わたしは目の前の光景を疑う
秋春さんは基本的に面倒事を嫌うタイプの人です
六課に極力顔を出さないのも、一番の原因はそれだとわたしは思っています
「秋春さん?」
しかし目の前の秋春さんは、何かに取り憑かれたかのように大量の資料に囲まれて、イクスちゃんを見ながら自分の端末にデータを打ち込んでいる
「秋春さん? 一体なにを・・・」
「ああ、キャロね。いや、原因究明だよ」
顔色は病人のイクスちゃんより悪く、目の下にくっきりと隈まで出来ていた
「・・・秋春さん、いつ寝ました?」
「ん? いつ? んー・・・さぁ?」
如何やら随分と寝ていないらしい
「心配なのは分かりますけど、寝ないと秋春さんまで体調を崩しますよ?」
「大丈夫、イクスが俺の分まで寝てる」
「イクスちゃんが寝ても秋春さんには何の反映はされません」
「・・・まぁね」
力無く笑う秋春さん
そう言えば先程から一度も此方に目を向けていない
「・・・。」
「・・・。」
終わりの無さそうなデータが打ち込まれる音だけが聞こえる
「クソがッ!」
「きゃッ」
唐突に秋春さんが資料を強く叩いた
「あ、秋春さん?」
「・・・あ、悪い・・・あー寝不足とか空腹はイライラして駄目だね」
「食事も取ってないんですか?!」
「まぁリアルタイムで情報を見ないと録画機能とか無いし」
はい? 情報を見る?
あ、そう言えば確か秋春さんは鑑定士の役に立つレアスキルを持っているんでしたね
でも、レアスキルの詳しいデータは有る程度の偉い地位じゃないと閲覧出来ない様になっているので、殆ど知らないんですよね
「それでも秋春さんが体を壊したら元も子もないですし」
「全くキャロは心配性だなぁー」
心配なのは確かですけど、それともう一つ・・・わたしが恐らく全く同じ行動を取りそうな人を知っているから・・・
フェイトさん
たぶんフェイトさんはエリオかわたしが、イクスちゃんみたいになったら寝る間を惜しみ付き添いそう
例え自分に出来ることがなくても最後まで傍に居る
そしてその結果は容易に想像できる
「これか・・・いや、これはあくまで成長の遅延に過ぎないはず・・・マリアージュシステムから探るのが近道か」
少し目を離した隙に思考の海に沈んでいる
「秋春さん!」
「・・・あーやっぱ集中したいから出て行ってくれ」
・・・なんかムカついてきた
イクスちゃんが心配なのは分かる。わたしだってイクスちゃんとは家族なつもりだし、秋春さんには負けるかも知れないけど心配している
だけど、こう言う時にこそ秋春さんは冷静に、いつも通りで居て欲しい
「・・・秋春!!」
「のわっ! 耳元で叫ぶな!」
やっと此方を向いた
秋春さんの目は真っ赤に充血しながら白色の混じった茜色の魔力光が宿っていた
これが秋春さんのレアスキルの発動時?
「違うよね・・・明らかにレアスキルの使い過ぎです!」
「大丈夫大丈夫、観察眼にリスクは無いから」
「リスクが無い訳ないでしょう!」
瞳のサイズの膜状程度の魔力量なら秋春さんの魔力量でも十分持続は可能でしょうけど消費が無い訳では無い
「なんかキャロ怒りっぽいな」
「秋春が悪いんでしょうが!」
「疲れきった体にキャロの言葉が染みるなー」
「寝なさい! そして起きたら食事です! 良いですね!」
「いや、でもイクスが・・・」
即座に身体強化の魔法を使って秋春さんを抱えてイクスちゃんの横に寝かせる
「これで良いですよね!」
「いや・・・なんで?」
「イクスちゃんが起きた時に秋春が起きてなかったら如何するんですか!」
「逆に爆睡してたら如何する」
「・・・。」
あー如何しましょう?
まさかそんな返しが来るとは思ってなかったです
「ぷ、くくっ。ふはははっ!! キャロは全く可愛いな~」
「きゃッあッ」
手を伸ばしてわたしを撫でる
そして更に笑い続ける秋春さんはわたしをベットに引きずり込んだ
「そうだね、俺らしく無いことをした」
「いいえ、父親らしい事をしてましたよ」
「そっか・・・うん! 寝よう! 起きたら手作りの料理をお願いね?」
「はい」
暫らくして秋春さんは宣言通り眠った
・・・あのー・・・抜けれないんですけど・・・抱き枕扱いですか?
観察眼も長時間の使用は負担が掛かります