召喚少女のリリカルな毎日   作:建宮

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三百七十八話~side 雨水~

前回のあらすじ

 

ウルに連行される→以降記憶無し

 

いや、本当。会場の外に何か護送車が停まっていたのは見えたんだけど、それからはたぶん魔法で眠らされたのだろう、既に前にも利用したことのある教会系列の病院ベットの上だった

 

色々さらっと流されて、感覚的にまだ追いついてない

 

 

「しかし、なんかあっさりだったな」

 

「あっさりとは。軽く言ってくれるね」

 

「ッ」

 

 

何気ない一言に布団の中から返答があった

 

 

「これでも難航したんだよ・・・ボクで無かったら、失敗していたと言っても過言じゃないくらいだよ」

 

 

いつも通り淡々と口の端を上げて話しているが、疲れた様に布団の中でもぞもぞと動くウルは、確かにその難航さを窺わせている気もする

 

 

「出ろ」

 

「やれやれ、それが恩人に対する言葉かい?」

 

「・・・それはそれ、これはこれだ」

 

「ふふん、まぁ大団円を迎えられるほど良い結果では無かったからね。ボクとしても、感謝されては困るんだけどさ」

 

「おい」

 

 

ちょっと待て

 

 

「なんだい?」

 

「大団円を迎えられないって如何言う意味だ? まさか失敗したのか?」

 

 

それにしては違和感らしき違和感は無い。体の異常を示す、痛みと言ったそう言う感覚も特には無い・・・むしろ健康な感じさえする

 

 

「目的であるロストロギアの摘出は成功したよ。ただ、ちょっと厄介ことが術中に起こってね・・・ご主人様、ヴィヴィオ君に最近何かされなかったかい?」

 

「ん? 何かって、具体的には?」

 

「そう、だね。例えば魔力の篭った血液を飲まされたとかだね。この際、唾液でも有りだよ」

 

「・・・そんなことをされた覚えは無い」

 

 

一滴二滴で良いのなら寝てる間は答えようが無いけど、少なくとも起きている間にそんな変な行動を許した覚えは無い

 

 

「ふぅん、いやなに。突然ご主人様の二の腕から聖王様の魔法が発生してね。ご主人様のロストロギアをエネルギー源にして暴れまわってくれたのさ。しかもロストロギアが干渉されたせいで発動しちゃってね、もぉてんやわんやさ。執刀がボクで無ければ即中止の命を打っていたところだよ」

 

 

今回ウルが執刀する事に対してはイクスもヴィヴィオもそれ程乗り気ではなかった。イクスは前科があるから信用出来ないって理由で、ヴィヴィオも同じく実力は認めてもウル自身の人間性までは認めていなかった

 

だから事前に何か仕込んでいたからって不思議じゃないんだけど・・・

 

 

「二の腕ねぇ・・・あ、そう言えばあったな」

 

「心当たりがあるんだね」

 

 

二の腕と言えば。何日か前の朝にヴィヴィオに噛まれた場所だな

 

 

「本当に大変だったんだよ? ご主人様のロストロギアは如何やら時を操作する力があったみたいでね。周囲の、もちろんボクを含めて、外見的だったり内面的だったりの時間を引っ掻き回したんだから・・・大半は若返りだったから良いものの。これが老いだったりしたものなら、女性スタッフからフルボッコだからね」

 

 

いくらウル同様に学者気質の集まりでも、その辺は確りと気にするのな。しかし、それならば、一番近い位置に居るはずの俺にも何らかの影響が出ているはず

 

肉体的には・・・成長期が終わってから随分と経つし、肉体に関して数歳程度じゃ余り外見は変わらないか

 

 

「ご主人様は被害の最も近くに居た訳だからね。宿主だからと言って、無害・・・なんて都合の良い事にはなってないと思うよ」

 

「だろうな」

 

「さて、いったい如何影響が出ているのか。まぁ、少なくとも外見がそう変わる事も無くて安心したよ。外見が変わりでもしていたら、ボクはご主人様を愛する娘達に殺されるところだったからね」

 

「大袈裟だ」

 

 

否定はしてみたモノのウルには色々と前科があるので、二人とも容赦はしないだろうな。と思う。まぁその辺はウルも言葉通り、十二分に分かってるみたいだが・・・

 

 

「いやいや、まったく大袈裟なんかじゃないよ。特にヴィヴィオ君は危険だね。今回の事故はハッキリ言ってヴィヴィオ君の責任が大きい・・・故に、箍を外してボクを襲うかも知れないからね」

 

「昔は家一番の素直っ子だったんだけど」

 

「子供は育つ者だからね、良い意味でも悪い意味でも・・・クックッ、そう言う意味では、彼女はご主人様の分かり易い悪成長の例と言うだけだ」

 

「ヴィヴィオの場合は元々素質が極端に判れていたからな。緊急事態って言うのもあったし、どうしても俺寄りの方向性に持っていくしかなかったんだよ」

 

「ご主人様寄りね。それは、ご主人様が善性の持ち主では無く、むしろ悪性側だと言う事かい?」

 

 

ウルは少し意外そうに呟く

 

 

「意外でも無いだろ。そうでないと、二人の、特にヴィヴィオの負の側面なんて見てられないよ」

 

 

イクスもヴィヴィオも立場上多くの人の死に関わって生きた記憶を持っている。二人とも普通の少女と変わらないようにと振舞っているが、そんな記憶を持っていたのでは如何しても歪んだ部分が生まれてしまう

 

 

「・・・怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。だったかな?」

 

「まぁ、ある意味そんな感じだな」

 

「ふむ、実に面白い話だね。ボクから見ればキミは充分善性だが、そうだね、意見を言わせてもらえるのなら、彼女のアレはキミを、ご主人様を守る為に力を振るえる側についたように思えるね」

 

 

ニヤニヤと含んだ笑みを浮かべるウルは、楽しそうに布団の中で転がっている・・・暴れるな

 

 

「正義は条件を揃えないと人を襲えないけれど、悪は条件がなくとも人を襲える訳だよ」

 

「はいはい、満足したなら、そろそろ出ていけ」

 

「いやいや~、まだ満足には至ってないよ。なにせ、一番重要な、あのロストロギアの事に付いて、何も聞いていないからね・・・それで? 結局、あれは如何言うモノで、誰から移植されたんだい? まさか、あれが自然現象なんて言う訳ないよね」

 

「ん?」

 

 

もちろん、それは・・・

 

思い出そうとして、そして思い出せなかった。プツン、とある出来事以前の記憶が全くと言っていいほど存在していなかった

 

 

「どうしたんだい? この後に及んで隠し事かい? それはちょっと寂しいんじゃないかい?」

 

「いや・・・思い出せないんだ」

 

 

ビクッと体を震わせたウルは慌てて布団から出てきて、俺の顔を覗き込む

 

 

「嘘、は、言ってない。みたいだね」

 

「ああ」

 

「どの辺りの記憶? まさか、キャロ君や、ヴィヴィオ君、イクス君と言った家族のことは大丈夫だろうね?」

 

「大丈夫なはずだ。おそらく、キャロと出会う以前の記憶・・・その辺りが無いんだと思う」

 

「以前? ご主人様とキャロ君が出会ったのは、ご主人様が十代の頃だろう? その以前って何年失っているんだい? 覚えている最年少の記憶は何時だい?」

 

 

確か、海鳴で生まれたんだ。そして、あの六課隊長陣と同じ私立聖祥大学付属小学校に通っていたらしい・・・ん? 通っていた割に友人の顔が一切思い出せない

 

そもそも海鳴の町並みの記憶でさえ、六課と知り合って高町一尉の里帰りにヴィヴィオを連れて行った時くらいだった

 

 

「混乱しているのか、まだハッキリとは分からない」

 

「・・・ご主人様」

 

「どうした」

 

「ちょっと、ボク、用事が・・・二年くらい何処かの次元世界に引きこもる。諸々は後で端末に送るよ」

 

 

ウルは思い詰めたような表情でそう言うとそそくさと布団から逃げ出すように出る。実際逃げる気の様だが・・・

 

 

「待った。ここでお前に逃げられるのは困るぞ」

 

「さっきも言ったけどね。ボクはご主人様の娘の反感を買う気は無いんだよ、命が惜しいからね」

 

「不可抗力だったんだろ? だったら、二人もウルを攻めたりしない」

 

 

むしろヴィヴィオには理由を問いただす必要があるかも知れないくらい

 

 

「甘い。甘いよ、本当に甘々だね」

 

 

三回も言うか

 

 

「二人にとって、不可抗力とか、避けられない状況だったとか、そう言うのは関係ないのさ。事実は父親が実害を被った。これだけに収束される」

 

「確かに、ウルの考えも否定はしないけど。安心しろ、二人とも俺やキャロから確り言い含める」

 

「イクス君はそれで止まるけど、ヴィヴィオ君は止まらないだろう? 彼女は、父親から向けられう感情なら何だって喜ぶんだ。言い付けを破って怒られるのも、またご褒美にしかならないよ」

 

「いやいや、流石にヴィヴィオもそこまでじゃないぞ」

 

 

言いたい事は分かる。が、少しばかり話しを盛りすぎだろう

 

文句はまだまだありそうだったが、ひとまず落ち着いたウルは椅子を持ってきて深く座り込んだ

 

 

「・・・分かったよ。とりあえず、キャロ君を呼んでるからね、これから一緒に記録と照らし合わせながら、ご主人様の記憶喪失のレベルを確認しよう」

 

「ありがと」

 

 

お礼を言うと、ウルは非常に嫌そうな顔をして精一杯の嫌味を込めた溜息を吐いていた

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「なるほど、確かにそれは困りましたね」

 

 

程なくしてやってきたキャロは、状態を聞いて動揺は見せたものの直ぐに落ち着いて口を開いた。昔は思わなかったが、何だか成長してからのキャロは悩む姿も様になってるな

 

執務官としてのフェイトさんの面影がある気がする

 

こう言う時だからこそ。なのか、関係の無いことばかり考えてしまっている気がした

 

 

「元々故郷にそれほど思い入れがあった訳じゃないから良いけどさ」

 

「そう言えば秋春は何故か海鳴の事を語ってはくれませんでしたね。てっきり嫌な過去でもあるんだと思ってましたよ」

 

「なんでだろうな? まぁキャロと出会ってから、家族に会いに帰った記憶も無いし、きっとそう言う身の上だったのかもな」

 

 

それが不思議な点の一つでもある。次元漂流で渡航することが出来ない地域にいたのなら未だしも、ミッドに移り住んでるし、いまの生活環境からして、いつでも戻れる環境にいたはず

 

なのに、一度も家に帰ってない

 

 

「秋春の。まぁちょっと変わった性格を考えれば、多少成長する段階の環境が特殊でも疑いませんが・・・そうですね、ヒューズさんなら知ってるんじゃないですか?」

 

「ああ、ヒューズね」

 

 

確かにアイツなら知ってるかも

 

情報に関しては、小さい事から大きい事まで、何が役に立つか分からないのでとりあえず集めている。みたいなスタンスで行動していたしな

 

 

「いまは何処にいるんでしたっけ?」

 

「エリシアちゃん情報では、夫婦水入らずでバカンス中。いままでの分を取り戻すってかなりあちこち旅してるらしいよ」

 

「具体的な場所は、不明って事ですか?」

 

「エリシアちゃんが定期連絡をしてるみたいだからね。そこで連絡取れば済むよ」

 

「なるほど」

 

 

前にあった際に、エリオとイチャラブしている時にばかり通信が入っている気がする。とかなり怒っていたから良く覚えている

 

 

「元査察長官ね。なるほど、彼ならボクの知らない情報も握っている可能性は高いね・・・では、ボクはお役御免かな?」

 

「いや、ウルには経過を担当してもらうから」

 

「そうですね、わたしも秋春の担当はウルに続けてもらうべきだと思います」

 

「・・・キミ達」

 

 

何かウルは言い掛けたが、話が纏まるまで休ませてもらう。と言って俺の布団を剥いで部屋の隅で丸まった

 

 

「ああやって拗ねてるのを見ると歳相応って感じですね」

 

「肉体年齢的にはな」

 

「まぁ・・・こう言っては難ですけど、変わって無くて良かったです」

 

「そうだな」

 

 

キャロは少し瞳を濡らしていたが、視線が合うと椅子から立ち上がって抱きついてきた

 

 

「好きですよ、秋春」

 

「突然だな」

 

「真剣に言っているんですよ。わたしはあの時から変わらず貴方を愛してます。それとも、女の子の一世一代の告白まで忘れているんですか? もしそうなら激怒ですよ?」

 

 

見えはしないけど、ワザとらしく口を尖らせるキャロが容易に想像できる

 

 

「覚えてる」

 

「わたしが大人になったら良いのか。そう聞いた時、秋春は、大人になったら・・・近いようで遠いよな。よく分からないし心変わりするには十分だろ。そう言いましたね?」

 

「言ったね」

 

「心変わりなんてしませんでしたよ」

 

 

なんて答えようか迷っていると、くすりと笑い声が聞こえて、弾んだ声でキャロが続ける

 

 

「いまのわたしはどうですか? あれから頑張って成長しました。背丈もフェイトさんと頭一つ違いくらいですし、役職なら同じです。十四歳って言ったらミッド的には充分大人ですよ?」

 

「そう、だな。うん、キャロは頑張った」

 

 

それは良く知っている。六課運用後のキャロの実績は本当に大きい。広域制圧に任務が偏ってるのは魔法の性質上仕方ないけど、その一点の実力は隊長陣にも迫る勢いなのは間違いない

 

 

「ぶっちゃけですね。十一歳なんて歳の差は管理局では驚くほどじゃないんですよ?」

 

「二十代後半と十代の少女。って点に注目して欲しいけどね」

 

「それは卑怯です」

 

「でも事実だ」

 

 

ぐいっと加えられた力に抵抗できずに倒れた。そしてキャロは真剣な顔で俺を覗き込みながら、覆いかぶさるようにベットの上に乗った

 

 

「秋春」

 

「キャロ、あのな?」

 

「いいです」

 

 

ぴしゃりと俺の言葉を遮る

 

そして、キャロは全身を密着させるように深く抱きつく

 

本人が言うように、フェイトさんと比べても遜色ないくらい成長した体は非常に魅力的で、ウルが視界に映ってなければかなり危険だった

 

 

「キミ達」

 

「ッ!」

 

 

俺とキャロ、どちらかの体が震える

 

 

「そう言うのは病室では慎んだ方が言いと思うよ?」

 

「ウル。拗ねて寝ていたんじゃ・・・」

 

「拗ねて。その言い方は気に入らないけど。そうだね、ボクは自分を見詰め直そうと思考していたんだよ・・・そして色々結論が出たら、何故かキャロ君がご主人様を取って食おうとしてるじゃないか」

 

「ちがっ、わたしはそんなつもりじゃ」

 

「ご主人様が危機に陥ったからって種の存続の為に発情したのかも知れないけど。別に、彼は命の危険とかでは無いよ。そこはこのボクが保障しよう」

 

「は、はつ、は、じょう、とか・・・そんなんじゃなーい!」

 

 

ベットから跳び下りたキャロはかなり動揺したまま全力で病室の外に駆け出していった

 

 

「やれやれ、病院内で走らないで欲しいね。怒られるのはボクなんだよ?」

 

「はぁ」

 

「おや? 邪魔だったかい?」

 

「いや、まぁ助かったよ」

 

「そうだろうね」

 

 

なんか疲れた

 

 

「ククッ、お疲れだね。・・・そうそう、キャロ君が言ったように、現状の打開策は元査察長官に聞くのが一番だとボクも思うよ。だから今日はもう休むと良い。ボクも随分と疲れたよ」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

「またね、ご主人様」

 

 

ウルは奪い取っていた布団を戻すとゆっくりとした足取りで病室を出て行った

 

 

「寝るか」

 

 

さっきのキャロの行動のせいでかなり鼓動が高鳴っていたが、切り替えるように明かりを消して無理やり眠りに付く事にした




vividのアニメが始まって既に二話ですね!
やっぱり動いているヴィヴィオ達には可愛いの一言に限りますが、大人なのはさん達も負けてませんね!
アニメでは何処まで描かれるかはまだ知らないのですが近頃は最新話が早く見たいとばかり考えています

それでは、毎月のご愛読有難う御座います。超低速更新ですが、宜しければ今後もお楽しみ下さい!


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