赤き竜?いいえ、赤き龍です 作:ムフェト・ジーヴァカッコよすぎ…
最初は苛立ちから始まった。
カリバーンを抜き、ウーサー王の嫡子と名乗った時から魔竜ヴォーティーガンは必ず始末すると誓った。
アルトリウスがカリバーンを抜く前から統治していた領地にサクソン人、ピクト人を嗾け、無辜の民を虐殺しようとしたこと。
詩人、商人を利用した噂の拡大を妨害したり、アルトリウスが周辺諸国に赴いた際にヴォーティーガンが直接訪れ、領地の村や畑、街を焼き尽くしていく事に。
苛立ちは怒りに──それでもやるべきことが多く残るブリテンでアルトリウスは腹の中にその怒りを収め続けていた。
そして、苛立ちは怒りに変わる。繰り返すこと幾度も。アルトリウスは神仏ではなく、部下から魔竜ヴォーティーガンの被害の報告を受ける度にその表情は抜け落ち、能面の様な表情に変わる。
数える事すら面倒な“仕事”が増え続ける余り、アルトリウスは魔竜ヴォーティーガンを始末することにした。
──聖剣、抜刀。
赤き龍の炉心から無尽蔵の魔力が大海嘯の如く溢れ出す。真エーテルを凌駕する濃密な魔力が炉心から腕に、腕から聖剣に伝達する。濃密な魔力は空間を侵蝕し、他の生命体を拒絶する領域を形成する。
轟ッ、と膨大な魔力が極小の光の嵐として変換される。光の嵐は幾度も収束と加速を繰り返し、聖剣の刀身に宿る。
炉心から常に供給される魔力をそのままにアルトリウスは聖剣を掲げ──天から地に振り下ろす。
──エクスカリバー
聖剣からの究極の光の斬撃は、大気を焦がし、大地を深く切り裂く。容易く城塞を焼き尽くし、嘗て栄華を極めただろう崩れ落ちた城を巻き込み、甚大な被害を与えた。
単騎で攻め込むのは魔竜ヴォーティーガンの住まう居城、怒りの聖剣の一撃は過剰とも言える火力を叩き出し、魔竜ヴォーティガーンの居城である古城は瞬く間に崩壊を始めた。
この一撃を以てしてもアーサーの怒りは収まらない。
アーサーの視界には崩壊した城の残骸の中で、瓦礫の中から這いずり出てきた魔竜ヴォーティーガンの姿があった。
既に身体の半分以上は大きく焼き焦がし、下半身は消し飛んでいるにも関わらず、その瞳からは憎悪の色が消えていない。
流石と言うべきか、それとも竜であれば当然と思うべきか。
消し飛んだ下半身は直ぐに再生を始めていた。
『──赦さぬ、赦さぬぞォッ!アーサァ!……絶対に貴様だけは赦すものかァッ……!!』
最早言葉を発することすら出来ない程に損傷したヴォーティーガンだが、怨念の声が周囲に響く。
アルトリウスは既に満身創痍となった魔竜を見下ろしながら告げた。
「貴様如きにブリテンの無辜の民達のを滅ぼさせると思っていたか。出来損ないの竜が……貴様は常に目障りだ…」
──エクスカリバー
再び掲げられた聖剣から放たれるのは先程の攻撃よりも遥かに高出力の光。
龍の炉心から汲み上げられた無尽蔵の魔力をアーサーは指定性を持たせた。聖剣から放たれたのは純粋な破壊の力。それは対象を破壊する為だけの力だ。
2度目の攻撃を魔竜ヴォーティーガンは素直に喰らうわけがなく、再生した巨体を動かす。轟ッ、魔竜ヴォーティーガンの周囲から嵐の如く魔力が発生した。聖剣の真正面から迫り来る光を飲み干す。口を大きく空け、ブラックホールの如く聖剣の光は方向を変え、ヴォーティーガンの魔力として変換する。
「──ッ、……面倒な」
掲げた聖剣を降ろし、空を飛ぶ魔竜ヴォーティーガンを見据える。
腐っても、竜ではあったかと。
神話では神に匹敵する力と有り余る巨体で天を焼き焦がし、地を揺るがす。並の武具では傷一つすら付かない龍鱗に数多の英雄英傑達の一撃を嘲笑う外殻。容易く天を舞い、欲望のままに動く──竜。
例えその力が、神に劣るとしてもこのブリテンでその力であまりにも充分過ぎた。
弾けるような憎悪と憤怒をその身に体現するようにヴォーティーガンは奪い取った聖剣の魔力を黒く染め上げ、咆哮を上げた。
『■■■■■■■────!!』
煮え滾る激情に呼応するようにヴォーティーガンの魔力は更に爆発的に膨れ上がる。
その影響か、空間は大きく軋み、重圧に耐えれず破砕する。
『貴様にブリテンを奪われるならば、貴様諸共ブリテンを滅ぼしてくれるわァッ!』
竜の咆哮。
ブリテンという島そのものが恐怖に震えるように、真エーテルに匹敵する魔力が充満していく。ヴォーティーガンのブレスが魔力を吸収して更に威力が底上げる。
ブリテンを何度も滅ぼすことも可能な咆哮に、アーサーは──
「────エクスカリバー」
黒い魔光は、白い極光の前に砕けた。
片手で振るう聖剣。
聖剣の光はヴォーティーガンの全力に近い咆哮の全てを灼き尽くした。
アーサーは炉心から魔力を込める動作は無く、自前の魔力を掬い上げ聖剣に流し、白い極光を放った。
城塞を溶かし、破壊した一撃とは桁違いの魔力を容易く用意し、剰えヴォーティーガンの光に属する魔力を取り込む性質を真っ向から捩じ伏せた。
硝子を砕くように黒い光と白い光が砕け合い、周囲に漂う。
ザクッ、ともう一度聖剣を地面に突き刺す。
アーサーは顔を上げた。古龍の王の双眸、炯眼が現状を飲み込めないヴォーティーガンを捉えていた。
「全力でこの程度か、取るに足らないな」
“ブリテンを守る”では無く、ブリテンの民達──無辜の民を守ることを役目としているアーサーにとってヴォーティーガンほど目障りなものはいなかった。
ヴォーティーガンの目的は神代最後の神秘が残るこのブリテンを手中に収めること。
そのためになら虐殺を厭わないアーサーとの対立は確実なものだった。
アーサーはふと、我が姉──モルガンのことを思い出す。モルガン自身もアーサーが選定の剣を抜いてから多くの厄介事を引き起こしている。
軍事物資の奪取、領地内のアーサーに対する印象操作、自ら作り上げた幻想種を解き放つこと。
数こそは多くとも、直接的に民に被害を与えたことは1度なりとも無い。
軍事物資の奪取はアーサーの領地内は他の国、領地とは違い古龍の王たるムフェト・ジーヴァの力を存分に使い、物資は溢れているぐらいだ。
アーサーの印象操作、アーサーが収める領地内の民達の殆どがアーサーの庇護を受けた者たちだ。理由無く明日に死ぬブリテンではアーサーが収める領地内こと最も安全であるが故に民達のアーサーの印象は信仰の域にまで至っていた。
幻想種を放っていたこと、寧ろ感謝をしていたぐらいだ。無償で騎士達の訓練に使える幻想種がやってくることにアーサーは悦んで騎士達を派遣した。
アーサーにとって、モルガンとヴォーティーガンが行ったことに対する違いなどどうでも良い。
ただ一つ。
ブリテンの──無辜の民に被害を与えたか、与えなかったか、それだけである。
故にアーサーはモルガンに対して報復はせず、ヴォーティーガンには死を告げに来た。
『──……なぜ、何故、ナゼ、何故だ──!!』
その言葉には憤怒と憎悪とは違い、困惑と驚愕が込められていた。
『──貴様は何なのだァッ!アーサーァ!』
「貴様は何なのだ……だと?」
『惚けるつもりか…!!』
怒りを滲ませた声が濃密な魔力共に溢れる。
“喋っても良いが…”と一瞬だけ浮かぶ。
此処で滅ぶ者には要らぬなと一蹴し、
『──。いや、恍けるつもりなど無い。貴様は此処で滅ぼす。くだらない話をするつもりは無い──では死ね。エクスカリバー』
『──グアァァアアァアァッ!!』
一方的に話を終わらせる。
もう一度聖剣を下から上に、聖剣の斬撃を放つ。ヴォーティーガンは翼を広げて斬撃を避けるように飛ぶ。
『──巫山戯るなァッ!
咆哮にも似た怒号が響く。
ブリテンを神代との決別を赦さないヴォーティーガンにとって、アーサーが霊脈を通じて神代回帰を行っていたことに行き場の無い怒りが、憤怒と憎悪がもう一度膨れ上がる。
アーサーはその叫びには──
「失せろ、滅べ」
無慈悲に一蹴した。
アーサーは無言で剣を振り上げる。
赤き龍の炉心から供給される魔力が聖剣へと流れ込む。聖剣はアーサーの意思に呼応する様に真エーテルを放出し始める。
真エーテルが聖剣から解き放たれると同時に、アーサーは聖剣を地面に突き刺す。
──真エーテルと聖剣から放出されたエネルギーが合わさり、莫大な量の光が放出される。
極大のエネルギーは周囲の空間を歪め、大地の、ウェールズの霊脈に干渉する。
アーサーのの魔力と霊脈のエネルギーを繋ぎ、霊脈からエネルギーを吸収する際は周囲の大地から明るい光が漏れ出し、
吸い上げたエネルギーが聖剣と集中していく。
聖剣を空に向け、剣先に霊脈のエネルギーとアーサーの魔力が溶け、混ざり、織り合う。反発と加速、収束を繰り返し一滴の雫の大きさに姿を変える。
──星の眩い輝く、蒼い雫が堕ちた。
「跡形も無く消し飛べ」
蒼い星が弾けた。
同時に繋いでいた霊脈のエネルギーが爆発的に肥大化した。霊脈のエネルギーが炸裂し、地盤を破砕する。
空間の全てを灼き尽くす。膨張した空気が爆風として空間に伝達し、ウェールズの大地に伝わる。物理の法則と幻想の、神秘の法則が改竄、崩壊が起きる。異界の法則を内包するアーサーの力が、空間を破壊し、因果を破砕し、次元を穿つ。
空間が捻じ曲げられ、アルトリウスを中心に半径数百メートルの範囲が消失する。
『────────』
無音の世界が広がる。
声を上げる事すら許さない、消滅の一撃。
光はあらゆるものを分解しながら、世界を塗り替える。
その一撃は大地すらも削り取り、跡形もなく消し去る。
─────────────筈だった。
「ほう、まだ耐えるか?」
『───ッッ!!』
アーサーの目の前には、身体中を焼かれながらも、王の雫を模した一撃に耐え切った魔竜ヴォーティーガンの姿があった。
ヴォーティガーンの身体から黒炎が立ち上ぼり、アーサーの聖剣を睨み付ける。
ヴォーティガーンは身体を震わせ、アルトリウスに向かって飛び掛かった。
アーサーは聖剣を構え、迎え撃つ。
赤き龍の炉心に貯蔵された膨大な魔力は聖剣に注ぎ込まれ、強い光を放つ。
「────」
『────』
交差する視線。
先に動いたのはヴォーティガンだ。
巨大な爪をアーサーに向けて振り下ろす。
「────遅い」
しかし、その攻撃は既に予測していた。
アーサーにとって、この程度の相手など造作もない。
既に聖剣の柄を握り締めていたアーサーの手が僅かに動き出す。
そして──
「──────消えろ。目障りだ」
刹那の瞬間に聖剣を引き抜き、そのまま一閃。
アーサーの斬撃を受けた魔竜の右腕が斬り落とされる。
『──────!?』
痛みを感じる器官は既に使い物にならない魔竜ヴォーティーガンだが、その表情は驚愕に染まっていた。
いつの間にか自分の片腕が無くなっていたからだ。
ヴォーティガンは残った左腕でアーサーを殺そうとするが、聖剣によって受け止められてしまう。
「貴様如きが私に触れられると思うなよ」
アーサーはそのままヴォーティーガンを押し返す。
空中に投げ出されたヴォーティーガンは着地しようと足を動かしたが、地面が無い事に気付く。
『────ッ、巫山戯るなァッ!!』
巨竜でもある竜体を上手く制御し、翼を広げ、飛行しようとするが──
「無駄だ」
───アーサーの聖剣を振るい──聖剣が影が重なるようにブレて、双翼の根元を一瞬で切断する。
バランスを失ったヴォーティーガンは墜落し、地面に叩きつけられる。
「……終わりか?竜種とやらも、存外大した事は無いな」
聖剣を一振し、鞘に納めるアーサー。
ゆっくりと魔竜ヴォーティーガンの元へ歩み寄る。
『────────』
魔竜の瞳に映るのは圧倒的な力の差。
自分より遥かに格上の相手に初めて会ったヴォーティーガンは恐怖を覚えた。
ヴォーティガンは必死に思考を巡らせる。
このまま戦っても勝てる見込みはない。
ならばどうすればいいのか。
逃げる事は許されない。
このブリテンで逃げ場等存在しない。
ヴォーティーガンは考えた、考えて、考え抜いた結果。
ある結論に至った。
それは─────────喰らう事だった。
辿り着いた先は無謀だった。
ヴォーティガンはアーサーに狙いを定め、口を大きく開く。
そして──────アーサーを丸ごと飲み込むように、喰らい付いた。
「──────ふむ」
アルトリウスは冷静に状況を判断する。
魔竜はアルトリウスを噛み砕こうと、口を閉じ、牙を剥く。
アルトリウスは聖剣を地面に突き刺し、片手を振り翳す。
「…………」
そして、アーサーは無言でヴォーティガンの頭部を思い切り殴りつけた。
『────────!?』
アーサーの拳を受け、魔竜の頭は潰れ、肉片が飛び散る。
それでもアーサーは止まらない。
何度も、何度も、執拗に、狂った様に、無慈悲に、無感情に、ただひたすらに、魔竜の頭を潰し続ける。
簡単に殺す事はしない。
『■■■■■■──!!』
魔竜の絶叫が木霊する。
アーサーは血塗れになりながら、魔竜の身体を滅多打ちにする。
ヴォーティガンの身体は原型を留めていない程に引き裂かれていた。
アーサーの眼光は冷たく、一切の容赦も無かった。
まるで虫けらを殺すかのように、淡々と同じ動作を繰り返す。
「……やはり、この程度か」
やがて飽きてしまったのか、アーサーは聖剣を引き抜くと、そのまま魔竜の首を撥ね飛ばした。
魔竜の首から上が無くなる。
胴体だけになった魔竜は最後の力を振り絞り、ブレスを吐こうとするが、アーサーに踏みつぶされてしまう。
「ふんっ!」
アーサーはそのまま足を動かし、魔竜の身体をすり鉢状に凹ませる。
「さて、そろそろ終いだ……笑える話だ。まだ生きてるとはな。──星との誓約もある。ここで価値を見せておくか、民達にも私が人ではないと、知らしめるために、私の作戦のために存分に役に立つのだ──良かったなヴォーティーガン?」
興味を無くしたアーサーは無慈悲な一言を呟く。アーサーの炯眼はウェールズから離れたアーサーな付き従う騎士達、民達を見ていた。
聖剣を納刀する。
聖剣エクスカリバーと鞘である全て遠き理想郷の二つを。
そして、空に向けて投げた。
空に舞う聖剣は──赤き龍が飲み込んだ。
我らが王、騎士王アーサー陛下。
それは前触れもなく起きた。
アーサー陛下が単独でヴォーティーガンの討伐に征く。
去年から急速に増え続けた蛮族の侵攻に騎士達が対処にしてる所に突然の報告。
アーサー陛下の義兄、ケイ卿が既に出発した後の円卓で発言した。
円卓の騎士たちは大きく揺れた。
騎士達の殆どがアーサー陛下に忠誠を誓うが故に突然の報告に動揺を隠すことは不可能だった。
ヴォーティーガンの恐ろしさはブリテンの居ればどれだけのものか、分かるはずだ。
蛮族もヴォーティーガンがブリテンに引き入れ、ブリテンの惨劇を起こしている。
「これだから面倒なんだよ、アルトリウスめ、俺に諌めるために他の連中に言わなかったな」
ケイ卿は吐き捨てるように呟く。
ワザと義兄にしか伝えない、その上で騎士達と民達が起こす行動を扇動する役目を押し付けたアーサー──アルトリウスにいつか仕返しをしてやると心に決めて、立ち上がる。
「ここで弾抗するよりもアーサー陛下は日が昇る前に出発していた──今すぐ追いかければ間に合うんじゃねぇか?」
アーサーに盲信にも近い騎士達の心情は一つである。陛下の為に死ぬ事。
いつか死ぬかも分からないのなら戦場で、陛下の為に死ぬ事こそが史上の騎士達はケイ卿の一言に精錬された軍隊のように行動を、戦場に赴く準備を行い始めた。
多くの騎士達がアーサーの応援に行きたがっていたがそれを許してしまえば領地を、国の軍事力を下がってしまうため、アーサーの戦いに出向いたのは円卓の騎士達の中でも武と知恵に抜き出た十数名だけであった。
後に後続の部隊がやってくるが間に合うかどうかであった。
個々が持つ最速の移動手段を使い、ウェールズに向かっていた。
そして、騎士達がヴォーティーガンの住まう居城に近づいた時、騎士達は見た。
数百人は居るであろう、民達を。
当然の結果、騎士達は動揺し、騎士達の中でも信頼の厚いランスロット卿が民達に避難を促す。
“これから我らが王、騎士王アーサー陛下がヴォーティーガンと衝突します。我々もアーサー陛下の元に向かうため──此処は危険な場所になるため避難を”と。
ランスロットの忠告は民達には意味を成さなかった。
“アーサー陛下が魔竜の元に向かったのは知ってます。──だからこそ、私達はここに居るのです。アーサー陛下が、わざわざ私たちにブリテンの明日を示すと、私達の村に訪れてくれて下さったのです。アーサー陛下がいなかったら私達は村で餓死していました。救われた命をアーサー陛下の為に使いたいのです”と一人の民が代表して告げた。ランスロットはどうするかと他の人を見渡すが数百人を超える民達の反応は同じだった。
硬すぎる意思に騎士達はどうするべきか、悩んでしまう。
アーサー陛下の応援に向かいたい。だが、民達を見過ごす訳には行かない。忠誠を取るか、信頼を取るか──騎士達は僅かに悩み、
『分かりました。我々はこれから周囲の警戒に周ります。』
ブリテンの民達を守る事こそを第一と考えろ、アーサーは普段から騎士達にそう伝えていた。それを行動に移すだけだった。
そして、地平線の近くにあった居城に聖剣の斬撃が、蹂躙した。
人々はその戦いを二度と忘れることはないだろう。ウェールズの大地で始まったこの戦いを。
神話の如き戦いだった。
赤き龍と黒い竜がブリテンの明日を賭けた戦いが始まっていた。蒼穹を支配し、天に座し、破壊の権化──ドラゴンがウェールズの土地そのものを破壊の限りを尽くしていた。
赤龍──ムフェト・ジーヴァ
魔竜──ヴォーティーガン
赤き龍は我等が王騎士王アーサー。
ウーサー王の嫡子にしてブリテンの真の後継者、そしてウェールズの伝承の赤き龍の心臓を司る偉大なる騎士王。
魔竜はブリテンに厄災を齎す悍ましいウェールズの伝承において、赤き竜の敵対する白き竜の化身して、ウーサー王の実兄。ヴォーティーガン。
ああ、アレを戦いと呼ぶべきだろうか?
黒い竜は光を呑み込む闇を体現した竜鱗は切り裂かれ、砕かれ、数多の騎士達の武具を容易く防ぐ堅殼は砕き、大きく潰れていた。蒼穹を支配する双翼は切断され、根元から大きく炭化されていた。
踏み潰され、磨り潰された頭は最早死んでいるのではないかと、思わせるほど。
赤き龍は一切の傷は無く、赤き龍から放たれる未知のオーラはウェールズの霊脈を通じてブリテンの霊脈を完全に掌握していた。
『■■■■■■■■■────!!!!』
赤き龍が咆哮を挙げた。
それに付き従うようにブリテンの霊脈は強く活性化し、霊脈の力を大地から魔力に変えて、蒼い粒子と形を変え、赤き龍に集う。
轟々、とウェールズの空が震えた。
赤き龍が天高く飛び立つ。赤く立派な剛翼を広げ、王者としての風格を示すように、支配者としてのオーラが圧力を感じさせる。
ウェールズの土地を見渡すほどの高度まで飛ぶ。
そして、世界が──赤き龍、ムフェト・ジーヴァのみに許された独自の法則を持つ世界を再現した。
本来それは、星の極限の単独種──アルテミット・ワンだけに許される他天体の法則を世界に浸蝕する侵食固有結界。
蒼穹が砕かれた。
ウェールズの空が硝子のように壊れた。
空の向こうに彼方の世界が──遥か彼方の別次元の世界がこちら側の世界と接触した。
空から大地に、空間を破壊し、己の世界をウェールズの全てを侵食する。
そして──星が堕ちた。
蒼い雫。赤き龍がブリテンの霊脈を通じて、溜め込んだ無尽蔵の魔力が一滴の雫を落とすようにムフェト・ジーヴァは解き放つ。
蒼い粒子はヴォーティーガンに向かい落ちて行く。
そして、ムフェト・ジーヴァの侵食固有結界がウェールズの全てを塗り潰したと同時に──蒼い雫は大地に落ちた。
蒼い雫は着弾。
ほぼ誤差なく蒼い極光が世界を飲み尽くす