念話
魔法を習う上で初等科の初期の段階で教えられる基本的な魔法技能。使い方によってはかなりの範囲で活用できてとても便利な魔法だけど、わたしの周りで使う人は少ない
デバイスがあるから必要ないって言うのもあるし、あきパパが下手だって言うのも大きいかも知れない
「聞こえますか、ヴィヴィオ」
だから。突然お姉ちゃんから念話が来た時に、驚いてしまってアインハルトさんに恥ずかしい所を見せてしまったのは仕方のないことなの
「ヴィヴィオさん?」
「な、なんでもないです! もーまんたいです!」
「はぁ」
首を傾げるアインハルトさん。不思議には思ったみたいだけど、そこまで気に留めている様子じゃない
ようやく二人っきりになれた昼食タイム。かと言って、お姉ちゃんを無視する訳にもいかないのでマルチタスクを使って念話にも意識を割くことにします
「なに? お姉ちゃん」
「それが、お父様に検診に行かなかった事がバレてしまいまして」
「あ、じゃあ。さっきの呼び出し」
へぇ、気付いたんだ
予想では次にあきパパが一緒に行く時までは平気だと思ってたんだけど・・・今日は午前中、教会に行くって言ってたから、その時に教えてもらったのかな
「怒られてるの?」
「どうにか誤魔化している最中です」
「素直に謝った方が得策だよ」
あきパパは最初からお姉ちゃんが行かなかった事を知ってる訳だし、それにお姉ちゃんの誤魔化しってお姉ちゃんが思っている以上に苦しい
嘘を付くのが下手な上に。あきパパに嘘を付くって状況が、お姉ちゃんは苦手だからなのかな
「ですが、認めてしまうと家を出て行かないといけなくなる訳で」
「あれのこと?」
なんでも検診の一回目であきパパはお姉ちゃんを納得させる為に、キチンと行かない子は家から追い出すからね。とお姉ちゃんには効果的面だろう脅しをしていたらしいです
そこまで言われてても行かなかったんだから、お姉ちゃんの他人嫌いは筋金入りなんだよね
「どうせ忘れてるって」
「・・・。」
「ん~それじゃあ、お姉ちゃんはあんまり好まないだろうけど、あきパパを言い負かす方法教えようか?」
いまお姉ちゃんの助かる方法は、素直に非を認めるか。もしくは、開き直って行いを認めさせるか、の二択なんだけど
具体的にはあきパパが秘密にしている事を二つか三つくらい使って、例えばいま起きて・・・ってお姉ちゃんは出来ないよね
「それは、なんか嫌です」
うん、予想通りなの
「だよねぇ。だったら、非を認めるしかないよ。大丈夫だって、あきパパはお姉ちゃんの事が大好きだよ」
「しかし、お父様にとって娘は貴方が居れば」
「それ以上は言っちゃ駄目だよ」
お姉ちゃんが言いそうな事が分かるから、わたしは強くその言葉を遮った
・・・なんて言うか、いつだってわたしの事を大きく評価してくれて、あきパパに相応しいのはわたしの方かも知れないって思ってくれてるみたい
だけど、そんな事はない
完璧な娘なんて育て概がない。何をしなくても何でも出来るんだから、何もする必要性がない・・・そんな子は考えようによっては居ても居なくても同じ。むしろお姉ちゃんみたいな子ほど
「にゃはは、止めよ」
お姉ちゃんにもアインハルトさんにも聞こえない様に口だけを動かす
「わ、わかりました」
「頑張って」
「ありがとう、ヴィヴィオ。お父様と同じくらい貴方が好きですよ」
「うん、知ってる」
現金だなぁ
・・・なんて思っちゃうから、わたしは駄目な子なんだろうね
念話が切れたのを確認して意識をアインハルトさんに向けると真っ直ぐとわたしを見詰めていた
「あ、アインハルトさん?」
ん、ちょっと念話に意識を向けすぎちゃったかな
「ヴィヴィオさん。何か、嫌な事でもありました?」
「そんなことないですよ?」
視線を逸らしたわたしに、アインハルトさんは無言で近づいてきて手を両手で包み込むように握りながら瞳と瞳を合わせる
「無理して笑っているように見えます」
「か、顔近いです」
「武を極める事に固執し過ぎて、とても他ではとても頼りになるとは言い難い私ですが・・・それでも、ヴィヴィオさんの力になりたいと思っています」
貴方の寂しそうな顔を見ていると私も心が痛いです
「アインハルトさん」
耳元で、小さく、だけどもハッキリと聞こえる声量でアインハルトさんは言う。そして、熱の篭った視線に頭がボーっとして思考が全てぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる。近いと思っていた距離も全然そう思わなくなって、もっと近づきたいと心の底から衝動が沸き上がる
「ヴィヴィオさん」
「アインハルトさん」
触れ合う。そう思った瞬間に、お昼休みの終わりを告げる音が鳴り出した
「ッ!」
わたしが驚いたのか、アインハルトさんが驚いたのか。分かんないけど、とりあえず何かの一線を越えることは出来なかった
「チャイム! 鳴ってますね~!」
「で、ですね。遅れると怒られてしまいますので、ヴィヴィオさん。教室の前まで送ります」
「いいです、いいです! 中等科は距離ありますから、途中までで全然オッケーです! さ、急ぎましょう!」
「はい」
慌てて広げていたお弁当を片付けて立ち上がった。そのあとは、何だか気まずくて別れるまで無言で歩き続けた
ただ、いつもと違って最後まで手を繋いでいたので、次の授業もずっとアインハルトさんの温もりを感じられた気がしました
イクスのお説教はカットで