いまもまだ私の知らないクラウスの記憶が内に眠っている
思い出せている記憶は、殆どが戦時のモノで。オリヴィエが去る、その時に居合わせたにも関わらず、手が届かず、弱かったせいで大切な人を守れなかった・・・そんな悲しみと悔しさばかりの記憶だった
理解できたとは、とても言えない重みのある記憶。それを幼いながら抱え込み、焦る様に研鑽を積んだ私はそれなりに強くなり、そして、聖王家がこの時代においても潰えてない事を知った
「・・・ヴィヴィオ、さん?」
挑んで負けた私はヴィヴィオと出会い。それからは、少しづつですが、楽しかった記憶も思い出せていた。だからだと思う・・・当初の目的であった、強さの証明はいまに至ってはそれほど拘って無い
それでも、負ける気は無かった
覇王流。カイザーアーツを継いだアインハルト・ストラトスは、過去のクラウス殿下と同じように守りたい人が出来たのだから・・・
「ふぅ」
試合中に私がヴィヴィオさんを倒す為に得たカートリッジは、追い詰めるに値する力のようでしたが、二発見せたところで、ヴィヴィオさんの様子が明らかに豹変した
右手の上に翳し、複雑な魔法陣を展開し始める
「ミッド式、いえ、あれはベルカの魔法が基盤みたいですが」
近代ベルカ式とは違うデバイス補助に頼らず魔法を行使しようとしている様に見える
魔法が完成したのか、薄い膜状の何かが広がっていき、私を取り込んでステージいっぱいに広がった
「これで外には気付かれませんね」
「いまのは?」
「先程のですか? この子の記憶にあったのを使ってみたのですが。何でも、結界内の光景を書き換える魔法らしいですよ? 用途は褒められたモノではありませんので、口にはしませんが。それでも、デバイスに収録されている映像しか使えないって欠点を抜き、中々応用できる魔法です・・・最も、効かない相手がいるなんて、記憶に無かったのですが・・・」
そういってヴィヴィオさんは会場をゆっくりと見回していく、そしてある一点で視線が留まり、驚いた後に笑顔になる
「あの子もいるのですね。本当に数奇な運命なようで・・・中心が誰なのかを早めに気付かなければなりませんね」
「何の事を・・・いえ、それよりも、貴方は」
口ぶりからすると、先程まで私が戦っていたヴィヴィオさんでは無いみたいです
「ああ、すみません。混ざっている状態ですから、こう名乗って良いのか・・・えと、ですね。オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。この子のオリジナルです」
「・・・。」
「あ、嘘と思ってます?」
黙ってしまったのは、嘘だと思ったのでは無く、その言葉が真実だと自然に分かってしまったからなのですが、ヴィヴィオさんは拗ねたように頬を膨らませて腕を組んだ
「そうですね! こうしましょう!」
一転して笑顔になったヴィヴィオさんは、バリアジャケットを作り変える。そしてそれは、クラウスの記憶にあるオリヴィエの戦装束と瓜二つでした
「元々この子はわたしの甲冑を真似て作ってましたから、再構成は手軽でしたね」
バリアジャケットを変える事が証明になるのかは知りませんが、その風格はイクスさんが時折見せる。王の風格そのものであると肌で感じました
「本当に、聖王陛下。なのですか?」
「もちろん。わたしもこうならない様にしてはいたのですが・・・今回の事はちょっと容量オーバーだったみたいです。お父様がしていたリミッターもあっさりのようです」
リミッター。そう言えば、ヴィヴィオさんやイクスさんは、強すぎる力を日頃は封印処理で抑えていると聞いた事があります
その事を言っているのでしょうか
「ヴィヴィオさんは、いま何処に?」
「わたしの中ですよ。安心して下さい、この試合が終わる頃には戻ってると思います。所詮仮初の人格ですからね・・・ただ、とても強い想いが流れ込んできているので、貴方達の知っているヴィヴィオでは無いと思います」
「それは」
どう言う意味なのか。それを問いただそうとする前に、目の前から大きな重圧を感じた。思わず構えた私を目を細めて見詰めたヴィヴィオさんは優しく笑う
「魔力の放出、とは少し違うみたいですね。王としての資質があれば使える威圧の様ですが、少々が加減が掴めません。まぁ・・・大体の力は把握できました。時間もありませんし、今後の為に子孫に稽古を付けねばなりませんね!」
「あの」
「クラウスの子孫と相まみえるなんて、不思議な運命ですけど。ちょっとしたご褒美だと考えましょう! この子流に、ちょっとしたボーナスステージなの! と言ったところでしょうか」
「人の話を」
「では、死力を尽くして下さい。まだまだ、この時代の子に遅れを取るつもりはありませんからね」
ヴィヴィオさんが指を鳴らすと、結界が霧散した
そして、いつの間にかに元のバリアジャケットに戻っている笑顔のヴィヴィオさんは静かに構える。どうやら、戦わないと話を聞いてくれる気は無いようです
「無論です」
第二ラウンド、残り時間は僅か。けれど、その僅かな時間も聖王と打ち合うには恐らく充分すぎる時間であろうことは容易に想像できた
「・・・あとですね」
「はい」
緊張した空気が少しばかり緩む
「これは勝手な我が侭なのですが。暫くの間、クラウスって呼んでも良いですか?」
「お好きに」
「有難う御座います、優しいのですね・・・でも、手加減はしませんよ?」
目の前のヴィヴィオさんが完全に戦闘に切り替わった
前にイクスさんの力の一端を見た時に似た威圧を感じる。本物の王と有無を言わせず理解させる異質の力・・・いずれは私も辿り付ける境地なのだろうか
いえ、いまはとにかく目の前の勝負に集中しなければなりません
「では、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。参ります!」
「アインハルト・ストラトス。受けて立ちます」