赤き竜?いいえ、赤き龍です 作:ムフェト・ジーヴァカッコよすぎ…
アーサー王は時折、何処かに姿を消す。
誰かに言伝を残さず、忽然と姿を消すのだ。最初の頃は多くの騎士達は戸惑いを隠せなかった。
ふらりとしかし、やがてそれは日常の光景となり、誰も気にしなくなった。
聖剣の鞘を持ちの共鳴によって、彼は何処か別の世界へと旅立ってしまうのだと、いつしか皆がそう理解していたからだ。
そして、その日もアーサーは姿を消した。
夜を満天の星空が、地平線彼方まで咲き乱れる花々、妖精たちが踊り歌い、数多の幻獣達が住まう世界。
──アヴァロン、全て遠き理想郷。
正史においてアーサー王が死後に辿り着くとされた理想郷。
アルトリウスは聖剣と鞘を握りしめて、一人そこに立っていた。精悍な顔立ちは僅かに歪み、右手で心臓の部分を抑えていた。
心臓に悪い部分があるわけではない。
──熱いのだ。
全身の血流は煮え滾る溶岩の如く、肉体を全身を灼き尽くすように。
炉心から形成される魔力は赤く染まり、口から龍の吐息のように吐き出す。
魔竜ヴォーティーガンとの戦いで始めてその姿を使った反動が肉体に帰って来ていた赤き龍──ムフェト・ジーヴァ。
赤き龍の炉心と星から譲り受けた聖剣と鞘を赤き龍に姿を変えた時に取り込んだときの反動も含め、ひたすら己の精神だけで内側からの痛みに耐えていた。
だが、それはほんの数秒の事であり、アルトリウスはいつも変わらないように振る舞う。
それでも体内を流れる血潮は熱く燃え上がり、肉体を焦がしている。
それを感じ取りながらも、アルトリウスは聖剣と鞘を地面に突き刺し、そのまま大地に寝転がる。
ゆっくりと目を閉じて、深呼吸をする。
深く息を吸い込み、吐き出す。それを何度も繰り返す。
「──赤き龍に至り、魔竜は殺した。聖剣と鞘は賭けに近い上に結果は予想外だが──星を納得させるには十分だろう。侵食固有結界まで使えるようになったんだ。ブリテンの霊脈は全て完全に掌握出来た。」
アルトリウスは満足げに笑いながら、口を開く。
彼の瞳孔は縦長に割れており、まるで爬虫類を思わせるような目つきだ。
普段とは似ても似つかない程に表情豊かになり、声音も明るくなる。
普段は冷静沈着である故に感情の変化はあまり見られないのだが…… 今この場ではただの子供のような無邪気さを見せている。
そして、彼は立ち上がり、聖剣と鞘を顕現させ再び手に取り、腰に差し込む。
聖剣と鞘の柄を強く握ると、そこから龍の炉心によって作られた膨大な量の魔力が流れ込んでくる。
魔竜ヴォーティガーンと戦ったときよりも遥かに大量の魔力が流れ込む感覚を覚えているのか、思わず笑みを浮かべてしまう。
彼は自分の肉体を駆け巡る魔力を感じる。
体中に力が溢れてくるのが分かる。
その力を使いこなすために、まずは軽く素振りをしてみることにする。
聖剣と鞘を鞘に納めたまま振るい、その一閃で空間を切り裂いた。
何も無い筈なのに、まるで硝子でも砕けたかのような音が響き渡る。
それだけではない。
地面すらも引き裂いて、大穴を空けてしまったのだ。
魔力放出無しの純粋な膂力で空間すら切り裂くことに僅かに驚くも、思考を切り替える。
人間の時ならば龍の膂力をそのまま使えば肉体が龍のスペックとの違いに肉体が持たないが今ならその心配は不要だ。
更に強く聖剣と鞘を振るう。
振る度に斬撃が飛び散り、次々と周囲の木々を切断していく。
そして、あっという間に周囲は更地に変わってしまった。
これなら最低限戦えるとアルトリウスは思った。
彼は聖剣と鞘を手に取ったまま、虚空に向かって呟く。
「■■■■■」
すると、彼の目の前には赤い魔法陣が出現する。
そこから現れたのは、巨大な魔獣だった。
生態操作も可能なムフェト・ジーヴァの力を使い漆黒の毛並みを持つ狼の姿を模した巨人型の魔獣を、造り出す。
アルトリウスは聖剣を抜かず、魔獣に向けて構える。
魔獣の方もこちらの存在に気付いたらしく、威嚇するような雄叫びを上げる。
巨体に似合わない速さで動き出す。
アルトリウスはそれを見据え、一歩足を進め───魔獣の前で移動をする。
そして、聖剣の束を握り──世界がズレた。
抜剣、横一線、納剣。
遥か彼方までの空間を切り裂き、魔獣の身体を真っ二つに両断する。
その一撃で魔獣は絶命したようで、地面に倒れ伏す。
アルトリウスは魔獣の死骸を見下ろし、小さく息を吐き、聖剣を収納して歩き出す。
魔竜ヴォーティガーンとの戦いのの傷は完全に癒えた。
今はあの時以上の力を身に着けている。
だが、まだ足りない。
純粋な力が足りていない。星からのバックアップは常に供給されているがそれを除いてもまだ足りていない。
ならば、どうすればいい? 答えは簡単だ。
今の自分が持っていないのであれば、持っているものを取り込めば良いのだ。
そして、それを手に入れる方法は既に知っている。
ここはアヴァロン──星の裏側、星の表から追放された者達が多くいる。
「──狙うなら神…か」
──神、衰退した神話の神々が星の裏側には多く居た。