これは、私とお父様の愛の物語です
時に甘く、時に切なく、恋が愛となり、娘が垣根を越えて・・・
「超えて。超えて? 書き出しがいまいちですね」
「・・・ねぇ、お姉ちゃん。考えてるところ悪いけど、その作文は無いと思うの」
「妹のくせにイチャもんですか?」
手元にある原稿用紙をヴィヴィオの視線から防ぎながら、冷えた視線を送ってくる妹と向き合う
「にゃあ、いちゃもんじゃないけど。お姉ちゃんってそう言うのに向かないよね」
「全部に向いてる貴方に言われたら形無しですが。これは課題なので、私に出来る範囲で取り組まないといけないのです」
「へぇ中等科ではそんな課題もでるの?」
「そうです。貴方もいずれは出されるかも知れないのですからね」
ジャンルは問わず、好きなお題で良いので、物語を創作する。それが今回私のクラスに対して出された課題でした
渡された原稿用紙は五枚。全てを埋めなくても良いと言われましたが、こう言うのはなるべく埋めるべきだと私は思っています
「ふむふむ、えーっと、ちょっとしたアドバイスなんだけどね。これってたぶん、適当にそこら辺の物語を引用して、オリジナルですって提出したら通る類の課題と思うんだよね。だから、無理に恋愛なんて複雑で何枚にも渡りそうなお題にしなくても、何か短めの物語をアレンジして出せば良いんだよ」
「・・・最低な事を考えますね」
「にゃっ?! ちょっ! これが正攻法なんだって! 中等科に求められるレベルから考えれば、それば普通なんだって。お姉ちゃんは無駄に懲りすぎ!」
なんだかズルをしているような方法ですが、ヴィヴィオが言うにはそれが正攻法らしい
「ですが、皆の前で発表しなければいけないらしく。被ってしまったら目も当てられないでは無いですか」
「あ、発表とかするんだ・・・ま、それはそれで咎められる事じゃないと思うよ?」
ヴィヴィオの説明では。恐らくクラスメイト達は、いままで習った範囲で出てきた物語を使うだろうから、最初から先生達は何人か被ってしまう事を予想していると思われるそうです
おススメはベルカ詩らしい
「って言うか、お姉ちゃんはあきパパと自分のラブストーリーを皆の前で読もうとしてたの? そこにビックリだよ」
「家族に対する愛は恥ずべき事ではありません」
「ぅんん? なんか違う・・・まぁお姉ちゃんの言い訳を含めても、クラスメイトの前で話す内容にしては、ちょっと重いの」
「しかし、家族以外で私が語れる事など戦時くらいです」
「それも重い。ん~あきパパも帰ってきてないし、わたしが代わりにしようか? 五分もあれば出来上がるよ」
「五分は物理的に無理じゃないですか?」
人が書ける速度には限界があるのですから
「そうでもないよ? 例えば、六十文字あって、一文字一秒で書いたとするでしょ? すると一分かかるけど、両手で一から三十、三十一から六十を書いたとしたら、半分の時間で書ける事にならない?」
「言っている意味は分かりますが」
この子なら右手で書こうと左手で書こうと大して変わらない字を書け、果てには左右でミッド文字とベルカ文字を同時に書き出しても不思議ではないと思っています
「あくまでそれは六十文字ではありませんか」
「実際一秒に一文字じゃないからね。それに魔法でペンを操れば、たぶん六個くらいなら負担無くいけるから」
「元の文にアレンジを加えながら?」
「うん」
帰ってきて山積みになっていた課題の前でやる気の無い態度をしていたと思えば、夕食時には既に全部終わっている。なんて風景をよく目にしていましたが、まさかいつもそんな高度な技術を使いながら課題を乗り切っていたのですか
「どうする? 別にお姉ちゃんのお願いなら、あきパパにも言わないよ? あ、筆跡も真似るから安心して」
とても魅力的な提案です
きっとヴィヴィオは言葉通り、お父様にも言わないし、教師が見ても気付かないくらいレベルで私の字を真似るでしょう
「・・・対価に何を要求する気ですか」
「ん? にゃはは、対価?」
別にいらないけど。と一度は渋りましたが、私の顔を見て訂正した
「ま、お姉ちゃんがそれで納得するなら何か貰おうかな」
「分かりました。課題は自分でするべきなのでしょうが、今回は貴方にお願いします」
提出の期限も近いものですからね
「お願いされました」
私が席を立ち、ヴィヴィオが入れ替わりで座る
そして一呼吸おいて原稿用紙と向き合い、ペンを走らせ始めた
その後、六分と二十八秒。それが、ヴィヴィオが完成までに掛かった時間です
「よし、ちょっと作り込み過ぎちゃったかな。はい、お姉ちゃん」
「まさか、五分で終わるとは思ってませんでしたが、それでもこの速さは異常ですね」
「ふふん、いちおうお姉ちゃんが見たことあるドラマをネタに、短編化して登場人物に知り合いを使ってる。アレンジの方が強いから、オリジナルとは掛け離れてるけど、収まりよく仕上がってると思うよ」
一通り目を通しても、誤字脱字は見当たらない。普通これだけ書けば誤字くらいは混ざってるんですけどね
「完璧です」
「人によってはちょっと物足りないと思うけどね。ある程度分かってる事を前提に書いてある感じだし、総集編でも見せられてる気分になるの」
不満そうに愚痴や欠点をぼやくヴィヴィオですが、その作品の完成度は疎い私でさえ十分に理解できる程に完成されていました
「これだけの出来なら大丈夫です」
これで安心してお父様の星見に付き合う事が出来ます
「ねぇねぇお姉ちゃん」
「はい?」
「それの報酬なんだけどね」
「ああ、分かってます。何が良いですか?」
言い辛そうに手を後ろで組み、言葉を濁しながらもじもじと体を動かしている
「えぇと、その、ね?」
「何でも良いですよ」
「何でもいいの?」
「はい」
「じゃあ、お姉ちゃんが、なのはママから貰った翠屋の新作のシュークリーム。食べても、いい?」
「・・・はぁそのくらいで良いのなら、あるもの全て食べても構いませんが」
つい先日頂いたシュークリーム。高町なのはの実家で今後発売を予定している物で、美味しいから食べてと押し付けられた
「ほんと! ありがと!」
飛び跳ねるほど嬉しいようです
幾ら管理外世界にある店の品とは言え、ヴィヴィオが頼めば幾らでも持ってきてくれると思いますが
「本当に、それだけで良いのですか?」
「うん! じゅーぶんなの!」
「そうですか」
深く考える事を止めた私は、天気予報を見ながら今日の星見に思いを馳せた
余談となりますが・・・出来が良過ぎた私の課題はお父様の知る所となってしまい、二人揃ってお叱りを受けてしまいました
ちょこっと後日談
「ねぇねぇ、なんでイクスお姉ちゃんが書いたのじゃないって分かったの?」
「ん? だって、イクスにあんな文才ある訳ないだろ」
「・・・にゃあ」