炎の剣士と黒龍の少女 作:一般龍人族
冗談は置いといて、難産でした。
◇◇◇
『ブレイブドラゴン』
かつて全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた
異世界での新たなる冒険の先で黒龍と巡り会う
◇◇◇
「ここが、ウルの町……」
しばらくマシンを走らせて、飛羽真達はウルの町に着いた。ヘルメットを脱いだ飛羽真は、町を見てそう呟いた。
一番最初に注目したのは湖。湖畔の町、と飛羽真は愛子から聞いていたがとても大きい湖だった。湖の名はウルディア湖である。
周辺にある町はレンガ造りの建物や、白壁の建物が見受けられる。他には料理を販売している屋台も。
他にも、千葉の大山千枚田や石川の白米千枚田、三重の丸山千枚田を思わせる棚田があった。
その光景を思わず眺める飛羽真だが、後ろにいた愛子はバイクから降りた後、すぐさま何処かへ走り去る。
それに追随するようにウィルや園部や玉井達も走る。
「愛子さん!」
彼らのことを飛羽真も追いかけた。賢人やティオも走り出す。
「魔物の大群!? 一体どういうことですか!?」
飛羽真達は愛子達を追いかけて町の役場へ着いた。だが、中は騒然とした様子であった。
部屋には町の重鎮の位置についてるだろう中年の男性達が集まっており、彼らは驚愕した様相で愛子やウィル達に問い詰めていた。
愛子達が魔物の大群がやってくることを説明したのだろう。
「おーおーえらい騒ぎになってんな、おい」
周囲の混乱も何処吹く風と言わんばかりの声がした。それはハジメだった。一同は一斉に彼を見る。
「おいウィル、勝手に走るな。自分が依頼対象だと自覚しろ。さっさとフューレンに行くぞ」
「は、ハジメ殿! ですが魔物が迫ってきてるんですよ!? 自分だけ先に逃げるなんて出来ません! 避難の誘導や、できることをしないと!」
「知るかよ、お前の都合なんざ。お前の意見なんかこれっぽちも求めてねぇんだよ。俺の仕事はお前をフューレンへ連れ帰ることだからなァ。ほら、とっとと行くぞ」
「ちょ、離してください!」
二の腕を掴み連れて行こうとするハジメに抵抗するウィル。
「……ちっ。おらあっ!」
「ぐはっ! ぐううううっ!?」
突如、ハジメはウィルを地面に叩きつけた。その後、その足でウィルの胸元を勢いよく踏みつける。その行動に一同は誰もが驚愕した。
「ハジメ!?」
「ハジメさん!? 何してるんですか!?」
驚愕したのはユエとシアも同じくだ。
「聞き分けのワリィ奴にはこうでもしないと聞かねェからなァ。おらっ、もっと食い込ませてやんよっと」
「うっ! がはっ!」
「骨の一本や二本砕けても文句言うなよ? それにこのことをチクらないようにしねぇとなぁ?」
グリグリとゆっくり足を腹に食い込ませ口角を吊り上げるハジメ。苦悶の表情をし、呻き声を上げるウィル。
「どけるんだ」
「あ?」
後ろから声を掛けられ、上半身を捻り視線を向けるハジメ。そこには、飛羽真。
「どうしたァ? 三流小説家。何か文句でも……」
「その足を」
へらへらと笑いながら軽口を飛ばそうとするハジメだが、それを飛羽真は遮った。
「どけるんだ……!」
「っ!?」
瞬間、ハジメは飛羽真に気圧された。
彼が纏う雰囲気は今までの穏やかなものではなく————非道な悪を焼きつくさんとする龍のようだったからだ。
気圧されたハジメは思わず後ずさる。それによってウィルが解放される。
「怪我はないかい?」
「げほっ! ごほっ! だっ、大丈夫です……」
飛羽真は膝をつき、起きあがろうとするウィルの肩を支える。
立ち上がったのち、飛羽真はハジメの方を向いた。
「……ハジメ君、仕事が大事なのは分かる。でも、ウィル君の意見も汲んであげるべきじゃないかな? それに、あんな乱暴なやり方は良くないよ」
「…………は、はは。た、ただのジョークだろ? 何マジになってんだよ。あれぇ? 俺何かやっちまったかぁ?」
「冗談で済ませようだなんて、往生際が悪いぞ」
飛羽真からの諭すような言葉にハジメは動揺しながらもふざけて返そうとしていた。すぐさま賢人が切り捨てた。
「南雲くん……ウィルさんにちゃんと謝ってください。いくらなんでもあれは……」
「愛ちゃんの言うとおりだよ。南雲、謝って」
「お前……やばいことばっかしてんじゃねえよ」
愛子が謝罪を促す。園部と玉井も非難するような目で彼を見た。昇と明人と妙子と奈々も同じ目だった。
その場にいた町の重鎮達も彼を厳しい目つきで見ている。
「……ちっ。そもそも、元はと言えばウィルが言うこと聞かねェのが悪いんだろうがよ! 俺に非があるってのか? アァ!?」
目を鋭くして皆を睨みつけるハジメ。
「ああ、その通りだ。非は君にある」
突如、眼鏡を掛けたツーブロックのスーツの男性がハジメにそう言った。50代は行ってそうで白髪も混じっているが、細身で身長が高く衰えを感じさせない。
「ハジメ、と言ったかな? 仕事と言っていたが内容は? 誰からの依頼で?」
「はっ、何でお前に答えなきゃ……」
「フューレンのギルド支部長、イルワ・チャング殿からの依頼です。内容は、クデタ伯爵家のウィル・クデタ……私の捜索です」
「ッ、テメェ!」
男からの質問をあしらおうとしたが、ウィルに答えられ怒鳴って睨みつけた。
「伯爵家にイルワ、か……。成る程、了解した。先程の君の行動の一部始終は、全部イルワ殿に報告させてもらうよ。貴殿が依頼した男は、依頼対象に、それも伯爵家に暴力を振るうような冒険者の風上にも置けない者だということをね」
「アァ? 言ってどうする? あんたとイルワにどういう繋がりが……」
「私はこの町のギルド支部長だ。イルワ殿とは親しい仲でね」
「はあ?」
「今回のことを事細やかに彼に伝えておくよ。そして、用意してるだろう報酬の取り下げを勧めておく」
「お、おい! やめろ! 言ったろ、元はと言えばそいつが言うことを聞かねぇのが悪いんだ! 俺は何も悪くない!」
ハジメは慌てて己の暴力の正当化をしようとする。流石の彼も、この事態の重さを理解したようだ。
「だから暴力を振るうのが正当だとでも? 随分と呆れた言い訳だな」
だが、それもあっさりと切り捨てられた。
「ちィッ! クソがァ! ふざけんじゃねェぞ! てめェもそこの三流小説家も! いい年こいた大人どもがよってたかって子供を責めやがって! 恥ずかしくねぇのか! あぁ!?」
ハジメは男や飛羽真達を連続で指差して吠える。そんなハジメを男は軽蔑の眼差しで見つめる。
「こんな時に子供を持ち出すか……子供を叱りつけるのも大人の役目だと思うがね。とにかく伝えることは決定した。ああ、暴力で止めたいのでればどうぞご自由に。その時は、今度は君の冒険者資格が剥奪されるだろうがね」
「〜〜〜〜ッ!」
ハジメは目の前の男を睨みつけ、歯を食いしばる。例え今暴力で止めたとしても、それでは何の解決にはならず、言われた通り自分が不利になる。完全に八方塞がりな状況に陥ってるのだ。
「これからは軽はずみな行動を慎むようにすることだよ」
だがそんなハジメを歯牙にもかけず、男は忠告をした。
「ウィル・クデタ様、貴方の身柄は他の冒険者達にイルワ殿の元まで送り届けさせていただきます。それと後でお渡しする書類をイルワ殿に届けてください。彼の暴挙を記すつもりですので」
「えっ……あっ、は、はい……」
男からそう言われて思わず頷くウィル。
「この度の件、彼に代わり誠に深くお詫び申し上げます」
そう言って、男は深々と頭を下げた。
「あ、頭を上げてください! 貴方様は悪くありませんので! ……送り届けるのは感謝します。ですが、住人の避難などは手伝わせてくれませんか? やはり、先に逃げるなんて出来ません」
「……貴族の手を煩わせるわけにはいかないのですが……分かりました。お願いいたします」
「そんな……我儘を言ってるのはこちらの方なので、お気遣いなく」
男とウィルの間でそんなやりとりがされる。
「……じゃあ住人の避難誘導をしましょう。それと俺、魔物と戦います」
「か、神山先生!? 急に魔物と戦うって……そんなの、危険すぎます! 規模だって分からないのに!」
飛羽真のその突飛な言葉に驚愕し引き止めようとする愛子。
「でも、魔物を倒さないとこの町が壊されてしまいます。そうしたら、この町を愛してる人や、思い出がある人が悲しむかもしれない。だから俺は戦います」
「おっしゃられてることは分かりますけど、だからって…………! それに1人でなんて!」
「1人じゃない」
愛子の言葉に重ねるように告げる声がした。それは賢人だった。彼は飛羽真の肩に手を乗せる。
「俺も一緒に戦うぞ、飛羽真」
「賢人……!」
「いや2人だからって良いわけじゃないですよ!? 避難を……!」
「愛子さん」
飛羽真が真っ直ぐと愛子を見据えながら名前を呼び、本人はそれに思わず声を止める。
「貴方の心配する気持ちは嬉しいです。でも、俺達は引けません。この町を大切に思う人々のためにも」
「………………!」
彼の真っ直ぐな目とその言葉を聞いて本気で戦う気だと愛子は悟った。
「わ、私も戦います!」
「園部さん!?」
「お、俺も戦う!」
「玉井くん!?」
園部と玉井が声を上げた。それに対して愛子は驚く。その後、他の四人も俺も、私もと声を上げた。
「神山先生! 私達も一緒に戦わせてくだい! 先生の言う通り、二人だけじゃ危険です!」
「園部ちゃん……気持ちは嬉しいけど、君達の方がそれこそ危険だ。この町の人たちと一緒に避難を……」
「危険なのは分かってるけどよ!」
飛羽真の言葉に被せるように玉井が声を上げた。
「それでも……それで何もしねェのは嫌なんだよ! 前みたいにビビってただジッとしてるだけなんて、ごめんなんだ!」
「…………!」
「頼む……! 一緒に行かせてくれ……!」
玉井が頭を下げる。後に、園部達も頭を下げる。
「み、皆さん! 危険です! ここは……」
「待ってください、愛子さん」
慌てて止めようとする愛子を、逆に飛羽真が制した。
「皆、顔を上げて」
そう言われ、六人は顔を上げる。
「……本気なんだね?」
飛羽真の言葉に黙って、しかし強く頷く。
「…………そっか、分かった。でも、無理だけは絶対にしないで欲しい。危なかったらすぐに逃げるんだ」
「神山先生!? どうして……!」
「ごめんなさい、愛子さん。でも、頭まで下げられたんです。俺は彼らの意思を尊重します」
「ですが……!」
「皆のことは、俺や賢人に任せてください。絶対に守り抜きます。約束です」
「…………分かりました。お願いします」
愛子は、飛羽真の言葉を受けて生徒達のことを彼に託した。やはり、彼の真っ直ぐな目と言葉を受けたからだ。
「皆さん……本当に、本当に無茶だけはしないでください。絶対に生きて帰ってください。私は、戦うことは出来ないですけど……魔物が攻めてきても、ここで皆さんの帰りを信じて待っています。それが、私に唯一出来ることですから」
愛子の言葉に生徒達六人は頷いた。
「力が回復したら妾も共に行く。この事態、妾も見過ごしてはおけぬ」
「ティオちゃん……ありがとう」
ティオがそう言って、飛羽真が礼を言った。
「俺は魔物の所へ一度偵察に行ってくる。何かあったらガトライクフォンで報告する」
「ああ、頼んだ賢人」
その後、賢人は扉から出ていった。
『ランプドアランジーナ!』
外に出た賢人はランプドアランジーナワンダーライドブックのページを開く。魔法の絨毯を召喚し、飛び乗って魔物がいる所へ向かい始めた。
「南雲! アンタも手伝ってよね」
「…………あァ? 何で俺が」
園部が俯いていたハジメにそう言った。本人は彼女を睨みつける。その目に思わず怯む園部。
「……お前錬成師だろ? 何か武器を作ったりとか、防壁作ったりとか出来ないか?」
玉井も一瞬怯むが、すぐに持ち直してハジメに頼もうとする。
「やるわけねェだろ。それに今すこぶる機嫌悪いんだ。舐めた口聞いてたら殺すぞ? アァ?」
しかし、即答で断った。更に目線を鋭くし、彼らを脅し、凄む。
「協力してくれれば」
それにまたもや園部達が怯んでいたその時、先程のギルド支部長が声を上げた。
「イルワ殿に渡す書類にそのことを記載して、ある程度は情状酌量をするように書いておくが?」
「…………ちっ。分かったよやればいいんだろやれば。あークソ。さっきまで気分上がってたのに。マジで胸糞ワリィわ」
その後、ハジメは文句を言いながら扉から出る。扉に向かう途中で人がいた時は軽く突き飛ばしていた。
それまでただ事態を傍観することしか出来てなかったユエとシアは、申し訳なさそうに部屋の人々に頭を下げて出た。
「……こうなったら、ちょーっと嫌がらせするしかねぇな」
廊下を歩きながら、ハジメは小声で呟いた。
このハジメはギリギリ社会で生きれるレベルです。恐らく。
というかあそこで彼に取れる選択肢はギルド支部長の言うことに従うか暴れ回って飛羽真くんに止められるかの二つしかないんだ。流石の彼も前者を選んだんだ。まあやらかす気満々ですけど。
原作で"手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く"ってハジメがウィルに言ってたけど、マジで砕いたらその後とかやばそうだよね