前半より少し長くなってしまいました。こういうのはバランスが大事だというのに。
ネプテューヌが領主を襲う者たちを危なげなく退け続け、制限時間の72時間が経過しようとしていた。
「ネプテューヌさん、お菓子と紅茶の準備ができましたよ」
「わーい! ありがとー!」
「いいえ。ネプテューヌさんにしてもらってることに比べれば些細なことですもの」
最初は命を狙われる恐怖で体が震えていた領主も、何度も襲われるうちに次第に慣れていき、戦いを終えたネプテューヌのためにお茶菓子を用意するようにすらなっていた。
また、心の距離もすっかり縮まり、『女神様』から『ネプテューヌさん』と呼ぶようになっていた。
「ネプテューヌさん、この三日間休んでいないけれど、大丈夫ですか? 少しお休みになられた方が……」
「大丈夫大丈夫。わたし女神だから。それに、君の懸賞金の制限時間ももう過ぎるし、休むのは終わってからにするよ。あと三十分切ってるもん」
「わかりました……ネプテューヌさんだけに負担を押し付けてしまって……私からあなたに返せるものなんて何もないのに……」
「何もなくないよ。君の想いがわたしの力になるから、決して何もなくなんてない」
それは気休めではなく、真実だった。
国は違えど、ネプテューヌを想う心がシェアとなり、ネプテューヌの力となっていた。
「……4、3、2、1、よし! 制限時間が過ぎた! これで君への懸賞金が取り下げられたから、もう安心だね!」
そして、懸賞金のサイトに表示されたメッセージの制限時間は『00:00』となり、その数秒後サイトそのものも削除された。
「ネプテューヌさん、本当に……ほんとうにありがとうございました」
「とりあえず、同盟の手続きが終わって最後には君のサインがいるから、一緒にプラネテューヌまで来て欲しいんだよね。ついでに観光でもしていきなよ。わたしが案内するからさ」
「はい! 是非!」
二人は屋敷からプラネテューヌへ向かうために外に出る。
三日間、護衛のために屋敷から外に出ることはなかった二人にとって、陽の光は普段より明るく感じられた。
「その、ネプテューヌさんに最後のお願いがあるんです……」
「最後だなんて言わないで、もっとお願いしてくれてもいいよ?」
「えっと、じゃあ、お願いを言いますね……!」
領主は緊張しているからか、少しだけネプテューヌから離れる。
「私……幼い頃から領主になるために教育を受けてきて、友達なんていなかったんです。だからネプテューヌさん、わ……私と……友達になってくれませんか⁉︎」
その言葉を聞いたネプテューヌはニッコリと笑う。
「わたしたち、もう友達でしょ?」
そして、ネプテューヌの言葉を聞き、領主もとびきりの笑顔を浮かべた。
「……っ、はい! これからもよろしくお願いし」
領主が言い終わる前に、銃声が鳴った。
「……え?」
どしゃり、とその場に倒れ込む領主。
弾丸は見事に頭を貫いており、即死だった。
「はい、ターゲット殺害。遺体の回収もしなきゃいけないから、ほらどいたどいた」
そして、軽薄な口調から放たれた言葉とともに、片手に拳銃を持ったジャージの女が物陰から現れた。
「どう……して……」
「どうしてって、その娘を殺してお金をもらう、それが私の仕事だからよ」
「懸賞金は取り下げられたんだよ……? もうこの子を殺す意味なんてなかったのに……!」
「あー、それ私が取り下げたの」
状況が飲み込みきれず立ち尽くすネプテューヌを気にかけることもなく、女は話を続ける。
「あんたの護衛は完璧だったわ。付け入る隙なんて今の今まで存在しなかったぐらいにね。だから、偽物の制限時間を設定することで、あんたに錯覚させたのよ。72時間過ぎれば狙われることはなくなるってね。多分制限時間設定しなかったら、あんたは今みたいに気を抜いて自分のカバーできる範囲から娘を出すこともしなかったろうから、今の銃弾も防がれてたでしょうね」
ヘラヘラと笑いながら話し続ける女に対し、状況を理解したネプテューヌの怒りがどんどん湧き上がる。
自分の友人であった領主を殺した目の前の女への怒り、女の言うとおり油断した自分の迂闊さへの怒り、そして一人の少女に向けられたいくつもの悪意への怒り。
ネプテューヌは拳を震わしながら握りしめ、無意識に歯軋りまで鳴らしていた。
「一番嫌なパターンは、どっかの別の誰かに領主に殺されることだったんだけど、まぁそこはあんたを守護女神として信用してたからね。私の獲物を守り抜いてくれてありがと。さ、わかったならそこをどいてくれる? さっきも言ったけど、遺体引き渡すまでが仕事なのよね」
「……もういいよ。喋らなくて……っ!」
「……ん?」
「あなただけは……絶対に許さない‼︎」
ネプテューヌの怒りは頂点に達し、自身のシェアエネルギーを解き放ち、パープルハートへと女神化した。
「まぁ、どくわけない、か」
「随分と余裕ね……!」
「そうね、あんたよりは余裕よ。ここ数日、睡眠どころかろくに休息も取ってないんでしょ? 今変身して立ってるのもギリギリなぐらい疲れてんのなんて見ればわかるわ」
「それでも、人間如きに負けると思う?」
「そういうセリフ吐く時点で余裕ないって言ってるようなも……」
女が言い終わる前に、パープルハートは前進し、その首に刀を伸ばす。
「……おー怖々、殺意全開じゃない」
しかし、その刀は空を斬る。
(速い、避けられた……!)
女は拳銃から鉛弾を撃ち出しながら、ひたすらパープルハートとの距離を取る。
しかし、銃弾がパープルハートを捉えることはなく、その全てが斬り落とされる。
(ん〜、やっぱり女神相手じゃ、こんな玩具じゃ役に立つわけないわね)
「こっちの方がいい、か」
女が両腕を前に突き出すと、そこから爆炎が吹き出した。
「……っ」
熱で怯んだパープルハートに、追撃と言わんばかりに炎の玉を撃ち出す。
(この炎……魔力で作り出されているもの。これほどの炎魔法の使い手……そうはいない。けど、魔法を使う相手なら、近づけば……!)
パープルハートは地面を蹴って飛び上がり、プロセッサユニットで空を駆ける。
(飛ばれんのまぁまぁだるいわね。けど、飛び道具ならこっちの方があるし、問題ないけど)
この頃のネプテューヌはまだ『32式エクスブレイド』や『デルタスラッシュ』を習得しておらず、遠距離攻撃ができないため、敵にダメージを与える為には近づく必要がある。
撃ち出される炎弾を旋回しながら回避し、そのまま接近する。
女は魔法陣から剣を取り出し、パープルハートの刀を受ける。
反射神経に加えて予測、人の身で修羅場を潜り抜けて来た者が得られる強さ。
膂力や機動力では自身が劣る守護女神を相手に、互角に剣をぶつけ合う。
(この女……近接もいける口なのね……っ!)
女は剣に魔力の炎を纏わせ、振り回すことで斬撃だけでなく炎の渦を発生させ、ほんの少しずつでも確実にネプテューヌの体力を削っていく。
(魔法と剣技を巧く織り交ぜている……こんなこと、私にすらできないわ……)
自らが使う『ブレイズブレイク』をも凌駕しているその見事な手捌きに、敵でありながらネプテューヌは感心していた。
(……けど、炎と炎の中に、僅かに隙間がある!)
感心しながらも、敵の様子を伺い、その隙を看破したパープルハートは、一瞬発生した炎の隙間を狙い、一気に距離を詰める。
「はぁぁぁっ! 『クリティカルエッジ』!」
パープルハートは多少のダメージを覚悟し、炎の隙間から突進、その勢いを殺さず、技を繰り出す。
「……っ、やばっ」
女は新たな短剣を取り出して迎撃しようとするが、女神の渾身のスキルの前では人間の抵抗など無意味。そのまま『クリティカルエッジ』が炸裂し、勝敗が決する。
「……なんて、この時を待ってたのよねぇっ!」
……かのように思われたが、パープルハートは急な目眩に襲われ、視界が歪み『クリティカルエッジ』が不発となった。
「この刃、あんたら女神には良く効くんだけど、何せ脆いのよね。純度の低いアンチクリスタルは、耐久性が大きく下がるから」
アンチクリスタル。
放たれる負のエネルギーが、女神の力の源であるシェアエネルギーの供給を妨げ、女神の力を奪う悪魔のアイテム。
女は切り札であるアンチクリスタルが刃に含まれた短剣をこの時まで隠していた。
確実にトドメを刺す際の布石にするために。
「これ……は……?」
万全のパープルハートならば、この程度の量のアンチクリスタルには行動不能になるほどの大きな影響を受けなかっただろう。しかし、今のパープルハートは不眠不休での度重なる戦闘により最悪のコンディションであり、少量のアンチクリスタルでも多大な影響を受けてしまう。
そして、女はよろけたパープルハートの顔面に、容赦なく拳を叩き込んだ。
「がっ……」
「私がノコノコとあんたの前に現れた理由わかる? 私はあんたと"良い勝負"がしたいわけじゃないの」
パープルハートが刀を握る腕を動かそうとする前に、腕に側面から思い切り女の膝蹴りが叩き込まれると、骨が折れた鈍い音が鳴る。
そして、痛みで一瞬動きが鈍った隙を狙われ、脇腹に短剣を刺し込まれる。
「ぐぅ……っ!」
なんとか折られていないもう片方の腕に刀を持ち替え振るうも、女が屈んで体勢を低くしたことにより避けられる。
「このタイミングで仕掛ければあんたに勝てる、その確信があったってこと。勝てる"かも"じゃなくて"勝てる"なのよ」
そのまま足に何度も短剣を突き刺され、体勢を大きく崩したところに、頭部を思い切り蹴り飛ばされた。
「終わりね」
蹴飛ばされ、地面を転がされたパープルハートは、意識を失い、変身が解除された。
「人なら死ぬけど、女神なら死なない程度にしといたわ。女神殺っちゃったら、依頼人に何言われるか分からないし、報酬金がおじゃんになっちゃうもの」
女は、念のためネプテューヌが死なないように少量の回復アイテムを投げつけてから、領主の遺体を回収してその場を去って行った。
*
「こちらが報酬金の二億四千万の小切手です」
遺体を指定された場所に運搬し、任務を完遂した女は、数時間後に例の仲介人から報酬を受け取っていた。
「おっ、上乗せされてんじゃん。どうしたの?」
「あなたの働きぶりが評価されたからでしょうね。連中は『正直ダメ元で依頼をしたが、本当に完遂するとは思わなかった』と嬉しそうに言ってましたよ」
「ダメ元、ね。まぁ、女神の護衛掻い潜ってターゲットを殺すなんて普通はできないもの。てか、連中これからどうするわけ? 正直今回の件、すぐ教会にバレてお縄につくでしょ」
「その話も少ししましたけど、彼らは『目的である領主の排除をした以上、例の小国はプラネテューヌに併合されることになる。そうなった後に自分たちが教会や女神に裁かれるならそれは本望』って感じなことも言ってました。つまるところ彼らは狂信者なので、国の発展に繋がればなんでもいいんじゃないですかね」
「はっ、イかれ野郎どもとはこれ以上関わりたくないものね」
「全くです」
仕事を終わらせた途端、依頼主への文句と悪口で盛り上がる二人。
「あんたはこれからどうすんの?」
「そうですねぇ……おそらく教祖イストワールは私が今回の件の仲介人だったことに気づくでしょうし、これからは他の国で仕事しましょうかね。北か南か、それとも東か」
「無駄に世渡りが上手いから、どこ言ってもやってけるでしょ、あんたは」
「それが取り柄ですので。しかし、教会関係の仕事は当分の間やめておこうと思います」
「それがいいわ。あんたには無事でいてもらわないと、こっちに仕事回って来なくなるし。別の仲介人探すの面倒だもん」
「それはこちらもです。あなたと仕事をすると、リスクもありますが大きく稼げますし」
「そ。んじゃ、ひとまずは解散ってことで。おつかれ」
「はい。お疲れ様でした」
仲介人の女は街の中に消えていった。おそらく、先程も言ったとおりプラネテューヌから離れるのだろう。
ジャージの女はその背中を見送ることもしない。そもそもそういった仲ではないからだ。仕事での付き合いは長いが、お互いの人生には関与しない、それが彼女たちの暗黙のルールでもあった。
(私も女神に顔見られたし、もうプラネテューヌにはいられないわねぇ。しばらくは派手に仕事なんてできなそうかな。当分仕事しなくてもいいほどの金はあるし、暇だからあの子を連れ帰って育てて…………いや、私が子育てなんて柄じゃない、か)
自身の今後のことについて考えていると、背後から異様な気配を感じ取った。
「……あ?」
言いながらゆっくり振り返ると、そこにはネプテューヌが立っていた。
身体の所々から血を滴らせながらも、女の居場所を突き止め、追ってきたのだ。
(……あえて殺さずにいたとはいえ、たった数時間で動けるようになるとは思わなかったわ。しかも、折ったはずの腕がもう治ってやがるし)
「お礼参りだなんて、女神サマも怖いことするわね」
女は平静を装いながら、ネプテューヌに嫌味を吐き捨てる。
「負けたままじゃ終われないんだよね。わたし、主人公だから」
語るネプテューヌの表情からは、領主を殺されたときのような怒りや憎悪は感じられず、逆に悍ましいほど澄んでいた。
これが先ほど女が感じた異様な気配の正体である。
「……もう仕事は終わったし、報酬金も受け取った。あんたを生かしとかなきゃいけない理由はもうどこにもない。そんなに死にたきゃ、今度こそ殺してあげるわよ」
女には、目の前のネプテューヌの意図が理解できずにいた。まだ、領主の仇打ちで自分を倒しに来たのならば納得がいく。しかし、先ほどから述べているとおり、ネプテューヌからはそういった感情が一切確認できない。
だからこそ、ネプテューヌへの不快感をそのまま態度に示した。
「わたしは死なないよ。けど、戦ってくれるならお願いしたいかな」
言いながら、ネプテューヌは再度の女神化を果たす。
プロセッサユニットの強度は、装備している守護女神のコンディションによって左右される。
今のネプテューヌは、少し休んで回復したとしてもまだまだ満身創痍。それに比例するようにプロセッサユニットもボロボロであり、所々から軋む音さえ鳴っていた。
(……やっぱり、折った筈の腕は治ってるし、刺し傷もある程度は塞がっているわね。けど、疲労そのものがなくなってるわけじゃないのは見れば分かる。それに、アンチクリスタルのタネは割れてるけど、そもそもアンチクリスタルはタネが割れてるぐらいでどうにかなるものじゃないし、まだ効く。だから知られてるとはいえ、アンチクリスタルによる優位性は保たれたまま)
女は、そんなパープルハートを観察しながら、どう動くかを考える。
(……うん。問題無いわ。充分殺せる)
出した答えは、戦うこと。
しかし、一言で表すならば、らしくなかった。
本来この女には自分の実力や勝敗に対するプライドなど存在しない。普段ならば、適当に戦うフリをして隙ができたら逃げていただろう。
もしかすると、パープルハートに充てられてしまっていたのかもしれない。パープルハートがただ自分を倒そうとするように、女も目の前の敵をこの手で叩き潰したくなっていたのだ。
「行くわよ」
「ええ、来なさいよ」
そのやりとりが戦闘の合図となり、パープルハートが前進し、刀を振るう。
女も魔法で異空間に収納していた剣を顕現させ、斬撃を受ける。
女神と人間、本来なら互角であるわけないが、疲労が溜まっているパープルハートと、ほぼ無傷で万全な女とで、互角のぶつかり合いとなっていた。
切り結ぶ中、パープルハートの脳裏に、一瞬領主の顔が浮かぶ。
(ごめんね……あなたのことを守れなくて。けどそれよりも謝らなきゃいけないことは、あなたが殺されたことに対してもう怒ってないこと……)
そして、次は刃を交える相手に意識に向ける。
(……正直、あなたにももう怒ってない。けど、私が女神であるために、私が私であるために、あなたは倒さなくちゃいけないから)
パープルハートの頭にあるのは、一度敗北した相手にリベンジを果たすという、ただそれだけの純真たる戦意。
(傷は治り切ってないし、疲れも抜け切ってない。それなのに身体が軽くて、思うがままに動ける気さえしてくる。だから、今までは朧げなイメージしかなかった私の必殺技が、今ならできる気がする……いや、絶対にできる)
パープルハートは澄んでいく思考の中、まるで世界そのものに祝福されているかのような全能感を覚えていた。
直前の敗北は、パープルハートの成長にとって大きな糧となっていたのだ。
(……っ! 何か来る……!)
パープルハートからシェアエネルギーの高まりを感知した女は、アンチクリスタルの短剣を構える。
「『ネプテューンブレイク』」
その直後、目の止まらぬ動きで敵を斬り刻み、シェアエネルギーを大量に含んだ斬撃でトドメを刺す、ネプテューヌの必殺技『ネプテューンブレイク』が繰り出された。
今この瞬間までは使用できなかった必殺技を習得したこと、それはつまりパープルハートが今ここに完全なる守護女神への覚醒を果たしたことを意味していた。
「……ぐっ、ああああぁぁぁぁッ‼︎」
完全な覚醒を果たした守護女神の必殺技の前に、少量のアンチクリスタルなどは機能しなかった。
そして、守護女神の渾身の一撃をその身に受けた人間がどうなるかなど、言うまでもなかった。
「か……はっ……」
逆を言えば、人間の身でありながら守護女神が手加減できないほどの相手だった、ということ。
そして、皮肉なことに、この女がネプテューヌを追い詰めすぎたからこそ、ネプテューヌは"完成"してしまったのだ。
「……なるほど。これが守護女神……か」
女は薄れ行く意識の中、自身が捨てたはずの娘のことを思い出してきた。
「精々……長生きしなさいよ、女神サマ」
(……あの子の……未来のために……ね)
「言われるまでもないわ」
「そう……」
「……さようなら」
「ええ、さよなら……」
女は小さく笑う。
娘が生きていくプラネテューヌの未来が、覚醒したこの女神に護られるなら安泰であろうことに。
そして、食い扶持を雑に稼ぐだけで、生きる理想も目標もなかった自分にとって、今この瞬間こそが死に場所にうってつけだったことに。
(今逝くわ……あなた……)
左手にはめられた指輪を眺めながら、女はその場に崩れ落ち、もう動くことはなかった。
*
かの事件から数週間後、プラネテューヌ自体は何事もなく平穏だった。
ネプテューヌは護衛に失敗し、領主は死亡したが、その情報はプラネテューヌの国民にまで知れ渡ることはなかったのだ。
むしろ、ラステイション領域近くの小国をプラネテューヌに併合できたことに対して、国民たちから多くの好感を得ることができ、シェアは大きく上昇した。
たとえそれが、ネプテューヌの意に反していた結果だったとしても。
「……ねぇ、いーすん」
「どうしました?」
「候補生、わたしの妹って生まれるのかな?」
「ここ最近のシェアの上昇率からすると、そう遠くない内に生まれる可能性が高いですね」
「そっか……欲しいなぁ、妹。可愛いからってだけじゃなくてさ。わたしだけじゃみんなを守りきれないから、わたしが守りきれない人をわたしの代わりに守って欲しいな、って」
その約一週間後のことであった。
プラネテューヌに新たな女神『ネプギア』が誕生したのは。
*
「…………子、ネプ子!」
「ねぷぅ⁉︎」
時は現在に戻り、居眠りをしていたネプテューヌはアイエフの怒号によって起こされた。
「『ねぷぅ⁉︎』じゃないわよ。仕事の途中に眠りこけて」
「ごめんなさいねぷ。でもちゃんと終わらせたねぷ。これでいーすんに怒られなくてすむねぷねぇ」
「なにその謝る気皆無な語尾」
「あれ、あいちゃんだけ? こんぱは?」
「実家に顔出してるんだって」
「実家……あいちゃんは実家帰ったりとかしないの?」
「私は帰る実家がないし」
「あ、ごめん……」
「別に気にしなくていいわよ。そういう育ちだからこうしてプラネテューヌ教会の諜報員してるわけだし。割と気に入ってるのよ、今の生活」
「あいちゃん……!」
「ちょっ、ネプ子! いきなり抱きつくな、こら!」
スキンシップを拒否されたネプテューヌは、口を尖らせながらアイエフに訊ねる。
「ネプギアもいないけど、どこ行ったか知ってる?」
「修行だって。ネプ子に負けたのが悔しかったみたいね」
「そっか」
ネプテューヌはネプギアが生まれる直前に願ったことを思い出し、小さく笑う。
妹が強くなればなるほど自分と一緒に護れるものが増えていく、と。
「……何笑ってるのよ?」
「んー? 別に、なんでもないよ。じゃああいちゃんと模擬戦しよっかなぁ」
「別に良いけど、私とやってもつまらないわよ? 私人間だし」
「あんま関係ないと思うけどな。わたし昔人間に負けたことあるから」
「本当? ネプ子の言うことだからあんまり信用できないけど」
「酷い!」
「冗談よ。さ、行きましょ」
「うん!」
ネプテューヌとアイエフは冗談を言い合い笑い合いなから教会の修練場へ向かって行った。
-夢幻泡影 完-
・聞かれてないけど勝手にQ&Aコーナー
この作品に出てきたオリキャラ周りの独自設定をQ&A方式で勝手に解説するコーナーだゾ
Q. ネプ子はアイエフが例の女(ママエフ)の娘なのは知ってるの?
A. 知りません。アイエフは父親似で母親にはほとんど似ていないため、ネプテューヌは気づいていません。もし気づいた場合はアイエフに正直に言いますが、アイエフ的には自分を捨てた母親よりネプテューヌの方が大切なので気にしないでしょう。
Q. 既に亡くなっていたアイエフの父親(パパエフ)はどんな人だったの?
A. 朗らかで超が付くほどの善人でした。あまりにもの善人ぶりからママエフもすっかり毒気を抜かれ、パパエフが生きていた頃はあのような仕事をせずに普通の主婦をしていました。しかし、二人の間にアイエフが生まれて間もなく病気で亡くなってしまい、旦那への愛情を拗らせ全てがどうでもよくなったママエフはアイエフを捨てて裏社会の仕事人に逆戻りしました。ちなみに、作中でママエフが言っていたり、直前のQ&Aで述べられているとおり、容姿はガチでアイエフに似ています。
Q. ママエフはどうやってアンチクリスタルを入手したの?
A. ダンジョンなどで偶然見つけたり、裏社会で少量ながら流通していたものを購入したりして、少しずつ集めて短剣に加工しました。覚醒したネプテューヌには大した効果はなかったものの、売れば数千万はくだらない逸品です。ちなみに、短剣はその後ネプテューヌとイストワールによって破棄されました。
Q. 仲介人の女はあの後どうなったの?
A. あの後イストワールにその正体がバレましたが、ママエフの言うとおり世渡りが上手いので、今でもプラネテューヌではないどこかで同じような仕事をしています。また、あわよくば成長したアイエフを自分とママエフの関係のような仕事仲間にしようと思っていましたが、アイエフがプラネテューヌ教会の諜報員になったことを知ると諦めました。
終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。