炎の剣士と黒龍の少女   作:一般龍人族

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何気に本作は幹部が10人という中々の大所帯である。


大合戦、魑魅魍魎の群れ。

 セイバー達が戦いを始めた同時刻。

 

 ウルの町のとある宿の一階のエントランスの椅子に座る三人の男女がいた。南雲ハジメ、ユエ、シアである。

 

 後者二人はハジメの意向でまだこの町に残っているのだ。

 

「…………そろそろだな」

 

 ハジメは小声で呟き立ち上がる。

 

「ハジメ、何処か行くの?」

 

 歩き始めたハジメにユエが聞く。

 

「ちょーっくら散歩にな」

 

「…………そう」

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

「…………うん」

 

 そうして扉から出ていくハジメ。残された二人は互いの目を見る。

 

「…………嫌な予感しかしないんですけど」

 

「…………私も」

 

 シアの言葉にユエが頷く。二人は窓からハジメの後ろ姿を見る。彼の姿がしばらく遠かった後、彼女らも宿から出て、尾行を始めるのだった。

 

◇◇◇◇

 

 炎が魔物を切り刻む。雷が魔物を貫く。

 

 風と水が肉を裂き、鞭が皮膚を焼かんという勢いの痛みを与え、氷柱が身体を串刺しにする。

 

 魔法を知らぬ者が見ればそれは幻想の如き光景であるだろう。

 

「はあっ!」

 

 飛びかかってきた狼の魔物を真っ二つに切り捨てたセイバー。その炎を纏う聖剣は、血を流させることさえ許さない。正しく、峻厳。

 

「ふっ!」

 

 その雷は美麗と言っても差し支えなかった。その故は、それが通った先にいた敵は全て倒れていくからだ。エスパーダが聖剣に選ばれたことも故の一つだろう。

 

「——————!」

 

 玉井淳史と相川昇、菅原妙子はかつて戦いの中で負ってしまった恐怖を未だ背負った状態でこの戦いに臨んだ。

 

 だが、いざ武器を振い始めればそんな恐怖はどこへやら。

 

 今の彼らの目には、ただ目前にいる標的を倒そうとする真っ直ぐな意思があった。

 

 後方では仁村が幻影魔法の効果を続けさせる為に集中しており、宮崎も氷魔法の詠唱をしている。園部は炎を纏うナイフを素早く投げ続ける。

 

『ストームイーグル!』

 

『この大鷲が現れし時、猛烈な竜巻が起こると言い伝えられている……』

 

 セイバーが聖剣を納刀し、ストームイーグルのブックを真ん中のスロットに装填する。そして抜刀。

 

『烈火、抜刀! タ・ツ・マ・キッ! ドラゴーォン! イーグル!』

 

『烈火二冊! 荒ぶる空の翼龍が獄炎を纏い、あらゆるものを焼き尽くす!』

 

 ドラゴンイーグルの形態へ変身。赤い翼を顕現させ、飛んだ勢いで周りの魔物を吹き飛ばしながら予定通り空中の魔物と対峙する。

 

「ぬんっ!」

 

 鉄扇、一閃。ティオが自前の扇子を広げた状態で魔物を叩き斬る。

 

 次の魔物を見据えた時、ティオは背中に仕込んでいた武器を取り出した。

 

 それは刀であった。鞘に納められているそれを腰あたりに据え、構えを取った。

 

「龍人剣術」

 

 呟いた時、魔物が走って迫り来る。

 

「風龍居合!」

 

 瞬間、ティオは魔物の後ろ側に移動していた。それと同時に、魔物はその身が割れていた。

 

 繰り出された技は居合技。彼女が故郷で教わった"龍人剣術"の一つであり、技名は"風龍居合"。風の魔法に適性がある者に教えられる技で、適性があるティオは習得していたのだ。

 

「龍人剣術」

 

 次の技を発動させようと刀を構える。その刀身に炎が宿り始めた。

 

「火炎龍斬!」

 

 赫く輝く刀が魔物を切り裂いた。肉が焦げるような匂いがするが、そんなことを気にする暇はない。

 

 現状、両軍勢は互角といったところである。

 

 しかし、人間側には歴戦の戦士でもあるセイバーとエスパーダや龍人族のティオがいること、歴戦とまではいえないが、強い力を持つ園部達がいること、幻影魔法の撹乱もあり魔物は着実に数を減らし、軍配は人間側に傾きつつあった。

 

 だが、そんな展開を許さぬものが戦場を見下ろしていた。

 

「さーて…………嫌がらせ開始といきますか」

 

 南雲ハジメが手を揉んでほぐした後、何処からか黒い球体を取り出した。それをエスパーダの近くに投げ込む。

 

「!?」

 

 突如投げ込まれたものに警戒するエスパーダだが、遅かった。それは彼の下で爆ぜたのだ。

 

「ぐはあっ!」

 

「賢人!」

 

 爆発に巻き込まれ軽く悲鳴を上げたエスパーダの方を見るセイバー。見れば、魔物やその他何人かも巻き込まれていた。

 

 その被害にティオや園部達、冒険者も気づいて何事かと困惑する。

 

「くっ! 一体何が!」

 

 すぐに立て直したエスパーダは爆発に巻き込まれた人を魔物から守る為に剣を振るう。しかし今度は何かが雨のように自身の身体を襲おうとする。

 

 身体に雷を纏って高速移動しながらそれを避けるも、そんなエスパーダを追いかけるように何かは迫る。その何かに他の人達を巻き込まない為にも、対応することした。

 

「なら、こっちも!」

 

『ニードルヘッジホッグ!』

 

『この弱肉強食の大自然で、幾千もの針を纏い生き抜く獣がいる…』

 

 移動しながらブックを展開してベルトの真ん中のスロットにセット、そして納刀した聖剣を抜刀。

 

『黄雷、抜刀!』

 

『トゲッ! トゲッ! ランプド・ヘッジホッグー! 黄雷二冊! キュキュッと擦ると現れた、その魔神への願いとは、チクチクの鎧だった!』

 

 ランプドヘッジホッグに変身し、無数の針を発射して迫る何かとの撃ち合いになる。撃ち合ってるうちに、その迫るものは銃弾だと理解する。

 

「まさか……! 彼か……!」

 

 この世界で銃弾を使う者なんて一人しかいない。原因となる人物が誰なのかすぐに分かった。

 

「賢人!」

 

「大丈夫だ! 皆は戦ってくれ!」

 

「……分かった!」

 

『ストームイーグル!』

 

 セイバーはストームイーグルのページを押し込む。右腕に火炎の風が纏わり、それが振るわれると竜巻となってプテラノドンの魔物にぶち当たる。

 

「ちっ」

 

 ハジメはそんなセイバーを見て舌打ち。数分の撃ち合いの中、使っていたガトリングも限界を迎えたので使用をやめる。

 

「ならこいつだァ」

 

 また何処からか巨大な銃を取り出したハジメ。それの引き金を引くとミサイルが射出された、ロケットランチャーのようだ。

 

「!」

 

 エスパーダはミサイルに気づいた。あれが当たれば自分だけでなく周りも巻き込む為、空中にある内に撃ち落とそうとする。

 

『ランプドアランジーナ! ふむふむ! ニードルヘッジホッグ! ふむふむ!』

 

『習得二閃!』

 

 雷鳴剣の剣先のシンガンリーダーにブックを二回連続で読み込ませ、トリガーを引く。

 

 雷を纏った棘を剣から放ち、連続でミサイルを撃ち落とす。撃ち落とされたミサイルは空中で爆発。

 

「!? うわあああああっ!」

 

 しかし六発のうちの三発がセイバーに不意打ちで激突し、周りの魔物もろとも爆発する。

 

「飛羽真! くっ!」

 

「おいコラ南雲ォ! 今すげぇ真剣な時なんだよ! 邪魔してんじゃねーぞ!」

 

 玉井もハジメの仕業だと理解しており、これには流石に耐えきれなかったのかハジメに対して怒鳴り声を上げた。しかし本人はどこ吹く風と言わんばかりにその声を嘲笑し、次の武器を取り出す。

 

 彼はまた黒い球体————手榴弾を取り出して、今度は仁村達の元へ投げつける。

 

「!? うわあっ!」

 

「きゃあっ!?」

 

 その手榴弾は強烈に光り輝き、仁村の視界を奪う。それは近くにいた園部や宮崎、その他冒険者達の視界も奪う。ただの手榴弾ではなく、閃光手榴弾だったのだ。

 

 彼らは光によってジリジリと痛む目を抑えもがいていた。

 

 状況の悪化はそれだけではない。仁村が制御していた幻影魔法の効果が本人の異常事態によって切れてしまった。

 

 そのせいで魔物達は正気を取り戻し、攻撃しようとした冒険者達に抵抗しはじめる。これがハジメの狙いだった。

 

 それと今のハジメは当初は魔物を取り逃させる為にこの嫌がらせを始めたわけだが、途中で自身の攻撃で魔物ごと倒してしまっていることに気づいていた。しかしこれでも嫌がらせは出来ているのでまあいいか、という思考に行き着いているのだ。

 

 この嫌がらせは、彼が満足するまで止まることはない。

 

 再びロケットランチャーを構える。今度はエスパーダやセイバーを標的に据えることなく、色んな箇所にバラバラと撃ち始めた。

 

「くっ!」「はっ!」

 

 とある二人の冒険者が狼型の魔物と戦っている。そんな彼らにミサイルが迫りかけた。

 

「ふんっ!」

 

 だがそのミサイルはティオによって切り落とされる。ついでに二人が相手していた狼も倒してくれた。

 

「くっ! あの男、何処までも性格が悪い!」

 

 一連の事態もセイバーかエスパーダだけを狙ったものかと彼女は考えていたが、最終的には関係のない冒険者まで巻き込み始めたことに怒りを覚えるティオ。その間にも、素早く飛んで他のミサイルを撃ち落とす。

 

 エスパーダや玉井も斬撃を放ってミサイルを落としていた。

 

 バラバラに撃ち始めたのは、エスパーダ達はミサイルから冒険者を守ろうと撃ち落とすだろうと踏み、それで魔物の対応を疎かにさせようというハジメの作戦だった。連続で撃てば作戦の成功に拍車がかかる。

 

「はあああっ!」

 

 爆発から持ち直したセイバーは飛行型の魔物の最後の一体を切り倒す。

 

「まずい……! 助けに行かないと!」

 

 地上の状況を見て、セイバーは降下を始めた。

 

◇◇◇◇

 

「ちいっ……」

 

 魔物を操っている主————清水幸利は、焦りを感じていた。自分の目論見が気づかれていたことは勿論、操ってる魔物を園部達や謎の鎧男達によって倒されていってるからだ。

 

 当初は互角だと思ったが押されている。どうにかして巻き返さなければいけない。更には魔物どころか人まで巻き込むような攻撃をする者も何処からか出始めた。

 

「…………こいつを使うか…………」

 

 清水は懐から掌サイズの四角いものを取り出す。それはセイバーが使うワンダーライドブックにそっくりなものだった。

 

 違いとしては、黒い表紙はズタズタに引き裂かれたかのようになっていて、タイトルだけが上に書かれていた。

 

タイトルは、『KUROHANE NO KARASU』。ローマ字読みなので日本語に直せば"黒羽のカラス"となる。

 

 清水は躊躇うことなくそれを開いた。開いた先には鎖のページがあり、そこから複数の本が飛び出る。

 

『黒羽のカラス!』

 

 その本が積み重なるとそれが人型となった。しかし、現れたのは人間ではなく異形。

 

 全身は黒く、その頭部は鳥のようで胸部には本と思わしき装飾があり、両腕には大きな翼がついている。ブックのタイトル通り、カラスのような容姿をしている。

 

 清水は彼に「行け!」と指示する。異形————その名もカラスメギドは戦場に視線を向け、その翼を羽ばたかせ躍動する。

 

 新たなる混乱の素が投入された瞬間だった。

 

◇◇◇◇

 

「!?」

 

 魔物を斬り続けていたセイバーは自分の下へ黒い何かが接近していることに気付いた。視界に入った黒いそれはどんどん大きくなる。

 

 咄嗟にそれの突撃を避けて見ると、それはセイバーにとって一年間戦い続けて見慣れた怪物だった。

 

「どうしてメギドが……!?」

 

 セイバーが目の前にいるカラスメギドを見て驚愕の声を上げる。

 

 その間に、カラスメギドは翼を振るい何枚もの黒い羽を飛ばした。

 

「ッ!」

 

 それをどうにか避けるセイバー。その時、カラスメギドが高速でセイバーに突撃しようとする。

 

 嘴を剣で受け止め、その勢いに後ろに引くが、どうにか受け流した。

 

「こいつも早く倒さないと……!」

 

 戦場は未だ混乱に包まれている。だからどうにかして早めにケリをつけたいところだ。

 

 カラスメギドは3羽ほどカラスを召喚してセイバーに突撃させる。それをセイバーは接近した所で連続で切るが

 

「ぐはっ!?」

 

 切られた3羽のカラスは爆発を起こし、不意打ち気味の攻撃を与える。

 

 カラスメギドは召喚したカラスに死ぬことを対価に強力な爆発の攻撃を行わせることができる。召喚されたカラスにとっては文字通り自爆技だ。

 

 爆発によって怯んだセイバーに間髪入れずカラスをもう三体召喚し、素早く突撃させる。セイバーの身体にぶつかり、再び爆発を起こした。

 

 その攻撃で地面へ転がるセイバー。そんな彼にカラスメギドは再びカラスを飛ばすが、それを何度も喰らうまいと羽を展開し空に飛んで避けるセイバー。カラスは地面にぶつかり爆発。

 

 カラスメギドも空を見上げ飛翔する。今度は羽を模した黒い剣を持ちセイバーへ突撃。お互いの剣がぶつかり合う音が甲高く鳴り響いた。

 

「あん? なんか変なやつがいやがるな」

 

 ハジメはカラスメギドの存在に気付いた。その時はちょうどセイバーと交戦中だった。

 

「まあいい。この隙にあいつに……」

 

 今度はセイバーに向けてミサイルを発射。6本のミサイルが彼の下に迫るが————。

 

「"凍柩"!」

 

 ミサイルが全て凍りつき、地上へと落下した。

 

「!?」

 

 墜落してきたミサイルにエスパーダは目を向ける。

 

「ハジメのことは私に任せて、貴方達は戦って」

 

声をかけてきた人物をみる。そこにはユエがいた。

 

「君は……」

 

一方で、ハジメもミサイルが墜落したことに驚いていた。

 

「何が……」

 

「やあああっ!」

 

「ッ!?」

 

 驚いてるハジメに何者かがスライディングをかましてきたので、咄嗟にバク転して避けた。

 

「……おいシア、どういうつもりだぁ?」

 

 ハジメはスライディングをしてきたシアを睨みつける。

 

「それはこっちのセリフですよハジメさん……! どうして皆さんの戦いの邪魔をするんですか!?」

 

「ああ? ……はっ、腹いせのために決まってるだろ。こっちは三流小説家のせいで赤っ恥かいたんだからな」

 

 さも自分は被害者である、というような発言を何の疑いもなくするハジメ。

 

「そう言うわけだからシア、お前は宿に戻ってろ」

 

「…………申し訳ないですけど、断らせていただきます。貴方が皆さんの邪魔をするなら、私もハジメさんの腹いせの邪魔をします」

 

「ふっ……お前が俺に勝てると思ってんのか?」

 

 ハジメは銃を構え、突きつける。

 

「シアだけが相手じゃない」

 

 と、崖の下から誰かが飛び上がって着地。

 

「ユエ……お前もか」

 

「ハジメ……悪いけど、今回だけはハジメの意思には沿えられない……"緋剣"」

 

 ユエは手に炎の剣を生成する。シアも大型ハンマーの"ドリュッケン"を構える。

 

「たく……やれやれ、仕方がない。勝負を終えたら……夜にたっぷりお仕置きしないとなあ?」

 




tips

龍人剣術:龍人族内で教えられている剣術。ティオは現在の師範に教わった。風を纏った居合を繰り出す"風龍居合"、炎を纏った斬撃の"火炎龍斬"が現状登場しているが、他にも技は存在する。
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