召喚少女のリリカルな毎日   作:建宮

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三百七十七話~side イクス~

審判が勝利を告げた瞬間に会場は大きく湧き上がる

 

 

「決して、間違っては無い結果なのですが・・・」

 

 

この結果は悩みますね

 

勝者はヴィヴィオで敗者はアインハルト・ストラトス。元々実力には差がありましたし、この結果は当然と言えば当然です。疑う余地も無く、当たり前の結果だと思います

 

しかし、少なくとも二ラウンド中盤までのヴィヴィオに勝ち目は無かった

 

試合を放棄しようとしているようにしか見えなかったですから・・・あの切り替わりは、いつも以上に極端過ぎる

 

それに、極僅かな間ですが、二人の動きが不自然にズレていた。言葉を交わす二人と戦う二人、そんな対象的な光景が見えていた

 

 

「ん~・・・イクス、どう思う?」

 

「何が、ですか?」

 

「ヴィヴィオだよ。あの変化のこと、知ってる?」

 

 

ルシエさんの問いに、私は大した答えは返せませんでした

 

 

「あそこまでの変化については知りません・・・ただ、今回の試合には並々ならぬ熱意を感じていましたから」

 

 

何かを成そうとしていたのは間違いないでしょう。秘密主義のヴィヴィオですから、それを悟らせる行動は極力とっていませんでしたが、決意の宿った瞳はそう隠せるものではありません

 

 

「あの子はアインハルト・ストラトスに強い執着がありますから。背負い過ぎて、限界が来たのかも知れません」

 

「つまり、あれはヴィヴィオなりの強がり?」

 

「あそこまで取り乱したのはウルの事件以来ですから。可能性としてはありえます」

 

「あ~あの時は騙されたね」

 

 

私もです

 

誰にも気づかれる事なく、誰よりの黒々しい憎悪の感情を内に隠して事件を犯人ごと処理しようとしてましたね

 

 

「直接聞いてみれば分かるのかな」

 

「どうでしょう? 隠すのはあの子が得意とする事ですから」

 

 

きっとあの調子だと、スキップでもしながら戻ってくる

 

それこそ何事も無かったかのように

 

ノノが肩に降りてきて、クリスから送られてきたメッセージを開く。ふむ、次がコロナ・ティミルの試合だからこっちに来る。ですか

 

 

「ヴィヴィオから?」

 

「こっちに向かってきてるみたいです」

 

「次はコロナちゃんだもんね」

 

「はい」

 

 

問い詰める気なんですかね。正直おすすめはしない方法ですが、キャロさんなら成功するでしょうか?

 

私もお父様が取りそうな行動を考えながら待っていると、私達を見つけたヴィヴィオが手を振りながら近づいてきた

 

 

「あ~! いたいた! 場所は分かってたんだけど、人混みで迷いそうになっちゃったよ!」

 

 

凄く笑顔です

 

 

「ヴィヴィオ、大丈夫!?」

 

「うわっぷ・・・なに? 苦しい苦しい」

 

 

キャロさんが何か言う前に高町なのはが駆け出して抱きしめていました。ヴィヴィオは苦しそうに高町なのはの背を叩いています

 

 

「何処も怪我は無い?」

 

「うん! 完勝! 完成度が低かったからね、付け焼刃が通るほど聖王の鎧は甘くないの! まぁあの程度、ヴィヴィオの相手でも無いのですよ!」

 

「ホント?」

 

「ホントだよ。なのはママは心配性だなぁ~」

 

 

高町なのははヴィヴィオの申告を聞いてなお、気になるのか体をチェックしている・・・それにしても、あの程度。ですか。随分な言い様ですね

 

 

「・・・。」

 

「キャロさんも気になりますか?」

 

「いまの、ヴィヴィオは、アインハルトちゃんに執着が無い。それどころか赤の他人と同じレベルで見てる」

 

「考えてみれば、そもそも試合終了直後に、アインハルト・ストラトスに一瞥もせずに戻ってくる事自体が、違和感でしたね」

 

 

これはお父様に報告です

 

 

「次はコロナの試合だよね。えっと、相手はミウラさん? 八神道場の人なんだよね。楽しみだなぁ・・・あ、もちろんコロナに勝って欲しいんだけどね」

 

「ヴィヴィオ」

 

「ん? なに、お姉ちゃん」

 

「アインハルト・ストラトスとは何か話しましたか?」

 

「アインハルト先輩と? ん~特には。なんで? 何かあったっけ?」

 

「いえ、無いなら無いで構いません」

 

「そっか」

 

 

やはり、このヴィヴィオは完全にアインハルト・ストラトスから興味を失っている

 

理由は分かりませんし、理屈も分かりませんが、あれだけ執着していた感情を失って正常だとは思えません

 

 

「本来であれば・・・」

 

 

こう言う時にこそ姉として行動するべきなのでしょう

 

しかし、私に出来たのは悔しさを隠す為に唇を噛む事だけ。情けないですが、改めてお父様の大切さを痛感しました

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

全ての試合が終わり、家へ帰っている最中。お父様の事で至急人を寄越して欲しいと言う連絡がウルから入り、キャロさんが慌ててお父様の居る病院に向かった

 

無論、私やヴィヴィオも付いて行くつもりだったのですが、それはお父様の負担になってしまう可能性があると言う事で、家での待機を言い渡されてしまった・・・誠に遺憾です

 

 

「ねぇお姉ちゃん」

 

 

まったく、それにしても容態を一切明かさなかったと言う事は、何か後ろ暗い事があったのでしょうか。疑い出せばキリが無いですが、浅学ゆえに思い付く可能性が少なく、そして悪い方向ばかりに寄ってしまっている気がする

 

 

「ねぇねぇお姉ちゃん」

 

「・・・。」

 

「ねぇ~イクスお姉ちゃーん」

 

「なんですか」

 

 

目を瞑って、お父様の無事を祈っていたのですが、流石に耳元で声を出されては反応せずにはいられない

 

 

「通信、入ってるよ?」

 

「早く言いなさい!」

 

「にゃ~」

 

 

む、ヴィヴィオは悪くありませんね。以前に鬱陶しいからと言って、ノノに通信が入っても逐一報告しなくていいと言ったのでした

 

すぐさま、ノノにモニターを開かせる

 

 

「だれから?」

 

「キャロさんです。遅くなるので、アギトが持ってくる夕食を食べて早めに寝るようにと書いてあります」

 

「ん~ちょっと心配な流れだね」 

 

「・・・。」

 

 

アギトが、そう言えばアギトは何処に行っていたのでしょうか。まさかとは思いますが、お父様の所に行っていた訳では無いでしょうね

 

 

「にゃはは、お姉ちゃんの考えてることは、なんとな~く分かるけど。たぶんそれはないよぉ?」

 

「どう言う意味ですか?」

 

「お姉ちゃんが見てないだけで、アギトはお姉ちゃんに認められる為に必死なんだよ? いくらあきパパが大事って言っても、その辺の順列は弁えてるはず」

 

 

信用できません

 

再度ヴィヴィオは私の表情から思ったことを読んだのか、苦笑して話を続ける

 

 

「アギトは確かに出来損ないの兵器だと思う。うん、それはわたしも認める。性能をフルに発揮するなら、パパをロードに選ぶべきじゃないのも数値が示してるし、実践してみても結果は変わらないと思う・・・だけどね、あきパパを想う気持ちはヴィヴィオは認めてもいいと思う。わたしとしては微妙だけど、ヴィヴィオとしては家族の条件は充分に揃えてると思ってる」

 

「キャロさんは、末っ子だと。アレをそう評していましたね」

 

「そうだよ。それに、ヴィヴィオとお姉ちゃんには将来妹か弟が出来るだろうから、それの予行演習だと思えば良いのっ」

 

「それはまだ早計です」

 

 

あまりにも先の話です

 

 

「にゃはは、ヴィヴィオは近々だと思うな~」

 

「いいえ、キャロさんは母体としては未成熟です」

 

「いやいや、キャロってパパの影響で肉体面の成長は早いし、むしろ頃合を逃す方が出産は大変だって知識にあるよ?」

 

「貴方のそれは所詮知識でしょうが。私には経験があります、王として家臣の出産に立ち会った経験があります」

 

「むぅそれを言われると反則のような・・・ってお姉ちゃんの経験ってずっと昔のじゃん! ヴィヴィオの知識は最新医療技術に基いた超安全なモノなの!」

 

「学問なき経験は、経験なき学問に勝る。です」

 

 

瞬く間に楽しげなヴィヴィオとの間に闘争の雰囲気が満ちる。久々の姉妹喧嘩の予感です・・・無論私の勝利で確定していますが

 

 

「わんっ! たっだいま~!」

 

 

どちらかが攻めればその瞬間に決着は着く、私もヴィヴィオもそれだけは確信していたので、動くタイミングを計っていたのですが、思わぬ乱入によってあっさりと空気を払われてしまった

 

 

「シロさん」

 

「あれ? シロが帰ってくるなんてどうしたの?」

 

「うん、キャロとアギトのダブルで言われてねっ! 大丈夫だと思ったけど、様子見!」

 

 

曖昧すぎる説明に首を傾げる。しかしそれ以上の説明をするつもりが無いのか、睨み合っていた私達を抱き寄せて持ち上げる

 

突然足が床から離れて、ヴィヴィオは驚いてバタつかせていますが、私は抵抗が意味の無いモノだと悟ったので、早々に力を抜いてシロさんの肩に垂れ下がった

 

 

「わっ、わっ、何事なの!」

 

「あのシロさん?」

 

「二人とも~喧嘩は駄目だよぉ?」

 

「喧嘩なんてしてないしッ、ってもぉーおろしてぇ!」

 

「ハッハッハッ、ちょっとお出掛けだよ~」

 

 

あの、足でドアを開け閉めするのは・・・

 

ヴィヴィオも玄関辺りまでは抵抗を示していたのですが、最後には私と同じく諦めたように垂れ下がっていました


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