お父様が泣く泣くメイド学者に連れ去られた後
暫くは皆さん口々に心配していましたが、ヴィヴィオの試合観戦に集中する事にしたようです
「それにしても、アインハルトちゃんは大人モードを使わないのかな? ヴィヴィオと一緒で、大人モードで戦うスタイルだった気がするんだけど・・・フェイトちゃんはどう思う?」
「ん~。バリアジャケットは展開してるから、きちんと考えがあっての事だと思うよ。動きは前に見た時に比べたら段違いにレベルアップしてるし」
「あ、それは私も思った。ちょっと我流で訓練したとは思えない成長だよね」
「雨水さんが訓練メニューを組んだとかじゃないかな?」
「そうなの?」
フェイトさんと話していた高町なのはが、不意に私に何か確認するような表情を向けてくる。確認した後、直ぐに会場に視線を戻しましたが
黙って観戦して欲しいですね
それにしても、この安全用に張られた結界は邪魔です。一度見えてしまうと、ラップを通してモノを見ているみたいで、とても見辛い・・・こんな害の無い不可視の結界を認識するなんて、先程のお父様とのやり取りで気が立っているせいでしょうね
「思ったより拮抗してますね」
気を逸らす誘導弾と速度の乗った連撃を、上手く逸らしたり弾いたりしながら生まれる一瞬だけの隙を逃さず覇王の一撃を放っている
聖王の鎧を頼りに攻めてはいますが、全くダメージが蓄積していないと言う訳では無い様です
「ヴィヴィオ、何かちょっと焦ってねぇ?」
なぜこの赤いのがなんで隣に、ルシエさんの隣に移動したはずだったんですが
「・・・私に話しかけないで下さい、裏切り者」
「ちょっ、イクスさん?!」
「貴方はウルの協力者。つまりはお父様の敵です、あとヴィヴィオを呼び捨てにしないで下さい」
お父様に害をなす存在が私の妹と親しくなっていいはずがありません
「アタシだって、別にウルの仲間って訳じゃねぇし、それにアキハルの事はイクスさんだって」
「・・・。」
襟元を掴み、その場に縫い付けるように圧力をかける
突然の行動だったので、誰も反応できてませんね。もちろん、させるつもりはありませんでしたけど
「くる、し」
「その口を閉じろ」
違う違う、こうじゃない。こんな言葉使いはお父様は望んでない・・・カッとなった程度で崩れるなんて私もまだまだです
「だいたい貴方は融合騎として失格なんです。適合率が低い時点で、お父様にふさわしくない事に気づきなさい・・・これ以上お父様に害を成すつもりなら、容赦しない」
この赤いのは性質的に闘争を好む。争う為に作られた道具なのだから、当たり前なんでしょうが、それはお父様にはふさわしくない
いっそこの場で。と考えてしまう、お父様に後で怒られるかも知れませんけど、お父様の安全を考えれば安い・・・やっぱり怒られるのは嫌です
「イクス」
周囲から人を遠ざける程の威圧を放っていたはずなのに、意ともせずルシエさんが近くにいた。私が何故か目を離せずにいると、ルシエさんは魔力を纏ったグーを私の頭に落とす
非常に痛かったです
「ルシエさん?」
「まったく、秋春の放任主義が悪い方向に・・・ああ、もぅ。イクス、アギトはうちの末っ子なんだから、苛めたら駄目だよ!」
「ですが」
「聞こえなかったの? 駄目って言ったよ?」
ぐるぐると言い訳ばかり頭に巡ったけれど、どれも口には出せませんでした
「それと、他の人にも迷惑になるから、暴れない。分かった?」
「はい」
「秋春が心配なのは分かるけど、それで八つ当たりするのは違うでしょ。イクスは長女なんだから、一番確りしないといけないんだよ?」
「はい、ごめんなさい、でした」
「アギトに」
・・・。
「すぅ、烈火の剣精アギト!」
「お、おう」
「此度は、お父様の娘として、とてもふさわしくない態度を取ってしまった事に対し」
「王のカリスマで誤魔化さないの」
口上の途中でペシッと軽く叩かれて強制的に戻された
「素直に。いままで、秋春や学院の先生から学んだでしょ? 仲直りするにはどうするの?」
「・・・アギト、すみません。ちょっと気が立ってました。あれはルシエさんの言う通り八つ当たりです」
「いや、アタシも、その、悪かった? し、まぁ水に流そうって・・・でも、アタシはアキハルの味方だぜ。それは訂正してもらう」
「・・・。」
え、それとこれとは
確かに今回のはルシエさんが言うように八つ当たりだったのでしょう。いつもの私なら、この赤いのの戯言なんて無視できたはずです
ですが、今回はそうであっただけで、それ以外の意見まで変えるつもりはありません
「あ、あれ? イクス、さん?」
「・・・。」
「ここは流れ的に、アタシとイクスさんが仲良くなって」
「・・・。」
「はぁ、やれやれイクスにはやっぱり秋春の言葉じゃないと効果が薄いなぁ」
ルシエさんが呆れたように溜息をついて、私と赤いのの間に座った。丁度その頃、試合は一ラウンド目の終わりを告げる合図を審判があげていた