本来、私と言う存在は日本政府の猟犬の様な立場だ。
右手に嵌めたグローブの留め具を確かめながら、幾度と目を通したターゲットの居るビルの設計図に目を通す。女性人権団体。今の時代では劇薬と言えるその存在は非常に目障りであり、どれだけ強請ったのだろう、そう考えてしまう程に豪華な仕様の内装計画書にも目を通しているからか呆れの表情が浮かんでしまう。数日後にクラリッサが来日すると言うとの事なので、厄介払いは今のうちにすべきと上申した結果、此度の任務を預かって来た訳ですが……。自分で言うのも何ですが、彼女たちはかなり恨まれているようですね。
リストを見る限り司法にも手を出そうとしている節が、いえ、前準備と思われる行動が多々見られており、女性有利な裁判結果を生み出した事例は段々と隠せない程に増えつつある。今では世界の中心となっていると過言ではない日本に本社を作った彼女たちが今の女尊男卑の世界の根幹の一部であるのは言うまでも無い。
腰元に差し込んだ高周波ナイフの動作チェックし、小型に作られたビームガンのチェッカーを走らせ、エネルギーパックの位置などを確かめる。軽装甲式ISスーツに似た機動性を重視に作られた衣服の関節周りの動作を確認するが、特に問題無いと判断する。
「チェッカーグリーン、問題無し。ですね。……にしても、私専用の装備一式が一新されているとは思いもしませんでした。確かにビーム兵装ならば現場に証拠が残る心配がありませんからね……」
――もっとも、本当の理由はそちらでは無いのだけども。
此度の任務に使用するビームガンはISのエネルギーを転用して使用する物だ。独立稼働ができるよう万が一を考えてエネルギーパックが装填されているが、今回使用する事は無い。そして、エネルギー補充に≪玉鋼≫は使用できない。何故なら、全てのISはそれぞれに固有のISアドレスのような周波数が設定されており、国際連盟によって登録されたISはこの周波数が起動時に残る仕様となっている。それは、ISがISコアネットワークに接続されている事で繋がっているのが原因であり、その仕組みを利用してのシステムだ。要するに数少ないISを犯罪に使われては困ると言う建前で監視をしている訳だ。
逆に言えば、ISネットワークに接続されていないコアを使用すれば問題無いと言う事でもある。
しかし、そんな代物がある訳が無い。かの篠ノ之束が設計した全てのコアは国際連盟によって一度管理されていたため、新たに作られたISコアでなければならない。と、言うのが各国での共通認識であり、国際連盟が保有する最大の強みである。
「……皮肉なものですね。あの日、埋め込まれたこれが役に立つ日が来ようとは……」
私が名前と全てを失った日、気を失っている間に、博士と出会う間に、このコアは埋め込まれたらしい。勿論であるが下手人は博士では無い。何せ、このコアは博士曰くプロトコアと呼ばれる存在であり、もしかすると一番最初に作られたらしい白騎士コアの前に作られた物ではないかと言われる代物であったからだ。
第一フェイズ――ISと操縦者との条件付けの付与。
第二フェイズ――ISによる自律的な兵装の進化。
一般的にこれらは
「ISと人間との融合。生理的な一面を持つ機械部品が、人間の持つ生体組織と入れ替わる現象……。人造人間は生体に機械部品との入れ替え、機械人間は機械の体に人間の脳を移植した。ならば、ISによって生体機械部品を内蔵した人間はIS人間と呼ばれるべき、か。夢物語であれば良かったのですが、自身の身に起きている事象ですから何とも言えませんね……」
そう空を仰ぐ様にして溜息が零れる。博士の見立てによると既に体の七割はIS化しているらしい。殺傷症候群がもしかするとこの浸食への拒絶反応として起きているのでは、と言う見解もある程に詳細が明確になっていない未知の事象。けれど、この浸食値に比例して私のIS適正値はSへと転じた。それにより、
普段≪玉鋼≫である左腕を取り外し、IS技術によって数段階は進化した義腕を用いる。そして、次の瞬間に下腹部から電撃が走るかの様に接続の感覚が義腕へと伸び、まるで生身の腕の様な感覚へと移り変わる。≪玉鋼≫の義腕を装着した時に分かった事だが、体と同化したISコアはこうして身に付けた物へとスキャンと同時に浸食による掌握が発生起きるらしい。なので、権限的にはプロトコアの方が≪玉鋼≫よりも上らしく、≪玉鋼≫による
ビームガンのエネルギー経路がプロトコアと接続した感覚が分かったので、全ての準備が終わった事になる。久し振りの任務ではしゃいでしまわない様にしなければ。学園に残してきた鈴さんに申し訳無いですからね。それにしても……、
……そう言えば、ハッキング作業をすると言う主任と言う方は今まで会った事がありませんが、どのような方なのでしょうね。
☆
女性人権団体が壊滅、巨悪を罰する救世主はテロリストだった!? と言う見出しを付ける雑誌を見かけ、街中で逸れぬ様に、と手を握っている隊長に伝わらない様に静かに戦慄する。今の世の中でよくもまぁそんな挑発的な内容を書けるものだとも感心もしておくとしましょう。何が嬉しくてとんでもない大事件が起きた翌々日に来日せねばならないのか……。
「……ふむ、なあクラリッサ」
「なんですか隊長。あそこのたい焼きは買いませんよ?」
「むぅ……、甘い物……。っと、日本は心躍る物が多くて困るな」
「そうですね。今や日本は経済発展中心国、IS企業による経済効果は計り知れないものとなりましたからね。それに伴い文化的価値も上がり、様々な面での収入によって発展賑やか。日本人は食に掛ける情熱も熱いですからね。いやはや、目移りする魅力的な物が多いのは困りものです」
「それはアレか? あの大事そうにベッドの下に隠している薄い物と関係するのか?」
「えーっと……、いえ、むしろ衰退しましたね。まぁ、その巨悪は先日潰れたようですが……」
そう、素晴らしき日本文化の最たる物である「薄い本」は女尊男卑と言う煽りを受けてアングラ化してしまったのだ。元々男性が女性に対して色々する内容が多かったのもあり、そこへ女性向けのやおい文化がホモォした事により更なる飛躍を魅せたのだが、昨今の風潮により男性側の参加者が激減、それどころか女性中心のお祭りとなってしまったので更に一部の男性を除いて衰退してしまったのだ。聞くところによるとネット上で男性向けのコミケが開かれているとの事で、紙媒体の薄い本は絶滅危惧種と化してしまっているらしい。一般向けの薄い本は、逆に女性側が徹底して防衛線を引いた事で男性の参加者は減ったもののまだ続いているらしい。昨今の風潮では男性側が女性を陥れる内容の十八禁本は女性からの訴えが飛び掛かるため、コミケの日数は三日から二日へと減ってしまったのは非常に残念で極まりない。
っと、これ以上の内容となると隊長の教育に悪影響ですから自重しましょう。
さて、IS学園へと続くモノレールへと足を運び、先日の女性人権団体壊滅の影響で警戒態勢になってしまっていた事で昼頃になってしまったが故にがらんとした車両へと進めて行く。私の左手をしっかりと握る隊長の小さな手はとても可愛らしく、車両に乗っても手を離さない事を指摘せずに堪能させて貰う。何せ、此処には隊長が慕う織斑千冬教官が在籍している。そのため、IS学園への期待は一入なのだろう。初めは織斑教官の顔に泥を塗った織斑少年への報復を胸にしていたのだが、私が知る最強の護衛たる染子の事を教えたら段々と消沈してゆき、今ではお化けが怖いと言った風に染子を恐れると言う事態になってしまった。そのため、初めは挨拶だけの筈が、私も補助役として入学する運びとなったのは驚いたものだ。と、言っても流石に本国の防備を一機手放すのは拙いと判断されたのか、隊長が駆る≪シュバルツェア・レーゲン≫の専門整備士としての派遣となった。私の愛機はそもそも既に返しているので問題は無いだろう。
『まもなくIS学園へと到着致します。お荷物をお忘れ無きようご注意ください』
そのアナウンスを聞いた隊長の右手が強まった。数年振りに逢う事になる教官への喜びを想っているのだろう。……迎えに来ると言ってくれた染子と先に出会う事を忘れて、だが。これから起こるであろう隊長の可愛いお姿を考えると……、ふへへ、薄い本が厚くなりそうですね。
「よし! 忘れ物は無いぞクラリッサ!」
「はい、流石です隊長。それでは、向かいましょうか」
「ああ!」
ふふっ、ハイテンションの隊長可愛い。きゅっと右手を握ってて凄く可愛い。こんなに可愛い隊長と一緒に居れるとは染子様様と言うべきでしょうか。急かす隊長に手を引かれながら手荷物であるトランクを握り締める。さて、IS学園初上陸ですね。
モノレールの駅から正門までの道のりは左程長くは無い。学園と称するとあって、数分しないうちに、様々な転生者を輩出してきた5tトラックの一撃ですら跳ね返す最新鋭の格子状の正門が見えた。近くに居るガードマンの女性に対し学生証を見せ、正門をくぐった。私たちの服装はIS学園指定の女性制服をズボンタイプにしたお揃いのものだ。隊長一人だけにその恰好をさせては浮くだろうと言うさり気無い気遣いでもある。まぁ、「お揃いだなクラリッサ!」と嬉しそうな表情を魅せてくれた隊長には無用な気遣いだったかもしれませんがね。
正門から続く校舎までの道のりへと入ろうと言った頃合いに、反対側から歩いてくる人を見つけた。この時間帯は授業の筈なので、一般の学生では無い事は確か。
つまり、あの人物は間違い無く――。
「お久しぶりですね、クラリッサ」
日中へと向かう朝日に艶やかに輝く烏の濡れ羽色の長髪を腰まで流し、正しく大和撫子と形容すべきその麗らかな美貌と慎ましい胸元を兼ね備える女子生徒が声を掛けてきた。その声は何処か雅なお姫様を連想させる優しい心地で、数年前の人物とは思えない麗人っぷりに一瞬我を忘れて見惚れてしまった私を誰が罰せようか。
「そ、染子ですか? ええと、随分と様変わりしましたね……?」
「そうですか? ……ああ、あの頃は教官の気を真似ていましたので此方が素……と言うか表向きですよ」
「そこで素と言わない辺り何か感じてしまいますが……、まぁ良いでしょう。私と貴方との仲ですからね」
「たった数日の関係だった筈でしたが……、まぁ私もクラリッサの事は気に入ってますので揚げ足は取らない事にしましょう。其方の方がドイツ国家代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒ少佐ですね? 初めまして、クラリッサの友人でもある日本国家代表候補生の浅草染子です。本日は長旅お疲れ様でした」
挨拶を振られた隊長の返事が無い事に気付き、其方を見やれば顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべながら困惑する隊長のあわわとした可愛い表情があった。どうも出国前に教えた染子の印象と全く持って食い違った大人びたお姉さん風な在り方であったからか面食らっているらしい。染子はそんな隊長の様子にくすりと微笑を浮かべ、顔の高さが合う様に少しだけ屈んだ。
「クラリッサが何を吹き込んだのかは知りませんが、それと食い違うと言うのなら貴方自身で私を、浅草染子を見定めると良いでしょう。聞く話によると貴方はまだ幼子である様子。一夏くんや
「あ、うん。宜しく、頼む」
「はい。ええと、私の事は染子と呼んでくれて良いですよ。クラリッサのお墨付きである貴方ならば、敵対する事も無いと思いますし。それに、友人が折角紹介してくれた人ですから、歩み寄りはきっと大切ですから」
「そ、そうか。随分と染子はクラリッサと仲が良いのだな……。日本の般若を美人にしたのが染子だと言っていたのが嘘の様だ」
あ、それは拙い。その言葉を聞いた染子はきょとんとした後、苦笑する様に笑った。……随分と表情が出るが、何か心境の変化があったのだろうか。こんなにも柔らかな表情を浮かべるだなんて思いもしなかったのですが……。
「いえ、間違ってはいませんよ。ただ、心境の変化もあってスタンスを変えたんです。……最悪、皆殺しにすれば何も問題ありませんしね」
「……しれっとその言葉が出てくる貴方に戦慄せざるを得ないのですが……。それは兎も角として、これからの学園生活もですが、どうぞ宜しくお願いしますね」
「ええ、勿論です。クラリッサは私の掛け替えの無い友人の一人目ですから。それに、ボーデヴィッヒさんも中々可愛らしいご様子ですしね」
そう優しく隊長の頭を撫でている染子は近所の優しいお姉さんと言った風であり、中々の風格を持っていた。もしかすると似たような人物と知り合いなのだろうか。どうも手馴れている様子が見受けられるのですが。妹と言った線はきっと無いでしょう。何せ、染子の家族を見つけ出す事は愚か、その戸籍情報すらも暴けぬ鉄壁に守られているのですから。気持ち良さに負けて子猫の如く目を積むってされるがままに撫でられていた隊長でしたが、はっとした様子で正気に戻るも今も続く優しい手を振り払うのが躊躇われるのか困り顔を浮かべていた。それを察したのか染子は先程の位置へと戻り、隊長の柔らかい銀髪から手を離す。「あ」とか細い寂しげな声が聞こえたのはきっと幻聴だろう。そうに違いない。信じて託そうとしている隊長が日本の上質テクにドはまりするだなんて事はきっと無い筈ですから……っ。
「ええと、ティッシュ要りますかクラリッサ」
「すみません、頂きます」
「む、大丈夫かクラリッサ。体調が悪いのであればすぐに申し出るのだぞ。心配するからな」
「はい、ありがとうございます」
「うむ。……ああ、染子、私の事はラウラで良い。クラリッサの友人であるならば、私の友人と言っても過言では無いからな!」
その後半の言葉に若干疑問の表情を浮かべていた染子でしたが、特に撤回の言を述べる事無く「分かりました、宜しくお願いしますねラウラさん」と柔らかな笑みで答えてくれた。恐らくきっと染子の感性ではクラスメイトであっても知り合いでしか無く、友人の部類に入らないのだろうと推測できる。まぁ、隊長が以前のままの背伸びして吠える虎の子の様な状態であったならばまた話は違うのでしょうが、私によって躾けられた事もあって今の隊長は非常に良い子で純粋無垢なお方ですからね。その清らかさ故に上官も我々のシンボルマークに可愛らしい黒兎を模したデザインにしてくれたようですし……。もっとも、裏向きの別動隊が収集されていると言う話も聞いているので隊長は来たる日が来るまではこのまま愛くるしいお姿のままなのでしょうけども。大概過保護ですね。試験管から生まれたと言う事もあって実験動物が如く扱いをしていた前任を、上官が文字通りぶん殴って退役させたと言う逸話があるくらいに溺愛されている隊長と隊員たちは皆可愛いですからね。織斑教官が帰国してしまいしょんぼりしている隊長の姿を見て、どうにかして呼び戻せないかと濃い強面顔を唸らせていた上官の姿が今にも思い出せるようです。まぁ元々隊長が染子に怯えてなくても私をこっそりと派遣するつもりではあったようですので、娘を想う親心と言うのは何時の時代でも映えるものですね。
「クラリッサ? どうしたのだ?」
「いえ、少し忠誠心が鼻から出てしまっただけですので、ええ、何でもありませんとも」
「そうか? なら良いのだが……。クラリッサは良く鼻血を出すから体調管理はしっかりするのだぞ?」
「ええ、しっかりと
そう満面の笑みで返すと染子にじっとりと見られた。いやはや、こうして心境を透かされると困ってしまいますね。染子の端正な顔が近付く、すっと横へ逸れて耳元へと向かったかと思えば。
「……そう言う性癖だったのですね、大丈夫ですよ、理解はありますから」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください染子! 私はそう言う趣味はありま……せんから!」
「本当ですか……?」
「ええ! ええ、勿論ですとも! 友人を疑うのですか染子!」
「当たり前でしょう? 友人とは言え他人なのですから」
「相変わらず対人面ではセメントですね染子は……」
と、言う事でクラリッサも入学させました。ラウラ可愛いよラウラ。
浅草さんが居た事により原作と同じ事をしたら一瞬で外交戦争となりかねないためクラリッサが頑張った世界線ですね。
シャル……?ああ、良い子でしたね、あの娘は。惜しい人物を(ry
次回出ると思うよ(適当感
そろそろ簪ちゃんも姉も含めて出さなきゃなぁ……。