炎の剣士と黒龍の少女 作:一般龍人族
「……妾の名は、ティオ=クラルス。歴史では滅んだとされる龍人族の、クラルス族の者じゃ」
黒髪の女性————ティオ=クラルスは、自らを龍人族と名乗った。
「龍人族……? なんでこんなところに?」
金髪の少女————南雲ハジメの仲間であるユエはティオに問いただす。
「何か知ってるのかい?」
「彼女は……」
「おいコラテメェ。なに勝手にユエに気安く話しかけてんだ? あ゛ァ゛?」
飛羽真がユエに質問するが、彼女が答える前にハジメが飛羽真を睨んで凄んだ。
瞬間、空気が張り詰める。ハジメから漂うそのビリビリとした雰囲気を愛子達は感じ取り、背筋が凍る。
それはハジメが持っている力、その名も“威圧“。これを受けた者は、文字通り相手に威圧され怯むのだ。力が強いものが使うと効果はより高まる。
「————ごめんね、気に障っちゃったかな? でも、事情を知りたいからさ。彼女に質問させてもらえると嬉しいな」
「なっ……」
しかし、ハジメの威圧は飛羽真には効いてなかった。怯んでいる様子など全く無く、むしろ穏やかにハジメに話しかけたのだ。ハジメは動揺のあまり思わず、威圧を解いた。それによって場の緊張も解ける。
「それで、彼女は一体?」
「……え、えっと、龍人族というのはかつて500年以上前に滅んだとされる種族。彼女も含めた一族は龍化という能力を使って龍に変身することができる。さっきの龍と同じ気を感じたからもしかして、とは思ったけど……」
戸惑いながらも、飛羽真の質問に答えるユエ。
「……やはり妾の正体を察知していたか。妾を凝視してた上に、其方からも妙な気を感じたからな。……何者じゃ?」
「……私は、吸血族の生き残り。300年前には、龍人族の話も聞かされてた」
「吸血族とな? 外界の情報から死んだと思っていたが……」
「ちょ、ちょっと情報量が多いね……」
ティオが500年以上、更にユエは300年以上生きているという情報を聞いて苦笑いする飛羽真。
「それで、どうしてこんな所に? なんで私たちを襲ったの?」
「……襲ってしまったことに関しては、本意ではない。操られてしまっておったのじゃ。操った主に、そこの青年と仲間を殺せと命じられた」
ティオはウィルを見た。その視線に動揺の色を見せるウィル。
「操られた? 一体何で……」
「それを含めて今から説明する」
飛羽真の質問にそう言ったティオ。そして、彼女からの説明が始まった。
彼女はある目的のために龍人族の隠れ里から旅立った。その目的とは、異世界からの来訪者を調べるということ。
龍人族には感知能力に優れたものがいるらしく、数ヶ月前に大きな魔力の放出と何かがこの世界にやってきたことを感知したという。
龍人族は外の世界には関わらないというルールがあったようだが流石にこの件を放置はできず調査することとなったのだ。そしてティオが行くこととなった。
本来なら山脈を超えた後、人の姿で市井に紛れ込み、龍人族であることを隠して情報収集をするつもりだったが休息を取ろうとし北の山脈地帯の一つ目の二つ目の山脈の間で休んでたという。周囲の魔物に襲われないよう龍化した状態で。
しかししばらくして、睡眠状態に入ったティオの前に全身黒ずくめの男が現れる。その男はティオに洗脳と暗示の魔法をかけたのだという。それに気づけなかったティオは、洗脳されてしまった。
「とんでもない男じゃった。闇系魔法に優れていたのじゃろう、眠ってしまっていたとはいえ龍人族である妾を洗脳してしまうとは……」
苦虫を噛んだ顔をするティオ。話さなかったものの、ティオは海を超えて飛んできた為に消耗をしてしまったらしく短時間での回復を図るため深い眠りに入ってしまっていたので余計に察知できなかった。
そして操った主のことをなぜ知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識もあったし記憶も残っていたからだという。
ティオは男に従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていた。
ある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールという魔物の群れが山に訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていたため追いかけた。一匹が男に報告に向かい、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いとティオを差し向けたらしい。
その後は飛羽真達によって撃破され、受けたダメージによって正気に戻り人間の姿にも戻ったという。
「ふざけるな……ッ!」
ティオの説明が終わった後、怒りを押し殺したように震える声がした。その声の主に一同は視線を向けた。それはウィルだった。拳を握り締め、ティオのことを睨んでいる。
「操られていたから……! ゲイルさん達を殺したのは仕方ないとでも言うつもりか!?」
ゲイルというのはウィルの仲間の冒険者達である。彼らが殺されたことへの怒りをティオにぶつける。
「…………彼らのことは……本当に、本当に申し訳なかった…………!」
そう言ってティオはその場に膝をついて両手を地につけ、顔を地に向けて伏せた。いわゆる土下座だった。ウィル達はそれに驚く。
「……こうやって頭を下げて済むような問題ではないし、今の話を信じてくれとは思っておらん。償えというなら、白刃も受け入れる……!」
「……!」
未だに土下座の態勢は続いているものの、少しばかり頭を上げてそう言ったティオ。
白刃も受け入れる————即ち、死。その言葉の意味をすぐに察した飛羽真は、その顔に少なからず動揺を見せた。ウィルも含めた一同も同様に。
「そうだなァ……俺たちだって突然襲われて迷惑掛けられたんだ……きっちり、落とし前はつけないとなァ?」
しかし、うち1人は動揺していない。
ハジメは再び値踏みするような細めた目で、ティオの身体を舐め回すように見る。口角を釣り上げ、舌なめずりをする。
「君」
「あ?」
ハジメは振り返る。その視線の先にいたのは賢人だ。
「それ以上喋るな」
「おいおい、俺は何か間違ってること言ったか? 俺は被害者だ。落とし前を求める権利はあるし、アイツもそれを受け入れてるが?」
「君が考えてるその落とし前は、下衆の極みだろう?」
「下衆の極みだァ? まだ何させるかも言ってねぇだろ、思い込みも大概にしろよ。やれやれ、これだから正義感の強い奴は嫌いなんだ」
「少なくとも思い込みじゃない。君の顔に分かりやすく出ていた。————値踏みする目つきで顔を歪めていただろう」
「…………てめェ…………」
険しい顔つきで淡々とそう告げる賢人を睨みつけるハジメ。
「魔物の大群!?」
だかそんな賢人とハジメの横で、大きく声を上げるものがいた。それは愛子だった。
事情を知ろうと、賢人は飛羽真に話しかける。
「飛羽真、一体何が?」
「さっきティオちゃんが話してくれたんだ、操っていた男が魔物の大群を作ってるって。しかも、魔物達を使ってウルの町を襲おうとしてる」
「何だと!?」
聞かされた情報に驚く賢人。魔物がどれだけの規模で、ウルの町にどれくらい人がいるかも分からないが、放っておくとまずいことになるのは一瞬でわかった。
「そんな、まさか……彼が……?」
傍では、愛子が戸惑いを隠せない様子で呟いている。
「ほー、本当に魔物の大群がいるな。しかももう進軍してやがる。この調子じゃ半日で山を下って一日で町には到達しそうだな」
どんな方法でかは不明だが、ハジメが魔物の大群を見たらしくそう言った。
「早く町に知らせないと! 住人の皆さんを避難させて、援軍を呼んだりしないと!」
「俺も手伝います! 放ってはおけません!」
「神山先生……! ありがとうございます……!」
飛羽真からの申し出を聞いて礼を言う愛子。
「早く行きましょう! ウルの町へ!」
そう言って飛羽真は一つのライドブックを取り出し、それのページを開いた。
『ディアゴスピーディー!』
ブックの題名が叫ばれると、一瞬で巨大化して変形し赤色のバイクへと変形した。そのバイクの名はディアゴスピーディー。飛羽真の愛車である。
『ライドガトライカー!』
賢人がライドガトライクフォンというスマホを取り出して操作する。それも巨大化して変形しトライクになった。その名もライドガトライカー。
「よし、これで……あーでも、これじゃ俺達も含めて四人くらいしか乗れないや……しまった……」
今すぐに行かなければという思いがあったものの、思わぬ落とし穴に躓いて頭を掻く飛羽真。
「あー……気にしないで大丈夫ですよ神山先生。……移動手段は、一応ありますから」
「?」
園部にそう言われ、飛羽真は疑問の表情を浮かべる。移動手段と言っても、馬などは周囲に見当たらないからだ。
そう考えているうちに、園部はハジメの方へ向いて歩き寄る。
「……南雲、お願い」
「お願いします、だろ? ……それに何か足りねえんじゃねえか?」
そう言って、ハジメは地面を指した。
「行きの時みたいに、土下座して懇願しろ」
ハジメファンの方は注意してください(激遅注意喚起)
ハジメくんとは何も関係ないですけどミステリという勿れっていう話で「土下座に意味があると思うと言うことは、貴方はそうしろと言われることがすごく嫌なんだということですね」っていう台詞があるんすよね。決してハジメくんとは何も関係ないですけど。
tips
トライク:三輪の乗り物という意味の表現。その為、自動車以外にも適用されることがある。