夢幻泡影   作:烊々

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前編

 

 

「はーい、おねーちゃんのかちー」

「……参りました」

 

 今日のプラネテューヌ姉妹の模擬戦も、ネプテューヌの勝利に終わった。

 

「また負けちゃった……こんな調子で本当にお姉ちゃんを超える女神になんてなれるのかな……」

「なれるなれる。ていうか、今のネプギアってわたしがネプギアぐらいの歳の頃よりもう全然強いし」

「そうなの……?」

「うん。まぁ、わたしにもそんなに強くない頃があったんだよね…………」

 

 空を見上げながら呟くネプテューヌ。その表情はどこか儚げなものだった。

 

「……お姉ちゃん? どうしたの?」

「あ、なんでもないよ。だからネプギアは気にしなくて良いってこと。ていうかわたしがネプギアに簡単に負けちゃったらわたし女神やめなきゃいけなくなるし」

「そ、それもそうだよね。でも、私もいつかお姉ちゃんみたいにみんなを護れる強い女神になってみせるよ!」

「うんうん。がんばれネプギア」

 

 愛妹の頭を撫で、歩いて教会まで戻るネプテューヌ。

 

(みんなを護れる、か……)

 

 ネプギアの言葉をきっかけに、ネプテューヌは過ぎ去りしある記憶を思い起こしていた。

 

 

 

 

 

        - 夢幻泡影 前編 -

 

 

 

 

 

 それは十数年前、まだネプギアが生まれていなかった頃の話である。

 

「本当に行くのですか? 今回の件、ネプテューヌさんが頑張っても、シェアには繋がりませんし、何よりネプテューヌさんが危険です」

「わかってる」

「ならもう止めません。お気をつけて。こちらからもできるだけのサポートはしますので」

「ありがとう! 行ってきまーす!」

 

 イストワールに見送られ、教会から駆け出すネプテューヌ。

 その様子を見た教会員の女が、不思議そうな表情でイストワール問いかける。

 

「……教祖様、今ネプテューヌ様が教会を飛び出して行きましたが、どうかされたのですか?」

「えっとですね……ラステイションとの領域沿いにある小国をご存知ですか?」

「はい。存じています」

 

 ゲイムギョウ界には、プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックスの四つしか国がないわけではなく、四大国の領域内ではあるが大国に統治されていない周辺の小国が存在する。

 その一つのある小国が、現在存続の危機に晒されていた。

 近頃、その小国の領主が亡くなり、その一人娘がまだ若いながらも後を継いだが、それを好機を見た周辺諸国が小国を取り込もうと圧力をかけてきているのだ。

 そして、場合によっては新領主が命の危機に及ぶ可能性もあることを見かねたネプテューヌが立ち上がったのである。

 ネプテューヌの狙いは、その小国とプラネテューヌで同盟を結ぶことで、圧力をかけてくる周辺諸国に対して逆にプラネテューヌが圧力をかけることであった。

 

「一部の有識者の中からは、あそこは軍事的価値が高いため同盟という生温い手段ではなく強引にでもプラネテューヌに併合した方がいいとの声もあります」

「しかし、ネプテューヌさんはそんなことを望んではいませんよ」

「でしょうね。それでこそネプテューヌ様です」

「私もできるだけネプテューヌさんのサポートをします。たとえこの国のシェアに繋がることではないにしても、ネプテューヌさんの……女神様のやりたいことをサポートするのが私の役目なので」

「私にも何かできることがあればお手伝いさせていただきますよ、教祖様」

「はい。ありがとうございます」

「では、失礼します」

 

 教会員の女は、軽く頭を下げ、イストワールの元から離れて仕事に戻っていく。

 

「……まぁ、領主の暗殺計画は既に始まっているんですけどね」

 

 そんな独り言を、誰にも聞こえない声量で呟きながら。

 

 

 

 

「……というわけで、かの小国の領主暗殺、どうでしょう?」

 

 教会員の女は、髪型を変えスーツに着替え、薄暗い路地裏で、そこにいるもう一人の女に話す。

 

「報酬はどんなもんよ? まずはそっからよ」

 

 聞き返したもう一人の女は、無地のTシャツとジャージズボンという路地裏に似合う地味で柄の悪い格好をしている。

 スーツの女が仕事の仲介人役、ジャージの女が仲介人によって斡旋された仕事をこなす役といったところだろう。

 

「プラネテューヌの狂信者が出す分を全て足すと、おそらく二億にのぼるかと」

「……へぇ。良いじゃない」

 

 ジャージの女はニヤリと笑う。

 裏社会での暗殺業の相場は一人約二か三千万、高くても五千万を超えるか超えないかといったところだが、提示された額はそれを大きく上回っていたからだ。

 

「しかし問題がありまして、プラネテューヌの女神様が、その小国と同盟を結び、手続きが完了されるまでのあいだに、その娘を護衛をすると言い出したのです」

「はぁ? なんで女神がお姫様の護衛なんてすんのよ? それに、わざわざ同盟なんて結ばなくても、お姫様が死んで小国の存亡が危うくなれば、プラネテューヌに併合できるんじゃないの?」

 

 言われたとおり、ネプテューヌがその娘を守る意味はない。

 領主が殺され、統治者がいなくなった場合、その土地は近隣の大国であるプラネテューヌに併合されることになる可能性が高い。

 

「守護女神とはそういうものなのですよ。自らの知るところで人が傷つくことが許せない、といったところでしょうね」

「お人好しも過ぎればただのアホね。それにウケんのは、この仕事の依頼人もまたプラネテューヌの女神信者ってことかしら。教会って内輪揉めでもしてるわけ?」

「女神信仰も一枚岩じゃないということです。女神様の思うようにするべきという信者もいれば、女神様の望まぬ方法でも国の発展をすべきという信者もいる……という感じですかね」

「ふーん……」

 

 ジャージの女は十秒ほど考え込んでから、ニヤリと笑いながら口を開いた。

 

「……うん、お姫様の暗殺、承ったわ。ロクに戦えもしない小娘を殺せば二億なんて、こんなに割の良い仕事はないもの。その代わり、必要なものを色々と請求させてもらうわよ?」

「ええ、構いません」

 

 スーツの女も小さく笑い、彼女たちの間で契約が交わされた。

 

「あんたも悪〜い教会員ね。女神様裏切って、こんなことの仲介人やってるなんて」

「教会員の姿は、私なりのビジネスの中の一つでしかありませんので」

「そう。まぁ、そういうとこは信頼できるわ」

 

 言いながら、ジャージの女はポケットからタバコを一本取り出し、火をつける。

 

「タバコ、やめたのではなかったのですか?」

「死んだ旦那が嫌いだったからやめてただけ」

「おっと、これは失礼。そういえば、娘さんもいましたよね? 確か、お名前はアイ……」

「別にあんたが名前覚える必要ないでしょ。ていうか、私だってもう一年ぐらい顔も見てないから元気かどうかなんて知らないし。子育てなんてめんどくさいもの。託児所に金だけ払って後は放置よ」

「そうですか、では失礼します」

 

 ジャージの女の言葉からは少し苛立ちを感じられ、スーツの女はそそくさと立ち去って行く。

 

「……あの子好きじゃないのよね。旦那に似てるから。まるで生写しってぐらいに」

 

 誰が聞いてるわけでもない独り言を呟き、タバコの吸い殻を地面に投げ捨て、ジャージの女も路地裏から去った。

 

 

 

 

「えっと、あなたが女神様……なのですか?」

「そうだよ!」

 

 領主の少女はネプテューヌに対して、筆舌に尽くし難い表情を向けていた。

 大国の守護女神が直々に自分に会いに来ると伝えられ、緊張して身構えていたのだが、いざやって来た女神は自分よりも幼い少女の見た目をしていたからだ。

 

「も、申し訳ありません。その、女神様をお目にかかるのは初めてでして……まさかそのような幼い見た目だとは……」

「あはは、よく言われる」

「しかし、女神様直々にここに来たということは、この国を渡せと言いに来たのですよね? しかしこの国は、私がお父様から託され、先祖代々受け継がれてきたものです。たとえ女神様が相手でも、ここを譲るわけにはいきせん」

「うん。いいよ」

「……え?」

 

 想定とは真逆だったネプテューヌの反応に、領主は目を丸くした。

 

「元々そんな気はないよ。小さくても、ここはあなたの国だもん。でも、あなたを消してでもこの領地を手に入れたいって人が沢山いることはわかってるよね?」

「はい。しかし私の意志はわかりません」

「だから、同盟を結ぼう!」

「同盟……?」

「プラネテューヌとあなたの領地で同盟を結べば、誰もあなたにもあなたの国にも手出しができなくなる。プラネテューヌごと敵に回すことになるからね。いーすん……ウチの教祖が、同盟の手続きが全部終わるまで三日かかるっていうから、その間はわたしが君を守るよ」

「いいんですか……? あ、ありがとうございます!」

「国のトップって大変だよね。いちいち昔と比べられたりとかさ。私もよく、昔の女神様の方が良かったー、とか言われるもん」

「……女神様もそうなのですか?」

「そうだよ。そしてやっぱりあなたもそうなんだね」

「はい。お父様が生きていればという領民も多くいます。しかし、そんな領民たちも大切な人たちなのです」

「うんうん。わかるよ、その気持ち」

 

 ネプテューヌは持ち前のコミュ力で、即座に領主の心を開いて仲良くなることができた。

 

「…………!」

 

 そんな二人が楽しそうに会話を弾ませていると、急にネプテューヌが何かに気づいた様子で、顔つきが少し険しくなった。

 ネプテューヌが、秘密裏に領主の屋敷に展開していたイストワール特製の簡易結界が何者かに破壊されたことを感知したのだ。

 

「女神様? どうかしましたか?」

「いや、ちょっとトイレ」

「出て左側の方にあります」

「ありがとー!」

 

 ネプテューヌは結界が破壊された方向へ駆け出して行った。

 

「あら女神様、左と言いましたのに、右に出て行ったわ」

 

 

 

 

 結界を突破した侵入者の男は、余程自分の腕に自信があるのか、屋敷の正面玄関から堂々と入って来ていた。

 

「俺が一番乗りだな! さぁて! ぶち殺しに来たぜぇ? 領主のお嬢ちゃ〜…………あん?」

 

 男は、自分と同じように堂々と正面から歩いて来たネプテューヌに対し、不満そうな声を漏らす。

 

「あなた、何者?」

「名乗るほどの者じゃねえよ。一介のハンターさ。てか、マジで女神が護衛してんだな」

 

 ネプテューヌはその言葉を聞き、眉を顰めた。

 自分が領主の護衛をすると決まったのはついさっきのことであり、見ず知らずのハンターが知っているわけがないからだ。

 

「……それ、誰から聞いたの?」

「誰からって……あの領主のお嬢ちゃんには懸賞金がかけられてんだ。ネットで調べりゃすぐ情報が出てくるぜ? 五千万だ五千万。そんだけありゃ、ちまちまとハンターなんてやらなくてもいいってな」

 

 ハンターの男は、背負っていた大剣を両手に持ち換え、ネプテューヌに襲いかかる。

 

「女神だろうがなんだろうが、俺の稼ぎを邪魔するやつには消えてもらうぜ‼︎」

 

 

 

 

 ハンターの男を数秒程度で撃破したネプテューヌは、領主の元へ戻った。

 

「あ、女神様おかえりなさい。トイレは左の方でしたのよ?」

「あー……ごめんトイレってのは嘘」

「え?」

「思ったより深刻な事態になってたから、誤魔化さずに言うね」

「……はい」

「今君には懸賞金がかけられているんだ。今君を狙ってきた人はわたしが追い払ったけど、多分これからもっともっと君を狙う人が来ると思う」

「申し訳ありません……私のせいで女神様まで危険な目に……」

 

 領主は、強気に振る舞っているが、命を狙われ続けるという恐怖が抑えきれず、身体の震えに出てしまっていた。

 

「君のせいじゃないよ。君のことは絶対にわたしが守るから、わたしから離れないで」

 

 言いながらネプテューヌは、震える領主を優しく抱きしめる。

 

「もう大丈夫です。ありがとう女神様」

「どういたしまして! さて、君の情報が出回ってることについて、ちょっと調べてもらおうかな」

 

 ネプテューヌは携帯端末を起動し、イストワールに通話をかける。

 

「もしもし、いーすん? あの子に懸賞金がかけられてるらしいんだ。どんな感じか調べてみてくれない?」

『こちらで既に確信しています。丁度今こちらから連絡しようと思っていたところです。ネプテューヌさんの端末にメールでサイトのURLを送りますね』

「ありがとう。助かるよ」

 

 ネプテューヌが携帯端末に送られたURLを開くと、そこには領主の画像と、

 

『懸賞金 50000000credit あと68:45』

 

 というメッセージが表示されていた。

 

「このサイト作った人の特定ってできる?」

『それが……特定しても、既に使われていないアドレスでして……』

「まぁそうだよね。足がつかないようにするに決まってるか。あと68時間……タイマーは72時間から作動してるようだから、丸三日ってことかな」

『おそらく、全ての手続きが完了し、プラネテューヌとの同盟が結ばれる時間まで、ということでしょう』

「そっか。とりあえずあと68時間。気合入れて守り切るもんねー!」

 

 

 

 

「やっぱり、そこらへんのザコじゃ女神に手も足も出ないわねぇ」

『いきなりインターネットにサイトを作れと要求された時は少し驚きましたが、まさか、あなたが領主に懸賞金をかけるなんて思いもしませんでしたよ』

「これで三日間、懸賞金に釣られたザコどもが絶え間なくお姫様を狙う。おかげで、私は一切手を下さすに女神を疲弊させれるわけ」

 

 ジャージの女は双眼鏡を片手に、先程のネプテューヌの戦いを遠くの高台から眺めながら、携帯端末の通話越しに領主暗殺計画の一部を語る。

 

『しかし、誰かがあの娘を殺してしまったらどうするのです? 誰でもできる簡単な任務だとわかれば、クライアントも支払いを躊躇すると思いますが。加えて五千万という報酬金、あなたに払えるんですか?』

「そこは大丈夫よ。女神が護衛してるターゲットを抹殺するには、まず女神を倒すなりしないといけないわけだし、金に釣られるようなザコどもじゃ女神に勝てるわけなんてないわ」

『……では、あなたなら?』

「さぁ、どうでしょうね? とりあえず、私は女神とターゲットの様子見を継続する。そっちも色々頼むわね。それじゃ」

『はい』

 

 ジャージの女は通話を切り、サンドイッチを頬張りながら、ネプテューヌたちを監視し続ける。

 

「さて、どこまでのもんか見せてもらおうじゃない。女神サマ?」

 





 謎のジャージの女……一体誰のお母さんなんだ……?
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