召喚少女のリリカルな毎日   作:建宮

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百六十二話~side イクス~

目を開けると私はとても懐かしい場所に居て、いつもの様に座っていた

 

 

「・・・秋春様?」

 

 

見渡してみる限りだと自宅ではない

 

周りに人が集まって切羽詰ったように私に話し掛けてくるけれど、流れる映像の様に見えて私の返事と関係なく話しかけてくる

 

 

「まさか」

 

 

立ち上がって記憶通りに歩きテラスに出た

 

やっぱり・・・此処は私の国だ

 

ガレア王国

 

 

「じゃあ、さっきの人達が家来だったのですか」

 

 

忘れていた

 

それにしても、まるで私だけが取り残されて時間が進んでいるみたいです

 

 

「・・・夢・・・記憶映像の再生?」

 

 

分からない

 

そして毎日の日課で、つい星空を見上げると景色が変わっていた

 

 

「そう言えば星空を堪能するのを習慣にしたのは秋春様に出会ってからでしたね」

 

 

それが切り替わった理由でしょう

 

後ろを振り向くと秋春様とヴィヴィオが部屋の中で楽しそうに遊んでいる

 

 

「・・・。」

 

「イクスは空を見るのが本当に好きだよね」

 

 

突然隣から声

 

これも記憶から再現された秋春様

 

 

「はい。昔とは違い、見応えも有りますから」

 

「イクスは・・・何か悩みでも有るのかな?」

 

「いえ、今の暮らしは満足です」

 

 

数秒の沈黙

 

そして秋春様の視線が私を射抜く

 

 

「それ以上を望んでいない?」

 

「・・・。」

 

 

言葉に詰まる

 

望んでいない。と言えば、そのはずなのですけど・・・やっぱり違う気もする

 

 

「例えばね?」

 

「秋春様? な、なにッンン~」

 

 

逃げられない様に捕まえられた私の体から自然と力が抜ける

 

そして抜けた代わりに満たされる暖かなナニか

 

秋春様は私の唇から離れると問い掛ける様に微笑む

 

 

「ね?」

 

「あき、ひゃる・・・しゃま」

 

 

口の中に残る秋春様の感覚に呂律が回らない

 

 

「未だに父と呼び切れてないのは何で? もう親子になって十分な時が経ったよね」

 

「そ、それは・・・」

 

「異性として好きなんだよね? キャロ・ル・ルシエが求婚をした時は如何思った?」

 

 

ルシエさんを呼ぶ秋春様の口調には、いつもの親しげが無い

 

つまりは、これが私の再現力の限界って事ですかね

 

 

「胸が・・・痛かったです」

 

「そうなんだ」

 

 

それでも私は秋春様の姿をした記憶に自分の心を打ち明けた

 

 

「なら一生此処で一緒に暮らそう」

 

「・・・。」

 

「此処ならイクスの思うが侭だよ? 俺とイクスの二人だけの空間にも出来る・・・夢だからね」

 

 

はぁー

 

秋春様はこんな事を言わない

 

本物はきっと弱い私を弱いままでは許してくれない

 

肯定はしてくれるけど強くなるように少しだけ道を作ってくれる

 

 

「遠慮しておきます」

 

 

この人物は確かに私の記憶を元に精巧に作り出された雨水秋春ですが・・・

 

お父様とは絶対的な差が有る

 

 

「なんで? きっと起きれば、また同じ事を繰り返す。原因は自分が一番知っているだろ?」

 

「原因は魔力不全ですよね?」

 

「そこまで酷くはない・・・ただ夢から覚めないだけで健康体」

 

「・・・。」

 

「んーそうだね。あえて、それっぽく言えば自己暗示や自己催眠による自己の拒否から生まれた症状ってところか」

 

 

私らしい原因ですね

 

 

「如何であれ、もう解決法は分かってますよ」

 

「ん?」

 

「白黒ハッキリ付けます」

 

 

ヴィヴィオには悪いですけど付き合ってもらいましょう

 

 

「ん? これは・・・」

 

 

突如偽者の秋春様の右手に白色の混じった茜色の魔力が纏わり付いた

 

とても暖かくて優しげな光

 

 

「お迎えみたいだぞ」

 

「ですね・・・流石私のお父様」

 

「やれやれ・・・で、結局お前はどっちにするんだ? 今まで通り娘か? それとも一人の女の子として・・・」

 

「はぁ? そんなの決まってますよ」

 

 

差し出された右手を掴んで引き寄せると偽者を殴った

 

・・・私の記憶の再現であろうと大好きなお父様を騙った罪は重いです!




夢で再現された雨水がイクスの理想

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