夏は来た。

 一夏の両隣を占めるのはイギリスの……何だっけ、名前は忘れたけど金髪ロールの奴……、まぁいいわ、後で自己紹介するでしょうし、その隣は……ええと、いや、見た事も会った事も無いわね。髪の色が黒だからってのもあるけど思いっきり日本人らしい顔立ちだし、多分こいつが一夏の言っていた入れ替わりの幼馴染って奴でしょうね。ふん、物心の始まりと思春期の始まりとの差を思い知らせてやるわ。その三人の後に何処か気だるげな、……いや、あれは何かを我慢している様な感じね、不完全燃焼と言うのが適切かしら、何かしらの鬱憤が溜まってる表情よあれ。もしかして、あたしの存在に対してだったり……? いや、それは自意識過剰過ぎるか。朝のあの目からして多分違うでしょうけども……何だろう、凄く拙い何かを抱えているような気がする。一応目を離しちゃいけないタイプね、まぁ、日本に不利益な事をしなければ火種にはならないでしょう。火の元無い所に煙は立たないって奴よ。

 ……そう言えば、一夏が日本人だからってこの手の慣用句やらを覚えまくったのは良いけれど、中国に戻る時に口走ったあのアレンジした告白は今思えば無いわね。あの朴念仁魔王の一夏だもの、間違えると食事の無料(ただ)券程度にしか思ってない可能性があるわね……。はぁ、中国での代表候補生になるためのエトセトラで心も体も引き締まったってのは自覚があるから尚更に黒歴史よねあれ。恥ずかしくて死ねるわ。まぁ、一夏の事だしあたしが口にしなかったらそのまま思い出す事も無いでしょう。何せ、貴方のために死ねます! って言う斬新な告白をした女子にホームルームで貰った子供相談所のチケットを差し出すような奴だもの。期待するだけ、無駄ね。もういっそ既成事実と言うか、身体で……、この凹凸の乏しい身体で……、迫るのは無理かも知れないわね。け、けど一夏が貧乳好きって言う性癖の可能性は十分にあるし、前の様に悪友振る立ち位置を止めて少し大人ぶった感じで行こうかしらね。あいつの視線の先は大体大人の女性、それも何処か大人びた雰囲気って言うのかしらね、確りした感じの女性へ向いていた気がする。……よし、頑張ろう。間違っても変な方向に行っちゃ駄目よ、お国柄って訳じゃないけどパンダめいた道化は嫌よそんなのは。

 

「悪いな鈴、ちょっと伸びちまったんだ。待たせたか?」

「ふふっ、大丈夫よ。さっき来たところだから。食券は先に買ったから……そうね、あら、あそこ空いてるわね。あの席で待ってるから、早く来なさいよ?」

「……男子三日会わざればだなんてあるけど、女子も結構変わるんだな」

「ふふん。中国代表候補生優等生の肩書きは伊達じゃないって事よ。……まぁ、そう言う肩書きはあるけど、前みたいに接してくれれば嬉しいわ。じゃ、後でね」

「お、おう……」

 

 ふふふっ、一夏の奴なんかどぎまぎしてたわね。やーっとあたしの魅力に気がついたのかしら。……あれ、よく思い出してみれば一夏が朴念仁だって事は分かってるんだから、それを踏まえた付き合いをしなきゃただの押しの強い女子よね。もしかして、それが原因だったのかしら。女友達って呼べる相手はあたしぐらいで、後の数人の女子は下心満載の奴らだったし、顔が良いからって蝿の様に群がってただけ……、も、もしかしてあたしもその一人にしか見られてなかった、とか? あ、有り得る……。あいつの思考回路だったら十分に有り得るわね……。もしかしたら内心でうざがってた、とか? あ、あっぶなー……。高校生デビューめいたイメチェンしてて正解だったかも知れない。当分はこんな感じで接した方が良いわね。案外しんなりとした様子で迫った方が効果があったりするのかしらね。男心もよく分からないものね……。困ったもんだわ。

 そんな事を熱々のラーメンセットを受け取って席に座るまでの時間で考えていたけれど、ちらりと一夏たちを見やれば何やら姦しい様子で癪に障るわね……。ん? あれ、一夏少しうざったそうにしてるっぽい? ……あ。あ、ああ……、そりゃ、良い顔しないわよね。自分の行動を制限してくるかのように押してきたら、例え可愛い娘でもそりゃ面倒がるわよね……。人の振り見て我が振り直せってのはきっとこういう事を言うのね。ふふっ、もしかしたらこういうのが大人の一歩なのかしらね。一歩間違えると冷めた視線なんだろうけれども、理解があれば常識的で当然な結露なのだろうし。ふふん、大人の余裕って奴ね。

 

「待たせたな」

「和食セットBって……、本当に変わらないわね。その健康志向なところ」

「む、別に良いだろ? 人間の根本は健全な身体からなるってもんだ。なら、日々の食事は気をつけるべきだろ」

「まぁね。ああ、別に貶してないわよ。でも、懐かしくて、ね。二年振りだもの、見違えたわ、色々とね?」

「……お、おう。鈴も……、その……、綺麗に、なったな」

「こほんこほん! 一夏さん昼休みが終わってしまいますわよ?」

「う、うむ。セシリアの言う通りだ一夏。と、言うよりそいつは一体誰なんだ! な、仲が良いようだが……」

 

 ふふっ、ふふふっ、うふふふふ。綺麗になったな、だって。あは、凄い嬉しい……! 可愛いって言われるんじゃなくて、綺麗って言われるのも中々良い物ね……。まぁ、一夏の隣はあげないけどね、お馬鹿さんたち? 一夏は最初に席へ向かっていたからか窓側の真ん中の方であたしと隣り合う様に座ってくれた。それに続く様にして胸がでかいだけの二人が座り、あたしの横に浅草が座った。それも、特大サイズのとんかつ定食を手に、だ。は? いや、どんな身体してるのよ? これとんかつが三つも重なって擬似ミルフィーユしてるじゃないの。カロリー計算ってのを知らないのかしら……。あ、そうか。過酷なトレーニングをあっさりこなすだけの筋肉とかがあるから問題無い……の? いや、どうなんだろ。さっぱり分からないわ。もしかして、これぐらい食べないと燃費が悪いとか? あら、意外な弱点ね。兵糧攻めしたら案外勝ちを拾えるかも知れないわね。……まぁ、多分無いけども。と言うか、敵対した時点で消される気しかしないわよ。……こいつが一組の代表じゃなくて良かったわ。来月のクラス代表戦にこんな怪物が参加してたら目も当てられないわよ。

 

「あたしの名前は朝に伝えたでしょう? ま、いいわ。もう一度教えてあげる。あたしは凰鈴音。中国代表候補生の筆頭で一夏の幼馴染よ。宜しく頼むわね、長い付き合いになりそうだし」

「な、なんだと!? 一夏の幼馴染は私だけの筈じゃ……」

「ん? ああ、鈴は箒の転校と入れ違いに入ってきたんだ。あの頃は日本に慣れてなくて大変だったみたいだからさ、それを解決したのがきっかけだったっけ?」

「……そうね、今じゃ恥ずかしいけども、あの時の一夏、格好良かった」

「…………あ、あはは、そうか、照れるな」

「謙遜しなくて良いわよ。それが一夏の美徳じゃない。まぁ、誰にでも優しいのは女心としては複雑だけどね」

「へ?」

「ま、今は良いわよ。それよりも冷めちゃうわよ?」

「お、そうだったな」

 

 ……良しっ! 完璧なタイミングで最高の笑顔を魅せれたわ。……まぁ、最初のジャブはこれぐらいにしとこうかしら。あんまり追撃をすると和洋ボインズが面倒そうだし。……え? 嘘でしょ? 数分しか経ってないわよね。何であの量がもう食べ終えてるのよ!? ああもう、日本の代表候補生は化物なのかしら!? あ、でも皆苦笑してるみたいだし、いつもの風景ではあるのね。もう慣れちゃった、みたいな雰囲気だし……。それにしても、一夏、浅草の事見過ぎじゃない? ……ま、まさか既に篭絡されてるの? け、けど浅草はあたしよりは少し大きいぐらいであの二人とは雲泥の差……、ち、違う。其処じゃない。この娘、政治家の秘書みたいなクールなイメージを纏ってる大人びた雰囲気を持っている……っ!! やっぱり、一夏は女子に興味が無かった訳じゃなくて、単純に好みのタイプが居なかっただけって事なのね……っ! そうなれば、浅草を観察しなきゃ……、此処にきっと一夏攻略の鍵があるに違いないわ。

 

「……そう見つめられると困るのだけど」

「え、あ、ご、ごめん」

 

 つい尊敬の念を込めて見惚れる形で見つめちゃったけど、浅草は鬱陶しそうな雰囲気で一蹴してはいるものの嫌っている様子には見えなかった。と、言うよりもよくよく見てみれば表情が薄い、のかしらね? それにしてもモデル体型って言うか曲線が綺麗ね。顔も整っているし、冷たい雰囲気を何とかしたら確実にモテモテな隠れ優良物件よね浅草って。いや、むしろそれが良いって言う奴も居るのかしらね。弾とか御手洗もそんな感じの話題で盛り上がってたみたいだし。えーと、クーデレ、だったかしらね。……確かに、この雰囲気で微笑みと共にデレられたら見惚れちゃいそうね。

 

「……彼を得たいのなら、日本の帰属となる事ね。それ以外では認められないから」

「――ッ!」

 

 口元を動かす素振りも見えなかったのに、確かな声量でそれはあたしの耳に届いた。けれど、他の誰も気付いていないと言うよりも聞こえなかったのだろうか、先程と変わりないギャースカ具合だった。日本の帰属、つまりは中国の国籍を捨てて日本国籍を取れって事よね。……浅草は、と言うよりも日本は一夏の恋人を選定するつもりは無いって事かしら。それとも学生の今だけは、って事なのかしらね。どちらにせよ、中国を裏切る事が前提って訳ね。そして、中国側として一夏を娶ったなら浅草が出張る、と。……何その無理ゲー。正面から呂布に突撃特攻するようなもんじゃないのそれ。本当にこいつ同年代なのかしら。実は改造人間でサイボーグでしたみたいな落ちがあっても納得しちゃうわよ……。まぁ、ある意味一夏争奪戦の鍵は浅草だものね。日本の利になる形でなら浅草は納得して手を出さない、つまりはそう言う事なんでしょうね。

 ……けど、気になるのは浅草が一夏をどう思っているか、だったりするのよね。もしかすると一夏は今まで無いタイプ且つ抜群に好みのタイプと出会って惹かれちゃってたりするかもしれないし、万が一浅草が一夏争奪戦に躍り出たら確実に優勝カップである一夏はかっ去られるに違いないわ。

 

『確かに、上からはそう言う指示も出たりしてるわ。けど、あたしにとって大事なのはそんな事じゃない。候補生だって唯の肩書き欲しさだもの。日本を裏切る気は無いわ』

 

 違反行為ではあるがISの専用チャネルでそう伝えた。浅草は瞑目してからふっと笑う形で小さく口角を上げた。その雰囲気は先程の其れとは明らかに違う底無しの深淵の様なもので、彼女の心内を覗いたならばきっとあたしは発狂するんじゃないか、と思ってしまう程に異様な笑みだった。

 

『……そう、なら、期待しているわ。私にとって織斑一夏は唯の護衛対象でしか無いもの。むしろ、何でこんな仕事をさせられているのかが疑問に思う程だから。……ああ、それと、一つ教えておくわ』

 

 浅草は食後の一服と言った感じでポケットから出したらしいどろり濃厚コーンスープの缶を開けながら、世間話かの様な軽さで言い放った。

 

『貴方と一緒に昨日来たポニーテールの女の子、もう始末したから安心して彼と戯れなさい』

「……へ?」

 

 そんな訳無いじゃない。だって、あたしは一人(・・)で来たのよ? それも、案内として貰った紙に四苦八苦しながら……。ポニーテールと言う単語で思い出すのは同じ代表候補生の李蘭香ぐらいで、そう言えばあたしがIS学園に向かう話をした時何処か苦い顔をしていたような……。いや、そんな、違う……わよね。だって、別れの挨拶の時に実家に帰省するんだって言ってたもの。そんな訳――。

 

『ああ、その様子だと知らなかったのね。日本へ機密を漁りに来る奴らで一番多い人種は――黒髪黒目の中国人(・・・)。彼女が言うには貴方の監視を兼ねたスパイ活動だったそうよ。哀れね、無様ね、本当に――愚かな傀儡()だったわ。いいえ、あんなお粗末な子を送ってくる貴方の国が何よりも愚かしい。何人も、何十人も、何百人も、失敗(したい)を重ねてまだ分かってないんだもの。笑ってしまうわ。児戯に等しいのよ、貴方たち程度を始末するのは。もしかして、お友達だったかしら? 敵討ちをしてみる? あはは、別に構わないわよ。私に殺す(・・)理由をくれるなら尚更に、ね』

 

 その後の事は何も覚えていなかった。同室になったティナ・ハミルトンと言う子が言うには、あたしは食堂で卒倒したのを浅草によって介抱されてベッドに寝かされていたとの事で、彼女から伝言を預かっている様だった。「ようこそIS学園へ」だって、さ。あはは、あたしとんでもない所に来ちゃったのね。もう、駄目。体が、心が、彼女に逆らうなって叫んでる。震えが止まらないし、涙が止まらないのよ。なんで、こんな事になったんだろう。

 日本代表候補生の浅草染子は正しく、日本鬼子だった、と言うだけなのだ。あの子は、そう言う風になるようにさせられたのだろう。それは、どれだけ辛く苦しいものだったのだろうか。当たり前だが、あたしが本国で受けたきついトレーニングの日々よりも遥かに凄惨で、何よりも残酷だったのだろう。だって、あの子、笑ってた。けらけらって、まるで虫を潰す子供みたいに笑ってたんだもの。実際に笑ってはいない。けれど、あの声に込められた感情は確かに愉悦めいた喜色だった。どうしよう、次、浅草に会ったらいつものあたしで居られるのかしら。ああ、もう、分からない。今はもう泥の様に、眠っていたい。

 

『……結局貴方もその程度なのね。そう、私が狂気(おか)しいんでしょうね。血に塗れて笑えてしまうような私が。……だから、貴方は精々汚れない生き方をする事ね。綺麗な手足があるんだから』

 

 ふと、意識が暗転する直前の彼女の言葉が思い出せた。あれは、何処か後悔するような、其れでいて納得していないような、そんな声色だった。その言葉に続く言葉が何となく口に漏れた。もしかしたらあたしは彼女の事を理解したかったのかもしれない。そんな、気がするだけだ。

 

「外道に堕ちるのは私だけで十分よ、ね。……納得してるなら、そんな事言わないでしょうに」

 

 

 




さて、更新の声が多かったのもあって無事書き終えまして、更新となりました。

セカン党の皆様、ほら喜ぶと良い。鈴ちゃん回だぜ(錯乱
因みに不落的に一番好きなの鈴ちゃんなんだよなー、貧乳八重歯マジ可愛い。特に貧乳の辺りが凄まじく良い。大好物です、ええ。
……けど、愛故に辛辣にならなくちゃいけない時もあるんだ(本作の主人公浅草さんですし。
と、言う事でお国柄めいたスパイ活動に向かった名も知れぬ少女は密かに犠牲になりました。
ぶっちゃけると、それを鈴ちゃんに伝えたのは確定的に明らかな警告ですね。
浅草さんが他の二人よりも鈴ちゃんに可能性有りと省みた結果がこれだよ。
素直に喜べない贈り物であるのは間違い無いですね。
《大好きな彼からの贈り物、ただし元カノの処分品》みたいな?
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