炎の剣士と黒龍の少女 作:一般龍人族
始まりのページ
月曜日の朝。
少年はのそりとベッドから上半身を起こし、間抜けな面でぼーっと、部屋を見回す。
部屋の中は七割が本棚とそこに収納された本やゲームで埋められており、その合間にデスクとリクライニングチェア、デスクトップ型の質の良さそうなパソコン、クローゼットがあった。窓は南に面した壁に一つで、ベッドと同じ紺色のカーテンがかかっている。
少年はベッドから気怠げに立ち上がり、クローゼットの下へのろのろと足を運ぶ。
クローゼットの前に立って扉を開けて中を見る。そこから3つの服を取り出した。それは学校に行く為の制服。
少年は着ていたパジャマを上下どちらとも脱ぐ。まずはグレーのズボンを履き、ベルトを通す。
次に白いカッターシャツを着てネクタイを締め、その上に水色のブレザーを羽織る。そして充電していた最新機種のスマートフォンと制定用の鞄を持ち、部屋の扉を開けて廊下へ出る。
重い足取りで廊下を歩き、階段を降りてリビングへと着く。
「おう、起きたか、ハジメ」
「…………おはよう、父さん」
ハジメと呼ばれた少年は、自身の父である南雲愁へ朝の挨拶を返す。
「ほら、朝ご飯はもう作ってるから、早く食べなさい」
「分かってるよ」
少々ぶっきらぼうに返す南雲ハジメ。彼は既に父が席についているテーブルへ足を運び、椅子を引いて座った。
目の前にあるのは朝ご飯。トースト、目玉焼き、ベーコン、味噌汁、サラダ。
お箸を取って、まずはサラダから食べ始める。
口に広がるキャベツのシャキシャキとした食感、時に酸っぱいプチトマト。
「ハジメ、お前また徹夜でゲームしたろ。こんな時間に起きて。今から飯食って学校行ったら、遅刻ギリギリだぞ? ゲームするのが悪いとは言わないが程々にしとけって、何度も言ってるだろ」
「……そうだね」
サラダを食べ終わって今度は目玉焼きとベーコンを食べ始めるハジメ。
「そうだねってお前…………はぁ、夜更かしは健康に悪いだろ。それに、もしもそのせいで遅刻したらどうすんだよ? 推薦とかに影響してくるだろ。それに前の面談でほとんどの授業で居眠りしてるって先生から聞いてるぞ。やる気が見えないって言ってたし。平常点とか大丈夫なのか」
「別に推薦が取れなくても一般入試で大学受けるし。それに、テストで平均取ってるから平常点もカバーできるし大丈夫だよ」
「お前……そういう問題じゃあなくてだな」
呆れたような表情でハジメに注意しようとする愁。
「あら、ハジメ起きてたの? おはよう」
洗面所から1人の女性の声がした。洗面所から出てきたのはハジメの母であり愁の妻である南雲菫。
「おはよう、母さん」
「菫か。なぁ、お前からもハジメに何か言ってやってくれ。こいつ、俺の話を碌に聞こうとしないんだ」
「あらぁ、ダメでしょハジメ。お父さんの話はちゃんと聞かなきゃ」
「ちゃんと聞いてるよ。ご馳走様、僕もう行くから」
そう言いながら席から立ち、鞄を持って小走りで玄関へと足を運ぶハジメ。
「ちょっ、待てよハジメ!」
愁が椅子から立ち上がるが、その時には扉が開く音が聞こえて、そのままどすんと、閉じる音が聞こえた。
「…………はぁ」
溜息を吐いて、椅子に腰を落とす愁。
「あいつ、また夜更かししてたらしい。学校とか大丈夫なのかな、本当……」
「そうねぇ。学校のこと聞いても、曖昧に濁すし」
「ゲームに向ける熱意を少しは学校にも向けたら良いんだけどなぁ。…………学校で変なトラブルでも起きなきゃ良いんだけど」
「まぁ流石に、それは大丈夫じゃないのかしらねぇ」
「…………だと良いんだが」
◇
重い足取りで学校までの道を歩くハジメ。
途中でよったコンビニでゼリー飲料を買って、学校の門を通る。
時計が指す時間は8時25分。学校のホームルームは8時半。遅刻ギリギリだ。
階段を登るが、それも山を登るのと同じように彼は感じている。
そして教室の扉の前に辿り着く。扉の上には『2-A』と書かれたプレートが。
扉の取っ手を掴んで開く。ガラガラと大きめの音を立てて扉は開かれた。
その音によって教室にいる人間達の視線はハジメに向けられた。
なんだお前か、と言わんばかりに彼を一瞥して友人との談笑に戻る者、軽蔑を含んだ視線を彼に向ける者、様々。
その視線に眉を顰めてハジメは自分の席へと足を運ぶ。前から3番目の左端の席。鞄を机の横に掛けて椅子を引き、体重を乗せてどすんと音を出しながら席に座るハジメ。そしてそのまま机に突っ伏す。
「よぉ、キモオタ! 遅刻寸前で速攻で居眠りとは、随分といいご身分だなぁ、うん?」
ハジメの席に来て彼に悪口を言う人物。それは檜山大介だ。
「徹夜でエロゲでもしてたんだろ? 気持ちわりぃなぁ、ははは……」
笑っている彼の後ろに人がいた。斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の3人だ。彼の取り巻きである。
「ちょっと、檜山くん! やめなよっ」
檜山の悪口を咎める声が聞こえた。可愛らしい声だった。
「あん? 何だぁ…………って、白崎さんッ!?」
檜山が振り返って声の主を見ると、そこにいたのは白崎と呼ばれる少女だった。彼女を見て彼は思わず驚く。
「南雲くんはまだ未成年だよ? そういうゲームなんてする訳ないでしょ?」
「あ、あはは…………それはそうデスネ……アハハ……」
引き攣った笑顔で香織から離れていく檜山。それに続く斎藤ら3人。
白崎香織は、むすっとした表情で彼らを見た後、目の前にいるハジメへ笑顔を向ける。
「おはよう、南雲くん。今日もギリギリだったよね? ……もっと早く来た方がいいよ?」
「あー……うん。おはよう、白崎さん」
挨拶しあう2人。それを檜山は「けっ」と言いながら苦虫を噛み潰したような顔で見る。
「香織、おはよう。……南雲くんもおはよう。朝から大変ね」
「やあ、おはよう。香織はまた南雲の世話を焼いているのかい?」
「全くだ。そんなやる気の無いようなやつに何言っても無駄だと思うぞ」
1人の女子の声とその後に続く2人の男子の声。
女子生徒の名前は八重樫雫。香織の親友だ。
香織に声を掛けた男子生徒は天之河光輝。正義感が強く、クラスのリーダー的存在だ。
最後に投げやりな言動の男子生徒は坂上龍太郎。光輝の親友だ。彼はハジメのようにやる気が無い人物を好かない。彼はハジメを呆れたような表情で見ている。
「あぁ……おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。まあ僕の自業自得だからね、うん」
へらへらと笑いながら3人に対応するハジメ。しかし目は笑っていない。
「分かっているなら、ちゃんと直すべきだろう? いつまでも香織の優しさに甘えるのはいけないと俺は思う」
「光輝の言う通りだぞ、全く」
ごもっともな正論をぶつける光輝とそれに同意する龍太郎。
(…………それ、朝にも言われた。何で同じこと2度も言われなきゃならないんだよ)
だがハジメはその意見に対し苛立ちながら内心で愚痴った。表面上は笑顔を取り繕いながら。
「まぁまぁ、南雲くんには南雲くんのペースがあるから。直さなきゃなのはそうだけど、別にすぐには……」
「だとしてもだよ、香織。南雲の普段の生活態度は目に余る。ちゃんと直すべきだ。香織も少しは厳しく言ったほうが良い」
「う〜ん……厳しくっていうのは……」
(はぁ……放っといてほしい……何でいちいち構うんだよこいつら。別に今の生活を直す気なんてないし)
光輝と香織の2人が会話している間に内心で鬱陶しそうにぼやくハジメ。
「……まあ南雲くんも、ちゃんと2人の言うことは聞いてた方が良いわよ?」
光輝と香織のやり取りを見た雫がハジメに言った。
似たようなことを家で言われたな、とハジメは思った。
「おーい、授業始めるぞ。席に座れー」
クラスの担任が来たようだ。香織達は自分の席へと戻ってゆく。
担任は確認事項を伝えたあと、授業を始める。そしてハジメは呑気に眠り始めたのであった。
◇
教室のざわめきに、ハジメの意識が覚醒する。体を起こし、眠気まなこで教室の時計を確認すると、針は12時15分を指していた。授業が終わり、お昼休みに入ったのだ。
ふとハジメは教室を見渡すと人数が少し減っている。恐らく購買に行った者だろう。
それでもハジメの所属するクラスは弁当組が多いので三分の二くらいの生徒が残っいた。教壇では四時間目の社会科教師である畑山愛子先生が数人の生徒と談笑していた。
ハジメは鞄からコンビニで買っていたゼリー飲料を取り出して蓋を回して開いて飲み始める。約10秒でそれを飲み干す。
そして彼は机に突っ伏し昼寝をしようとする。
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」
その時、香織がハジメに弁当の誘いをする。ハジメは彼女の声を聞いて思わずげっ、と声を漏らしそうになる。
「あ~いや、別にいいよ、白崎さん。もう食べ終わったし天之河君達と食べたらどう?」
そう言って彼は中身が空の10秒チャージを香織に見せる。
「お昼はそれなの? ちゃんと食べないとダメだよ? 身体もたなくなるし。……私のお弁当分けるから……良かったら食べないかな?」
(余計なお世話だよ……こっちは寝たいんだよ)
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないようだしさ」
光輝と雫と龍太郎の3人がハジメと香織の下へ来て、光輝が香織を誘う。その中でハジメは、自分の下に嫌悪を含んだ視線が再び何人かに向けられていることに気付く。
深い溜息を吐きながら苛立っていたハジメは内心で愚痴った。
(はぁ……もういっそ、こいつら異世界召喚とかされないかな、ホントに。どう見てもこの四人組、そういう何かに巻き込まれそうな雰囲気ありありだろうにさぁ……どこかの世界の神か姫か巫女か誰でもいいからさっさと召喚してくれないかなぁ……)
片足で軽く貧乏ゆすりをする。取り繕った笑顔とは反対に考えてることは自己中なものであった。
その時。
光輝の足元に燦然と光り輝く円環と幾何学模様が現れた。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が輝く紋様、魔法陣を注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。
「な、何だっ!?」
「何これ!?」
声を上げる光輝と雫。悲鳴を上げる生徒達。
「皆! 教室から出て!」
愛子先生が叫んだ直後、強い光が発せられ————。